『日本書紀』の「一書」とは?『日本書紀』本伝と一書の読み解き方法を徹底解説!

 

『日本書紀』の「一書」とは何か?

『日本書紀』本伝と一書の読み解き方法を解説します。

 

『日本書紀』の巻一、二は通常「神代紀(神代上、下)」と呼ばれ、めっちゃ独特の編纂方法が採用されています。

それが、

「本伝」とは別に「一書」と呼ばれる異伝を併載している、ということ。

これ、

「本伝」に対する「異伝」

として位置しているのですが、

  • 「一書」とは何か?
  • それは文献なのか?
  • なぜ「本伝」に付随するのか?

など、

『日本書紀』には何も語られておらず、よー分からんシロモノなのです。

 

「どれが本当の伝承なのか?」
という読み方をするとドツボにハマるいわく付き。

『日本書紀』最大の特徴であり、最大の難関でもある「一書」。

今回は、そんな困ったちゃん「一書」の読み解き方法を分かりやすく解説していきます。

 

『日本書紀』の「一書」とは?『日本書紀』本伝と一書の読み解き方法を徹底解説!

神代紀(『日本書紀』巻一、二)とは?

まずは、現状認識から。

一般的に「神代紀」と呼ばれる、『日本書紀』巻一、二の構成を確認。

こんな感じになっとります。

、、、スゴイよね。

一応、『日本書紀』は日本の歴史書、
「正史」と呼ばれるオフィシャルに認められた書物です。

 

何この編纂スタイル、、、???

 

めっちゃ独特の編纂方法。

「本伝」とは別に「一書」と呼ばれる異伝を併載。

参考:「『日本書紀』と『古事記』の違いに見る「日本神話」の豊かさとか奥ゆかしさとか

ポイントは以下。

  • 「一書」は、『日本書紀』巻一、二、という「神代紀」に限定されている
  • 「一書」は、体系性、統一性、系統性をもっている
  • 本伝の内容を踏まえないと一書は読めないようになっている。逆に、一書の内容を踏まえないと後続の本伝は読めないようになっている。

 

各ポイントを、少し具体的に。

・「一書」は、『日本書紀』巻一、二、という「神代紀」に限定されている

『日本書紀』は、全30巻あります。

そのなかで、
1巻目と2巻目にだけ、「一書」という書名のない異伝が伝えられているのです。

3巻目以降は、時間(年月日を明示する)記述も登場し、
物語の流れは一本になります。

 

「こんな伝承がある、あんな伝承もある、そんな伝承もある、、、」
と言ってた人が、

「こんな伝承です(これ以外ありません)」
と言うようになる。

 

多角的で多彩で、相対的な世界から
明確で他にない、絶対的な世界へ。

 

『日本書紀』巻1,2にだけ存在する「一書」。
限定的に「一書」を登場させている、つまり、何らかの「伝えたいこと」を感じさせる編纂方法です。

 

・「一書」は、体系性、統一性、系統性をもっている

体系をもち、形式にも統一性があり、系統で分類することもできる。

実は「一書」のみなさんは、そんな性質を持っています。

コレ、結構重要で。詳細は別エントリで具体的に解説していきますが、一番簡単な例を一つ。

 

例えば、『日本書紀』巻1,第一段は、本伝とは別に一書が6つあります。

実は、この6つの一書は、本伝の内容をもとに分類、体系化することができたりします。

(第一段)

  • 〔本伝〕前半――故、天先成而地後定。然後、神聖生其中焉。
  • 〔書一〕―天地初判、一物在於虚中。
  • 〔書四〕―天地初判、始有倶生之神。
  • 〔書六〕―天地初判、有物。

からの

  • 〔本伝〕後半――(故曰)開闢之初、洲壌浮標、譬猶游魚之浮水上也。于時、天地之中生一物。
  • 〔書二〕―古国稚地稚之時、譬猶浮膏而漂蕩。于時、国中生物。
  • 〔書三〕―天地混成之時、始有神人焉。
  • 〔書五〕―天地未生之時、譬猶海上浮雲無所根係。其中生一物。

