『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝 ~誓約と天照の子誕生~

 

多彩で豊かな日本神話にほんしんわの世界へようこそ!

正史『日本書紀』をもとに、
最新の学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。

今回は、

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝

テーマは
「誓約と天照の子誕生」

素戔嗚尊の狂言回し的立ち回りにより物語が大きく展開していきます。

誓約を通じて、天照大神の子が誕生し、素戔嗚尊の潔白が証明される。これが、七段以降の展開へつながっていく。

今回も、概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。

現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!

 

本記事の独自性、ここにしか無い価値

  • 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝 ~誓約と天照の子誕生~

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝の位置づけ

まずは、『日本書紀』巻第一(神代上)第六段が神話全体の中でどのような位置付けや意味を持ってるのか?について解説。

その前に、これまでの経緯を簡単に確認。

第一段から第五段までのテーマは一言で言うと「誕生の物語」でした。

大テーマ 小テーマ 内容
誕生の物語 道による化生 乾による純男神 第一段
乾と坤による男女対耦神 第二段
神世七代として一括化 第三段
男女の性の営みによる出産 国生み 第四段
神生み 第五段

これを承けて、

ここ第六段からは「統治の物語」が展開します。これ、続く第七段、八段と合わせて1つのかたまり。

大テーマ 内容
統治の物語 誓約と天照の子誕生 第六段
勝ちさびと石窟幽居 第七段
大蛇退治と神剣献上 第八段

第五段で誕生した日神(天照大神)が本格的に活動開始。高天原の統治者としての役割機能、系統づくり、地上支配の様子を伝えます。

で、この展開を生み出しているのが影の主人公、素戔嗚尊。狂言まわし的役割を遺憾無く発揮しながら天照大神のお人柄や役割や恩恵やらを炙り出していく。。ほんと、よく練られてる。この構想力がスゴい。。

上記枠組みの中で、今回お届けするのが第六段〔本伝〕。下図、赤枠部分。

第六段では、

第五段〔本伝〕のほか〔一書6〕や〔一書11〕も取り込みながら組み合わせ展開。内容としては、天照大神と素戔嗚尊との誓約儀式を通じて、天照大神の子が誕生する神話を伝えます。

 

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝の概要とポイント

第六段は、第五段を踏まえての展開。

ポイント5つ。

①第五段で準備された「設定」をもとに展開する第六段。メインテーマは「天照大神の子の誕生」

第五段で準備された「設定」とは、、天照大神について、

  1. 〔本伝〕で、日神として誕生。光り輝くこと明るく色とりどりで、世界の内を隅々まで照らす性質もち。なので、天送。
  2. 〔一書6〕で、禊祓を通じて天照大神として誕生。高天原の統治を勅任される。
  3. 〔一書11〕で、天照大神による高天原統治開始。その第一歩目として、人民の食認定と農業開始。

てことで、上記流れ、設定を承けての第六段。大きな枠組は「統治の物語」であり、その中で、まずは後継者誕生(天照の子誕生)、お世継ぎ誕生にみんなホッと胸を撫で下ろすのであります。

 

次!

②傍流(異伝)が本流(本伝)へ取って代わる、日本神話的ダイナミックな転換が発生

第六段は「天照大神の子誕生」がテーマなんだが、ちょっと待って、その前に、、そもそも天照大神ってどこで誕生してたっけ? それって異伝たる〔一書6〕でしたよね?

てことは、異伝で誕生した天照大神が、つまり傍流で誕生した天照大神が、本伝、つまり本流へ取って代わった、ってことで、、ココ、日本神話的に地味にダイナミックな転換が発生中なとこ。

で、これ、実は、日本神話が持つ重要な特性というか構造の一つで、〔本伝〕と〔一書〕が持つ縦軸横軸の絡み合いダイナミック構造によるもの。本伝から異伝へ、異伝から本伝へ。踏まえあって取って代わって多彩で豊かな日本神話を構築してる世界線。

で、最終的に、

第六段を通じて日神から天照大神へ切り替わっていくことに。第七段を経て第八段以降、天照大神として一貫して活動展開。

なので、第六段では、日本神話の絡み合いダイナミック構造をもとに日神から天照大神へ切り替わりが発生するってこと、チェックです。

 

次!

③第六段〔本伝〕でついに伊奘諾尊が引退。以後、日本神話の主役は天照大神へ。天照を中心とした統治の物語が展開

第六段では、「神世七代」という至尊の世代たる伊奘諾尊がついに引退。。幽宮を構えて永久に隠れるお疲れっした!一つの大きな時代が終わった。。これにより、日本神話の主役は天照大神へ完全に切り替わることになります。

以後、第七段、第八段を通じて、天照大神を中心とした「統治の物語」が展開。テーマは大きく3つ

  1. 天照大神の子誕生(皇統形成)
  2. 統治者の役割機能と社会形成
  3. 高天原と地上との関係明示

であります。

なんせ、天照大神自身は第五段で生まれたばかり。活動といえば、第五段〔一書11〕で農業開始したくらいなんで、どんなお方なのか、お世継ぎはどうするのか、統治形態は?など明確になってないことだらけなんです。そのための「統治の物語」。

なので、第六段はコレ単体ではなく、第七、八段と合わせて俯瞰的に捉えていただけると◎!

ということで、そのきっかけとなる伊奘諾尊の引退、それは一つの大きな時代の終了なんだぞと、いうことで全員敬礼!!

 

次!

④影の主役は素戔嗚尊。素戔嗚による狂言まわし的役割、やらかし行動により神話が豊かに展開していく

表側の主役は天照大神で間違いないのだが、実は、影の主役とも言うべきお方がいらっしゃいまして、、、それが素戔嗚さんであります。この素戔嗚尊の狂言回し的役割や振る舞いによって日本神話が豊かに展開していくようになる。

「狂言まわし」とは、物語や演劇において、筋の運びや主題の解説を担い、物語の進行を円滑にする役割・人物のこと。単なる進行役(ナレーター)だけでなく、ストーリーの核心に触れる重要な役柄を担う。今回の素戔嗚尊がまさにそれ。

これは、第六段のみならず、第七段、第八段と続いていく構造で。素戔嗚尊がいなければ天照大神の系統形成は無かったし、統治者の役割機能とか恩恵も分からなかった、さらに高天原と地上との関係も分からない。。その意味で、非常に重要な立ち回りであり、神なんです。

 

最後!

神話展開の原動力は「原理(道の働き)」から「情動(人間モデル神)」へ。神の情動に着目すると日本神話が豊かにオモロー!に見えてくる。

「神世七代」世代の伊奘諾尊引退はホントに象徴的なイベントで。天地開闢から続いてきた乾や坤といった道の働きによる神話展開の終焉を意味。代わって、新世代、新神類たる人間モデル神が活動し神話を展開させていく、、、これ、構造的には「原理による神話展開」から「情動による神話展開」への転換とも言えて、超重要事項。

さらに、世界秩序やルールも「尊卑先後の序」から「天照大神を中心とした秩序」へ転換する訳で、世界を動かすルールが変わった。。大きな時代の転換を感じていただければと思います。

 

まとめます。

  1. 第五段で準備された「設定」をもとに展開する第六段。メインテーマは「天照大神の子の誕生」
  2. 傍流(異伝)が本流(本伝)へ取って代わるダイナミックな転換発生
  3. 第六段〔本伝〕でついに伊奘諾尊が引退。以後、日本神話の主役は天照大神へ。天照を中心とした統治の物語が展開
  4. 影の主役は素戔嗚尊。素戔嗚による狂言まわし的役割、振る舞いにより神話が豊かに展開していく
  5. 神話展開の原動力は「原理(道の働き)」から「情動(人間モデル神)」へ。神の情動に着目すると日本神話が豊かにオモロー!に見えてくる。

以上5点、チェックした上で、本文をどうぞ!

