「非時香菓」とは、常世の国にあるという伝説の実。
常世の国とは、遥か海上にあるとされる理想郷。ココに、不老不死の仙果がなってるのです。
「非時香菓」
これ、実は「橘」のことで、つまりミカン。
『日本書紀』垂仁天皇条で登場。天皇は、臣下の田道間守に、常世の国に行って「非時香菓」をとってくるように命じます。
本気で採りにいく田道間守。。で、10年後、マジで採ってきた。。。というお話。コレ、神話的伝承と歴史が交錯するロマン発生地帯。
「橘」は、日本神話にも登場する重要アイテム。代表例は、伊奘諾尊が黄泉の穢れを禊祓う場所「筑紫日向小戸橘之檍原」。「橘の~」って書いてありますよね。
これだけでもスゴイのですが、
もっとスゴイのが、なんと!その伝説の果実が、奈良に生えてる!ってこと。これ、マジヤバいっす。
今回は、そんな「非時香菓」について、伝承をもとに詳しく解説。さらに、実際に生えてる現場、奈良に行ってきた件、レポートいたします。
非時香菓(ときじくのかくのみ)|常世の国に生えるという不老長寿の実が奈良に!?田道間守が持ち帰った伝説の非時香菓(橘)を近鉄電車の傍で確認した!
目次
非時香菓(ときじくのかくのみ)とは?
「非時香菓」とは「橘」のこと、つまりミカン。
「不老長寿の実」として位置づけられていたようで。『日本書紀』の垂仁天皇条で登場。
垂仁天皇は、第11代天皇。このお方、なんと140歳まで生きたとか生きなかったとか。。この時点で伝説です。
晩年、天皇は田道間守に、常世の国に行って「非時香菓」をとってくるように命じます。
- 天皇は知っていた。常世の国があることを。
- そこには不老長寿の実である「非時香菓」がある。
- これを食べる事で永遠の命を。。。???
といった感じで、歴史の記述ながら、かなり神ってます。
ということで、さっそくその現場をご紹介。
『日本書紀』巻六 垂仁天皇条
九十年の春二月の庚子の朔、天皇、田道間守に命せて、常世國に遣して、非時香菓を求めしむ。香菓、此をば箇倶能未と云ふ。今橘と謂ふは是なり。
九十九年秋七月の戊午の朔、天皇、纏向宮に崩りましぬ、時に年百四十歲。
冬十二月の癸卯の朔壬子に、菅原伏見の陵に葬りまつる。
明年の春三月の辛未の朔壬午に 田道間守 常世國より至れり。則ち賚る物なるは、非時香菓八竿八縵。田道間守、是に、泣き悲歎きて曰す、「命を天朝に受りて、遠く、絶域に往り、萬里浪を蹈みて、遥に弱水を度る。是の常世國は、神仙の秘區、俗の臻らむ所に非ず。是を以て、往來ふ間に、自づからに十年に經りぬ。豈期ひきや、獨峻き瀾を凌ぎて、更本土に向むといふことを。然るに、聖帝の神靈に頼りて、僅に還り來ることを得たり。今天皇既に崩りましぬ、復命すこと得ず。臣生けりといえども、亦何の益かあらむ。」乃ち天皇之陵に向りて、叫び哭きて自ら死れり。群臣聞きて皆淚を流す。田道間守は、三宅連の始祖なり。
九十年春二月庚子朔、天皇命田道間守、遣常世國、令求非時香菓。香菓、此云箇倶能未。今謂橘是也。
九十九年秋七月戊午朔、天皇崩於纏向宮、時年百卌歲。冬十二月癸卯朔壬子、葬於菅原伏見陵。
明年春三月辛未朔壬午、田道間守至自常世國、則齎物也、非時香菓八竿八縵焉。田道間守、於是、泣悲歎之曰「受命天朝、遠往絶域、萬里蹈浪、遙度弱水。是常世國、則神仙祕區、俗非所臻。是以、往來之間、自經十年、豈期、獨凌峻瀾、更向本土乎。然、頼聖帝之神靈、僅得還來。今天皇既崩、不得復命、臣雖生之、亦何益矣。」乃向天皇之陵、叫哭而自死之、群臣聞皆流淚也。田道間守、是三宅連之始祖也。
ということで。
「天皇、田道間守に命せて、常世國に遣して、非時香菓を求めしむ。香菓、此をば箇倶能未と云ふ。今橘と謂ふは是なり。」とあり、垂仁天皇が田道間守に命じて、常世の国に「非時香菓」を採りに行かせたことを伝えます。コレ、歴史の記述だからね!