 

いきなり、漢字ばっかですが、原文が漢文なので、ここでは雰囲気だけ。

第一段の本伝は、前半と後半に分けることができるのですが、
この前半と後半、それぞれの内容に対応するように、一書を分類、体系化することができる、ということです。

ぱっと見て分かる、整理整頓感。

これが、
「一書」は、体系性、統一性、系統性をもっている、という意味です。これも、何らかの「伝えたいこと」を感じさせる編纂方法と言えますね。

 

・本伝の内容を踏まえないと一書は読めないようになっている。逆に、一書の内容を踏まえないと後続の本伝は読めないようになっている。

最後3つめ。これが一番のポイント。

『日本書紀』をめちゃくちゃ難解に、
そしてめちゃくちゃオモシロくしているポイントです。

つまり、

本伝だけを読んでいっても、よー分からんようになるのです。

 

本伝だけを読んでいっても、この神様いつ登場したの???
本伝だけを読んでいっても、この言葉いつ登場したの???

ってなる。

先行する一書の内容を踏まえないと訳分からんようになる。

 

例えば「高天原」。天照大神の統治する最重要スポットなのですが、

本伝で最初に登場するのは第6段。

本伝だけ読んでいると、「え?何この高天原、、、どこで出てきたん???」ってなる。

でも、

第一段の一書第4、そして、第五段の一書第6を読んでおけば「あ、前に出てきた例のアレね(納得)」ってなる。

 

つまり、

一書を踏まえないと、本伝は読み解けない、ということ。

この時点で、「一書」は意味の無いお話ではなく、本伝と一体的に扱わないと読み解けない、本伝と同じくらい大事な「異伝」ということになる訳です。

 

本伝があっての一書
であり、
一書あっての本伝

 

ということで、

  • 「一書」は、『日本書紀』巻一、二、という「神代紀」に限定されている
  • 「一書」は、体系性、統一性、系統性をもっている
  • 本伝の内容を踏まえないと一書は読めないようになっている。逆に、一書の内容を踏まえないと後続の本伝は読めないようになっている。

以上の3つの現状認識をもとに、以下「一書」の読み解き方法を解説していきます。

 

『日本書紀』神代紀「一書」の解釈の歴史・経緯

まずは、「一書」がどのように解釈されてきたのか、

その代表的なところをめっちゃかいつまんで。

歴史的にも、学問的にも、大きく見方は2つにばっくり分かれます。

  • 「一書」を「存在していた」記録、あるいは文献、伝承とする見方
  • 「一書」を「つくりあげた」記録、あるいは文献、伝承とする見方

現在の学術ワールドの大勢は「一書」を「存在していた」記録、あるいは文献、伝承とする見方であり、『日本書紀』はそれらを取り込んでまとめ上げた成果物とされます。

ところが、、、

先にご紹介した、「一書」は、体系性、統一性、系統性をもっている、というのがコレでは説明ができない、、、

というのが実際のところで。。。

だって、もともとあった伝承をまとめた、というなら、もっとバラバラな伝承になるはず。体系性や統一性、系統性をもっている、ということは、もともとあったものをまとめました的なものではなく、何かしらの意図をもってまとめられている、ということです。

ま、これはこれで論文なみのボリュームになってくるので、是非皆さんと一書に考えていきたいと思ってます。

ここでは、こんな論点があるんだよー、ということだけチェック。

 

『日本書紀』「一書」の読み解き方法

さて、ここから本文に入っていきます。

まずは、一書の読み解き方法について。

 

結論から。

「一書」とは、「本伝」に対して
その内容を多角的、多面的に展開する異伝であり、
文献として独立するのではなく、あくまで「本伝の異伝」というかたちをとって成り立たせたもの、

ということ。

こんな感じの定義からスタート。

 

本伝の内容をもとに多角的、多面的に展開する異伝

それが一書。

 

本伝+異伝

で「ひとかたまり」=『日本書紀』であり、切り離すことはできない。

 

本伝があっての一書

であり、

一書あっての本伝

というように、
お互いにつながり合って、関連し合って、踏まえ合って、多様で豊かな日本神話世界を構築している。

まずは、このイメージをつかんでください。

 

なんでこんな構成に?

