多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
日本最古の書『古事記』をもとに、
最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。
今回は、
『古事記』の神武東征神話を分かりやすく解説するシリーズ、第一回目。
『古事記』中つ巻をもとに、「東征発議から吉備の高嶋の宮まで」をお届け。初回ということで、『古事記』中巻の位置づけとポイントを合わせてどうぞ!
『古事記』神武東征神話|東征発議から吉備「高嶋の宮」までの神話を現代語訳付きで分かりやすく解説!
目次
『古事記』中つ巻の位置づけとポイント
これからご紹介する『古事記』中つ巻は、『古事記』上・中・下巻の3つの巻の真ん中。神武天皇から応神天皇までの時代を収録。
ポイントはいろいろあるのですが、コレだけは!というところで2点確認。
- 「天皇」の称号が登場し、人の政治を、時間軸にそって叙述している
- 神代の垂直運動に対して、人代は水平運動である
1つ目。
①「天皇」の称号が登場し、人の政治を、時間軸にそって叙述している
『古事記』上・中・下巻の3つの巻。
最初の「上つ巻」は、神の代。登場するのは神神であり、展開する場所も天界であります。
一方、「中つ巻」は、人の代。主人公は人である「天皇」であり、展開する場所も地上。
天皇が主人公であり、「神の代」から「天皇が統治する時代」へと直接つながるんですね。
「中つ巻」では、ついに国を構成する3要件、国土、国民、統治、が全て揃うようになります。
「国」は、天皇が統治する領域・版図そのものとも言えます。統治は天皇の仕事であり、なおかつ、天皇という存在そのもの。日神の天照大御神の血統を引き継ぐ絶対的な存在なわけで、例えば中国のような「革命」は起こりません。
ま、このあたりの立て付けが「天皇は現人神」とされる(ていた)根拠になってくるわけですが。。。
『古事記』はこうした「天皇」という存在の発生経緯、事績、歴史を伝えているんですね。
先祖代々、天皇家に伝わる歴史書。お家の成立経緯をお家なりの表現と事情をもって説明しているわけで。運用的には、将来天皇になる皇太子の「天皇教育用教科書」といった形にもなってきます。
2つ目。
②神代の垂直運動に対して、人代は水平運動である
上つ巻の神の代は、大きく言うと方向的には縦、垂直運動であります。
つまり、高天の原から葦原の中つ国に降臨する経緯を描いているわけです。上から下。
一方、中つ巻は、方向的には横、水平運動です。
つまり、版図の拡大。次々に国土、つまり統治領域を拡大していくんですね。
その最大の担い手は日本武尊。西の熊襲を討伐し、東の蝦夷を平定します。この後、神功皇后は朝鮮半島にまで自ら討伐に出かけています。この版図拡大の、最初の担い手が神武という訳。
ただし、はじめはまだ天皇とはなってませんので、正確には、版図拡大ではなく「国覓ぎ」というかたちをとります。
「国覓ぎ」の「覓ぎ」とは、凝視する感じで探すこと。勢いがスゴイ感じの凝視。
日向を出発し、大和に都を造営するまでの、いわゆる東征が「国覓ぎ」にあたります。そして、『古事記』では、この「国覓ぎ」の東征に16年以上費やしたと伝えてます。
内容も苦難に満ちたもので、非常にドラマチック。
国の王たる者が、政治を行うにふさわしい場所を求めて訪ね歩く話、それが東征神話であること。
この点もチェックされてください。
以上の2点を確認していただき、以下、本文を確認していきましょう。
『古事記』中つ巻 神武東征神話 東征発議から吉備の高嶋の宮まで
現代語訳
「神倭 伊波礼毘古命」とその同母の兄「五瀬命」の二柱は、高千穗宮にあって相談し言うには、「どこの地にいたならば、天の下の政を治めることができるだろうか。やはり東方に行こうと思う。」と。
さっそく日向より出発し、筑紫においでになった。豊国の宇沙[6]に到着した時に、その土人[7]、名は「宇沙都比古」「宇沙都比賣」[8]の二人は、足一騰宮[9]をつくって、盛大に御饗をひらいて[10]おもてなしをした。
そこから移って、筑紫の岡田の宮[11]に一年滞在した。
また、その国から上り、阿岐の国の多祁理宮[12]に七年滞在した。
また、その国から上り、吉備の高嶋の宮[13]に八年滞在した。
神倭伊波禮毘古命與其伊呂兄五瀬命二柱、坐高千穗宮而議云「坐何地者、平聞看天下之政。猶思東行。」
卽自日向發、幸行筑紫。故、到豐國宇沙之時、其土人、名宇沙都比古・宇沙都比賣二人、作足一騰宮而、獻大御饗。
自其地遷移而、於筑紫之岡田宮一年坐。
亦從其國上幸而、於阿岐國之多祁理宮七年坐。
亦從其國遷上幸而、於吉備之高嶋宮八年坐。
『古事記』中つ巻
注釈
[1] 初代神武天皇。鵜葺草葺不合の命の第四子で、末子にあたります。
[2] 原文「天下」。ここでは訓読語として「あめのした」と読む。
[3] 「政」ここでは政治の意味。
