勅命 受けたらどうするよ?律令に規定する専念&復命義務を分かりやすくまとめ!

勅命受けたらどうする?

 

日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話解説シリーズ」。

今回は、

ちょく復命ふくめい

をテーマにお届けいたします。

ちょく」とは、天皇(天子てんし・皇帝)の命令、または、その命令が記載されてる文書のこと、で。

天皇(統治者とうちしゃ)の意思を「直接」伝える命令。絶対のやつ。

復命ふくめい」とは、、ちょくやそれに相当する「めい(命令)」を受けて使つかいした結果を報告すること

コレ、実は、神話世界でもちょいちょい登場。

ちょく」や「ちょくして曰く」、それに対応する「復命ふくめい」。結構重要ワードだったりします。神々の世界でちょく復命ふくめい、、?なんか、、、違和感あるけど、、

押さえておきたいポイントとしては、つまり、

統治とうち組織とかマネジメントとかが、前提としてある!

ってこと。

だって、ちょくを出す、とか、命令に従って実行した経過や結果を報告するって、命令を出す人がいて、受ける人がいてってことで、それは、統治者とうちしゃを頂点としたヒエラルキーがないと成立しないお話なんです。

今回は、そんな古代こだい律令りつりょう制度、からの、神をも動かす絶対ルール、ちょくとか復命ふくめいをディープにお届けいたします。

これを読めば、なんなら、勅命ちょくめいを受けた時にどうすべきか、絶対に外しちゃいけないポイントまで分かってしまう!

人生いつ何が起こるか分かりません。万が一、勅命ちょくめいを受けるような事態に成ったとしても、失礼の無いようサラっと対応できるよう、ここで、その傾向と対策をまとめておきましょう。

 

勅命 受けたらどうするよ?律令に規定する専念&復命義務を分かりやすくまとめ!

勅命とは?

改めて、「ちょく」「勅命ちょくめい」とは何か?をまず確認。

ちょく」とは、

天皇(天子てんし・皇帝)の命令、または、その命令が記載されてる文書のこと、で。

天皇(統治者とうちしゃ)の意思を直接伝えるために使われてました。

本格的に、制度として確立したのは『大宝律令たいほうりつりょう』から。元々は、公式令くしきりょうに基づいて出された「勅旨ちょくし」などの勅書ちょくしょを指していました。

りょうの公的な注釈書である『令義解りょうのぎげ』では、

「詔書・勅旨、これ同じく綸言なり。臨時の大事を詔となし、尋常の小事を勅となす。」

※「綸言りんげん」とは、天子てんし(皇帝)が一旦発した言葉のこと。「綸言汗の如し(りんげんあせのごとし)」という格言があり、天子てんし(皇帝)が一度発した言葉(綸言りんげん)は取り消したり、訂正することができないという意味です。結構重い言葉。 

と、

内容の大小によって「みことのり」と「ちょく」とを区別していたようです。

ただ、、その後の「みことのり」とか「ちょく」の運用は結構曖昧で。。

そりゃそうだ、「臨時の大事」に「みことのり」、「尋常じんじょうの小事」に「ちょく」と言っても、臨時にも大きな事から小さな事があり、、、尋常じんじょうだって同様で、、、

細かく事の大小で区分して運用できなかったのが実際だったようです。

ま、いずれにしても

イメージとして、儀式的なものも含めて大きく宣明せんめい的に出すのが「みことのりちょく)」。それ以外の個別小事は「ちょく」的な感じで捉えていただければと。

天皇(統治者とうちしゃ)の意思を直接伝えるもので、絶対のやつ。それが「ちょく」。まずチェックです。

 

勅使として果たすべき義務「専心専念」

ちょく」。

なんて奥ゆかしい絶対命令。

そのちょくを受けた人は、その瞬間から勅使ちょくしとなり、

統治者とうちしゃ(天皇)の「使つかい」として立ち振る舞い、果たすべき義務が発生します。

その義務とは、努力レベルの話ではなく、絶対果たすべき義務。この緊張感、すごく大事。

今回チェックしておきたいのは、大きく2つ。

  • 専心専念せんしんせんねん義務
  • 復命ふくめい報告義務

であります。

まずは1つ目。専心専念せんしんせんねん

つまり、、、

 

集中しろ!

