『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「闇御津羽神」
『古事記』では、伊耶那岐命が火神(迦具土神)を斬り殺したとき、剣の柄に集まった血が手の指の間から漏れでて成った神として「闇御津羽神」を伝えます。
本エントリでは、「闇御津羽神」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
闇御津羽神くらみつはのかみ|峡谷の、水の(清らかな)出始めの神!剣の柄に集まった血が手の指の間から漏れでて成った神
目次
闇御津羽神とは?その名義
「闇御津羽神」= 峡谷の、水の(清らかな)出始めの神
『古事記』では、伊邪那岐命が十拳剣で迦具土神の頚を斬った際に、剣の柄に集まった血が手の指の間から漏れでて成った神として「闇御津羽神」を伝えます。
「闇」は、一般的な「谷」に対して、断崖の下部の狭隘になっている地形をいいます。古代、その断崖 (岩壁)に、神の座があると信じられていて、狭隘部を含めて「峡谷」を「くら」と言ったもの。「くら谷」ともいいます。
用例は「万葉集」巻17,3941番歌「平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首」
鴬の鳴く くら谷にうちはめて 焼けは死ぬとも 君をし待たむ
→鴬が鳴く深い谷間にうちはさまって、たとえ焼け死のうと、あなたをただお待ちします。
「彌都波」は、「水つ早」の意。
用例は、『万葉集』 巻19-4217番歌より、「始水」の「はな」。
「卯の花を 腐す長雨の 始水に 寄る木屑なす 寄らむ子もがも」
→卯の花を腐らせる長雨のはじまりの水、木屑を寄せたように美しい水、そんな女性がいたらなあ。
ここでは、「はな」は「始・端」の意味で「出始めの水」。
また、同じく『万葉集』巻12-3015番歌より、「早しきやし」の「は」。
「石走る垂水の水の早しきやし君に恋ふらく我が心から」
→岩を流れ下る滝の早い流れのようにいとおしいあなたを恋い焦がれています。心から。
ここでは、借訓「早」が使われ、「早い」ことを単に「早」といってます。「始・端・初期」の意味。
以上から、「彌都波」は、「水つ早」、水の出始め、一番最初に出始める清らかな水の意味と考えられます。
ということで、
「闇御津羽神」=「峡谷の」+「水つ早」+「神」= 峡谷の、水の(清らかな)出始めの神 |
闇御津羽神が登場する日本神話:『古事記』編
闇御津羽神の誕生
「闇御津羽神」が登場するのは、『古事記』上巻、神生み神話。以下のように伝えてます。
ここに伊邪那岐命は、腰に帯びていた十拳剣を拔いて、その子、迦具土神の頚を斬った。その御刀の先についた血が、神聖な石の群れにほとばしりついて成った神の名は、石拆神。次に根拆神。次に石筒之男神。次に御刀の本についた血もまた、ほとばしりついて成った神の名は、甕速日神、次に樋速日神、次に建御雷之男神。またの名は、建布都神。またの名は豊布都神。次に、御刀の手上柄に集まった血が手の指の間から漏れでて成った神の名は、闇淤加美神。次に、闇御津羽神。(上の件の石拆神より以下、闇御津羽神まで、并せて八神は、御刀に因りて生った神ぞ。)
於是伊邪那岐命、拔所御佩之十拳劒、斬其子迦具土神之頸。爾著其御刀前之血、走就湯津石村、所成神名、石拆神、次根拆神、次石筒之男神。三神次著御刀本血亦、走就湯津石村、所成神名、甕速日神、次樋速日神、次建御雷之男神、亦名建布都神(布都二字以音、下效此)、亦名豐布都神。三神次集御刀之手上血、自手俣漏出、所成神名(訓漏云久伎)、闇淤加美神(淤以下三字以音、下效此)、次闇御津羽神。上件自石拆神以下、闇御津羽神以前、幷八神者、因御刀所生之神者也。(引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)
ということで、
ほとばしる血は火神の赤い焔であり、岩(鉱石)を溶かし刀剣を鍛える強烈な火力の表象とする説あり。
「上の件の石拆神より以下、闇御津羽神まで、并せて八神は、御刀に因りて生った神ぞ。」とあるように、「石拆神」から「闇御津羽神」までは伊耶那岐命の刀に因って生った神としてカテゴリ化されてます。
