『日本書紀』の読み解きシリーズをもとに
学術的に突っ込んだ論点をご紹介するディープな企画。
本稿の解説では取り上げきれなかったマニアックな内容をお届けします。
題して「ちょっと何言ってるか分からない」略して「CNW」Σ(゚Д゚;
って、おまえがな。とにかくマニア限定のお話、それ以外の方はスルーされてください。
今回は、
『日本書紀』巻第一(神代上)第二段 一書1から
「青橿城根尊」を巡る問題。
題して
「青橿城根尊」は男神だった!
えーーーー!(゜Д゜)
という件。マニアックにお届けです。
「青橿城根尊」は男神、『日本書紀』第二段一書1は父子系譜でした
まず背景、経緯から。
『日本書紀』巻第一(神代上)第二段 本伝では、
男女耦生の神を列挙する伝承になってます。
その中で、三世代目に登場するのが「面足尊・惶根尊」。
以下。
次に現れた神は、面足尊・惶根尊( または 吾屋惶根尊・忌橿城尊・青橿城根尊・吾屋橿城尊と言う)。
次有神。面足尊・惶根尊〈亦曰吾屋惶根尊。亦曰忌橿城尊。亦曰青橿城根尊。亦曰吾屋橿城尊。〉。
と、
「次有神+男神・女神」で列挙する構造。
つまり、
次有神。面足尊(男神)・惶根尊(女神)
となります。
で、
惶根尊(女神)の別名として、
〈亦曰吾屋惶根尊。亦曰忌橿城尊。亦曰青橿城根尊。亦曰吾屋橿城尊。〉。
があって、
その中に、「青橿城根尊」がいらっしゃるわけです。
そうなんす、「青橿城根尊」は「惶根尊(女神)」の別名として登場するんすね。
なので、
これを根拠に、「青橿城根尊」=女神
ということになり、これが通例みたいな感じになっとります。
そしてココからが本題。
第二段の一書1では、
「青橿城根尊」が再び登場。
ある書はこう伝えている。この二柱の神は、青橿城根尊の御子である。
一書曰、此二神、青橿城根尊之子也。
と。
二柱の神=伊奘諾尊、伊奘冉尊なので、
ココでは、つまり
伊奘諾・伊奘冉は、青橿城根尊(=女神)の子である、と。
つまり、
「青橿城根尊」は伊奘諾・伊奘冉尊の母である、と。
従って、
ここでは、「青橿城根尊」を母とする母子系譜一代の伝承であると、そうですかと
いう話になるわけです。
ここから、学説として、
「二神が同母ならこれ(伊奘諾尊・伊奘冉尊)は兄妹となり、やがて結婚すれば当然に兄妹婚ということになる。」(山田宗睦氏『日本書紀史注巻第一』)というように、
伊奘諾・伊奘冉の兄妹説、からの、兄妹婚=近親相姦説、からの、原型は東南アジアの少数民族に伝わる兄妹相姦神話だー!といった説へつながっていくのです。
ほんと、言い出したもん勝ちな雰囲気だよね。。。
コレは、もとを正せば第二段と第二段一書を関連させて、それだけで考えてる結果。神名だけ繋げるとそういうことになるんだけどね、、、
ココ、第二段一書1は、第一段本伝からの流れ、
もっと言うと、第一段から第三段までの「神世七代」の枠組みの中で考える必要がある段で。
そこから言うと、
「青橿城根尊」は実は、男神なんです。
正確にいうと、第一段本伝をもとにした純男神。
なので、
ココ、第二段一書1は、「青橿城根尊」を父とする父子系譜が語られてる、という話になるのです。
以下、理由を。3つ。
根拠①古代において、親子関係は「父子関係」を基本としているから
例えば、『日本書紀』巻第三(神武紀)の冒頭、
天皇は生まれついて聡明で、何事にも屈しない強い心を持っていた。十五歳で皇太子となり、さらに長じて、日向の国の「吾田邑」の「吾平津媛」を娶って妃とし、「手研耳命」を生んだ。
天皇生而明達、意礭如也、年十五立爲太子。長而娶日向國吾田邑吾平津媛、爲妃、生手硏耳命。
とあり、
「天皇(男)が生んだ」という形式になってます。男が生んだ、、、違和感たっぷりやね。
他、例えば「天国玉の子、天稚彦」(第九段 本伝)なども同様。
要は、古代において、親子関係は「父子関係」を基本としてるってこと。コレ、結構大事で、
「男が子を生む」という「形式」をとるのが常識なんです。
これは実際に「出産する、生む」ということではなく、
あくまで系譜上での形式的なお話。
系譜といえば父子系譜が基本。これチェック。
第二段の一書は2つあるのですが、
すべて系譜が伝えられてる訳で、
まずは基本的な枠組みとして「父子系譜」として見るべき、ってことなんす。