と。

わたくしのことをしたり、他のことしたり、なまけたりすんじゃねーぞ、と。

例えば、

ちょくを受けた者は、理由も無いのに自宅に泊まってはいけないルールとかがありました。

こちら、りょうの規定する条文が以下。

凡受勅出使、辞訖、無故不得宿於家。(公式令第廿一、79)

→意味: 勅を受けて出る使いは、辞令をうけたあとは、理由もなく勝手に家に帰ってはならない。

初めて見たでしょ?古代こだいの法律。律令りつりょう制度とか、律令りつりょう国家とかいうけど、そのリアルな姿がコレ。

専念せんねんしろ

と。

こんなかんじで、「受勅」、つまり、ちょくを受けると、法律的な規制とか義務とかが課されるんですね。

律令りつりょうは、りつりょうから成っていて、りょうは一般事項、りつは具体的な刑罰規定。

例えば、りつのほうでは、破った者に対する罰則を以下のように定めてたりします。

諸受制勅出使、不返制命、輒干他事者、徒一年半、以故有所廢闕者、徒三年。(以下略。『故唐律疏議』巻第十「職制119」)

→意味: 制=勅命を受けて出る使いは、制(勅命)を返上することはまかりならぬ。他の事に関わった者は1年半の徒刑(懲役刑)とする。さらに、途中放棄したものは3年の徒刑(懲役刑)とする。

と。

まーすごい。

だって、、勅使ちょくしですから。

天皇の使つかいとして動く訳で。生半可なことは許されません。絶対義務! 緊張感! めちゃ大事。

ということで、まず1つ目の義務、専心専念せんしんせんねんをチェック。

 

勅使として果たすべき義務「復命報告」

続いてご紹介するのが、

復命ふくめい報告義務

です。

復命ふくめい」とは、、

今でこそ、、命令に従って実行した事の経過・結果を命令者に報告すること。ですが!

古代こだいでは、ちょくやそれに相当するめい(命令)」を受けて使つかいした結果を報告すること、をいいます。

例えば、『日本書紀にほんしょき』では以下のような用例あり。

  • 天皇命田道間守、遣常世国、令求非時香菓。今天皇既崩、不得復命。(垂仁天皇後紀)
  • 臣受命天朝、遠征東夷。冀曷日曷時、復命天朝。(景行天皇四十年是歳)
  • 臣既被天皇命、必召率来矣。復命天皇。天皇大歓之、美烏賊津使主而敦寵焉。(允恭天皇七年十二)
  • 乃遣紀国造押勝与吉備海部直羽嶋、喚於百済。還自百済、復命於朝。(敏達天皇十二年十月)

と、

基本的には、ちょくや、それに相当するめいを受けて、ミッションを実行。その結果を復命ふくめい、報告するという形式。

こうした例に明らかなとおり、「復命ふくめい」の先は天皇もしくは朝廷ちょうてい

統治とうち機構が前提の仕組みですよね。

ちょく復命ふくめいの内容、そして、それらがセットで使われるってこと、しっかりチェックされてください。

で、

実は、ここからが今回お伝えしたいことのメイン。

こうした「ちょく」キター!専心専念せんしんせんねん復命ふくめい報告!というのが、神話世界でも結構登場するんです。

神の世界でも基本的には同じ。結構たて社会なんす。以下、その辺りをご紹介。

 

日本神話的初の勅キター!イベント

日本神話史上、初の「ちょくキター!」イベントというのがありまして。。。

ちょっとしたウンチクと合わせて以下ご紹介。

初の「ちょくキター!」は、『日本書紀にほんしょき』巻一 第五段〔一書6〕。

伊奘諾いざなき尊が、天照大神あまてらすおおかみはじめとする三貴神さんきしん統治とうち領域を設定するシーンで、初の「ちょく」が登場します。

こういう次第で、伊奘諾尊は三柱の御子に命じて「天照大神は、高天原たかあまのはらを治めよ。月読尊は、青海原の潮が幾重にも重なっているところを治めなさい。素戔嗚尊は天下あまのしたを治めなさい。」と言った。

已而伊奘諾尊 勅任三子曰 天照大神者 可以治高天原也 月讀尊者 可以治滄海原潮 之八百重也 素戔嗚尊者 可以治天下也 『日本書紀』巻一第五段〔一書6〕

→詳細解説はコチラで! 『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第6 ~人間モデル神登場による新たな展開~

と。

この「勅任ちょくにん」という言葉。これこそが!神話史上初の「ちょくキター!」事件であります。

ただ、、、

ここでは、どちらかというと中途段階。

要は、これまで解説してきた「専心せんしん義務」や、特に「復命ふくめい報告」がありません。

本来セットであるべき命令と報告、この片方が欠けてる状態なんですよね。

その意味で、本格的な「ちょくキター!」イベント、それは命令と報告がセットになってるやつ、であり、それは、、、

第五段〔一書11〕です!!

