Contents
多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
正史『日本書紀』をもとに、最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。題して、おもしろ日本神話シリーズ。
今回は、『日本書紀』巻第一、第一段 本伝より、「天地開闢と三柱の神の化生」。
世界の成り立ち、その始まりである天地開闢から、三柱の神が誕生する神話をお届け。
概要で物語の全体像をつかんで、ポイントを把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
『日本書紀』巻第一(神代上) 第一段 本伝 ~天地開闢と三柱の神の化生~
『日本書紀』巻第一(神代上)第一段 本伝の概要と位置づけ
初回なので、そもそも論や背景含め、『日本書紀』に記されている日本神話全体像からチェックしていきましょう。
まずは、『日本書紀』編纂の背景から。かいつまんでね。大事だから。
契機は、壬申の乱(672年)に勝利した大海人皇子、改め「天武天皇」としての即位。ココから、天皇中心の中央集権国家ビルディングがスタート。ムキムキマッチョ化計画です。
律令整備と歴史書編纂。
この2つを両輪として、ムキムキのジャパンビルディング。
天武天皇から持統天皇へ、そして以降の天皇に引き継がれながら、天皇中心とした国家体制づくりが進む進む。
『飛鳥浄御原律令』(689年)施行、藤原京遷都(694年)、『大宝律令』(701年)施行、平城京遷都(710年)、『風土記』(全国の国情や古老の伝承などを記録して国に報告した地誌)編纂などなど。
そして!
律令整備とあわせて、国家を挙げて取り組んだのが歴史書編纂事業。これが、『日本書紀』『古事記』の編纂です。
対内・対外的にも主張できる「国家のアイデンティティ」を、「己の正当性」を、歴史書にして構築しようと目論んだ訳で。
スゴくないすか?このモチベーション。
川島皇子、忍壁皇子の2人の皇子を中心とする12人の皇族・豪族・官吏により編纂されたのが『日本書紀』。当時の精鋭集団、スーパーエリートの皆さんによる、「国家事業としての歴史書編纂」という訳です。
議論し、取捨選択し、創造し、世界の成りたちからはじまって、日本の歴史書を作っていく。。。
途方もない企てですよね。
日本てスゴイぜ!こんなに豊かで多様な伝承、神話があるぜ!マジやばいぜ。
そんな主張を、自負を。そして、そのための根拠、ロジックを随所にちりばめていく訳で。
この世界の原初にまで遡ってしまう日本という国の、その歴史の凄さ&多彩さ、国家統治の正当さ、を示すのが目的なんで、
そのためのロジック構築には最高の頭脳による最大の力が注ぎ込まれている訳です。言葉一つ一つに意味がある。
ま、それを私たちが今、こうして読み解こうとするわけで、並大抵の作業ではございません。分からないことだらけ。だからこそ学会学術の世界でもいまだに議論が続けられてるんです。
と、そんなこんなの背景をもとに、
今回、解説していくのが『日本書紀』の巻一(神代上)。
下図、赤枠部分。

『日本書紀』は全30巻。日本神話が記載されてるのは、巻一、二、三の計3巻で。3/30。
