『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「黄泉津大神」
『古事記』では、黄泉往来譚の最後に、伊耶那美神の別名として、また黄泉国の神として「黄泉津大神」を伝えます。
本エントリでは、黄泉国の神の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
黄泉津大神よもつおおかみ|黄泉国の偉大なる神!伊耶那美神の別名で、黄泉神よりも偉大な統治者になったことを意味
目次
黄泉津大神とは?その名義
「黄泉津大神」= 黄泉国の偉大なる神
『古事記』では、伊耶那岐命と絶縁した伊耶那美命の神名として「黄泉津大神」を伝えます。黄泉国の神には「黄泉神」がいるのですが、それよりもさらに偉大な支配者になったという意味で「大神」が付されてます。
「黄泉」は、死者の世界のこと。『古事記』では特に、「黄泉国」と伝え、国として位置づけられてます。
ちなみに、「黄泉」の語源は五行説にあり、もともとは、中央の地下の泉のこと。地下世界、死者の世界といった意味あり。詳しくはコチラで。
「津」は、連体助詞。
「大」は、「偉大な、大いなる」の意。
ということで、
「黄泉津大神」=「黄泉国」+「の」+「偉大な、大いなる」+「神」= 黄泉国の偉大なる神 |
黄泉津大神が登場する日本神話:『古事記』編
「黄泉津大神」が登場するのは、『古事記』上巻、黄泉往来神話。以下のように伝えてます。
ここに、(伊耶那岐命は)伊耶那美命に会おうと欲って、黄泉国に追っていった。
そうして、(伊耶那美命が)御殿の閉じられた戸から出て迎えた時、伊耶那岐命は「愛おしい我が妻の命よ、私とお前が作った国は、まだ作り終えていない。だから還ろう。」と語りかけた。すると、伊耶那美命は答えて「残念なことです。あなたが早くいらっしゃらなくて。私は黄泉のかまどで煮炊きしたものを食べてしまいました。けれども、愛しき我が夫の命よ、この国に入り来られたことは恐れ多いことです。なので、還ろうと欲いますので、しばらく黄泉神と相談します。私を絶対に見ないでください。」と言った。このように言って、その御殿の中にかえり入った。
~中略~ ゆえに、その伊耶那美命を号けて黄泉津大神という。また言うには、その追って来たのをもって道敷大神という。また、その黄泉の坂に塞いだ石は、道反之大神と名付け、また塞ぎ坐す黄泉戸大神ともいう。ゆえに、其のいわゆる黄泉比良坂は、今、出雲国の伊賦夜坂という。
於是、欲相見其妹伊邪那美命、追往黃泉國。爾自殿騰戸出向之時、伊邪那岐命語詔之「愛我那邇妹命、吾與汝所作之國、未作竟。故、可還。」爾伊邪那美命答白「悔哉、不速來、吾者爲黃泉戸喫。然、愛我那勢命那勢二字以音、下效此入來坐之事恐。故、欲還、且與黃泉神相論。莫視我。」如此白而還入其殿內 ~中略~ 故、號其伊邪那美神命、謂黃泉津大神。亦云、以其追斯伎斯此三字以音而、號道敷大神。亦所塞其黃泉坂之石者、號道反大神、亦謂塞坐黃泉戸大神。故、其所謂黃泉比良坂者、今謂出雲國之伊賦夜坂也。 (引用:『古事記』上巻の黄泉往来譚より一部抜粋)
ということで、
「伊耶那美命を号けて黄泉津大神という」とあり、伊耶那美命の別名として「黄泉津大神」を伝えてます。なお、別名としての「道敷大神」はコチラ↓でチェックされてください。
で、
「黄泉津大神」のポイントは、
伊耶那美命の黄泉津大神への変貌
であります。そもそも、伊耶那岐命が黄泉国を訪問した当初は、伊耶那美命は「しばらく黄泉神と相談します。」と言い、「黄泉神」という統治者がいた模様。黄泉国を出ようとしても「黄泉神」に相談し許可を得ないと出られない、、、つまり伊耶那美命より上の存在。
それが、見るなの禁破り、逃走、比良坂での断絶を経て、最終的に「伊耶那美命を号けて黄泉津大神という」とありので、これはつまり、伊耶那美命が「黄泉津大神」へと昇格したということ。「黄泉神」よりもさらに偉大な支配者になったという意味で「大神」が付与されてる訳です。
コレについてはいくつか説があり、
- 黄泉国の統治者が黄泉神から伊耶那美神に交替したと捉え、黄泉国が高天原や葦原中国と同じように、天皇の系列・統治領域に組み込まれたことを表していると考える説
- 死世界を司る神として黄泉津大神が位置づけられたことで、新たな国家体制、律令制下での死後観念を保証する意図があったとする説
などがあります。
いずれにしても、生と死の対立構造、死に対する生の優位を伝えるのが黄泉譚なので、
- 生を代表する伊耶那岐命
- 死を代表する伊耶那美命
という神話構造、なんなら神話的要請をうけて、伊耶那美命が「黄泉津大神」へと昇格している訳です。詳しくはコチラ↓で。
ちなみに、、「黄泉神」の元ネタ、原型は「泰山府君」。唐代以降「裁き」が追加されて「閻魔大王」になっていくお話で。
古代中国の道教的死生観、市民レベルで普及していた一般的な思想、信仰として「泰山思想」てのがあって、その特徴とは、
- 統治者「泰山府君」を頂点とする役所があり、
- 死者は、死後もフツーに死者としての生活を続けていく
- 現世で善い行い→良い生活 悪い行い→苦役を受ける
といった内容。
特に、統治者を頂点とする役所の存在や、死後もフツーに死者としての生活が続く、といった世界観は『古事記』版黄泉の国に色濃く反映されてたりします。そのあたりも詳しくはコチラでチェック。
黄泉津大神が登場する日本神話:『日本書紀』編
『日本書紀』では「黄泉津大神」は登場しません。
黄泉津大神を始祖とする氏族
なし
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。
黄泉津大神が登場する日本神話の詳しい解説はコチラ!
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