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日本神話に登場するいろいろな言葉、語句を解説します。今回は『古事記』を中心に「造化三神」です。
天と地ができたその原初の時に、高天原に成りました神が「天御中主神」「高御産巣日神」「神産巣日神」です。これを、古事記の序文では、「造化三神」と称しています。
造化三神|天と地ができた原初の時に、初めて高天原に成りました三柱の神々。あとに誕生する神に世界を譲り自らは立ち退くという奥ゆかしいスタンス。
「造化三神」という言葉
『古事記』序文に登場。序文とは、『古事記』の概要をまとめた箇所。本文の前、冒頭部分に「造化三神」部分を以下抜粋。
乾坤初めて分かれて、参神造化の首となり、
陰陽ここに開けて、二霊群品の祖となりき。
とあります。
乾坤とは、天と地のこと。陰陽とは、男女の両性のこと。群品とは、万物のこと。
なので、訳出すると、
天と地が初めて分かれて、三神が最初に出現した神であり、
男女両性がここに開かれ、伊邪那岐・伊邪那美神が万物の祖となった。
といった意味に。
「造化」とは形づくられること。神の場合、「化す」という運動の中で造形物として成ることが設定されてます。他にも、「化成」「化生」と言った言葉が神の誕生に使用されます。日本神話的な特別な表現。
『日本書紀』では、このあたりは「葦の芽のような物から化す」と、より具体的に伝えてます。
●必読→ 『日本書紀』巻第一(神代上)第一段 本伝 ~天地開闢と三柱の神の化生~
ここでは、「造化三神」というカテゴリ設定と、それが「最初に出現した神」であることをチェック。
さて、
序文を受けて、実際の内容は『古事記』上巻の本文で登場。
特に、「造化三神」に関する部分を抽出。
天地初めて發りし時に、高天の原に成りませる神の名は、天之御中主の神。次に、高御産巣日の神。次に、神産巣日の神。此の三柱の神は、みな独神と成りまして、身を隠したまひき。
つまり、高天原に成りました神で、三柱の神であり、独神であり、身を隠したと。
で、「造化三神」については、これ以上は何も伝えていません。なので、正直よく分からないのが実際の所であります。
なので、その理解には本文に即して
- 誕生した「高天の原」についての解釈
- 「三神」それぞれの解釈
- 「独神」の解釈
- 「身を隠す」についての解釈
- その後の活動から解釈
の5つを組み合わせて総合的に解釈していく必要があります。
尚、⑤について、④の身を隠したにも関わらずその後に活動してる、というのは、隠れてるのか隠れてないのかどっちやねんという話で。
実際は、活動をしているのは三神のうち、「天御中主の神」を除く、「高御産巣日の神」「神産巣日の神」の2神。こちら、②⑤のところで触れますので後ほど。
以下、①~⑤の順番で解説していきます。
詳細はこちらで!⇒「『古事記』本文より「天地開闢」の語訳とポイント|天に五柱の別天つ神、地に七代の神々出現。神名を連ねる手法で天地初発を物語る。」

①誕生した「高天の原」の解釈
詳細はコチラで⇒「高天原|広大な「天の原」という天空から一段と高い領域。神神の行為によって、世界を統治する至尊神の君臨する場所として位置づけています。」
ポイントは、
「天の原よりさらに高い場所・領域」であること。
「天の原」という広大な天空の広がりをもとに、それより一段と高い領域として(都を造営し世界を統治するに相応しい場所として)位置づけてます。
まずは、天界の広大なイメージと、それよりも、さらに高い&尊い領域に「高天原」があることをチェック。
造化三神の位置づけを高めようという感じが伝わってきますね。
②三神それぞれの解釈
記載順に以下。
天之御中主神
●必読→「天之御中主神|高天の原の神聖な中央に位置する主君。天地初発の時に高天の原に成りました最初の神。」
「天」は、「天神」の住む天上界、またその天上界を賛美する心からの美称。
「御中」は、同一平面の中央ではなく、あれこれ対立するもののその真ん中の意味。
この「御中主」の位置が、同じく高天原に成りました「高御産巣日の神」「神産巣日の神」とのちょうど真ん中に当たるという事は要チェックです。
続いて、
高御産巣日神と神産巣日神
「高御産巣日の神」は造化三神の一柱で、天之御中主神に次いで二番目に高天の原に成りました独神で、身を隠している別天神。
●必読→「高御産巣日神|造化三神の一柱で、2番目に成りました独神で別天つ神。「産霊」ならびに「産日」の霊能を発動。」
「神産巣日の神」は、造化三神の一柱で、3番目に高天の原に成りました独神で、身を隠している別天神。
●必読→「神産巣日神|造化三神の一柱で、3番目に成りました独神で別天つ神。生命体の蘇生復活を掌る至上神。」
両神名に共通する「産巣日」について。
「産巣」は「苔が生す」などの「むす」で、「生成する」意味の自動詞。
「日」は「霊的なはたらき」を意味する語で、神名の接尾語としてよく用いられます。
はたらきは、「産霊」としての「生成的霊能」と「産日」としての「司令者・至上神的霊能」です。
こちら、後ほど⑤の活動の所でも解説します。
③「独神」と④「身を隠す」についての解釈
詳細はこちらで⇒「独神(ひとりがみ)|単独で誕生し、男女の対偶神「双神」と対応する神。双神が生みなしたこの世界と神々とに関わり、その活躍を導き助力する存在」
ポイントは、
『古事記』では、「独神」について全て「独神成坐而隠身也(独り神と成りまして、身を隠したまひき)」というように「隠身」と組み合わせていること。
まず、
「独神」については、単独で誕生し、男女の対偶神を指す「双神」と対応する神のこと。