天照大神あまてらすおおかみ月夜見尊つきよみのみことに対して、地上にいる保食神うけもちのかみの様子を見に行かせる神話。ここで、初の本格的なやつが登場します。

すでに天照大神は天上にあって言うには、「葦原中国には保食神がいると聞いている。月夜見尊よ、行って見てきなさい。」と言った。月夜見尊は、勅を受けて降下した。 〜中略〜 そうして後に天へ帰り、天照大神へ詳しくこの事を報告した。

既而天照大神在於天上曰。聞葦原中国有保食神。宜爾月夜見尊、就候之。月夜見尊受勅而降。 〜中略〜 然後復命。具言其事。 『日本書紀』巻一 第五段〔一書11〕

これ。

受勅 → 復命ふくめい がセット

になってますよね。これが日本神話史上初の本格的ちょく発動イベントであります。

でだ、、

改めて考えてみると、、、

日本神話的に、第五段ってやっぱ超重要な段で。なぜかって、神世かみよ七代ななよジェネレーションから、いよいよ天照大神あまてらすおおかみジェネレーションへ移行・転換していく位置付けなので。

それまでの、けんこんの「どう」を背景とした「原理」的パラダイムから、いわゆる「人倫じんりん」的パラダイムへの大転換であって。

第五段以降、様々な神が社会を構成し、社会の中で発生する様々なイベント、事件が神話を動かしていくようになるんです。

で、

そんな世界にあって、やっぱり重要なのは、

ヒエラルキー!

ですよね。いろんな神がいるからこそ、絶対的な統治者とうちしゃを中心としたたて社会、そして社会を動かすための仕組み、ルールが大事になってきます。

そのことを伺える典型が、今回ご紹介している「ちょく」。

ちょくを出すってことは、ちょくを出す神、受ける神がいるってことだし。それは当然、統治者とうちしゃを頂点としたピラミッドが前提になってくる訳です。

そんな観点から、つまり、神話世界が、その社会が、どのように移行していったか?という視点で見てみると、神話の新たな像が見えてくるのではないでしょうか。

しかも、これまで見てきた通り、その移行(伊奘諾いざなき尊から天照大神あまてらすおおかみへの政権移行も含む)に当たっては、用意周到に準備された工夫が盛り込まれてますよね。

そのポイント、技法は、

  1. 段階的に進めていくこと
  2. 一書いっしょ〕という便利な場所で用意し、それを前提として〔本伝ほんでん〕で展開すること

の2点。

まー、よく考えられてる。

最初は、「勅任ちょくにん」だけでスタートし、伊奘諾いざなき尊から天照大神あまてらすおおかみへ移行する神話を通じて「ちょく」→「復命ふくめい」というセット運用へ、段階的に進めていますよね。

さらに。この超重要な世界転換、政権移行、たて組織成立のいずれも、〔一書いっしょ〕の中で行われてるんです。これ、超重要で。

本伝ほんでんに対する異伝いでん的位置付けの〔一書いっしょ〕。第五段は異伝いでんが全部で11もあって、、やれ伊奘冉いざなみの焼死だ、やれ黄泉よみ世界だなんだと、ほんと、かなりフリーダムに神話が展開してる状況。そのどさくさに、今回の政権移行やたて組織成立も登場してる次第です。

なんか言われても、「だって異伝いでんですから。」でサラッと処理できる便利さ。

さらにさらに、この後の、第六段以降は、異伝いでんで発生してることが前提となって本伝ほんでんが進行するというミラクル。ほんと、スゴイです。

この辺りのアレコレ、狙いとかはこちら↓で詳しく。

と、いうことで、色々語ってきましたが、兎にも角にも、神話世界ですでに「ちょく」が発動してたってこと、それは、統治者とうちしゃを頂点とするヒエラルキー前提のお話だってこと、しっかりチェックされてください。

 

まとめ

日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話解説シリーズ」。

今回は、

ちょく復命ふくめい

をテーマにお届けいたしましたが、いかがでしたでしょうか?

ちょく」とは、天皇(天子てんし・皇帝)の命令、または、その命令が記載されてる文書のことで。

天皇(統治者とうちしゃ)の意思を「直接」伝える命令。絶対のやつ。

ちょくに対しては、専心専念せんしんせんねん復命ふくめい報告という2つの義務が課せられます。

実は、神話世界でもちょいちょい登場する「ちょく」や「ちょくして曰く」。それに対応する「復命ふくめい」。結構重要ワードです。

ポイントは、つまり、統治とうち組織とかマネジメントとかが、前提としてある!ってこと。

だって、ちょくを出す、とか、命令に従って実行した経過や結果を報告するって、命令を出す人がいて、受ける人がいてってことで、それは、統治者とうちしゃを頂点としたヒエラルキーがないと成立しないお話なので。

そんな観点から、日本神話を見てみると、神世界におけるたて社会の形成といった観点が立ち上がってきて、これまで以上に面白さや深さが味わえます。是非ご自身でもチェックされてください。

ということで、今回のちょく復命ふくめいをテーマにしたディープなアレコレは以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

次回の更新をお楽しみに!



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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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