今回は、その1巻目。「巻第一」と呼ばれ、全部で8段構成。その一番最初、第一段からスタート。
ポイントは、
神話全体の流れの中で読み解くこと。
詳細は今後順次解説、大きな流れ、枠組みは以下の通り。
大テーマ | 小テーマ | 内容 | 段 |
誕生の物語 | 道による化生 | 乾による純男神 | 第一段 |
乾と坤による男女対耦神 | 第二段 | ||
神世七代として一括化 | 第三段 | ||
男女の性の営みによる出産 | 国生み | 第四段 | |
神生み | 第五段 |
第一段から第五段までは、大きく「誕生」がテーマ。
この中で、第一段 は、
「天地開闢と三柱の神の化生」の物語。
「天地開闢」とは、天と地が開かれた時のこと、世界創世、世界が初めて生まれたときのこと。
第一段の構成は、
〔本伝〕と、〔一書〕と呼ばれる異伝6個。計7つの伝承。
今回は、その中で〔本伝〕をお届け。〔一書〕はコチラで解説。
また、
テーマである「天地開闢と神の化生」は、第一段、第二段、第三段がひとまとめ。神世七代という最も尊い神さまカテゴリ誕生の、大きな流れを意識して。
『日本書紀』巻第一 第一段 本伝の概要とポイント
ということで、日本神話の現場にお連れする前に、最終のご案内。概要とポイント解説です。
神話的には、あらゆる事物に先立つ「混沌」からスタート。
その中から、①まず天が形成され、そのあと、②地が成り立ち、そのあと、③天と地の間に三柱の神=純粋な男の神が生まれると伝えます。ホップ・ステップ・ジャンプ。この順番が大事。
日本神話における、世界の創生。
壮大なスケールとガッチガチに組まれたロジックをお楽しみあれ。古代日本人がこんなスゴイ神話をもっていたことに感動です。
ポイント2つ。
①世界の形成や神の誕生には「原理」がある
陽に対して陰、天に対して地、尊に対して卑、男に対して女など、
易をベースにした「この世界を成り立たせる原理」によって世界が形成され、神が誕生。
「原理」とは、先後、尊卑などの順番、順序のこと。
これが、本伝最後の「最初に生まれる神様は純粋な男」という内容へつながっていきます。全ては原理に基づくのだー!と。
第一段、
とにもかくにも原理推し。そのガッチガチな雰囲気をご堪能あれ。
次!
②当時の、東アジアの最先端宇宙論に基づきながら、新しく独自の言葉や世界観を創造
当サイトとして一番推したいところ。とにかくスゴいんす。
天皇中心の国家体制づくり。ムキムキのジャパンビルディング。その中核たる「歴史書」編纂事業。
当時の精鋭集団、スーパーエリートの皆さんは、東アジアの最先端知識、宇宙理論をもとに、単に真似で終わるのではなく、日本独自に組み合わせ、工夫し、新しく生み出しているんです。
ココ激しく重要なポイント。日本人らしいところ、超絶クリエイティブ発揮の巻。詳細は後ほど。
まとめます
- 世界の形成や、神の誕生には「序列」や「尊卑」という「この世界を成り立たせる原理」が働いていること
- 『日本書紀』編纂当時の、東アジアの最先端宇宙論に基づきながら、天地開闢、神の誕生を創造。しかも、単に真似で終わるのではなく、日本独自に組み合わせ新しく生み出していること
以上の2点、つまり、「基本(原理)と応用(創意工夫)」をチェックしたうえで、以下本文をどうぞ!
