言表と行為|神様の行動パターン。神はまず、言表し、そして行為に及ぶ。

言表と行為

 

日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話解説シリーズ」。

今回は、

言表げんぴょうと行為

をテーマにお届けいたします。

言表げんぴょうと行為」とは、神の行動パターン。フレーム。

言表げんぴょうとは、「言葉で言い表すこと」。

神はまず、言表げんぴょうし、そして行為に及ぶ。ということです。

コレ、「言興ことあげ」とも通じる内容で、言霊ことだま信仰が背景にあります。言葉そのものに霊力が宿っているという考え方で、ある言葉を口に出すとその内容が実現すると(いう信仰)。

今回は、日本神話をもとに神様の行動のクセ、いやもっというと、神様コンピテンシー(行動特性)とも言うべき行動パターンをご紹介します。

 

言表と行為|神様の行動パターン。神はまず、言表し、そして行為に及ぶ。

言表と行為の例①磤馭慮嶋をかきなす

まず最初の例は、国生み神話から。

 伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみこと二柱ふたはしらの神は、天浮橋あまのうきはしの上に立って共にはかり、「この下の底に、きっと国があるはずだ。」と言った。そこで、天之瓊矛あまのぬほこけいとは玉である。ここではという)を指し下ろして探ってみると海を獲た。そのほこの先から滴り落ちた潮が自然に凝り固まり、一つの嶋と成った。それを名付けて「磤馭慮嶋おのごろしま」といった。

伊奘諾尊・伊奘冉尊、立於天浮橋之上、共計曰、底下豈無国歟。廼以天之瓊〈瓊〉玉也。此云努。〉矛、指下而探之。是獲滄溟。其矛鋒滴瀝之潮、凝成一嶋。名之曰磤馭慮嶋。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 本伝より引用)

『日本書紀』第四段

と。

「この下の底のほうに、きっと国があるはずだ。」という言葉。これが言表げんぴょうです。言い表す。

その上で、ほこで指し下ろし嶋を形成していく行為が続く。という流れ。

 

言表と行為の例②磤馭慮嶋での聖婚

次も国生み神話から。磤馭慮嶋おのごろしまでの結婚儀礼から。

 ここに、二柱の神はもう一度やり直してあいかいした。今度は陽神をかみが先に唱え、「ああ嬉しい。可愛い少女をとめに会ったことよ。」と言った。(少女、ここでは烏等咩をとめという)そこで陰神に「お前の身体には、なにか形を成しているところがあるか。」と問うた。それに対し、陰神が「私の身体には女の元のところがあります。」と答えた。陽神は「私の身体にもまた、男の元のところがある。私の身体の元のところを、お前の身体の元のところに合わせようと思う。」と言った。ここで陰陽(男女)が始めて交合こうごうし、夫婦となったのである。

 於是、二神却更相遇。是行也、陽神先唱曰、憙哉、遇可美少女焉〈少女、此云烏等咩。〉。因問陰神曰、汝身有何成耶。対曰、吾身有一雌元之処。陽神曰、吾身亦有雄元之処。思欲以吾身元処、合汝身之元処。於是、陰陽始遘合、為夫婦。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 本伝より引用)

『日本書紀』第四段

大枠では、「ああ嬉しい。可愛い少女をとめに会ったことよ。」から始まる一連の問答が。直接的には、陽神おかみの「私の身体にもまた、男の元のところがある。私の身体の元のところを、お前の身体の元のところに合わせようと思う。」という言葉が、言表げんぴょうに相当。

その上で、交合こうごうし、夫婦となる、といった行為が続きます。

 

言表と行為の例③神名を通じて言表する

『古事記』上巻、神生みより。

既に国を生みへて、更に神を生んだ。ゆえに、生んだ神の名は、大事忍男神おおことおしをのかみ次に石土毘古神いはつちびこのかみを生み、次に石巣比売神いはすひめのかみを生み、次に大戸日別神おほとひわけのかみを生み、次に天之吹男神あめのふきをのかみを生み、次に大屋毘古神おほやびこのかみを生み、次に風木津別之忍男神かざもつわけのおしをのかみを生み、次にわたの神、名は大綿津見神おほわたつみのかみを生み、次に水戸神みなとのかみ、名は速秋津日子神はやあきつひこのかみ、次に妹速秋津比売神いもはやあきつひめのかみを生んだ。(大事忍男神より秋津比賣神に至るまで、幷せて十神ぞ。) (引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)

『古事記』上巻神生み

国生みが終わり、さらに神生みへ突入。その最初に誕生した神が「大事忍男神おおことおしをのかみ」。

神々を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで「瑞穂みずほの国」に仕上げていく土壌をつくろうとしてる、ってこと。今、まさにその時であり、その最初に、さーこれから神を生みなす大いなる事業を成すぞということで誕生してるのが「大事忍男神おおことおしをのかみ」。これも言表と行為の変則パターン。

 

言表と行為 まとめ

言表げんぴょうと行為」とは?

言表げんぴょうとは、「言葉で言い表すこと」。神の行動パターン。フレーム。

神はまず、言表げんぴょうし、そして行為に及ぶ。ということです。

背景にあるのが、言霊ことだま信仰。

言葉そのものに霊力が宿っているという考え方で、ある言葉を口に出すとその内容が実現するということ。

日本神話に登場する神様の行動のクセ、いやもっというと、神様コンピテンシー(行動特性)とも言うべき行動パターンであります。

言表げんぴょうと行為は、私たちにも応用できる考え方だと思います。何かやるときはまずは言表げんぴょう、そして行動する。是非活用してみてくださいね。これで神化の一歩を踏み出せます。。。

 

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

 

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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