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝の本文と現代語訳

『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版
『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版

 ここにおいて、素戔嗚尊は(伊弉諾尊に)請い「私はいま勅命を承って根国に行こうと思います。なので、しばらく高天原に出向き、姉上と会って、その後に永久に退去します」と言った。(伊弉諾尊は)これを許した。そこで天に昇り詣でた。

 この後、伊弉諾尊は、神としての功績をすでに全て終えて、霊妙な命運がまさにうつろうとしていた。そこで、幽宮かくれのみや淡路洲あはぢのくにに構え、ひっそりととこしえに身を隠した。またこうも伝えている。伊弉諾尊は、神としての功績がすでに頂点に達し、神德もまた偉大であった。そこで、天に登り天神あまつかみに報告した。これにより、日の少宮わかみやに留まり住んだという。少宮、ここでは「倭柯美野わかみや」と云う。

 はじめ、素戔嗚尊が天に昇る時、大海原がこれによって激しく波打ちぶつかりあい、山々はそのために山なりが響きとどろいた。これは、神性の雄々おおしく猛々たけだけしいことがそうさせたのである。

 天照大神は、もとよりその神の暴悪を知っていて、参上しに来るさまを聞くに及んで、にわかに驚き、「私の弟が来るのは、よもや善意ではあるまい。思うに、きっと国を奪う意志があるのだろう。そもそも父母が既にそれぞれの子に委任しそれぞれが統治する境界をもっている。それなのにどうして赴くべき国を棄て置き此処ここを狙おうとするのか」と言った。そこで、髪を結ってみづらにし、を縛ってはかまにして、八坂瓊やさかに五百箇御統いほつみすまる(御統 ここでは「みすまる」と云う)みづらかづらや腕に巻きつけ、また背には千箭ちのりゆき(千箭 ここでは「ちのり」と云う)五百箭いほのりの靫を負い、ひじには稜威いつ髙鞆たかとも(稜威 ここでは「いつ」と云う。)をつけ、弓彇ゆはずを振りたて、剣のつかを力強く握りしめて、大地を踏んでまたまでのめり込ませて淡雪のように蹴散らかし(蹴散 ここでは「くゑはららかす」と云う)稜威いつ雄詰をたけびをし(雄詰 ここでは「をたけび」と云う)、稜威の嘖譲ころひを発して(嘖讓、ここでは「ころひ」と云う)、直ちに問い詰めた。

 素戔嗚尊はこれに対して「私にはもともと邪悪な心はありません。ただ、父母の厳しい勅命が既にあり、永久に根国に行こうとしているのです。それで、もし姉にお会いしなければ私はどうしてくことができましょうか。それですから、雲や霧を踏み越えて遠路はるばる参り来たのです。姉上が反対に厳しいお怒りの顔をなさるとは思いもしませんでした」と答えた。

 その時、天照大神がまた問うて「もしそうだとしたら、何をもってお前の潔白な心を明らかにするか」と言うと、答えて「姉上と共にうけひすることをお願いします。この誓約うけひの中では、(誓約之中 ここでは「うけひのみなか」と云う)必ず子を生むことにしましょう。もし私の生むのが女であれば邪心があるとしてください。もし男であれば清き心があるとしてください」と言った。

 そこで、天照大神が素戔嗚尊の十握剣とつかのつるぎを求め取り、打ち折って三段にして、天真名井あまのまないで濯いで、がりがりと噛み砕き(○然咀嚼 ここでは「佐さがみにかむ」と云う)、吹き棄てた息吹いぶきの細かな霧で(吹棄気噴之狭霧 ここでは「ふきうつるいふきのさぎり」と云う)生んだ神を、名付けて田心姫たごりひめと言う。次に、湍津姫たぎつひめ、次に、市杵嶋姫いちきしまひめ。合わせて三女である。

 そうしてのち、素戔嗚尊が天照大神のみづらかづらおよび腕にいている八坂瓊やさかに五百箇御統いほつみすまるを乞い取り、天真名井に濯いで、がりがりと噛み砕き、吹き棄てた息吹いぶきの細かな霧で生んだ神を、名付けて正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊まさかあかつかちはやひあまのおしほみみのみことと言う。次に、天穂日命あまのほひのみことこれは出雲臣いづものおみ土師連はじのむらじ等のおやである。次に、天津彦根命あまつひこねのみことこれは凡川内直おほしかふちのあたひ山代直やましろのあたひ等の祖である。次に、活津彦根命いつくひこねのみこと。次に、熊野櫲樟日命くまののくすひのみこと。合わせて五男である。

 この時、天照大神は勅して「その物根ものざねをたどると、八坂瓊の五百箇御統は私の物である。だから五男神はすべて私の子である」と言い、引き取って子として養育した。また勅して「その十握剣は素戔嗚尊の物である。だからこの三女神はすべてお前の子である」と言い、素戔嗚尊に授けた。これは、筑紫胸肩君つくしのむなかたのきみ等が祭る神である。

於是、素戔嗚尊請曰「吾今奉教、將就根國。故欲暫向高天原、與姉相見而、後永退矣。」勅許之。乃昇詣之於天也。是後、伊弉諾尊、神功既畢、靈運當遷、是以、構幽宮於淡路之洲、寂然長隱者矣。亦曰、伊弉諾尊、功既至矣、德亦大矣、於是、登天報命、仍留宅於日之少宮矣。少宮、此云倭柯美野。

始、素戔嗚尊昇天之時、溟渤以之鼓盪、山岳爲之鳴呴、此則神性雄健使之然也。天照大神、素知其神暴惡、至聞來詣之狀、乃勃然而驚曰「吾弟之來、豈以善意乎。謂當有奪國之志歟。夫父母既任諸子各有其境、如何棄置當就之國而敢窺窬此處乎」乃結髮爲髻、縛裳爲袴、便以八坂瓊之五百箇御統御統、此云美須磨屢纒其髻鬘及腕、又背負千箭之靫千箭、此云知能梨與五百箭之靫、臂著稜威之高鞆稜威、此云伊都振起弓彇、急握劒柄、蹈堅庭而陷股、若沫雪以蹴散蹴散、此云倶穢簸邏邏箇須、奮稜威之雄誥雄誥、此云鳥多稽眉、發稜威之嘖讓嘖讓、此云舉廬毗、而俓詰問焉。

素戔嗚尊對曰「吾元無黑心。但父母已有嚴勅、將永就乎根國。如不與姉相見、吾何能敢去。是以、跋渉雲霧、遠自來參。不意、阿姉翻起嚴顏。」于時、天照大神復問曰「若然者、將何以明爾之赤心也。」對曰「請與姉共誓。夫誓約之中誓約之中、此云宇氣譬能美儺箇必當生子。如吾所生是女者則可以爲有濁心、若是男者則可以爲有淸心。」於是、天照大神、乃索取素戔嗚尊十握劒、打折爲三段、濯於天眞名井、𪗾然咀嚼𪗾然咀嚼、此云佐我彌爾加武而吹棄氣噴之狹霧吹棄氣噴之狹霧、此云浮枳于都屢伊浮岐能佐擬理所生神、號曰田心姬。次湍津姬、次市杵嶋姬、凡三女矣。

既而、素戔嗚尊、乞取天照大神髻鬘及腕所纒八坂瓊之五百箇御統、濯於天眞名井、𪗾然咀嚼、而吹棄氣噴之狹霧所生神、號曰正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊。次天穗日命是出雲臣・土師連等祖也、次天津彥根命是凡川內直・山代直等祖也、次活津彥根命、次熊野櫲樟日命、凡五男矣。

是時、天照大神勅曰「原其物根、則八坂瓊之五百箇御統者是吾物也。故、彼五男神、悉是吾兒。」乃取而子養焉。又勅曰「其十握劒者、是素戔嗚尊物也。故、此三女神、悉是爾兒。」便授之素戔嗚尊、此則筑紫胸肩君等所祭神是也。『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔本伝〕より)

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝の解説

第六段の〔本伝〕、いかがでしたでしょうか?

