志怪小説:墓のなかの王女。漢の談生のお話 『捜神記』より

漢の談生のお話

 

志怪しかい小説」とは、
中国ちゅうごく六朝りくちょう時代(222年 – 589年)に書かれた「奇怪なお話」のこと。

「志」は「誌」と同じ。なので、「志怪しかい」とは「怪を記す」という意味。

小説の一ジャンルとして、
六朝りくちょうからしんにいたるまで、ものすごい量の怪談奇談が書かれました。中国ちゅうごくの人ってこういうの大好き。文化であり、伝統みたいな感じ。

で、
今回ご紹介する『捜神記そうじんき』は
4世紀ごろ、東晋とうしん干宝かんぽうが著した志怪しかい小説集。

神仙しんせんから始まり、魑魅ちみ妖怪ようかい、人間や動植物の怪異など
470余の怪談奇談を、説話の型で収録。

ここから、
「墓の中の王女」というお話をお届けします。

内容は、
若死にした女性が幽霊のままで現世の男と交わる
それによって、骨に肉がついて再生していく、、、というお話。

((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

こちら、

当サイト「日本神話.com」としては、
黄泉往来譚よみおうらいたんと比較しながらチェックいただきたい!

なぜなら、あの黄泉よみの話のベースがココにあるから!!!

ということで早速どうぞ!

志怪小説:墓のなかの王女。漢の談生のお話 『捜神記』より

 漢のころ、談生という男は四十歳になっても独身で、日ごろから『詩経』を読んでは胸にこたえる思いをしていた。(※『詩経』には恋の歌、結婚を祝う歌などが多い)

 そんなとき、ある夜もふけわたったころに一人の娘がやってきた。年のころは十五、六くらいで、顔かたちといい、着ている服といい、この世に二人と無いほどのすばらしさであった。

 それが生に近寄ると、夫婦となりましょうと言ってから、さらに言葉を続けて言うには「私は普通の人間とは違いますから。あかりで私を照らしてはなりませぬ。三年たってからなら、照らしてもかまいません。」と。

 こうして二人は夫妻となって男の子が生まれた。だが、その子が二歳になったころから生は我慢することができなくなって、夜中に妻が寝込んだのをうかがって、こっそりあかりで照らしてみた。すると、妻の腰から上には、普通の人間と同じように肉がついていたが、腰から下はひからびた白骨だった。

 そのとき、妻は目を覚まし「あなたは約束を破りましたね。私はもう少しで生き返るところでしたのに。どうしてもう一年の我慢ができずに、私を照らしておしまいになったのですか?」と言った。生は涙を流して謝ったが、今となってはどうすることもできない。すると妻が「あなたとのご縁は永久に断たれてしまいましたが、私の生んだ子が、貧乏ゆえにあなたと一緒に暮らせないようなことになったらと、それだけが気がかりです。ちょっと私についてらっしゃい。あなたに贈り物をあげましょう。」と言った。

 生が随ってついていくと、立派な座敷に入った。部屋のつくりといい家具といい、そこらに見かけるようなものではない。妻は赤いうわぎを取り出して生に与え、「これで暮らしていけるでしょう。」と言った。そして、生の着物の裾を裂き、形見のしるしにおさめて立ち去った。

 その後、生がうわぎを持って町へ売りに行くと、睢陽すいよう王の家人が一千万貫で買い取った。ところが王はそのうわぎに見覚えがあった。「これはうちの娘のうわぎではないか。いったいどこの店で買って来たのだ?きっと墓を暴いたに違いない」

 そこで生は捕らえられ、厳しく取り調べられた。生はありのままを詳しく説明したが、王はそれでも信用できず、娘の墓を検分しに出かけたが、墓はもとのままで、手をつけたあとはない。掘り返して棺の蓋をあけると、生の説明どおり着物の裾が出てきた。

 そして、二人のあいだにできたという子供を呼び寄せてみると、まさしく王女そっくりだった。そこで王もやっと信じる気になり、すぐさま談生を召して贈り物を与えたうえ、花婿として認め、さらに上奏して子供を郎中(属官)にしたのであった。

 漢,談生者,年四十,無婦,常感激讀詩經,夜半,有女子,年可十五六,姿顏服飾,天下無雙,來就生為夫婦之言,曰「我與人不同,勿以火照我也,三年之後,方可照耳」與為夫婦,生一兒,已二歲。不能忍,夜,伺其寢後,盜照視之。其腰已上生肉,如人,腰已下,但有枯骨。婦覺,遂言曰「君負我。我垂生矣,何不能忍一歲,而竟相照也?」生辭謝、涕泣,不可復止。云「與君雖大義永離 然顧念我兒若貧不能自偕活者,暫隨我去,方遺君物。」生隨之去,入華堂,室宇器物不凡。以一珠袍與之,曰「可以自給。」裂取生衣裾留之而去。
後生持袍詣市,睢陽王家買之,得錢千萬。王識之曰「是我女袍,那得在市?此必發冢。」乃取拷之。生具以實對。王猶不信,乃視女冢,冢完如故,發視之,棺蓋下果得衣裾,呼其兒視,正類王女王乃信之,即召談生,復賜遺之,以為女婿。表其兒為郎中。 (『捜神記』干宝(竹田晃 訳)平凡社より一部加工・修正)

 

志怪しかい小説、いかがでしたか?

結構さくっと読めちゃう感じ。ショートショート。超ライトノベル。結構おもろいよね。

コレ、典型的な死者の再生譚なんですが、

若死にした女性(恐らく未婚の女)は、一度幽霊のままで現世の男性と交わることによって、枯れた骨に肉が付いて再生することができるとする信仰が生きていて、そういうのを背景として生まれた怪談奇談なんです。

 



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