『古事記』国生み原文と現代語訳と解説|伊耶那岐命と伊耶那美命の聖婚と大八嶋国誕生の物語

『古事記』国生み

 

多彩で豊かな日本神話にほんしんわの世界へようこそ!

日本最古の書『古事記こじき』をもとに、
最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。

今回は、『古事記こじき』上巻から、

国生み

古事記こじき』神話国生みは、天神あまつかみの指令により伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことの二神が結婚し、国を生む神話。

ポイントは、天神あまつかみの関与と神聖な大八嶋国おおやしまくにの誕生。

今回も、概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。

現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!

 

本記事の独自性、ここにしか無い価値

  • 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

『古事記』国生み原文と現代語訳と解説!伊耶那岐命と伊耶那美命の聖婚と大八嶋国誕生の物語

『古事記』国生みのポイント

古事記こじき』の国生みは、『古事記』上巻に伝えます。

経緯としては、天地が初めておこり、高天原造化三神ほか、別天神ことあまつかみ神世七代かみよななよという非常に尊貴な神々が誕生した、、ってところから。

古事記 天地開闢

↑経緯しっかり確認。

で、本文に入る前に、まずは押さえておきたいポイント、概要をチェック。

全部で5つ。

  1. 天神あまつかみ関与。国生みを指令し、是正する天神。コレ、大八嶋国おおやしまくにの尊貴化の仕掛け
  2. 結婚=神聖な儀礼。きちんとした手順を踏むことで、よい結果が得られます
  3. 神をも従う絶対原理が存在。天神あまつかみさえも分からないことがある!?
  4. 国生みの順番はおおむね左回り。ただし例外アリ
  5. 日本書紀にほんしょき』をベースに?第四段〔一書1〕とほぼ同じ伝承になってる!?

ということで、以下、順に解説。

1つ目。

①天神関与。国生みを指令し是正する天神。コレ、「大八嶋国」尊貴化の仕掛け

古事記こじき』版の国生みは、天神あまつかみが深く関与する形式になってます。

ココで言う「天神あまつかみ」とは、これまでの経緯を踏まえると、天地初発に誕生した「別天神ことあまつかみ」を中心とする尊貴な神々と想定されます。伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことに命令することができるくらい格が高い神様群。

この天神あまつかみが、最初の「国の修理固成」を指令、さらに、国生み途中の二神の過誤を是正指導する。と、まー、いろいろ関与。

この理由、一言で言うと、大八嶋国の尊貴化のため。

古事記こじき』では、伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことよりさらに尊貴な神々である「天神あまつかみ」が、直接指令を下す、国生みに関与する、という形にすることで、結果的に、誕生する大八嶋国おおやしまくに=日本を「尊貴な国」として位置づけようとしてるんです。

次!

②結婚=神聖な儀礼。きちんとした手順を踏むことで、よい結果が得られます

国生みにおける大前提として押さえておきたいポイント。それは、、、

結婚=儀礼

であること。ココしっかりチェック。儀礼には、きちんとした手順、ルールがある。

で、ココでいう手順、ルールとは、

  1. 身体問答しんたいもんどう
  2. 左旋右旋させんうせん
  3. 先唱後和せんしょうこうわ
  4. 交合結婚こうごうけっこん

のことで。『古事記こじき』でも「結婚=儀礼」なんで、踏むべき手順(①〜④)がある、てことになってます。

全体にただよう手続き臭さは、そのためで。意味があってわざわざやってる、ってことでチェック。

次!

③神をも従う絶対原理が存在。天神さえも分からないことがある!?

国生みの途中で、伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことは手順を間違えるという過誤。ミステイクを犯す。それにより、淡嶋あわしま水蛭子ひるこが誕生してしまう。。。

そこで二神は、天神あまつかみにお伺いをたてに行くのですが、、、

なんと、、国生みを指示した天神あまつかみさんですら理由が分からない、、、ので、占いで答えをだす、という不思議対応。、

天神あまつかみさん? 高天原たかあまのはらす尊貴な神なのに知らないの!?? と、観客総立ちの局面。なんですが、、実はコレ、

天神にも分からないこと、それは易の理論、宇宙法則的なものだったりするわけですが、、そうした易の理論や法則にお伺いし、それによって修正され、ちゃんとした手続きを経て誕生した「大八嶋国」は、それこそ、まさしく、「神聖な国」なんだよ、と伝えようとしてる、ってことなんです。ダブルで尊貴化。後ほど解説。

次!

④国生みの順番はおおむね左回り。ただし例外あり

古事記こじき』の国生みも、柱巡りの運動を踏襲し、おおむね左回りに生んでいきます。現場目線がポイント。

『古事記』柱巡りと出産の現場

↑こちらの「陽」の動きをもとに、、、

『古事記』国生みの順番

隠岐など例外はありつつ、おおむね左回りで国を生んでます。

国生み神話の島の順番

最後!

⑤『日本書紀』をベースに?第四段〔一書1〕とほぼ同じ伝承になってる!?

