日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話補足解説シリーズ」。
今回は、
素戔嗚尊が勝ちさびする理由
をテーマにお届けします。
素戔嗚尊の勝ちさび無双を伝えるのは『日本書紀』第七段。なんですが、それまでの経緯をしっかり把握しておかないと、なんで素戔嗚尊が勝ちさびするの?なんで田んぼとか御殿を攻撃するの?とかその理由や内容理解が難しくなる。
そこで、今回は、素戔嗚尊が勝ちさびする理由をテーマに、第七段を読み解く上で必須となる前提知識とかこれまでの経緯みたいなところをまとめて解説していきます。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
素戔嗚尊はなぜ勝ちさびするの?生まれから根国追放、誓約を経て勝ちさびへ、素戔嗚尊的な理由とか事情とか
素戔嗚尊の勝ちさびにつながる経緯とか背景その1:生まれながらにして無道
素戔嗚尊の勝ちさびですが、いきなり乱暴狼藉という訳ではなく、しっかりとそこに至るまでの経緯が伝えられてます。その最初は、素戔嗚尊の生まれと追放。これをまずはチェック。
素戔嗚尊の誕生、その最初は、第五段〔本伝〕。以下のように伝えてます。
次に、素戔鳴尊を生んだ。この神は勇ましく残忍であって、いつも哭き泣くことを行いとしていた。このため、国内の人民の多くを早死にさせ、また青々とした山を枯らしてしまった。それゆえ、父母の二神は素戔嗚尊に勅して「お前は、甚だ道に外れている。この世界に君臨してはならない。必ず、遠く根国へ行かなければならない」と言い、遂に追放した。
次生素戔嗚尊。此神、有勇悍以安忍、且常以哭泣爲行。故、令國內人民多以夭折、復使靑山變枯。故、其父母二神、勅素戔嗚尊「汝甚無道。不可以君臨宇宙。固當遠適之於根國矣。」遂逐之。
ということで、
素戔嗚尊はそもそも生まれながらにしてかなりの問題児だった訳ですね。勇ましく残忍であって、いつも哭き泣くことで人々が早死にし、青山が枯れるて、、、どんだけ???
あまりにもヒドいので、伊奘諾尊・伊奘冉尊は「お前は、甚だ道に外れている」として根国追放処分を下した訳です。ここで、素戔嗚尊のことを指して「無道」という言葉が使われてるのがポイント。これは、この後の第七段につながっていく重要ワードだったりします。
ということで、
勝ちさびにつながる経緯とか背景その1として、素戔嗚尊はそもそも生まれながらにして無道だったってことでチェック。
素戔嗚尊の勝ちさびにつながる経緯とか背景その2:嫌疑と不満
続けて2つ目。
生まれながらにして無道だった素戔嗚尊。そんな彼が勝ちさびに突入するきっかけとなったイベントがありまして、、それが誓約儀式。
概要としては、
根国追放処分となった素戔嗚尊が暇乞いのため天上へ。天照大神に挨拶しようとやってきたのだが、、天照大神は国を奪いに来たと激しく疑う。そこで素戔嗚尊は身の潔白を証明するため、互いの持ち物を交換して子を生む誓約を提案して実行する。。。
詳しい解説はコチラで↓
この中で、、
天照大神が武装して激しく問い詰めた時、素戔嗚尊が言った言葉が重要で。
素戔嗚尊はこれに対して「私にはもともと邪悪な心はありません。ただ、父母の厳しい勅命が既にあり、永久に根国に行こうとしているのです。それで、もし姉にお会いしなければ私はどうして去くことができましょうか。それですから、雲や霧を踏み越えて遠路はるばる参り来たのです。姉上が反対に厳しいお怒りの顔をなさるとは思いもしませんでした。」と答えた。
素戔嗚尊對曰「吾元無黑心。但父母已有嚴勅、將永就乎根國。如不與姉相見、吾何能敢去。是以、跋渉雲霧、遠自來參。不意、阿姉翻起嚴顏。」
ということで、
「姉上が反対に厳しいお怒りの顔をなさるとは思いもしませんでした」という不意を突かれた言葉を発しており、素戔嗚尊的には、天照大神の嫌疑は唐突かつビックリ、なんでやねん案件だったことが伺えます。
ここで押さえておきたいのは、
天照大神の嫌疑、一方的な決めつけは、素戔嗚尊にとっては不当なものであり、なんなら怒りや憤りを抱き、負けまいと意気込む姿勢を引き起こすものだったということで、この時点で勝ちさびにつながるエネルギーの溜め込みがあったってことをチェック。
素戔嗚尊の勝ちさびにつながる経緯とか背景その3:誓約条件の違いによる動機の違い
最後に、勝ちさびにつながる契機となるのが誓約儀式なんですが、コレ、実は、2種類のパターンがありまして、、コレにより、素戔嗚尊の動機に違いが出てくるんです。
まず、誓約構造の違いについて。
詳しくはコチラ↑で。
概要としては、神話のみならず『日本書紀』につたえる「誓」にまつわる伝承の多くが、「若」による仮定条件を表す句と、その帰結を表す句との句相互の関係によって成りたってます。
具体的には、