天照大神と素戔嗚尊の意味不明なやり取り、掛け合い、からの、神が誕生したようだが、、、??

と、初めて読まれた方はきっと理解が難しかったかと思いますが、、ご安心ください。そのための日本神話.com。以下、まるっと分かりやすく解説します。

 

誓約と天照の子誕生

本文解説に入る前に、改めて背景とか設定を確認。

第六段以降、第七段、第八段を通じて、天照大神を中心とした「統治の物語」が展開していきます。

なんせ、天照大神自身は第五段で生まれたばかり。活動といえば、第五段〔一書11〕で農業開始したくらいなんで、どんなお方なのか、お世継ぎはどうするのか、統治形態は?など明確になってないことだらけなんです。

だからこその「統治」をテーマにした神話。そのテーマは大きく3つ

  1. 天照大神の子誕生(皇統形成)
  2. 統治者の役割機能と社会形成
  3. 高天原と地上との関係明示

であります。

まずは天照大神の子=皇統を引き継ぐ神が誕生(①)。良かった、、これで次の世代への継承も安心だ。そして、統治者ってどんな存在なの?って疑問も、石窟幽居イベントによって明らかに(②)。天照がいないとやっぱり困るし生きていけないぞ、、そして、地上の八岐大蛇とかいう化け物退治によってゲットした神剣を天上に献上いたしますイベントによって地上世界は高天原の支配下にあることを明示(③)といった流れ。

これらを通じて、天照大神による高天原統治の実態が明らかになっていく訳です。

その中で、

めっちゃ重要なのが、狂言まわし素戔嗚尊であります。彼のやらかし行為が神話展開を生んでいく。逆に言うと、素戔嗚尊がいなかったら上記3つのイベントも発生してないし、伝えたいこともわからない訳で。

表側の主役は当然、天照大神なんだが、影の主役として素戔嗚尊がいて、彼の狂言まわし的な立ち回りによって主役が輝く、どんな存在なのか明確になる。。その意味で、激しく重要な神。また、そういう観点で素戔嗚尊の行動とか立ち回りを見ていくと分かりやすくなるんじゃないかなと思います。

と言うことで、

そんな全体感をもとに、以下詳細解説。

 

  • ここにおいて、素戔嗚尊は(伊弉諾尊に)請い「私はいま勅命を承って根国に行こうと思います。なので、しばらく高天原に出向き、姉上と会って、その後に永久に退去します」と言った。(伊弉諾尊は)これを許した。そこで天に昇り詣でた。
  • 於是、素戔嗚尊請曰「吾今奉教、將就根國。故欲暫向高天原、與姉相見而、後永退矣。」勅許之。乃昇詣之於天也。

→素戔嗚尊の暇乞いとまごいからスタート。姉ちゃんにご挨拶!

ポイント3つ。

①第六段〔本伝〕は、第五段〔本伝〕を引き継ぎながらも、そこに〔一書6〕を交えて展開する

素戔嗚尊は請い「私はいま勅命を承って根国に行こうと思います。」とあります。

ポイントは「吾今奉教、將就根國」の「教」。これ、教え、告げのことで、第五段で素戔嗚尊に対して下された「勅命」の言い換え。

で、その勅命が下ったのが第五段〔本伝〕。以下内容でした。

次に、素戔鳴尊すさのをのみことを生んだ。(ある書には、神素戔鳴尊かむすさのをのみこと速素戔鳴尊はやすさのをのみことと言う。)この神は勇ましく残忍であって、いつもき泣くことを行いとしていた。このため、国内の人民の多くを早死にさせ、また青々とした山を枯らしてしまった。それゆえ、父母の二神は素戔嗚尊に勅して「お前は、甚だ道に外れている。この世界に君臨してはならない。必ず、遠く根国ねのくにへ行かなければならない」と言い、遂に追放した。

『日本書紀』第五段

ということで、

父母の二神は素戔嗚尊に勅して」とあり、勅命にて根国行きが下されてます。なので、基本は、第六段は第五段〔本伝〕を引き継いでるっててい(体裁)。

なんだが、、

第五段〔本伝〕では伊奘諾尊と伊奘冉尊の二神による勅命。一方で、ココ第六段〔本伝〕では、この後に伊奘諾尊の引退を伝えるだけで伊奘冉尊は不在。なので、「素戔嗚尊請曰」にある「請う」相手とは伊奘諾尊ということになる。

伊奘冉尊が不在の状態で、伊奘諾尊が素戔嗚尊に根国行きの話をしたのは、、、

そう、第五段〔一書6〕!!

〔一書6〕では以下内容で伝えてました。

 この時、素戔嗚尊はすでに年が長じていて、また握りこぶし八つもの長さもあるひげが生えていた。ところが、天下を治めようとせず、常に大声をあげて哭き怒り恨んでいた。そこで伊奘諾尊が「お前はどうしていつもそのように哭いているのだ」と問うと、素戔嗚尊は「私は根国ねのくにで母に従いたいのです。だから、哭いているだけなのです。」と答えた。伊奘諾尊は不快に思って「気のむくままに行ってしまえ」と言って、そのまま追放した。

と言うことで、

素戔嗚尊の「私はいま勅命を承って根国に行こうと思います」という「勅命」だけを考えると伊奘諾尊と伊奘冉尊が登場してた第五段〔本伝〕になるんだが、素戔嗚尊が請うた相手は前後の文脈から考えると伊奘諾尊だけになり第五段〔一書6〕になるってことで。くどいか。。

で、改めて考えてみると、冒頭の「吾今奉教、將就根國」の「教」。これ、「命」とか「勅」といった言葉が使われてないのは、勅命だけでなく行ってしまえ的内容も含めるためと言えて。あえて幅広く捉えられる漢字が設定されてるんだなぁ。

結局、何が言いたいかというと、

第六段〔本伝〕は、第五段〔本伝〕を引き継ぎながらも、そこに〔一書6〕も交えて展開するってこと。これは、この後の解説の前提となる話なのでしっかりチェック。この後もちょいちょい出てきます。

そして!

②天照大神=姉。女性であることが本文で明示される

しばらく高天原に出向き、姉上と会って、その後に永久に退去します」と言った」とあります。

ココ、素戔嗚尊が天照大神について語ってる箇所で、天照大神を姉だと。つまり、女性神であることが明示されてる箇所なんです。

思い起こせば第五段〔本伝〕。天照大神誕生は以下内容で伝えてました。

そこで、共に日神ひのかみを生んだ。名を大日孁貴おほひるめのむちと言う。(大日孁貴、ここでは於保比屢咩能武智おほひるめのむちと言う。孁は、音は力丁りょくていかへしである。ある書には、天照大神あまてらすおほかみと言う。ある書には、天照大日孁尊あまてらすおほひるめのみことと言う。)このは、光り輝くこと明るく色とりどりで、世界の内を隅々まで照らした。

於是 共生日神 號大日孁貴 【大日孁貴 此云於保比屢咩能武智 孁音力丁反 一書云 天照大神 一書云 天照大日孁尊】 此子光華明彩 照徹於六合之内 

『日本書紀』第五段

ということで、ポイント2つ。

  1. 本文では、あくまで日神として誕生。名は「大日孁貴おほひるめのむち」。
  2. 異伝的な位置づけの「注」で「天照大神あまてらすおほかみ」を伝える。

で、ポイントは、神名の「大日孁貴おほひるめのむち」の「れい」。

これ、実はれい」と「」を組み合わせた会意かいい文字で。大日孁貴おほひるめのむち」って神名でサラッと女性神であることを匂わせてた訳です。これを承けて、ここで姉としての表現に繋がってるんです。

ということで、天照大神=姉。女性神であることがココで明示された、ってことチェック。

最後!