『日本書紀』第一段 本伝

昔々、天と地がまだ分れず、陰と陽も分れていなかった。混沌として、まるで鶏の卵のようであり、ほの暗くぼんやりとして、事象が芽生えようとする兆しを内に含んでいた。
その中の清く明るいものが薄くたなびいて天となり、重く濁ったものがよどみ滞って地となるに及んでは、その軽やかで妙なるものは集まりやすく、重く濁ったものは凝り固まりにくい。だから、まず天ができあがり、その後で地が定まったのである。
そうして天と地が成り立った後に、その天地の中に神が生まれた。
それゆえに、具体的にいえばこういうことになる。天と地ができる初めには、のちに洲となる土壌が浮かび漂う様は、まるで水に遊ぶ魚が水面にぷかりぷかり浮いているようなものだった。
まさにその時、天地の中に一つの物が生まれた。それは萌え出る葦の芽のような形状であった。そして、変化して神と成った。この神を国常立尊と言う。次に国狭槌尊。さらに豊斟渟尊。あわせて三柱の神である。天の道は、単独で変化する。だから、この純男、つまり男女対ではない純粋な男神が化生したのである。
古、天地未剖、陰陽不分。渾沌如鶏子、溟涬而含牙。及其清陽者、薄靡而為天、重濁者、淹滞而為地、精妙之合搏易、重濁之凝竭難。故、天先成而地後定。然後、神聖生其中焉。
故曰、開闢之初、洲譲浮漂。譬猶游魚之浮水上也。于時、天地之中生一物。状如葦牙。便化為神。号国常立尊。次国狭槌尊。次豊斟渟尊。凡三神矣。乾道独化。所以、成此純男。※号国常立尊。の後の、注〈至貴曰尊、自余曰命。並訓美挙等也。下皆倣此。〉は割愛
『日本書紀』第一段〈本伝〉より
『日本書紀』巻第一 第一段 本伝 解説

物語の構成
『日本書紀』第一段の本伝は、構成上、大きく二つの部分から成りたってます。
前段、後段、二つに分ける語が「故曰」→訳出「それゆえに、」。本伝の中間に位置してますね。
この語「それゆえに、(故曰)」を境に、
前半は、「天地神生成における原理の提示」がメインテーマ。
この「原理」については後程詳しく。神話全体を貫く超重要なテーマです。
天地の混沌とした状態。それが次第に分化し、この動きの過程で、天がまず成り、そのあと地が定まり、さらにその後に神が誕生する展開。
天=先、地=後。その順番が大事。しかもそこには原理があるよ、という事。
ココ、しっかりチェックされてください。後ほど詳しく。
そして、
前段の原理的な展開をうけ、後半が続きます。
「故曰」という言葉を使う事で、後半以降も、天地神の生成がこの原理にのっとる事を明示。なかでも、神の化生を中心に、より具体的な記述を展開。後半のテーマです。
「開闢之初」→訳「天と地ができる初めには、」という「時」を設定し、
この時の、「洲壌」(「洲」となる土壌)や、天地の中に生じた「物」の状態を、比喩表現により具体的に表現。
「水に遊ぶ魚が水面にぷかりぷかり浮いている」、「萌え出る葦の芽のような形状」といった内容がそれ。
で、
前段の「神聖」に当たる神が、この「物」から化生すると伝えるのです。
オモシロいですよね。「神は葦の芽のような物から生まれる」。これ超絶ジャパーン。アニミズム的なる雰囲気。
そしてそして、国常立尊、国狭槌尊、豊斟渟尊の三神の化生。これ、「純粋な男の神の化生」として超重要テーマ。
後半の結び「乾道独化、所以成此純男」(天の道は、単独で変化する。だから、この純男、つまり男女対ではない純粋な男神が化生したのである。)という箇所と合わせて、後程詳しく。
まとめます
- 『日本書紀』の冒頭、巻第一(神代上)第一段の本伝は、構成上、大きく二つの部分から成りたつ。前段、後段の二つに分ける語が「故曰」→訳出「それゆえに、」。前後段の中間に位置。
- 前半は、「天地神の生成の原理(順番)の提示」がメインテーマ。
- 後半は、神の化生を中心に、より具体的な記述を展開。国常立尊、国狭槌尊、豊斟渟尊の三神の化生。「純粋な男の神の化生」として超重要テーマが提示されている。
以上、まずはチェックです。
本伝 前半部分詳細概説
物語の展開がざっくり理解できたところで、以下、前半後半に分けて解説。特に重要なポイントをピックアップします。
①昔々、天と地がまだ分れず、陰と陽も分れていなかった。②混沌として、まるで鶏の卵のようであり、ほの暗くぼんやりとして、事象が芽生えようとする兆しを内に含んでいた。