実は、『古事記こじき』版の国生みは、日本書紀にほんしょき』第四段〔一書1〕とほぼ同じ伝承になってます。

『日本書紀』第四段

日本書紀にほんしょき』から眺めると、『古事記こじき』は数ある異伝の一つ的な位置づけ。

もともと『日本書紀にほんしょき』では、第四段の〔本伝〕をもとに〔一書〕を通じて差異化、バリエーション化をしている経緯があり、『古事記こじき』版国生みもその一環。

『日本書紀』が理論ガチガチで組まれていることを踏まえると、当然、『古事記』も同様の思想とか理論的なものがベースになってると考えるべきで。

一方の『古事記』から眺めると、『日本書紀』をもとに、理論とかよりも、より尊貴に、なんなら国内の豪族・氏族に配慮した形にしようとしてる。

こうした背景をもとに国生み神話を、もっというと、日本神話全体を捉え始めるとめっちゃオモロー!な世界が立ち上がってきます。激しくオススメです。

以上の5つ、

  1. 天神あまつかみ関与。国生みを指令し、是正する天神。コレ、大八嶋国おおやしまくにの尊貴化の仕掛け
  2. 結婚=神聖な儀礼。きちんとした手順を踏むことで、よい結果が得られます
  3. 神をも従う絶対原理が存在。天神あまつかみさえも分からないことがある!?
  4. 国生みの順番はおおむね左回り。ただし例外アリ
  5. 日本書紀にほんしょき』をベースに?第四段〔一書1〕とほぼ同じ伝承になってる!?

しっかりチェック。

その上で、『古事記』国生みの現場をどうぞ!

 

『古事記』国生み原文と現代語訳

ここにおいて、天神あまつかみ諸々の命をもって、伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことの二柱の神にみことのりして「この漂っている国を修理をさめ固め成せ」と、天沼矛あめのぬぼこを授けてご委任なさった。

そこで、二柱の神は天浮橋あめのうきはしに立ち、その沼矛を指し下ろしてかき回し、海水をこをろこをろと搔きらして引き上げた時、その矛のさきよりしたたり落ちる塩がかさなり積もって嶋と成った。これがしまである。

その嶋に天降あもりして、あめの御柱みはしらを見立て、八尋やひろ殿どのを見立てた。ここに、その妹伊耶那美命いざなみのみことに「の身はどのように成っているのか。」と問うと、「私の身は、出来上がっていって出来きらないところが一つあります」と答えた。ここに伊耶那岐命いざなきのみことみことのりして「私の身は、出来上がっていって出来すぎたところが一つある。ゆえに、この私の身の出来すぎたところをもって、汝の身の出来きらないところに刺しふさいで、国土くにを生み成そうとおもう。生むことはどうだろうか」と言うと、伊耶那美命は「それがいでしょう」と答えた。

そこで伊耶那岐命いざなきのみことみことのりして「それならば、私と汝とでこのあめの御柱みはしらを行きめぐり逢って、みとのまぐはいをしよう。」と言った。このようにちぎって、さっそく「汝は右より廻り逢いなさい。私は左より廻り逢おう。」と言い、ちぎり終えて廻った時、伊耶那美命いざなみのみことが先に「ほんとうにまあ、いとしいお方ですことよ。」と言い、そのあと伊耶那岐命いざなきのみことが「なんとまあ、かわいい娘だろうか。」と言った。

おのおのが言い終えた後、(伊耶那岐命いざなきのみことは)そのいもに「女人おみなが先に言ったのは良くない。」と告げた。しかし、寝床で事を始め、子の水蛭子ひるこを生んだ。この子は葦船に入れて流し去てた。次に、淡嶋あはしまを生んだ。これもまた子のかずには入れなかった。

ここに、二柱の神ははかって「今、私が生んだ子は良くない。やはり天神の御所みもとまをしあげるのがよい。」と言い、すぐに共にまいのぼって、天神のめいを仰いだ。そこで天神の命をもって、太占に卜相うらない「をみなの言葉が先立ったことにり良くないのである。再びかへくだって改めて言いなさい。」と仰せになった。

ゆえにかへり降りて、更にその天の御柱を先のように往きめぐった。ここに、伊耶那岐命いざなきのみことが先に「なんとまあ、かわいい娘だろうか。」と言い、その後にいも伊耶那美命いざなみのみことが「なんとまあ、いとしいお方ですこと。」と言った。