③天照大神の高天原統治を前提とした関係、神話展開

そこで天に昇り詣でた」とあります。原文「詣」は、高い場所や目上のお方のところに参上する時に使う言葉。

つまり、素戔嗚尊にとっては天照は目上の存在であり、それはつまり、高天原の統治者という位置にあることを示してるってことなんす。

高天原における天照大神の統治を前提にした上で、昇り詣でたという表現になってる。コレ、地味に重要なんでしっかりチェック。

 

次!

  • この後、伊弉諾尊は、神としての功績をすでに全て終えて、霊妙な命運がまさにうつろうとしていた。そこで、幽宮かくれのみや淡路洲あはぢのくにに構え、ひっそりととこしえに身を隠した。またこうも伝えている。伊弉諾尊は、神としての功績がすでに頂点に達し、神德もまた偉大であった。そこで、天に登り天神あまつかみに報告した。これにより、日の少宮わかみやに留まり住んだという。少宮、ここでは「倭柯美野わかみや」と云う。
  • 是後、伊弉諾尊、神功既畢、靈運當遷、是以、構幽宮於淡路之洲、寂然長隱者矣。亦曰、伊弉諾尊、功既至矣、德亦大矣、於是、登天報命、仍留宅於日之少宮矣。少宮、此云倭柯美野。

→突然ではございますが、「神世七代」という至尊の世代たる伊奘諾尊がついに引退、、、大変お疲れ様でございました。

先に言葉の解説を少し。

「神功」は、「神としての功業」「功績」「仕事」の意。

「畢」は、物事が「おわる」「終える」の意。あるいは「ことごとく、すべて、すっかり」の意。鳥を捕らえる網の形から派生し、「畢竟」とか「畢生」のように物事の締めくくりや全期間を指して使われます。

「靈運」は、「神の霊的な命運・時節」の意。

「遷」は、「移る」意。フェーズが変わった、お役目が済んだ。

「幽宮」について、「幽」は奥深く暗いところに隠れる意で、『篆隷万象名義』に「深也、遠暗貌也、隠也」とあり、「深也」は奥深い、「遠暗貌也」はは遠く、暗い様子、「隠也」は隠れる、目に見えない意。その上での「宮」なので、隠退して住むべき所を宮殿に見立てて「幽宮」とした。比定地は、兵庫県淡路市多賀にある伊弉諾神宮。

「寂然長隱者矣」について。「寂然」は、ひっそりとして、静かな様子。「長隠」は、長い間、長久に、隠れる。「者矣」は、強調・詠嘆・過去の完了を意味する漢文の助字。「〜ましき/〜き」。合わせて「ひっそりととこしえに身を隠した」。

「功既至矣」は、神としての功績がすでに至る=極限(頂点)に達した意。

その上で、、

ポイント4つ。

①第六段〔本伝〕でついに伊奘諾尊が引退。以後、日本神話の主役は天照大神へ。天照を中心とした統治の物語が展開

第六段では、「神世七代」という至尊の世代たる伊奘諾尊がついに引退。。「神としての功績をすでに全て終えて、」とあり、「畢」という漢字が使われてるので、お役目の全てを、ことごとく、すっかり終えた感、締めくくり的な意味合いも含めて。

思い起こせば、、い〜つ〜の〜ことだか、思い出してごらん、あんなことこんなことあったでしょう、、、

  • 神世七代の最終世代として、お互いに誘い合う言葉を冠して、道の持つ自立的働きによって誕生した第二段〔本伝〕。
  • 国生みの時には、陽神として結婚を主導した第四段〔本伝〕があったり、無知になって天神指令のまま動かされる〔一書1〕の後は、さまざまに国を生み成していったっけ〔一書2〜10〕。
  • 神生みの時は、なかなかうまくいかなくて、結局、天下之主者は生まれず三貴子を生んだり蛭子を生んだり流したりした第五段〔本伝〕、からの、単独で生んだり、伊奘冉尊が焼かれ死んだことにブチギレて子の軻遇突智を斬段してみたこともあったっけ〔一書2〜4〕
  • からの、黄泉に追いかけたけど禁破りしてどえらい目にあって最悪の別れをしたのも今となっては良き思い出です。でも、禊祓で三貴子を生んだものの、末っ子は酷い出来で根国へ追放した〔一書6〕、からの、いろんな別れを経てきたオレ〔一書7〜10〕

と、、まーいろいろあったよね。。。これら全てのことが「神功」であった訳で、、、あなたの大きすぎる存在と時に勝手気ままな言動は今なお私たちの胸をアツくしてくれる。本当に、、お疲れした!!!

これにより、日本神話の主役は天照大神へ完全に切り替わる訳ですね。

そして!

②隠れる先は、、、幽の世界?「幽宮」の背景にある日本神話的世界構造

幽宮かくれのみや淡路洲あはぢのくにに構え、ひっそりととこしえに身を隠した。」とあります。ポイントは「幽宮かくれのみや」「身を隠した」。

幽宮かくれみや」の「幽」については、国譲り神話でも登場する重要概念。「大己貴神おおあなむちのかみ(=大国主神)」が国を譲り、退くときに同じ「幽」という言葉が登場。コチラ。

私が治めている顕露事あらはなることは、今後は皇孫が治めになってください。私は退いて幽事かくれたることをつかさどりましょう。 (『日本書紀』第九段〔一書2〕より一部抜粋)

ということで、ココでは、

  • 顕露事あらはなること
  • 幽事かくれたること

という、2項対立の世界観が伝えられてます。

顕露事あらはなること」とは、目に見える(顕露)世界のこと。高天原から地上の葦原中国を含む世界であり、治政ちせいを含む意味アリ。

一方、「幽事かくれたること」とは、目に見えない神の世界(身を隠した神々のいる世界)のことで、一般的には「神事」のことを言います。

日本神話には、このように、「目に見える世界(顕露)」と「目に見えない世界(幽冥)」の2つがあり、今回、伊奘諾尊が隠居した「幽宮かくれみや」も、目に見える世界から退去し、目に見えない世界へ入ることを踏まえた内容だということ、しっかりチェック。

これらを踏まえ、日本神話的世界構造というか、世界設定てやつを図示するとこんな感じ!

いかがですか皆さん!!!スゴくないっすか??コレ!!

顕世うつしよ」と「幽世かくりよ」という2つの世界があるという日本神話的設定。目に見える世界のとなりに、目に見えない世界がある。神はそれを行ったり来たりできるらしい。大己貴神おおなむちのかみ(大国主神)も、国譲りに際して「隠れる」。伊奘諾尊もココで隠れる。それは、まさに「幽世かくりよ」へのトランスファー!!

てことで、「幽宮かくれのみや淡路洲あはぢのくにに構え、ひっそりととこしえに身を隠した。」という伝承の背景にはこうした日本神話的世界設定があるってことをまずチェック。

そのうえで、

伊奘諾尊が宮を構えて身を隠したのは、神は鎮座する場所が必要だから。祀りを受ける場所な訳です。今回はそれが「幽宮かくれのみや」だったってこと。

ちなみに、、

淡路洲あはぢのくに」になってるのは、第四段〔本伝〕を踏まえてと考えられて、、第四段〔本伝〕では以下のように伝えてました。

産む時になって、まず淡路洲あはぢのしまえなとしたが、それはこころに不快なものであった。そのため「淡路洲あはぢのしま」と名付けた。

及至産時、先以淡路洲為胞。意所不快。故、名之曰淡路洲。

『日本書紀』第四段

てことで、

確かに、国生みの時は使えなかったのだけど、それでも、伊奘冉尊と初めて交合こうごうし夫婦になって出産で使おうとしたしまだったんで、伊奘諾尊的に格別なる思い入れがあったのかもしれませぬ、。、。第五段〔一書6〕であれだけヒドい別れ方をしたけれど、それでも忘れられないメモリアル、、、??