で、垂仁天皇自身は、その後140歳で亡くなってしまうのですが、派遣してから10年後、田道間守マジで採ってきた訳です。
「田道間守 常世國より至れり。則ち賚る物なるは、非時香菓八竿八縵。」と。しかも、どうやら常世国のお土産をもってきたらしい。
さらに、
「命を天朝に受りて、遠く、絶域に往り、萬里浪を蹈みて、遥に弱水を度る。是の常世國は、神仙の秘區、俗の臻らむ所に非ず。是を以て、往來ふ間に、自づからに十年に經りぬ。」てことで、スゲーよ田道間守。絶域に行き、万里の波を超えて、さらに弱水を渡って神仙郷の常世の国に行ってきたと。。。
140年も生きた天皇も神ってるけど、田道間守さん、あなたも十分、神ってます。。。
本件、以下3点ほど補足解説。
①「非時香菓」、つまり「橘」の象徴的意味
「非時香菓」は「橘」とされているのですが、その象徴的意味について、参考として『万葉集』から2首。
No.4063 常世物 この橘の いや照りに 吾大皇は 今も見るごと
→ 常世の国の物であるこの橘の ますます照り輝く姿のように 吾が大君は今も見る通りますます お栄ください
No.4064 大皇は 常磐にまさむ 橘の 殿の橘 ひた照りにして
→ 大君は常磐のように不変でいらっしゃいますでしょう 橘家の御殿の橘の実も ひたすらに照り輝いているように
と。
そのオレンジ色の「実」は照り輝く太陽を、照り輝く象徴として設定されてます。さらに、「葉」は常緑=落ちない・枯れない=永遠・不死を表象。
次!
②「非時香菓八竿八縵」ってどんなの?
常世の国から持って帰ってきた「非時香菓八竿八縵」について、どんなシロモノだったのかを補足解説。
「非時」とは、時間にあらず的な意味で、時間を超越、つまり永遠、不老長寿といった意味あり。そして、「香菓」とあるように、香りが豊かな食べ物ってこと。そしてこれを本文では「橘」としています。
そして、「非時香菓八竿八縵」とは、非時香菓が「八竿八縵」の状態になってるってこと。
「八竿八縵」とは、
八竿= たくさんの竿、つまり、串刺し団子のような感じで橘を?串に刺した形のものがたくさん
八縵= たくさんの縵、つまり、橘の実を枝ごと折り取って葉っぱがついてるものがたくさん
てこと。
「八」は、数字の8ということではなく、たくさん、といった意味。
なので、橘を串に刺したものと、葉っぱ付きの枝がわっさわっさしてるのを、とにかくたくさん、ということになります。コレ、常世の国の名産品???
次!
③常世国ってどんなとこ?
「非時香菓」とあわせて、常世の国の世界観もしっかりチェック。
●必読→ 常世の国とは?海上遥か彼方にある理想郷!日本神話的「常世国」を徹底解説!
つまり、日本神話的には、紀伊半島の南東、熊野灘より海上遙か彼方に常世の国があったとされてるんです。
さらに、常世の国へ渡るときに通る「弱水」について。
これは、鳥の毛すら浮いてしまうくらい比重がめちゃくちゃ軽い特別ゾーンのこと。
漢籍『玄中記』には、「崑崙には弱水があり、鳥の毛すら載せられない(有崑崙之弱水、鴻毛不能載)」と伝えます。コレ、フツーでは渡れない超特殊ゾーンであります。なんせ鳥の毛まで浮いちゃう!てことは、、通常の人間では歩いて進めるわけがない! どうやって行った田道間守??
ということで、
以上の3点を踏まえ、今回お届けしている伝承から言えることをまとめておきます。
- 常世の国から持って帰ってきたのは、非時香菓八竿八縵。常世の国の名産品?
- 常世の国は海上の絶域にあり、多くの波を越え、さらに遥な弱水を渡る。
- しかも、神仙の「秘區」であって、フツーの人が行けるような場所じゃない。
- 往復で10年かかる、遠いだけかもしれんけど、もしかすると流れる時間速度も違うかも。。。
、、、ロマンだよね。。スゲーロマンだ。。。歴史の話なのにっ! しっかりチェック。
非時香菓(ときじくのかくのみ)が生えている場所
↑「非時香菓」が生えてる場所、、って書きましたけど、そもそもおかしいよ、この表現。書いたけど、、
でも、実は、あるんです!生えてる場所が!そんなスゴイ場所がっ!!