 

それは、先述したとおり、「一書」の存在が、『日本書紀』巻一、二、

つまり、通常「神代紀」と呼ばれる「神の時代」に限定されていること、

がポイント。

つまり、

神の世の、そのあり方や神自身をはじめ、

本来的に超自然、不可知に属するような内容については、その伝え方・伝承は一つではあり得なかった、ということです。

 

歴史に対する神話

歴史が一つの絶対的な内容、伝え方

であるのに対して

神話はいくつかの相対的な内容、伝え方

 

歴史に先行する「神神の事蹟(神話)」として

多様なあり方に積極的な意義を認め、

その伝承、つまり神話を多角的、多面的に展開する「一書」として実現した、

ということであります。

 

だって、人智の及ばない神代のお話ですもの。

これだけしかありません、って伝えるより

これもあるよ、あれもあるよ、って伝えるほうが

なんかスゴイ感じ出てくるし。

 

そんなにあるの?ヤバくない???

あの国ヤバいよ、という風になりますよね。

 

伝承を一つに収斂しゅうれんしない編纂方針

これこそが神代紀の最大の特徴です。むしろ積極的に変化していく、

この変化を学術用語で差違化さいかと言います。違いを生んでいく、変えていく、ということです。

この変化は、縦軸方向として整理できます。

本伝をもとに違いを生んでいく、変えていく差違化さいか

これにより、

多様で多彩な神話世界を創出しつつ

その一つひとつを、それ自体固有の伝承として共存させることに成功してるのです。

 

ほんと、日本のご先祖様はスゴイことを発想しましたよね。

くどいようですが、だって、神代のお話ですから。

これだけしかありません、って伝えるより
これもあるよ、あれもあるよ、って伝えるほうが

え?そんないっぱいあるの?なんかスゴくない??ってなるし。

着想したポイント、その創意工夫に、誇りを感じると同時に、凄くてビビる。

 

『日本書紀』本伝と一書の関連 「わたり」としての一書

『日本書紀』一書の読み解き方、ポイントの2つめ。

先ほどの「差違化」が縦軸の展開だとすると、これからご紹介する「わたり」は横軸展開。

 

まず、代表的な例を挙げてみます。

第一段 一書第4 に「高天原」が先行して登場、
それを受けて
第6段 本伝 で「高天原」を舞台とした「誓約」神話が展開。

 

第5段 一書第6 に「天照大神」が先行して登場、
それを受けて
第6段 本伝以降、「天照大神」が展開。

といった形。これが学術用語でいう「わたり」

次の段に展開する一節の内容や語句などに、先行する段の一書がその先触れや布石として立つことをいいます。

図示するとこんな感じ。

くどいようですが、

本伝+異伝

で「ひとかたまり=『日本書紀』」であり、切り離すことはできません。

本伝があっての一書
であり、
一書あっての本伝

縦(差違化)だけでなく、横(わたり)へも展開し、本伝から一書へ、一書から本伝へ、お互いにつながり合って、関連し合って、踏まえ合って、多様で豊かな日本神話世界を構築しているという訳。

こんなスゴイ世界が日本神話の内部に展開し、日本の歴史書(正史)として位置づけられてる。

私たちが生まれ、育った日本という国の、際だった英知と奥深さをビシビシ感じるポイントですよね。

 