そしてそして!!

③別伝で伝える報命は、天神ミッションを踏襲。準備作業は一応コンプリート??

伊奘諾尊引退には異伝があって、それが「またこうも伝えている(原文:亦曰)」以後。

天に登り天神あまつかみに報告した」とあります。これ、第四段〔一書1〕の天神ミッションを踏まえたものと考えられます。

天神あまつかみ伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみことに、「豊かな葦原あしはら永久とわにに瑞々しい稲穂が実る地がある。お前達はそこへ行き、その準備をしなさい。」と言って、天瓊戈あまのぬほこを授けた。

一書曰。天神謂伊奘諾尊・伊奘冉尊曰、有豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之。廼賜天瓊戈。 

『日本書紀』第四段

ということで、

第四段〔一書1〕では、天神から直々にミッションを下されてました。この天神ミッション、当然、勅命と同じくらい重いものだと考えられ、てことは報告義務が発生する訳です。

勅命受けたらどうする?

今回、

天に登り天神あまつかみに報告した(原文:報命)」は、そうした経緯をうけて、天神あまつかみ事業完了報告を行ったってことなんすね。てか、、前段の異伝たる〔一書〕を自在に取り込んでつながりをつけていく、、その自由な感じがスゴい、、

ということで、別伝で伝える報命は、天神ミッションを踏襲。「神としての功績がすでに頂点に達し、神德もまた偉大であった。」と伝えてることから、準備作業は一応コンプリートしたんじゃないか説、、ということでチェック。

ちなみに、、

留まり住んだとされる「日の少宮わかみや」とは、日は夜沈んで翌朝蘇生復活して東天に昇るといった信仰が背景にあると言われてます。さらに、伊奘諾尊がそこに常住するというのは、復活する若い男性の太陽神であることを意味するとかしないとか。。。

最後!

④神話展開の原動力は「原理(道の働き)」から「情動(人間モデル神)」へ。神の情動に着目すると日本神話が豊かにオモロー!に見えてくる。

「神世七代」世代の伊奘諾尊引退はホントに象徴的なイベントで。天地開闢から続いてきた乾や坤といった道の働きによる神話展開の終焉を意味。代わって、新世代、新神類たる人間モデル神が活動し神話を展開させていく、、、

これ、構造的には「原理による神話展開」から「情動による神話展開」への転換とも言えて、超重要事項。

さらに、世界秩序やルールも「尊卑先後の序」から「天照大神を中心とした秩序」へ転換する訳で、世界を動かすルールが変わった。。大きな時代の転換を感じていただければと思います。

いずれにせよ、、まとめとして、ここでの伊奘諾尊の引退は、一つの大きな時代の終了なんだぞと、日本神話的にも大きな区切りになってること、しっかりチェック。それら含めて引退された伊奘諾に全員敬礼!!

次!

  • はじめ、素戔嗚尊が天に昇る時、大海原がこれによって激しく波打ちぶつかりあい、山々はそのために山なりが響きとどろいた。これは、神性の雄々おおしく猛々たけだけしいことがそうさせたのである。
  • 始、素戔嗚尊昇天之時、溟渤以之鼓盪、山岳爲之鳴呴、此則神性雄健使之然也。

→第五段で伝える素戔嗚尊の神性を踏襲した表現。

先に言葉の解説を少し。

溟渤めいぼつ」は、大きな海。大海原。「溟」は、海、おおうなばら、薄暗い様子を指します。「渤」は、大きな海、水が湧き立つ、水勢が盛んの意。

鼓盪ことう」は、波が激しくぶつかり合うこと、激しく揺れ動くこと。「鼓」は、つづみを鳴らず。「盪」は、揺れ動く。

「鳴呴」は、鳴り響く、大声をあげる。山なりが響く。

その上で、、

ポイント2つ。

①海が大荒れ山なりが響き渡るのは素戔嗚尊の神性によるもの。そこに悪意は・・・??

素戔嗚尊が天に昇る時、大海原がこれによって激しく波打ちぶつかりあい、山々はそのために山なりが響きとどろいた」とあります。コレ、第五段〔本伝〕を承けての内容。以下。

この神は勇ましく残忍であって、いつもき泣くことを行いとしていた。このため、国内の人民の多くを早死にさせ、また青々とした山を枯らしてしまった。

次生素戔嗚尊 【一書云 神素戔嗚尊 速素戔嗚尊】 此神 有勇悍以安忍 且常以哭泣爲行 故令國内人民 多以夭折 復使青山變枯 

『日本書紀』第四段

ということで、

「勇悍」や「哭泣」といった凶暴性は、素戔嗚尊が本来、神性かみさがとして持つ生まれながらの性質として描かれてましたよね。外的要因によって怒ってる訳でもなく、不満がある訳でもなく、生まれつき凶暴な性質をもってた。無垢。ナチュラルボーン。

第六段〔本伝〕では、直後に「神性の雄々おおしく猛々たけだけしいことがそうさせたのである。」という説明も付いてるので、暇乞いしに天上へ昇る素戔嗚尊には悪気がある訳ではない、あくまで神の性質として出ちゃってるってことでチェック。

そして!

②影の主役は素戔嗚尊。素戔嗚による狂言まわし的役割、やらかし行動により神話が豊かに展開していく

第六段から、影の主役とも言うべき役割を担うのが素戔嗚尊。この素戔嗚尊の狂言回し的役割や振る舞いによって日本神話が豊かに展開していくようになる。

「狂言まわし」とは、物語や演劇において、筋の運びや主題の解説を担い、物語の進行を円滑にする役割・人物のこと。単なる進行役(ナレーター)だけでなく、ストーリーの核心に触れる重要な役柄を担う。今回の素戔嗚尊がまさにそれ。

今回で言うと、山海鳴動による昇天が天照の嫌疑を生み、誓約儀式へつながって、最終的に天照大神の子誕生という展開を生んでいく。素戔嗚尊きっかけによる新たな神話展開、そういう構造を持ってるってことでチェック。

 

次!

  • 天照大神は、もとよりその神の暴悪を知っていて、参上しに来るさまを聞くに及んで、にわかに驚き、「私の弟が来るのは、よもや善意ではあるまい。思うに、きっと国を奪う意志があるのだろう。そもそも父母が既にそれぞれの子に委任しそれぞれが統治する境界をもっている。それなのにどうして赴くべき国を棄て置き此処ここを狙おうとするのか」と言った。
  • 天照大神、素知其神暴惡、至聞來詣之狀、乃勃然而驚曰「吾弟之來、豈以善意乎。謂當有奪國之志歟。夫父母既任諸子各有其境、如何棄置當就之國而敢窺窬此處乎」

→壮絶な勘違い??いや、天照さん素戔嗚の性質知ってたよね、、、??