③その中の清く明るいものが薄くたなびいて天となり、重く濁ったものがよどみ滞って地となるに及んでは、その軽やかで妙なるものは集まりやすく、重く濁ったものは凝り固まりにくい。だから、まず天ができあがり、その後で地が定まったのである。そうして天と地が成り立った後に、その天地の中に神が生まれた。①古、天地未剖、陰陽不分。②渾沌如鶏子、溟涬而含牙。③及其清陽者、薄靡而為天、重濁者、淹滞而為地、精妙之合搏易、重濁之凝竭難。故、天先成而地後定。然後、神聖生其中焉。
①古
「古(いにしへ)」は、例えば日本昔話の始まりにある「むかーし昔、あるところに~」と同義の言葉。
ですが!昔話よりも、私たちが考えるよりも、ずっとずっとずーーーーっと遥か昔です。
それは、例えば宇宙の「始まり」とされる「ビッグバン」と同じで、天地開闢のまさに「始まり」を意味。
注目は、その定義の仕方。
『日本書紀』(神代紀)では、現代の私たち、一般ピープルが考えるような「直線的時間概念」を採ってません。
時間を直線で捉えないとは、つまり
全ての「始まり」という「点」を定義しない
ということ。
例えば、『文選』巻三四「七啓八首」には「夫太極之初、渾沌未分」とあり、当時の宇宙論には「太極」という一番最初の「点(状態)」を表す言葉が存在します。しかし、『日本書紀』はそれを使用していません。
これは、「太極」という言葉を使うと、「太極」とは何か?が問題となり、
本来伝えたい内容ではなくなってしまうから。
天と地の要素、陰と陽の要素があって、
それらが混沌としている状態のころを、単に「古」と定義するだけで良しとしているところに、
神代紀独自の世界観が凝縮されていると言えます。
一応、正史、国の歴史書なんすけど『日本書紀』。。。大丈夫か?
むか~し昔、って、、、
曖昧なんだけど、なんか奥ゆかしい。日本ならではの精神性や価値観が、日本神話の一番最初の言葉に埋め込まれてるって、ほんとオモシロいですよね。要チェックです。
②渾沌如鶏子。溟涬而含牙。
「混沌として、まるで鶏の卵のようであり、ほの暗くぼんやりとして、事象が芽生えようとする兆しを内に含んでいた」
「古」の天地開闢の状態を「鶏子=鶏の卵」に例えています。
注目は、その状態。
混沌としている、けれど事象が芽生えようとする「兆し」を内に含んでいる、と表現。
つまり、単に混沌としている訳ではなく、予定されているもの、兆しがあるということです。
受精卵も同様で、一見、ただの卵にしか見えませんが、
実は、中では、どの部分が将来、頭になる、翅になるなど、分化する部分が決まっている、つまりプログラムされている!ってことで。理科の時間、勉強しましたよね。
今でこそ、科学の力で明らかになってきたことを、引用とはいえ、天地開闢の状態表現に使ってることは注目に値します。激しくチェックです。
③及其清陽者薄靡而為天。重濁者淹滞而為地。精妙之合搏易。重濁之凝場難。故天先成而地後定。
「その中の清く明るいものが薄くたなびいて天となり、重く濁ったものがよどみ滞って地となるに及んでは、その軽やかで妙なるものは集まりやすく、重く濁ったものは凝り固まりにくい。だから、まず天ができあがり、その後で地が定まったのである。」
やけに説明臭いが、、、
って、この「臭さ」、実はめっちゃ大事で。この臭いの中身を考えていくことが重要です。
混沌があり、その中に兆したものがあり、そこから天と地に展開していく、という流れ。
単に展開していくのではなく、
軽いものは天、重いものは地、という順番(序列)が存在する、と。
(ちなみに、何々が起こって、何々が起こって、と続く形式を「継起性」といいます。)
注目は、この順番(序列)の存在。
これを「尊卑先後の序」と言います。
つまり、尊いものは卑なるものに先立つということ。
「尊卑先後の序」は書紀神話全体を規定する最も重要な考え方であり、普遍的な原理として位置づけられています。
第一段では、
様々な事象が発生していくのは全て原理に基づく順番(序列)があり、その原理こそが最も重要であることを表現しているのです。やけに説明臭い展開もそれによるもの。
こうやって神話世界を理解していかないとあかんのです。それにしても、この世界観、奥ゆかしすぎる。
続けて後半!