『日本書紀』一書の元ネタ

そんな奥ゆかしい編纂スタイルを持つ『日本書紀』、日本神話。

実は、元ネタと思われるものがあったりします。

詳細は別エントリで紹介しますので、ココでは簡単に。

ポイントは、

『日本書紀』が編纂された8世紀における東アジアの最先端理論を取り込み、創意工夫によってジャパンオリジナルを創り出している、という点。

私たちのご先祖様は、とにかく創意工夫がスゴイんす。

 

『日本書紀』の本伝と一書の関係に通じる独特の編纂スタイルをもつ書物。

それが『三国志』の「注」、一般的に裴松之注はいしょうしちゅう(西暦429年)と呼ばれる書物です。

この「裴松之注」、とにかくとんでもない書物なのですが、

その最大の特徴は、

異同のある史料も含めて、当時伝わっていたものを全て掲載し、検証し、注釈をつけているところ。

 

歴史書に記載されることは事実であり、一つだと思いますよね。

ところが、

「裴松之注」は、『三国志』で伝えている内容の他に、様々な異説を併載しているのです。

まさに

『日本書紀』の本伝と一書の関係と同じ。

しかもそこに、検証作業を入れることによって、コレは正しい・正しくないといったことまで伝えている。

 

比較検討の材料をすべて記録に残すことで、

  • 著者の立場や時代によって、様々な伝承や説、主張が生まれること、
  • そして立場や時代が違うと、往々にして様々な食い違いが発生すること

が分かるようになっているのです。

 

ある意味、「歴史は一つでない」ということがビシビシ感じられる書物ですし、

大本の『三国志』よりも各段に「オモロー!」な内容になっているんですよね。

参考:「裴松之注|『三国志』の注釈書!『日本書紀』編纂のモデルになった歴史書

ということで、

  • 当時の最先端の叡智をもとに、それを神話世界に持ち込んで
  • 本来的に超自然、不可知に属するような内容を説明しようとした、
  • それにより、結果的に日本という国のスゴさ、多彩さ、奥深さが伝わるように工夫された、

それが『日本書紀』編纂の実態、ということ。

編纂に関わった日本人の、ご先祖様の創意工夫の結晶、それが日本神話。

この点を是非チェックいただければと思います。

 

まとめ

『日本書紀』の「一書」とは何か?
『日本書紀』本伝と一書の読み解き方法を解説してきましたがいかがでしたでしょうか?

 

『日本書紀』の巻一、二、の合計2巻は通常「神代紀」と呼ばれ、めっちゃ独特の編纂方法が採用されています。

ポイントは

  • 「一書」は、『日本書紀』巻一、二、という「神代紀」に限定されている
  • 「一書」は、体系性、統一性、系統性をもっている
  • 本伝の内容を踏まえないと一書は読めないようになっている。逆に、一書の内容を踏まえないと後続の本伝は読めないようになっている。

 

このことから、

「一書」とは、「本伝」に対して
その内容を多角的、多面的に展開する異伝であり、
文献として独立するのではなく、あくまで「本伝の異伝」というかたちをとって成り立たせたもの、ということが分かります。

本伝の内容をもとに多角的、多面的に展開する異伝、それが一書。

本伝+異伝
で「ひとかたまり=『日本書紀』」であり、切り離すことはできない。

本伝があっての一書
であり、
一書あっての本伝

というように、お互いにつながり合って、関連し合って、踏まえ合って、多様で豊かな日本神話世界を構築していること、是非チェックされてください。

それにより

神の世を、そのあり方や神自身をはじめ、
本来的に超自然、不可知に属するようなことを伝えようとしたということ。

歴史に先行する神神の事蹟(神話)として
多様なあり方に積極的な意義を認め、
そのあり方を多角的、多面的に展開する「一書」として実現した、

ということ。

こちらも是非チェックされてください。

参考文献:『古代神話の文献学』(榎本福寿著 塙書房)、『新編日本古典文学全集』(小学館)

続きはコチラから!

『日本書紀』巻第一(神代上)第一段 一書第1~6 体系性、統一性、系統性を持つ一書群が本伝をもとに様々に展開

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日本神話とは?

本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)、他

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