「条件句」に、なにごとか知りたい真実もしくは願わしい事柄などを仮定する。もし仮定したとおりだとすれば(もしくはそれに反するとすれば)、それに対応する事態が実際に発生する、もしくは発生させることを「帰結句」が表す。というもの。
| 条件句 | なにごとか知りたい真実、もしくは願わしい事柄などを仮定する |
| 帰結句 | ・もし仮定したとおりだとすれば、それに対応する「事態」が現に発生する ・もし仮定したことに反するとすれば、同じく、それに対応する「事態」が現に発生する |
で、
帰結として発生する「事態」は、発生が通常ほとんどありえない、超現実的な内容というのが通例で。そして、むしろ、これら超現実的な事態の発生が、仮定した事柄の真実もしくは願いの実現などを、いわば可視的に保証する訳です。
上記をもとに、
それぞれの誓約の詳細は、コチラでそれぞれ確認いただくとして、、
ここから
誓約構造の違いを抽出してみると、以下のようになります。
第六段〔本伝〕
| 条件句 | ・もし私の生むのが女であれば ・もし男であれば |
| 帰結句 | ・(女なら)邪心があるとしてください。 ・(男なら)清き心があるとしてください |
続けて、
第六段〔一書2〕
| 条件句 | ・女を生めば ・男を生んだら |
| 帰結句 | ・(女なら)黒心とし ・(男なら)赤心としてください |
続けて、
第六段〔一書1〕
| 条件句 | もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、 |
| 帰結句 | お前の生む子は、必ず男だろう |
続けて、
第六段〔一書3〕
| 条件句 | お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、 |
| 帰結句 | お前の生む子は必ず男である |
ということで、、
並べてみると
- 〔本伝〕と〔一書2〕
- 〔一書1〕と〔一書3〕
では構造が違うのが分かりますよね。
超絶シンプルに、
〔本伝〕と〔一書1、3〕の誓約ロジックをまとめてみます。
| 〔本伝〕と〔一書2〕 | 〔一書1〕と〔一書3〕 |
| 女なら濁心、男なら清心 | 心明浄なら、必ず男 |
| 男を生んだので清心(勝ち曖昧) | 男を生んだので心明浄 + 勝ち強調 |
| 結論:清心だった(曖昧にされ鬱憤?) | 結論:心明浄+勝ち(ウェーイ!) |
ということで、
〔本伝〕+〔一書2〕の誓約も、〔一書1,3〕の誓約も、いずれも結論は素戔嗚尊が清心だった・明浄だったってことで同じなんだが、条件句の設定の違いにより素戔嗚尊の心情的な違いが発生してるんです。ココ、超重要。
〔本伝〕は、「女なら濁心、男なら清心」ということで、あくまで場合分け的な条件設定になってます。なので、素戔嗚尊が男を生んだので清心証明されたんだが、誓約に勝った的な意味合いが曖昧になってる。本文でも天照大神の発言もことさら勝ちを強調するようには伝えていない。
一方の、〔一書1,3〕は、「心明浄なら、必ず男」ということで、「必」という言葉もついてきっぱり断定してますよね。場合分けとかでもない。なので、素戔嗚尊が男を生んだので明浄証明されたほか、勝ち確定が強調される訳です。本文でも素戔嗚尊の言葉でも勝ちを強調する言葉を伝えてます。
大事なのは、
いずれにしても、誓約儀式を経て素戔嗚尊の勝ちさび無双につながっていく訳で、その勝ちさびの実態とか背景とかいうのが、両方のニュアンスで捉えられるようになってるってことなんす。
〔本伝〕+〔一書2〕系を背景とすれば、一方的に嫌疑受けて言いたい放題言われて誓約で男を生んだのに勝ちかどうかを曖昧にされたうっぷんが爆発したから、とも解釈できるし、
〔一書1,3〕系を背景とすれば、誓約で完全勝利をおさめたので調子に乗って大暴れしたから、と解釈できる訳です。
第七段で伝える素戔嗚尊の勝ちさびは、こうした背景とか設定をもとに読み解くと深みがでておもろいと思います。激しくオススメ。
素戔嗚尊はなんで勝ちさびするの? まとめ
「素戔嗚尊の勝ちさび」の読み解き方
素戔嗚尊の勝ちさびを理解するためには、それまでの経緯をしっかり踏まえることが重要です。
まず、素戔嗚尊はそもそも生まれながらにして無道だった。
そこに、天照大神の嫌疑、一方的な決めつけがあって、これは素戔嗚尊にとっては不当なものとして映った。なんなら、怒りや憤りを抱き、負けまいと意気込む気持ちを引き起こすものだった。で、この時点で勝ちさびにつながるエネルギーの溜め込みがあった訳です。
それが誓約の勝利により、解放される、増長する、それが第七段の勝ちさびにつながっていく流れになっている。
以上を是非チェックされてください。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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