本伝 後半部分詳細概説
それゆえに、具体的にいえばこういうことになる。天と地ができる初めには、のちに洲となる土壌が浮かび漂う様は、まるで水に遊ぶ魚が水面にぷかりぷかり浮いているようなものだった。
まさにその時、④天地の中に一つの物が生まれた。それは萌え出る葦の芽のような形状であった。そして、変化して神と成った。
この神を国常立尊と言う。次に国狭槌尊。さらに豊斟渟尊。⑤あわせて三柱の神である。
⑥天の道は、単独で変化する。だから、この純男、つまり男女対ではない純粋な男神が化生したのである。
故曰、開闢之初、洲譲浮漂。譬猶游魚之浮水上也。于時、④天地之中生一物。状如葦牙。便化為神。号国常立尊。次国狭槌尊。次豊斟渟尊。⑤凡三神矣。⑥乾道独化。所以、成此純男。
④天地之中生一物。状如葦牙。便化為神。
天地の中に一つの物が生まれ、それは萌え出る葦の芽のような形状であった。そして、変化して神と成ったとしています。
注目は、神の生まれ方。
神は完全な形では生まれません。
え?すごくない?コレ。
神は、まず物として、葦の芽のような形をして生まれるのです。それが神に化す。
化すというのは、運動です。
「化=化ける」「生=生まれる、なる」
つまり、元の姿を変えて別の姿になる、別の姿として生まれる、という事。
物があった。それは葦の芽のような形であった、それが、神様の形に変わったのです。
これまた、超絶ジャパーン的ですよね。アニミズムの国だからこその神生成イメージ。まじ奥ゆかしすぎ。
ここでは多分、人間をイメージしているんだと思います。
なぜならば、「神世七代」という一連の神カテゴリの最後、伊弉諾尊、伊弉冉尊のところで形状確認してて、それは人間そっくりだから。
ちなみに、「神をモデルにして人間ができている」というのが日本神話の基本スタンス。これも要チェックです。
⑤凡三神矣。
3神が誕生したとあります。「3」という数字は東アジア宇宙論の「聖数観念」によるもの。
奇数は「陽数」であり、偶数は「陰数」。これも二項対立がベースの理論。しかも、「3」は奇数(nを整数とする2n+1で表示)の「最初の数」。すごいパワーをもった数字、それが「3」なんです。
なので、ここで、天地開闢において最初に誕生する神は「3神」でなければならなかったのです。これもチェック。
⑥乾道独化。所以成此純男。
天の道は単独で変化するからこそ、純粋な男性神となった、と。
誕生した三神についての説明部分。最後の締めですね。
「乾道」も「純男」もそれだけで巨大な論文が書けてしまうくらいの内容なので、詳細は別稿で。ここでは簡単に。
まずは「乾道」から。
「乾道」とは、天の道のこと。天の徳、道理、本体、といったところ。
ベースには、易、陰陽の概念があって、陽の気、陰の気が混じり合って世界がつくられているという内容あり。「乾を天と為し」(説卦伝)、「乾道は男を為し、坤道は女を為す」(繫辞伝)。
対になるのは「坤道」。ちなみに「乾坤」は天地の事、陰陽の事ですね。
「陽=天=乾」ということで、「乾道」→訳出「天の道」というのが多く用いられます。
次に「純男」。
「純男」は、これも易の思想、「乾道成男」という考えにもとづき、「乾道」(天の道)だけによって成る神のこと。「男」じたいの「乾道」との、本質的な、不可分の繋がりを強調する神代紀の独創的な表現。
要は、陰陽の結合によらず、陽=天の道のみで男神が生まれたことを言ってる訳です。
す、すごい男性優位というか男性絶対の概念、、、現代でこそドン引き確定ですが、ま、古代の世界観ってことで、今はそっとしといて。。。
それよりも、、
「純男」というのは、日本独自の言葉、というのが重要。