しかも、奈良に!
スゲーよ、奈良。。。
流石、神話の時代から続く超絶ロマン地帯。奈良。大好きです。
てことで、ココからは実際に行ってみた件、レポート。
場所は、奈良県奈良市尼辻中町。近鉄橿原線「尼ヶ辻駅」の近く、垂仁天皇陵のすぐそば。
まずは、尼ヶ辻駅から垂仁天皇陵方面へ向かいます。
▲いやー、、奈良だなー。ほんと、この土の香り、田んぼの香り。ゆったりとした時間と風が心地よい。まほろばやね。
しばらく田園地帯を進むと、、、
垂仁天皇陵!
▲コチラ、全長約227m、5世紀初めの前方後円墳です。
そして!写真左側、垂仁天皇陵に寄り添うように浮かぶ小さな島がありますが、コレ、実は田道間守の墓と伝えられています。
垂仁天皇の死を哀しみ、あとを追うように死んでいった田道間守。今もその忠臣ぶりを発揮中。
垂仁天皇陵、周囲に満々と水をたたえた美しい姿、、、もしかして、神仙境の姿に、、見えなくもない??
さらに進むと、、、
▲お?なんか、、オレンジ色の実が見えてきた、、、???
おおおおおおお!あったどー!!!!!!!!!!!!!「非時香菓」!!
マジで!??
いや、マジだ。リアルに「非時香菓」って書いてある!!不老長寿の実がこんなところに生えてるなんて!!!!
看板には、、
田道間守と橘の木 垂仁天皇は田道間守に命じ、非時香菓すなわち橘を求めに不老不死の理想郷常世国(中国南部からインド方面に)遣わした。9年後、やっと手に入れた橘の八矛八縵を持ち帰ったが、すでに垂仁天皇は崩御され、嘆き悲しんだ田道間守は墓前で自害したという。その後、景行天皇が田道間守の忠を哀しんで、垂仁天皇陵近くに葬ったとされている。(垂仁天皇陵の周濠内小島)
と。
ん?常世の国って、中国南部からインド方面だったの??そんなことどこにも書いてないが、、、むしろ日本神話的には、、
●必読→ 伊勢神宮の創建経緯|「常世の浪が打ち寄せる美しい国だから。」by天照大神
だからね。
って、そんなことより、、周りを見ると、、、
あるわあるわ、不老長寿の実がめっちゃなってる!!!
おおおおおお!これが不老長寿の実!!田道間守が持ち帰ったとされる伝説の実!!!!
いやー、ミラクル。スゴイよ、コレ。
▲休憩所も用意されてる!! なんて至れり尽くせりなんだ!!!!
そんな興奮状態のときに、、
なんてこった! 非時香菓のそばを近鉄電車が通過!!!
おおおお、、、このギャップが凄すぎてクラクラします。。 流石でございます。奈良。大好きです。
まとめ
「非時香菓」
常世の国にあるという伝説の実。
常世の国とは、遥か海上にあるとされる理想郷。ココに、不老長寿をもたらすというモノスゴイ実がなってる。
「非時香菓」は、「橘」のことで、つまりミカン。
『日本書紀』垂仁天皇条で登場。天皇は、臣下の田道間守に、常世の国に行って「非時香菓」をとってくるように命じます。
本気で採りにいく田道間守。。で、10年後、マジで採ってきた。。。というお話。神話的伝承と歴史が交錯するロマン発生地帯。
持って帰ってきた「非時香菓八竿八縵」は、非時香菓が「八竿八縵」の状態になってるってこと。
「八竿八縵」とは、橘を串に刺したものと、葉っぱ付きの枝がわっさわっさしてるのを、とにかくたくさん、というモノで。コレ、常世の国の名産品???
そんなミラクル果実が、実は奈良に生えてる。しかも近鉄電車のそばに。この激しいギャップとあわせてチェックされてください。いろんな意味でスゴイ。。
「非時香菓」が生えてる場所
場所:〒630-8033 奈良県奈良市五条1丁目付近
駐車場なし トイレなし
コチラもチェック!
どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!
日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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