根拠②そもそも、古代において「かしこし」は男を形容する言葉だから
「青橿城根尊」の「かしき」の部分。
古代においては、「かしこし」は男を形容する言葉でした。
自分よりもスゴイ存在、偉大な存在に使用する言葉。
あ、ココ、一般論として男がスゴいって言ってるんじゃないです。あくまで古代における言葉のもつ意味としてお伝えしてます。
なので、
「青橿城根尊」の神名がもってる「かしき(かしこし)」の意味からして、男神として考えた方がいいということ。つまり、本伝では女神の別名として登場しているんだけど、一書(異伝)では、男神として差違化されてるってことです。
根拠③「惶根尊」自体は、女性が男性に対して抱く感情を擬神化したものだから
根拠②と内容的に近いけどチェック。
そもそもの第二段本伝。
男女二神のそれぞれ「面足」「惶根」という名辞は「容貌」が整って美しいの意味。
「この神名は、男神が女神に語りかけた語を擬神化したもの」であり
「人間が神霊の威力に対して畏敬恐懼する意。また女性が男性に対して抱く感情の一つ(中略)この神も女神の男神に対する返事を擬神化したもの」(日本古典文学大系本。当該頭注十八、十九)
と、いうことで、
男神が女神を、女神が男神をそれぞれ称えた賞賛の言葉を互いにかけ合ったことを神名が表す訳すね。
「惶根尊」自体は、
女性が男性に対して抱く感情を擬神化したものなので、その実態は男。
本伝では、登場の配置的には女神側になんだけど、
神名の意味そのものは男側だということ。
この、そもそも持ってる神名の男な感じを、
一書では「青橿城根尊」として設定してるということです。
まとめます
- 根拠①古代において、親子関係は「父子関係」を基本としているから
- 根拠②そもそも、古代において「かしこし」は男を形容する言葉だから
- 根拠③「惶根尊」自体は、女性が男性に対して抱く感情を擬神化したものだから
ということで、
「青橿城根尊」は男の神様、
つまり、この一書第1では、父子系譜を、もっと言うと、純男神の一代系譜を伝えてるってことになる訳です。
このこと自体は、
第一段から第三段の「神世七代」カテゴリにおける、枠組みの中で捉える必要もあって。詳しくは、第三段一書の解説でご確認ください。
本来であれば、ココ第二段一書には、第三段一書1の内容が入って然るべきなんす。
それなのに、別の伝承が設定されてる。
これは、ズラした結果としての次段へのつながりづくりが背景にあって、
その一環で、第二段一書に系譜が登場してるんですよね。なのでココでは第一段本伝をもとにした純男神の系譜という差違化伝承としてチェックしておきましょう。
まとめ
『日本書紀』の読み解きシリーズから、
学術的に突っ込んだ論点をご紹介するディープな企画。
題して、ちょっと何言ってるか分からない、略してCNWΣ(゚Д゚;
マニア限定のお話、いかがでしたでしょうか?
今回は、
『日本書紀』巻第一(神代上)第二段 一書1から
「青橿城根尊」を巡る問題。
題して
「青橿城根尊」は男神だった!
をテーマにお届け致しました。
第二段と第二段一書を関連させて、神名だけ繋げると
「青橿城根尊」は女神、で、伊奘諾尊・伊奘冉尊の母ということに。
ここから、
伊奘諾・伊奘冉の兄妹説、からの、兄妹婚=近親相姦説、からの、原型は東南アジアの少数民族に伝わる兄妹相姦神話だー!といった説へつながっていくんです。
ほんと、言い出したもん勝ちな雰囲気。。。オモシロいんだけどさ。
でも、
ココでは、第一段から第三段の「神世七代」カテゴリにおける、枠組みの中で捉える必要があります。
一書を組み替えることで次段へのつながりをつくろうとしたことが背景にあって、
その一環で、第二段一書に系譜が登場してる。
なので、ココでは第一段本伝をもとにした純男神の系譜という差違化伝承としてチェックです。
他、
- 古代において、親子関係は「父子関係」を基本としている
- そもそも、古代において「かしこし」は男を形容する言葉
- 「惶根尊」自体は、女性が男性に対して抱く感情を擬神化
も合わせて要チェックですぞ!
ということで、
第二段一書の解説にお戻りください。
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