豊かで奥ゆかしい日本神話の世界へようこそ!
『日本書紀』をもとに、日本神話のディープなところを突っ込んで解説。最新の学術成果をもとに本格的神話講義。
今回は、
伊奘冉尊の死にまつわる表現を通じて、神の死のバリエーションを探る
です。
日本神話の中でも有名なシーン。火神によって焼かれて死ぬ伊奘冉尊。『日本書紀』神代上 第五段〔一書6〕をもとにお届けします。
伊奘冉尊の死|神の死のバリエーション!終、神退、神避、化去、それぞれの意味をまとめて解説!
目次
伊奘冉尊の死。神の死のバリエーションは全部で3種類
『日本書紀』神代上 第五段の一書群では、火神の火によって焼死する伊奘冉尊を伝えます。
焼死シーンが登場するのは、
第五段の〔一書2〕〔一書3〕〔一書5〕〔一書6〕、計4つの書。
実は、死に方にはバリエーションがあって、ちょっとしたストーリーっぽくなってます。
まずは実際の現場をご確認ください。
〔一書2〕
伊奘冉尊はこの時、軻遇突智の火に焼かれ終てた。その、まさに臨終する間、倒れ臥し糞尿を垂れ流し、土神埴山姫と水神罔象女を産んだ。
時伊奘冉尊、為軻遇突智、所焦而終矣。其且終之間。臥生土神埴山姫及水神罔象女。
〔一書2〕では、「終」という漢字を使用。「はつ(果つ)」と読みます。
なので、「且終之間」は「はてむとするあいだ」、訳としては「まさに臨終する間」。
「終」=「臨終」。はてること、終わること、死去することを明示する意味があります。
続けて〔一書3〕。
〔一書3〕
伊奘冉尊は火産霊を産む時に、子のために焼かれ神退った。又は神避ったと言う。
伊奘冉尊生火産霊時。為子所焦而神退矣。亦云神避矣。
〔一書3〕では、「神退」または「神避」という漢字を使用。どちらも「かむさる」と読みます。
意味は、この世からの退場。
又は~の部分も同様。避けていなくなる。
ちなみに、〔一書5〕も同様に、「神退」という言葉を使用。
続けて〔一書6〕です。
〔一書6〕
その火神の軻遇突智が生まれるに至って、その母の伊奘冉尊は焦かれ、化り去った。
至於火神軻遇突智之生也 其母伊奘冉尊 見焦而化去
〔一書6〕では、「化去」という漢字を使用。「なりさる」と読みます。
意味は、化してこの世の神ではなくなり、別の世界(黄泉)に去る。「神退」の退場に対して、変化と退去を強調した表現です。
「化す」とは、第一段本伝でも登場。ある物が別のかたち、存在に変化すること。
以上、まとめると
- 〔一書2〕・・・終
- 〔一書3〕〔一書5〕・・・神退、神避
- 〔一書6〕・・・化去
の3つのパターンがあるってことが分かりますね。
伊奘冉尊の死のバリエーションを通じて伝えたいメッセージ
神の死にバリエーションがある。
もっと言うと、この3つのバリエーション、ストーリーちっくになってます。
- 〔一書2〕・・・終
→始めに、終てること、死去することを明示
- 〔一書3〕〔一書5〕・・・神退
→終と対応させて「神退」。つまりこの世から退出しますよと
- 〔一書6〕・・・化去
→そして最後、化してこの世の神ではなくなり、別の世界(黄泉)に去る
と。まー良くできてます。
伝えたいメッセージとは、伊奘冉尊の死なんですが、
その実態とは、
神としての使命を終え、
化してこの世の神ではなくなり、別の世界(黄泉)に去るということ。
もう今までの伊奘冉とは違う存在になったってことなんですね。。。
まとめ
『日本書紀』をもとに、
日本神話のディープなところを突っ込んで解説。今回は、
伊奘冉尊の死にまつわる表現を通じて、神の死のバリエーションを探る
でしたが、いかがでしたでしょうか?
日本神話の中でも有名なシーン。火神によって焼かれて死ぬ伊奘冉尊。単に「焼け死ぬ」ではなく、深い意味が込められてる。
- 〔一書2〕・・・終=終わること、死去することを明示
- 〔一書3〕〔一書5〕・・・神退=終と対応。つまりこの世から退出します
- 〔一書6〕・・・化去=化してこの世の神ではなくなり、別の世界(黄泉)に去る
伝えたいメッセージは、伊奘冉尊の死なんですが、
その実態、中身は、
神としての使命を終え、
化してこの世の神ではなくなり、別の世界(黄泉)に去るということ。
そんなメッセージを伝えたかったってこと、チェックされてください。
本シリーズの目次はコチラ!
本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献
『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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