8柱の神の系譜的イメージは以下の通り。
▲剣先からほとばしり3柱、剣本からほとばしり3柱、柄から漏れ出て2柱、合計8神。伊耶那岐命の刀に因って生った神。
「闇御津羽神」の説としては、例えば
-
刀剣による火伏せの思想で、刀剣の霊気が雲となり水を呼ぶとする説。神代紀上に「天の叢雲の剣」の命名由来を、蛇のいる上に、常に雲気があるためとしているのも、同じ考えから
- 火神の血と水との液体としての連想説
- この箇所の神々の生成が刀剣の製造工程を表わすものとして、刀鍛冶でそそぐ水の表象とする説
などがあります。
いずれにしても、
ここでは、そもそも「御刀の手上柄に集まった血が手の指の間から漏れでて成った」と伝えていることから、刀剣についた火神の血が漏れ出る勢いそのものを神格化したものと考えるべきです。
日本神話の流れ・展開における本シーンの意味とは、
日本神話史上初の「神殺しの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付けることで。
- 神が神を殺す。
- 神を殺した神を、神が殺す(報復・復讐)。
という構造であり、ココに親子関係も入ってきて、
- 子が親(母)を殺す
- 親(母)を殺した子を、親(父)が殺す(報復・復讐)
と、重層的構造をもとにした骨肉相食む壮絶神イベント発生中。(;゚д゚)ゴクリ…
つまり、
それだけ強烈なシーンなので、当然のように、それだけ強烈な神威をもった神が生まれるという日本神話的ロジック。
「闇御津羽神」誕生には、こうした背景があり、ここでは特に、伊邪那岐命の
- 伊耶那美命を喪ったことへの深い悲しみ
- 伊耶那美命を神避らせた火神への復讐
という、2つの激情がほとばしってます。
深い悲しみからは、涙を通じて「泣沢女神」が誕生しており、今回の「闇御津羽神」はその流れを受けて、復讐劇へ転換したところで誕生している次第。
なので、「闇御津羽神」をはじめとする8神については、伊耶那岐命の激しい復讐心の神格化であり、だからこそ、わざわざ「柄に集まった血が手の指の間から漏れでて成った」という表現で強調していると解釈されます。
闇御津羽神の活動
なし
闇御津羽神が登場する日本神話:『日本書紀』編
補足として、『日本書紀』が伝える「闇御津羽神」についてもご紹介。
『日本書紀』では、「闇罔象」として伝えてます。
遂に、帯びていた十握剣を抜き、軻遇突智を三段に斬った。それぞれ化してその各部分が神と成った。また剣の刃から滴る血は、天安河辺にある五百箇磐石と成った。これが経津主神の祖である。また、剣の鐔から滴る血がほとばしって神と成った。名付けて甕速日神と言う。次に熯速日神。その甕速日神は武甕槌神の祖である。(または、甕速日命、次に熯速日命、次に武甕槌神と言う。)また、剣の先から滴る血がほとばしって神と成った。名付けて磐裂神と言う。次に根裂神。次に磐筒男命。(一説には磐筒男命と磐筒女命と言う。)また、剣の柄から滴る血がほとばしって神と成った。名付けて闇龗と言う。次に、闇山祇。次に、闇罔象。
遂抜所帶十握劒 斬軻遇突智爲三段 此各化成神也 復劒刃垂血 是爲天安河邊所在五百箇磐石也 即此經津主神之祖矣 復劒鐔垂血 激越爲神 號曰甕速日神 次熯速日神 其甕速日神 是武甕槌神之祖也 亦曰甕速日命 次熯速日命 次武甕槌神 (引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 〔一書6〕より)
ということで、
『日本書紀』では「軻遇突智を三段に斬った」と伝えており、火神の斬断方法には違いがあるものの、その後に誕生する「闇罔象」については、『古事記』とおなじく「剣の柄から滴る血がほとばしって神と成った。」と伝えてます。
闇御津羽神を始祖とする氏族
なし
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。
闇御津羽神が登場する日本神話の詳しい解説はコチラ!
闇御津羽神をお祭りする神社はコチラ!
● 三宝宅神社:堤根神社の境内末社、宅神社の御祭神としてお祭り中
住所:大阪府門真市宮野町8-34
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