[4] 「日向国」で、今の宮崎県。天孫降臨により邇邇芸命が降臨した地とされます。
[5] 「筑紫国」で、今の福岡県の大部分を指します。
[6] 現在の大分県と福岡県の一部。「宇沙」は大分県宇佐市。託宣の神で有名な宇佐神宮のある地。
[7] 土着の人。
[8] 宇沙の兄妹の名前。古代には、兄が政治を、妹が祭祀をそれぞれ分担して国を治めるという制度、「彦姫制」がありました。風土記にも多くその例を伝えます。
[9] 床が低くて、一足で上れる宮殿。慌ただしく造ったので、簡易な御殿になったことを表します。
[10] 天皇の食事。これを奉るのは服従を表す儀礼として位置づけられています。
[11] 福岡県遠賀郡芦屋町の遠賀川河口付近。
[12] 広島県。安芸郡府中町にあったとされます。
[13] 現在の岡山県宮浦にあったとされます。
ポイント解説
大きく2つ確認。
①東に向かう理由=統治に最適な場所に行くため
そもそもの東征の動機、理由の部分です。
まず、神武の祖先である天孫・瓊瓊杵尊が降臨した場所は、日向の高千穂です。
このとき、天孫は「此の地は、韓国に向ひ、笠紗の御前(鹿児島県の薩摩半島の西岸、野野岬)に真来通りて、朝日の直刺す国、夕日の日照る国なり。故、此の地は甚吉き地」と言って居住することになります。
朝鮮半島に面して、日に向かう地なので「日向」と言うのですが、地理上は西の偏境です。
統治には不向きであって、そこで東征となる訳ですね。
まず、この動機、理由をしっかり確認しておきましょう。
②「国覓ぎ」16年は長すぎるが意味がある
「国覓ぎ」とは、あっちへ行き、こっちへ行き、最適の地・国を探し回ること言います。
神代の例では、八俣の大蛇を退治した「須佐之男命」の「国覓ぎ」が有名です。
須佐之男命は櫛名田比売と結婚するために最適の地を探し回ったあげく、やっと須賀の地にたどり着き、「吾、此の地に来て、我が御心すがすがし」と言って宮を作り「八雲立つ出雲八重垣妻籠に八重垣作るその八重垣を」と歌います。
結婚して生まれた子の末裔が、あの国造りで名高い「大国主神」です。
国覓ぎに要した期間が長ければ長いほど、一生懸命に探しまわったことになる訳で、その成果は保証付きという訳。
これはひいては、選ばれた地がいかに最適な場所であるかを裏打ちしているとも言えます。
妥協して数年では東征に箔がつかず、大和の適地度合も高まらないという訳です。
この点もチェックしておきましょう。
あと、
補足として、『日本書紀』と比較する事で、『古事記』の独特な伝え方が分かると思います。
例えば、『日本書紀』では、日時等の時間が書いてあるのに、『古事記』には書いていない。
『日本書紀』では、父母や生まれの経緯が詳しく書いてあるのに、『古事記』には書いていない。
等々。是非、コチラ☟と合わせてチェックされてくださいね。
本シリーズの目次はコチラ!
まとめ
『古事記』版神武東征神話~東征発議から吉備の高嶋の宮まで~
『古事記』は、「天皇家の私的な歴史書」としての位置づけであり、「国内向けに天皇家の歴史と正当性を示すことが目的」の書物であります。
これからご紹介していく神武東征神話は、『古事記』上・中・下巻の3つの巻の真ん中の巻、中つ巻に収録されています。
まず確認しておきたいのは2つ。
1つ目は、東征の動機、理由。
朝鮮半島に面して、日に向かう地「日向」は、やはり地理的には西の偏境。統治には不向きであって、そこで東征となること。
2つ目は、国覓ぎに要した期間の話。
長ければ長いほど、一生懸命に探しまわったことになる訳で、その成果は保証付き。これはひいては、選ばれた地がいかに最適な場所であるかを裏打ちしているとも言えます。
以上のポイントを押さえつつ、今後の展開をお楽しみに!
神話をもって旅に出よう!
神武東征神話のもう一つの楽しみ方、それが伝承地を巡る旅です。以下いくつかご紹介!
● 四皇子峰 神武天皇4兄弟が誕生したとされる地
『日本書紀』第十一段〔一書1〕からの系統か、、高千穂系
●皇子原神社 神武天皇が誕生したとされる地
神社後背の「産婆石」の付近で誕生したという伝承あり。神武の母「玉依姫」が神武天皇を出産した産屋跡とも伝わってます。
●御池「皇子港」 神武天皇が幼少期に水辺で遊んでいたと伝わる地。
●皇宮神社 神武天皇が15歳より宮を営んでいたとされる地。
御祭神:神日本磐余彦天皇・手耳研命・吾平津姫命・渟名川耳命。宮崎の宮の皇居跡とされてます。
● 岡田宮伝承地 古代祭場(神籬磐境跡)
1年滞在した岡田宮伝承地。神武天皇自らが国の安泰を祈願し祭祀を行った古代祭場跡があります。福岡県北九州市八幡西区にある一宮神社境内。
こちらの記事もどうぞ。オススメ関連エントリー
どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!
日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
コメントを残す