書紀編纂当時の最先端宇宙論の中に「純男」という言葉、概念はでてきません。コレ、易から借りてきて組み合わせている日本オリジナルワード。
宇宙論の最先端知識 × 易の知識 = 純男
ということで、
陰陽の概念を導入しつつも、独自に創造したジャパーン的なるものとして、是非チェックされてください。すごいよね、ほんと。日本最高です。
ちなみに、
「乾道独化、所以成此純男」は、このあと第三段〔本伝〕がつたえる「乾坤之道」の混交によって化成する「男女」を予定し、それと対応させてます。まず「乾道」だけで化成した「純男」を先行登場させてること、あわせてチェックされたし。
ということで、
後半部分の重要テーマは、やはり
最初に生まれた神が、
天を体現する、あるいは本質とする、三柱の「純粋な男の神」であった、というところ。
その意図、理由はやはり「尊卑先後の序」。はじめに男性神が誕生するのは、普遍的な原理に基づいていることを伝えているのです。
こうして見てくると、
「本伝第一 天地開闢と三柱の神の化成」においては、
混沌から、天→地が誕生する先後の順番、男性神が先に誕生、など、
論理構造によって「尊卑先後の序」を伝えようとしてる。
で、この、書紀全体を貫く「普遍原理の存在」を最初に持ってくることで、
以後の流れを原理の中で伝えることができるようにしているのです。
このロジックは、
最終的に「天照大神」を頂点とする神話世界の序列、
そして「天皇」を頂点とする現実世界の序列を支える根拠につながっていく訳で。
世界中の神話を読んでも、こうした普遍原理をもとに神話を構築している例は無く、まさに書紀独自の、いや、日本独自の超ユニークな世界観であると言えますよね。スゴイよほんと。
まとめ
『日本書紀』巻第一(神代上)第一段〔本伝〕
だーっと解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
大きくは、
- 『日本書紀』第一段の本伝は、構成上、大きく二つの部分から成りたつ。前段、後段の二つに分ける語が「故曰」→訳出「それゆえに、」。前後段の中間に位置。
- 前半は、「天地神の生成の原理(順番)の提示」がメインテーマ。
- 後半は、神の化生を中心に、比喩表現を交えた具体的な記述を展開。国常立尊、国狭槌尊、豊斟渟尊の三神の化生。「天道だけの純粋な男神の化生」として超重要テーマが提示されている。
といったところ、ご理解いただけたでしょうか?
この世界の創生当初から「原理=尊卑先後の序」が存在し、
この原理により、天→地→神という成りたちが導かれた、
そして、「乾道」(天の道)だけによって、つまり、陰陽の結合によらず、陽=天の道のみで最初の神、男神が生まれた、、、
そんな壮大な神話を伝えている事、激しくチェックされてください。
また、
ちょいちょい繰り出してくる、というか全体に散りばめられている創意工夫の数々。
宇宙論の最先端知識 × 易の知識 = 純男
なんて、ほんと究極ですよね。自在に組み合わせていく。
膨大な知の体系、宇宙論を取り込みながら、
私たち日本人のご先祖様は、そこに創意工夫を巧妙かつ大胆に交えながら、新しい宇宙論として展開している訳です。
日本のスゴイところ。取り入れながら独自のものにしてしまう。
現代の私たちにもたくさんの学びをいただける内容かと思います。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここに!
続けて、『日本書紀』第一段 一書の解説です。が、その前に、まずコチラをチェック!
第一段の一書はコチラで↓
本シリーズの目次はコチラ!
本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)、他
コメントを残す