日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話補足解説シリーズ」。
今回は、
天照大神と素戔嗚尊の誓約と盟神探湯
をテーマにお届けします。
天照大神と素戔嗚尊の誓約は潔白証明の儀式として有名ですが、実はこれ、元ネタがあって、それが古代における神意を占う儀式「盟神探湯」。熱湯に手を入れて火傷の有無で真偽や善悪を判断する呪術的な裁判方法(神判)であります。
今回は、そのあたりの詳細について、「天照大神と素戔嗚尊の誓約と盟神探湯」をテーマに文献学アプローチを盛り込みながら分かりやすく解説していきます。
天照大神と素戔嗚尊の誓約は盟神探湯(くがたち)がもとになってる?応神天皇条で伝える探湯をもとに誓約のポイントを分かりやすく解説
誓約の現場と構造
まずは、天照大神と素戔嗚尊の誓約の様子をチェック。どういう構造で行われるか?がポイントです。
天照大神は、もとよりその神の暴悪を知っていて、参上しに来るさまを聞くに及んで、にわかに驚き、「私の弟が来るのは、よもや善意ではあるまい。思うに、きっと国を奪う意志があるのだろう。そもそも父母が既にそれぞれの子に委任しそれぞれが統治する境界をもっている。それなのにどうして赴くべき国を棄て置き此処を狙おうとするのか」と言った。~中略~
素戔嗚尊はこれに対して「私にはもともと邪悪な心はありません。ただ、父母の厳しい勅命が既にあり、永久に根国に行こうとしているのです。それで、もし姉にお会いしなければ私はどうして去くことができましょうか。それですから、雲や霧を踏み越えて遠路はるばる参り来たのです。姉上が反対に厳しいお怒りの顔をなさるとは思いもしませんでした」と答えた。
その時、天照大神がまた問うて「もしそうだとしたら、何をもってお前の潔白な心を明らかにするか」と言うと、答えて「姉上と共に誓することをお願いします。この誓約の中では、必ず子を生むことにしましょう。もし私の生むのが女であれば邪心があるとしてください。もし男であれば清き心があるとしてください」と言った。
天照大神、素知其神暴惡、至聞來詣之狀、乃勃然而驚曰「吾弟之來、豈以善意乎。謂當有奪國之志歟。夫父母既任諸子各有其境、如何棄置當就之國而敢窺窬此處乎」~中略~
素戔嗚尊對曰「吾元無黑心。但父母已有嚴勅、將永就乎根國。如不與姉相見、吾何能敢去。是以、跋渉雲霧、遠自來參。不意、阿姉翻起嚴顏。」于時、天照大神復問曰「若然者、將何以明爾之赤心也。」對曰「請與姉共誓。夫誓約之中必當生子。如吾所生是女者則可以爲有濁心、若是男者則可以爲有淸心。」
ということで、
ここで一番重要なのが、
「天照大神の嫌疑」に対する「素戔嗚尊の弁明」という構造であります。
原文では、
「謂当_有_奪_国之志_(嫌疑)」に対して「吾元無_黒心(弁明)」と伝えてますよね。まず、この、誓約に至る構造をしっかりチェック。
探湯の現場と構造
次に、誓約が持つ構造と同じのを持つのが、『日本書紀』応神天皇九年四月条に伝える「探湯」であります。一般的に「盟神探湯」として知られてますよね。詳しくはコチラで↓
その上で、
以下、応神天皇九年四月条に伝える「探湯」の現場。
その時、武内宿禰の弟である甘美内宿禰が、兄を失脚させようと天皇に讒言をした。「武内宿禰は、いつも天下を狙う野心を持っています。今聞いたところでは、筑紫で密かに『自分一人で筑紫を切り取り、朝鮮半島(三韓)を従えて自分に朝貢させ、ついには天下を手に入れてみせる』と謀っているそうです」と。