先に言葉の解説を少し。

窺窬きゆ」は、隙(すき)をうかがって狙うこと。「窺」のぞく、うかがう。「窬」あな、のぞく。の意。

その上で、、、

ポイント2つ。

①傍流(異伝)が本流(本伝)へ取って代わる、日本神話的ダイナミックな転換が発生

「天照大神」として登場する第六段。なんだけど、そもそも天照ってどこで誕生してたっけ? それって異伝たる〔一書6〕でしたよね(本伝では日神として誕生)。

てことは、第五段〔一書6〕で誕生した天照大神が第六段〔本伝〕で登場してるってことで。

言い方を変えると、〔一書〕という異伝、つまり傍流で誕生した「天照大神」が、〔本伝〕つまり本流へ取って代わったとも言えて、、日本神話的に地味にダイナミックな転換が発生してるってことなんす。

これ、日本神話が持つ重要な特性というか構造の一つで、〔本伝〕と〔一書〕が縦軸横軸に絡み合いダイナミックな展開を生み出してる。本伝から異伝へ、異伝から本伝へ。踏まえあって取って代わって多彩で豊かな日本神話を構築してる世界線。

で、第六段を通じて

日神から天照大神へ切り替わっていく。第七段を経て第八段以降、天照大神として一貫して活動展開。

と言うことで、ここで登場してる天照大神は、傍流(異伝)が本流(本伝)へ取って代わったのだと、日本神話的ダイナミックな転換が発生中ってことでチェック。

そして!

②天照大神の過剰反応?のベースには、第五段〔一書6〕が関係してる

天照大神の「「私の弟が来るのは、よもや善意ではあるまい。思うに、きっと国を奪う意志があるのだろう」について。姉ちゃん、ちょっと過剰反応ちゃう?? 、、って感じません? で、、実はココ、よく考えると謎な箇所だったりします。

先ほどの解説の通り、直前の本文でわざわざ「神性かみさが雄々おおしく猛々たけだけしいことがそうさせたのである。」とあった訳で、、つまり山海鳴動は、素戔嗚尊の神性かみさがによるものでありイノセンス。その上で「天照大神は、もとよりその神の暴悪を知っていて」とあ離、この時点で、暴悪」?って感じなんす。そこから天照は「国を奪う意志あり!」と嫌疑をかける、、過剰反応しすぎと感じるのはまさにココで。。ま、確かに山海鳴動は良くなかったかも知らんが。。

これ、結論から言うと、

第六段は、第五段〔本伝〕を踏襲しつつ、そこに〔一書6〕も取り込んで成立させているから、ってことなんす。

どう言うことかというと、まず、着目すべきは「父母が既にそれぞれの子に委任しそれぞれが統治する境界をもっている。」のところ。

父母」とあるのは伊奘諾尊と伊奘冉尊であり、統治領域設定の話なので、第五段〔本伝〕のことだと考えられます。そこで、第五段〔本伝〕を確認してみると、、

『日本書紀』第五段

確かに、

父母による主者生み、日神や月神の天送はあるが、一方で、蛭子は放棄、素戔嗚尊は根国追放で、、「それぞれの子に委任」とか「それぞれが統治する境界をもっているに相当する内容が無いんです。

子として天照大神や素戔嗚尊がいて、かつ統治領域の任命を伝えるのは、、、そう〔一書6〕だ!!

『日本書紀』第五段

確かに、第五段〔一書6〕では、

伊奘諾尊は三子に勅して「天照大神は高天原たかあまのはらを治めよ。月読尊は青海原の潮が幾重にも重なっているところを治めなさい。素戔嗚尊は天下あまのしたを治めなさい。」と任命した。」(第五段〔一書6〕より)と伝えてました。父母ではなく父のみだが、、、

このことから、

第六段は、もっと言うと、天照大神的には、第五段〔本伝〕を踏襲しつつ、そこに〔一書6〕も取り込んで成立させていると考えられる訳です。

その上で、忘れちゃいけない、

第五段〔一書6〕の素戔嗚尊は、「私は根国ねのくにで母に従いたいのです。だから、哭いているだけなのです。」と、母=伊奘冉(死の側)に従う、つまり謀反に相当する内容を言い放ってました。だからこそ、伊奘諾尊(生の側)はブチギレして根国に追放する。。当然、天照もこうした経緯を知っていたと見るべきで、そうなると、辻褄が合ってくるようになるんです。

つまり、

まず、構造として、第六段は(もっと言うと天照大神的には)、第五段〔本伝〕を踏襲しつつ、そこに〔一書6〕も取り込んで成立してる、ってのがあって。それを踏まえての「父母既任諸子各有其境」。で、その「任諸子」の時に、素戔嗚尊が母=伊奘冉尊(死の側)に従うと謀反的内容を言い放ち伊奘諾(生の側)のブチギレによって根国追放されたことを踏まえてる、ってことなんす。そうすると、暇乞いに来たとは言いつつ、謀反の心があるんじゃないか疑惑が付き纏う。だからこそ、天照としては、山海鳴動が神性によるものとは分かっていつつも、嫌疑をかける訳です。それが「私の弟が来るのは、よもや善意ではあるまい。思うに、きっと国を奪う意志があるのだろう」ってことで、過剰反応のように見えるのはこうした背景設定があるってことなんすね。

さらに!

②天照大神の奪國嫌疑には、古代の律令「謀反」の考え方が反映されている

どうして赴くべき国を棄て置き此処ここを狙おうとするのか」とあります。ポイントは、「狙おうとする(原文:窺窬)」。

で、実はココ、古代律令の規定が絡んでいて、それを踏まえると理解できるようになる。それが「謀反」の規定。

古代律令の規定では「謀反は、反を謀る――予備・陰謀――だけで極刑に問われ、実行の着手があった(真反)か否かは問題とされない。(『譯註日本律令七』(唐律疏議譯註篇三、律令研究会編。62頁。昭和六二年六月。東京堂出版)の注より)」とされてました。ここの、反を謀るだけで極刑に問われ、実行があったかどうかは関係ない、というのがポイントで。

これを踏まえると、山海鳴動の勢いをもって昇天する行動が、それの向かう相手にとって、つまり天照大神にとって脅威にならないはずはなく、さらに、母=死に従うと言う素戔嗚尊に対して、天照が国を奪いに来たと嫌疑をかけるのは当然の話とも言える訳です。

これが、次の、天照の武装につながっていくんですね。

 

次!

そこで、髪を結ってみづらにし、を縛ってはかまにして、八坂瓊やさかに五百箇御統いほつみすまる(御統 ここでは「みすまる」と云う)みづらかづらや腕に巻きつけ、また背には千箭ちのりゆき(千箭 ここでは「ちのり」と云う)五百箭いほのりの靫を負い、ひじには稜威いつ髙鞆たかとも(稜威 ここでは「いつ」と云う。)をつけ、弓彇ゆはずを振りたて、剣のつかを力強く握りしめて、大地を踏んでまたまでのめり込ませて淡雪のように蹴散らかし、(蹴散 ここでは「くゑはららかす」と云う)稜威いつ雄詰をたけびをし(雄詰 ここでは「をたけび」と云う)、稜威の嘖譲ころひを発して(嘖讓、ここでは「ころひ」と云う)、直ちに問い詰めた。

乃結髮爲髻、縛裳爲袴、便以八坂瓊之五百箇御統御統、此云美須磨屢纒其髻鬘及腕、又背負千箭之靫千箭、此云知能梨與五百箭之靫、臂著稜威之高鞆稜威、此云伊都振起弓彇、急握劒柄、蹈堅庭而陷股、若沫雪以蹴散蹴散、此云倶穢簸邏邏箇須、奮稜威之雄誥雄誥、此云鳥多稽眉、發稜威之嘖讓嘖讓、此云舉廬毗、而俓詰問焉。

→めちゃめちゃ武装する天照、、威圧する行動もスゴすぎてむしろオモロい世界に突入???