まず「独神」が誕生し、続いてその後に「独神」が誕生するという流れ・順番。
それを受けての、「身を隠す」という内容です。
「隠身」といえば、国譲りを迫られた大国主神が執った処身方法で。
天孫に国を譲り、わが身は表の世界から立ち退くことをいうのが「隠身」。
つまり、
「独神」として身を隠すとは、「双神」に彼らの活躍するこの世界を譲り、立ち退くことをいいます。
「双神」の代表格は、伊邪那岐と伊邪那美神であります。まさに世界を創生する2神ですね。
ここから、「造化三神」についても同じことが言えて、
三神のあとに続けて誕生する神神に、彼らが活躍する世界を譲り、自らは立ち退く立場を取っているという訳ですね。
ココをチェック。
⑤その後の活動から解釈
まずは、「天御中主の神」について解説し、その後「高御産巣日の神」「神産巣日の神」を。
天御中主の神
ポイントは、「天御中主の神」単独で解釈することはできない点。
それは、神名の「御中」にもあるように「真ん中=あれこれ対立するもののその真ん中」ということなので、「高御産巣日の神」「神産巣日の神」との関係性の中で解きほぐす必要がある訳です。
ポイントは、以下。
国や神々が誕生したあとの世界で、
- 「高御産巣日の神」は高天原系の神の代表、
- 「神産巣日の神」は出雲系の神の代表として、それぞれ活躍します。
この両神が対立的関係のもとに、それぞれ役割を分担し、
一方で、対立的な関係とは言え実質的には、高天原系の神が出雲系の神を支配する関係でもあるので、
それゆえに、両神を融和的に止揚する必要があるということ。
クドい感じになってすみません、、、
要は、役割は分担してるけどそれぞれ代表しているものがあるので、二つの関係を取り持つ存在が必要だということですね。
これ、会社も組織も同じようなことが言えると思います。
この神話的要請に応える存在がまさに「天御中主の神」であること。まずはココをチェックされてください。
存在そのものにこそ、この神の意義があると言えます。
次に、
「高御産巣日の神」「神産巣日の神」
こちら、まずは共通項を解説します。イメージをもっていただければと。
この2神、「産巣日」という言葉を共有しています。
この「産(むす)」の例は、
『万葉集』に大伴家持が「陸奥の国に金を出いだす詔書を賀く歌」に、
~略~ 海行かば 水漬く屍、 山行かば草生す屍、 大君の辺にこそ死なめ、 かへり見はせじと 言立て(4094番)
と歌う「草生す屍」の例。
そして、『古今集』には、
わが君は 千代に八千代に、細れ石の巌となりて、苔の生すまで」(賀)
という、「苔生す」の例、などがあります。
死体が腐ってそこに草が生えるのも、また苔が生えるのも、自然であり、条件や環境が整えばおのずから生じるもの、と考えられている訳です。
なので、「産」には、「おのずから生じる」といった意味があり、2神はそうしたイメージを共有していることをチェックです。
ま、この「生じる」条件や環境を提供しているのが、「高天原」という場だったりするわけですが。
逆に言うと、高天原に自然に誕生した神でもあって、その霊威、神威は抜群、という訳ですね。
さて、
「高御産巣日の神」について。
高天原を統治する天照大御神が「天の石屋」に籠り、「高天原皆暗く、葦原中つ国悉に闇し。これによりて常夜往きき。」という危機に際して、八百万の神がこぞって打開策を練りますが、このときに打開するための神事を統括するのが「高御産巣日の神」の子の「思金神」です。
「高御産巣日の神」自身は、天孫降臨に際して、子の「思金神」とともに葦原中国の平定に尽力する一方、天照大御神とともに降臨を命じてもいます。
尚、降臨する天孫の「日子番能邇邇芸命」は、「高御産巣日の神」の外孫。
このあたりが、「高御産巣日の神」が高天原系代表と言われる所以です。
これとは対照的に、
高天原を追われた「須佐之男命」に手をさしのべ、また、その子孫の大国主神を支援し、さらにはこの神に「少名毘古那神」と共同して国造りを命じるのが「神産巣日の神」です。
一般に、この神を出雲系の祖神とみますが、あくまでもそれは出雲にかかわる神を支援、助力する役を担っていたにすぎません。
高天原の神を分担する「高御産巣日の神」とは、こうして役割を切り分けていた訳です。
その切り分けを神名のはじめの「高御」と「神」とが端的に象徴しているわけですね。
もとは同じ高天原の神だったのですが、あとには、それぞれ伊勢神宮と出雲大社という神社の歴史的発展、分化にもつながっていくのです。
まとめ
以上、まとめると
高天原という天界よりさらに高く尊い場所に、初めて誕生した三柱の神神。それは神名が表す通り、自然と誕生=そもそもが尊い存在であるということ。
それゆえ、三神のあとに続けて誕生する神神に、彼らが活躍する世界を譲り、自らは立ち退く立場を取っている。
活躍する神神は、高天原系と出雲系に分かれており、それゆえ、高天原系を代表する「高御産巣日の神」と出雲系を代表する「神産巣日の神」でそれぞれ役割を分担している。
ただし、この両神は役割分担してるとは言え、対立的な関係にあり、かつ、実質的には高天原系の神が出雲系の神を支配する関係でもあるので、それゆえに、両神を融和的に止揚する必要がある。
この神話的要請から生まれた神が「天御中主の神」であること。
これら三柱の神が一体となって高天原の最高神として位置づけられているということです。
天地開闢まとめはコチラで!
『古事記』版☟
『日本書紀』版☟
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