これを聞いた天皇はすぐに使者を遣わし、武内宿禰を殺すよう命じました。武内宿禰は嘆いて言いました。「私はもともと二心などなく、ひたすら忠誠を尽くして天皇にお仕えしてきた。それなのに、どうしてこのような災難に遭い、無実の罪で死ななければならないのか」と。~中略~
天皇が武内宿禰と甘美内宿禰を呼び出して尋問させたところ、二人はそれぞれ自分の主張を譲らず、どちらが正しくてどちらが嘘なのか決着がつかなかった。そこで天皇は、神々に真偽を問う「探湯」を行うよう勅命を下した。
武内宿禰と甘美内宿禰は、磯城川のほとりに出て探湯を行った。武内宿禰がこれに勝ち、横刀(大刀)を手に取って甘美内宿禰を打ち倒し、まさに殺そうとした。しかし天皇が勅命を出して止めさせ、(甘美内宿禰を)そのまま紀伊直らの祖先に与えた。
時武內宿禰弟、甘美內宿禰、欲廢兄、卽讒言于天皇「武內宿禰、常有望天下之情。今聞、在筑紫而密謀之曰『獨裂筑紫、招三韓令朝於己、遂將有天下。』」於是天皇則遣使、以令殺武內宿禰、時武內宿禰歎之曰「吾元無貳心、以忠事君。今何禍矣、無罪而死耶。」〜中略〜
天皇則推問武內宿禰與甘美內宿禰、於是二人各堅執而爭之、是非難決。天皇勅之令請神祇探湯、是以、武內宿禰與甘美內宿禰、共出于磯城川湄、爲探湯。武內宿禰勝之、便執横刀、以毆仆甘美內宿禰、遂欲殺矣。天皇勅之令釋、仍賜紀伊直等之祖也。
ということで、
ここでも重要なのが、
「甘美内宿禰の讒言(天皇の嫌疑)」と「これを否定する武内宿禰の弁明」という構造。
なお、讒言は、これを天皇が真に受け「天皇則遣使、以令殺武內宿禰」とあるので、天皇の意志(嫌疑)に転換する案件。
そして、原文では、
「常有望天下之情(讒言)」に対して「吾元無貳心(弁明)」と伝えてます。
誓約と探湯が共通して持つ構造
ということで、
以上、誓約と探湯を2つを並べてみると、、
| 誓約に至る構造として、 | 天照大神の嫌疑 「謂当有奪国之志」 |
素戔嗚尊の弁明 「吾元無黒心」 |
| 探湯に至る構造として | 甘美内宿禰の讒言(天皇の嫌疑) 「常有望天下之情」 |
武内宿禰の弁明 「吾元無貳心」 |
ということで、
誓約も探湯も同じ構造を持っていることが分かりますよね。なので、文献学的に考えると、天照大神と素戔嗚尊の誓約は、探湯がもとになってると言える訳です。
さらに、
探湯は、武内宿禰と甘美内宿禰兄弟の互いの主張について「是非難決」、つまりどっちが正しくてどっちが嘘をついてるか決め難かったとして、事態打開のため天皇が「神々に真偽を問う「探湯」を行うよう勅命を下した」と。なので二人は、磯城川で探湯を行う。
ここでのポイントは、讒言した者とされた者との隔てなく「探湯」に臨んだこと。つまり、誓約で伝える「共に誓約」と同じ方法で探湯してる訳で。
こういう点からもやはり、天照大神と素戔嗚尊の誓約は、探湯がもとになってると考えられる訳ですね。
最後に、
補足として
誓約の究極の目的は「忠誠の証」を示すことだってこともチェック。詳しくはコチラで↓
それは
「探湯」の目的が、「以忠事君」を示すことな訳で、同じ枠組みとして、誓約では素戔嗚尊が天照大神に対して忠誠心があるかどうか、その真偽を確かめるというのが目的になります。
単に、構造が同じというだけでなく、その目的も同じようになってることも併せてチェックされてください。
誓約の構造が理解できたところで第六段〔本伝〕解説に戻ります!
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