先に言葉の解説を少し。

みづら」は、男の髪型。髪の毛を両耳のところや頭の上に束ねたもの。

」は、女性の腰から下をおおう衣服。スカートみたいなの。を縛ってはかまとした=男装したということ。

八坂瓊やさかに五百箇御統いほつみすまる」は、たくさんの大きな玉を紐で通して輪にしたもの。「坂」は「尺」の当て字で長さの単位、「八坂瓊やさかに」で大きい玉。

かづら」は、蔓草などの髪飾り。

千箭ちのり」は、千本もの矢、数え切れないくらいたくさんの矢。

ゆき」は、矢を入れる武具。

稜威いつ」は、相手を恐れさせる強盛な威力、厳しい姿勢。

髙鞆たかとも」は、弓を射る時に弦が左肘に当たるのを防ぐ道具。高い音を立てる鞘。

弓彇ゆはず」は、弦をかける弓の両端部。上端を末弭うらはず、下端を本弭もとはずという。

雄詰をたけび」は、相手を威圧する雄壮な声。

嘖譲ころひ」は、責め叱りたてる言葉。

その上で、、

整理してみると、

【武装】

  • 髪型をみづら
  • 裳(女のスカート)を袴(男のズボン)に
  • 巨大な玉を紐で通して輪にした御統みすまるを、鬘、髪飾り、腕にまきつけ
  • 無数の弓矢と弓矢入れを背に負い
  • 肘に強力な武具を装着し

【行動】

  • 弓(弓彇ゆはず)を振り立てる
  • 剣の柄を握りしめる
  • 大地を踏んでめり込ませ、土を淡雪のように蹴散らす
  • 雄叫び、責め叱りたてる言葉を発する

と言うことで、、

怖っ!!

ま、恐らく、古代において、戦闘で敵を威嚇するための所作がベースにあるんではないかと。。。

 

次!

素戔嗚尊はこれに対して「私にはもともと邪悪な心はありません。ただ、父母の厳しい勅命が既にあり、永久に根国に行こうとしているのです。それで、もし姉にお会いしなければ私はどうしてくことができましょうか。それですから、雲や霧を踏み越えて遠路はるばる参り来たのです。姉上が反対に厳しいお怒りの顔をなさるとは思いもしませんでした。」と答えた。

素戔嗚尊對曰「吾元無黑心。但父母已有嚴勅、將永就乎根國。如不與姉相見、吾何能敢去。是以、跋渉雲霧、遠自來參。不意、阿姉翻起嚴顏。」

→暇乞いにきただけの素戔嗚尊ビックリして釈明!!

先に言葉の解説を少し。

「黑心」は、邪悪、邪曲の心。対義語は「赤心」。

「阿姉」は、俗語的、口語的表現。例、「阿父」で「父、オヤジ」、「阿女」で「むすめ」など。

跋渉ばっしょう雲霧」について。「跋渉」は、山をふみこえ、水を渡ること。転じて、方々を歩きめぐること。なので、霧や雲が立ち込める険しい山道や遠い道のりを、困難を乗り越えて踏み越える様子。

その上で、、

「私にはもともと邪悪な心はありません。ただ、父母の厳しい勅命が既にあり、永久に根国に行こうとしているのです。」とあります。ここで、素戔嗚尊の背景が明確になる。つまり、第五段〔本伝〕を踏襲。

第五段〔本伝〕は、ナチュラルボーン暴悪な素戔嗚尊パターン。ゆえに伊奘諾尊と伊奘冉尊が勅命によって根国に追放。

なので、構造的に整理すると、素戔嗚尊は〔本伝〕を踏襲する一方、天照大神は〔本伝〕+〔一書6〕を踏襲。これにより、踏まえてる背景の違いが発生し、そのギャップが嫌疑を生み、誓約につながり、天照の子誕生へ着地する。。と言う構造になってると言えて。その意味で、めっちゃよく考えられてる。この構想力がすごいなと。

 

次!

その時、天照大神がまた問うて「もしそうだとしたら、何をもってお前の潔白な心を明らかにするか」と言うと、答えて「姉上と共にうけひすることをお願いします。この誓約うけひの中では、(誓約之中 ここでは「うけひのみなか」と云う)必ず子を生むことにしましょう。もし私の生むのが女であれば邪心があるとしてください。もし男であれば清き心があるとしてください」と言った。

于時、天照大神復問曰「若然者、將何以明爾之赤心也。」對曰「請與姉共誓。夫誓約之中誓約之中、此云宇氣譬能美儺箇必當生子。如吾所生是女者則可以爲有濁心、若是男者則可以爲有淸心。」

→口だけでは信用ならんと、、証明しろと、、姉ちゃんスゴい強い、、

先に言葉の解説を少し。

「赤心」は、潔白の心、清き心。例えば「赤子」とかも、生まれたままの汚れのない心を持った子的な意味合いで使われますよね。対義語は「黑心」。

その上で、、

うけひ誓約うけひは、事前に決めておいた通りの結果になるか否かをもって神意を判定する占いのこと

今回登場する「誓約」は儀式として実施。オモロいですよね。神様なのに分からないこと、今回でいえば素戔嗚尊の本心を、占いで決めると言う価値観。。神って何??

2つあって、日本の神様はこういうゆるさがあるってこと。絶対神のような全知全能ではない前提がある。そして、神なのに人間のように表と裏がある。口で言うことと本心は別という構造を前提にしてる。

ちなみに、誓約儀式は日本神話の中で2箇所で登場。ココ、天照と素戔嗚の誓約が一番有名ですが、他にも、神武東征神話でも行われてます。

『日本書紀』第五段

誓約儀式の手順としては以下、

  1. 宣言(もしAならA’という結果、もしBならB’という結果)
  2. 占い実施
  3. 結果判定

事前に決めておいた通りの結果になるか否かをもって神意を判定する占い。今回で言うと、男が生まれれば清き心、女が生まれれば邪心がある、、コレ、陰陽をベースにした古代の価値観なので、、、

そして!

②天照と素戔嗚の誓約儀式には、疑う者と疑われる者=潔白証明と言う関係がある

今回は、単に誓約儀式やりましょうだけでなく、疑う者と疑われる者と言う関係があり、さらに、疑うものは主権者側、疑われる者は権威を否定する(と疑われてる)者、という「縦の関係」も含まれてる。

天照大神からしたら、国を奪いに来たのだと嫌疑を持ってる、かけてる。一方の、素戔嗚尊は国を奪うなんて邪心はなく、あくまで暇乞いにきただけだと潔白を証明する必要がある訳です。

先ほど解説した律令の謀反規定、反を謀るだけで極刑に問われ、実行があったかどうかは関係ない、てところからすると、ココでの素戔嗚尊はなんとしても潔白を証明しないといけない局面。結構必死だったんじゃないかなと、、

 

次!

そこで、天照大神が素戔嗚尊の十握剣とつかのつるぎを求め取り、打ち折って三段にして、天真名井あまのまないで濯いで、がりがりと噛み砕き(○然咀嚼 ここでは「佐さがみにかむ」と云う)、吹き棄てた息吹いぶきの細かな霧で(吹棄気噴之狭霧 ここでは「ふきうつるいふきのさぎり」と云う)生んだ神を、名付けて田心姫たごりひめと言う。次に、湍津姫たぎつひめ、次に、市杵嶋姫いちきしまひめ。合わせて三女である。

於是、天照大神、乃索取素戔嗚尊十握劒、打折爲三段、濯於天眞名井、𪗾(齒+吉)然咀嚼𪗾(齒+吉)然咀嚼、此云佐我彌爾加武而吹棄氣噴之狹霧吹棄氣噴之狹霧、此云浮枳于都屢伊浮岐能佐擬理所生神、號曰田心姬。次湍津姬、次市杵嶋姬、凡三女矣。

→剣をガリガリ噛み砕いた、、だと??

先に言葉の解説を。

十握剣とつかのつるぎ」は、1mくらいの大振りの剣。「握」は拳(こぶし)一つの幅。

「天眞名井」は、天上界にある神聖な井戸。清らかな水が湧いている。

𪗾(齒+吉)然咀嚼さがみにかむ」は、よく噛むこと。噛みに噛むこと。

その上で、、

ポイント3つ。

①相手の所有物を使うのは、占い結果の正当性を担保するため

天照大神が素戔嗚尊の十握剣とつかのつるぎを求め取り」とあります。コレ、なんでそんなことやってるかというと、占い結果の正当性を担保するため。

自分の所有物を使うってことは、そこに何かしらの仕掛けをしておくこと、それは占いの結果を良くするためのタネとか仕掛けとか、、も可能な訳で、それだと本当の意味での潔白証明にならん、というお話。なので、今回でいえば、お互いの所有物を交換しあって、それで占いする、と言う形式をとってるわけです。

なお、今回の誓約儀式の前提条件は「もし私の生むのが女であれば邪心があるとしてください。もし男であれば清き心があるとしてください」てことなので、あくまで「素戔嗚尊が生む子が男か女か」が重要なわけで。なので、天照が生んだ子が女だったから天照に邪心があるとかいう話ではないので混同しないように。

そして!

②占いのために使うものが「物根ものざね」。物根には本質が宿っているという考え方

占いのために使うものを「物根ものざね」といいます。今回でいえば、子としてうまれるもと、根源。で、物根には本質が宿っていると言う考え方があり、それもあって、男だったら潔白という話になる。

そして、占いの結果として生まれる副産物、今回でいえば子になりますが、その子の所有は物実に帰属します。なので、三女神は元々は素戔嗚の十握剣なので、素戔嗚に帰属する訳です。

一応、整理すると以下の通り。

主語 物実 所生 結果
天照大神 素戔嗚の十握剣 【三女神】田心姫たごりひめ湍津姫たぎつひめ市杵嶋姫いちきしまひめ

三女神の「三」は聖数。宗像大社の御祭神として有名。

最後!

③誓約=スゴイ儀式。だからこそ、単独による神化成イベントが発生

忘れちゃいけない、大きな時代変化のただ中にあって、本来であれば出産による神誕生であるべきなんですが、

  1. よほどのスゴイ神が化出させる場合
  2. よほどのスゴイ事件が発生した場合
  3. よほどのスゴイ儀式が行われる場合

この3つに限って、単独による神化成イベントが発生。

時代と逆行してるんだけど、、、

①の場合は、化出させる神自身の神威を根拠として。②の場合は、その事件の激烈さ・劇的さを根拠として。③の場合は、その儀式の神聖さを根拠として、それぞれ単独神化成。

要は、それだけ特別で重要だということを強調してる、ってことでチェック。

今回でいえば、③に該当。ま、天照と素戔嗚なんで①も混じってるかもですが、、いずれにせよ、「素戔嗚尊の十握剣とつかのつるぎを求め取り、打ち折って三段にして、天真名井あまのまないで濯いで、がりがりと噛み砕き、吹き棄てた息吹いぶきの細かな霧で生んだ」ってのは、結構スゴいよね。。

 

 

次!

そうしてのち、素戔嗚尊が天照大神のみづらかづらおよび腕にいている八坂瓊やさかに五百箇御統いほつみすまるを乞い取り、天真名井に濯いで、がりがりと噛み砕き、吹き棄てた息吹いぶきの細かな霧で生んだ神を、名付けて正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊まさかあかつかちはやひあまのおしほみみのみことと言う。次に、天穂日命あまのほひのみことこれは出雲臣いづものおみ土師連はじのむらじ等のおやである。次に、天津彦根命あまつひこねのみことこれは凡川内直おほしかふちのあたひ山代直やましろのあたひ等の祖である。次に、活津彦根命いつくひこねのみこと。次に、熊野櫲樟日命くまののくすひのみこと。合わせて五男である。

既而、素戔嗚尊、乞取天照大神髻鬘及腕所纒八坂瓊之五百箇御統、濯於天眞名井、𪗾(齒+吉)然咀嚼、而吹棄氣噴之狹霧所生神、號曰正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊。次天穗日命是出雲臣・土師連等祖也、次天津彥根命是凡川內直・山代直等祖也、次活津彥根命、次熊野櫲樟日命、凡五男矣。

→ガリガリ噛み砕いてぷしゃーって霧状に吹き出して、、、ってどんだけ細かく噛み砕いたのよ、、というのはさておき。

整理すると以下。

主語 物実 所生 結果
素戔嗚尊 天照の八坂瓊やさかに五百箇御統 【五男神】正哉吾勝勝速日天忍穂耳まさかあかつかちはやひあまのおしほみみ尊/天穂日あまのほひ命/天津彦根あまつひこね命/活津彦根いくつひこね命/熊野櫲樟日くまののくすひ 男=清き心=勝ち

五男神の「五」は奇数なので聖数。かつ、「三」に対する「五」で、勝ちを強調する設定。

 

次!

この時、天照大神は勅して「その物根ものざねをたどると、八坂瓊の五百箇御統は私の物である。だから五男神はすべて私の子である」と言い、引き取って子として養育した。また勅して「その十握剣は素戔嗚尊の物である。だからこの三女神はすべてお前の子である」と言い、素戔嗚尊に授けた。これは、筑紫胸肩君つくしのむなかたのきみ等が祭る神である。

是時、天照大神勅曰「原其物根、則八坂瓊之五百箇御統者是吾物也。故、彼五男神、悉是吾兒。」乃取而子養焉。又勅曰「其十握劒者、是素戔嗚尊物也。故、此三女神、悉是爾兒。」便授之素戔嗚尊、此則筑紫胸肩君等所祭神是也。

→占いの結果として生まれた子の所有は物根ものざねに帰属。

なので、三女神は元々は素戔嗚の十握剣なので素戔嗚に帰属。逆に、五男神は元々は天照の五百箇御統なので天照大神に帰属。

結果論として、天照の子が誕生。天照が誰かと結婚して生むではなく儀式によって誕生した神を子として認知。実際に生んだのは素戔嗚。背景には、やはり男の系譜があって「(直系たる)子は男が生む」という考え方の反映もあったりします。

最後に、一覧としてまとめておきます。

主語 物実 所生 結果 子の処遇
天照大神 素戔嗚の十握剣 【三女神】田心姫たごりひめ湍津姫たぎつひめ市杵嶋姫いちきしまひめ 素戔嗚尊の子
素戔嗚尊 天照の八坂瓊やさかに五百箇御統 【五男神】正哉吾勝勝速日天忍穂耳まさかあかつかちはやひあまのおしほみみ尊/天穂日あまのほひ命/天津彦根あまつひこね命/活津彦根いくつひこね命/熊野櫲樟日くまののくすひ 男=清き心=勝ち 天照大神の子として養育

 

 

〔一書11〕で登場した神々

伊奘諾尊、天照大神、月夜見尊、素戔嗚尊、保食神、天熊人

 

まとめ

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔本伝〕

だーっと解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

第五段までの「誕生の物語」から「統治の物語」へ。

以後、第七段、第八段を通じて、

  1. 天照大神の系統形成
  2. 統治者の役割機能と社会形成
  3. 高天原と地上との関係明示

を伝える神話が展開していきます。

その中で、第六段〔本伝〕でついに伊奘諾尊が引退。以後、日本神話の主役は天照大神へ。天照を中心とした統治の物語が展開していきます。

影の主役は素戔嗚尊。素戔嗚による狂言まわし的役割、振る舞いにより神話が豊かに展開していきます。

古代日本人の叡智、構想力がほんとスゴイ。そして、それを物語として落とし込む力というか、実現力も超絶であります。現代の私たちにも多くの学びになるかと思います。

ということで、次回は第六段〔一書1〕!お楽しみに!!

 

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この記事を監修した人

榎本福寿教授 佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

 

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さるたひこ

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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