このように言ひ終わって御合みあひして生んだ子は、淡道之穗之狹別嶋あはぢのほのさわけのしま。次に、伊豫之二名嶋いよのふたなのしまを生んだ。此の嶋は、身一つにして顔が四つ有る。顔ごとに名が有る。伊豫国いよのくに愛比売えひめといい、讚岐国さぬきのくに飯依比古いひよりひこといい、粟国あはのくに大宜都比売おほげつひめといい、土左国とさのくに建依別たけよりわけという。次に、隠伎之三子嶋おきのみつごのしまを生んだ。またの名は天之忍許呂別あめのおしころわけ。次に、筑紫嶋を生んだ。この嶋もまた、身一つにして顔が四つ有る。顔毎に名が有る。筑紫国は白日別しらひわけといい、豊国とよのくに豊日別とよひわけといい、肥国ひのくに建日向日豊久士比泥別たけひむかひとよくじひねわけといい、熊曾国くまそのくに建日別たけひわけという。次に、伊岐嶋いきのしまを生んだ。またの名は天比登都柱あめひとつばしらという。次に、津嶋を生んだ。またの名は天之狹手依比売あめのさでよりひめという。次に、佐度嶋さどのしまを生んだ。次に、大倭豊秋津嶋おほやまととよあきづしまを生んだ。またの名は天御虚空豊秋津根別あまつみそらとよあきづねわけという。ゆえに、この八嶋やしまを先に生んだことに因って、大八嶋国おほやしまくにという。

その後、還りす時、吉備児嶋きびのこしまを生んだ。またの名は建日方別たけひかたわけという。次に、小豆嶋あづきしまを生んだ。またの名は大野手比売おほのでひめという。次に、大嶋を生んだ。またの名は大多麻流別おほたるわけという。次に、女嶋ひめしまを生んだ。またの名を天一根あめひとつねという。次に、知訶嶋ちかのしまを生んだ。またの名は天之忍男あめのおしをという。次に、両児嶋ふたごのしまを生んだ。またの名は天両屋あめふたやという。吉備の児島から天両屋の島まで合わせて六つの島である。

於是天神、諸命以、詔伊耶那岐命・伊耶那美命二柱神「修理固成是多陀用幣流之國。」賜天沼矛而言依賜也。

故、二柱神、立訓立云多多志天浮橋而指下其沼矛以畫者、鹽許々袁々呂々邇此七字以音畫鳴訓鳴云那志而引上時、自其矛末垂落之鹽累積、成嶋、是淤能碁呂嶋。自淤以下四字以音。

於其嶋天降坐而、見立天之御柱、見立八尋殿。於是、問其妹伊耶那美命曰「汝身者、如何成。」答曰「吾身者、成成不成合處一處在。」爾伊耶那岐命詔「我身者、成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處、刺塞汝身不成合處而、以爲生成國土、生奈何。」訓生、云宇牟。下效此。伊耶那美命答曰「然善。」爾伊耶那岐命詔「然者、吾與汝行廻逢是天之御柱而、爲美斗能麻具波比此七字以音。」 如此之期、乃詔「汝者自右廻逢、我者自左廻逢。」約竟廻時、伊耶那美命、先言「阿那邇夜志愛袁登古袁。此十字以音、下效此。」後伊耶那岐命言「阿那邇夜志愛袁登賣袁。」各言竟之後、告其妹曰「女人先言、不良。」雖然、久美度邇此四字以音興而生子、水蛭子、此子者入葦船而流去。次生淡嶋、是亦不入子之例。

於是、二柱神議云「今吾所生之子、不良。猶宜白天神之御所。」卽共參上、請天神之命、爾天神之命以、布斗麻邇爾上此五字以音ト相而詔之「因女先言而不良、亦還降改言。」故爾反降、更往廻其天之御柱如先、於是伊耶那岐命先言「阿那邇夜志愛袁登賣袁。」後妹伊耶那美命言「阿那邇夜志愛袁登古袁。」

如此言竟而御合生子、淡道之穗之狹別嶋。訓別、云和氣。下效此。次生伊豫之二名嶋、此嶋者、身一而有面四、毎面有名、故、伊豫國謂愛比賣此三字以音、下效此也、讚岐國謂飯依比古、粟國謂大宜都比賣此四字以音、土左國謂建依別。 次生隱伎之三子嶋、亦名天之忍許呂別。許呂二字以音。次生筑紫嶋、此嶋亦、身一而有面四、毎面有名、故、筑紫國謂白日別、豐國謂豐日別、肥國謂建日向日豐久士比泥別自久至泥、以音、熊曾國謂建日別。曾字以音。次生伊伎嶋、亦名謂天比登都柱。自比至都以音、訓天如天。次生津嶋、亦名謂天之狹手依比賣。次生佐度嶋。次生大倭豐秋津嶋、亦名謂天御虛空豐秋津根別。故、因此八嶋先所生、謂大八嶋國。

然後、還坐之時、生吉備兒嶋、亦名謂建日方別。次生小豆嶋、亦名謂大野手比賣。次生大嶋、亦名謂大多麻上流別。自多至流以音。次生女嶋、亦名謂天一根。訓天如天。次生知訶嶋、亦名謂天之忍男。次生兩兒嶋、亦名謂天兩屋。自吉備兒嶋至天兩屋嶋、幷六嶋。 (引用:『古事記』上巻より)

 

『古事記』国生みの解説

古事記こじき』の国生み、いかがでしたでしょうか?

いきなり登場の天神、そして天神による「修理固成」指令からの、やけに儀式臭い国生み結婚譚。。

ただ、まだ『古事記こじき』はやさしい感じ?がします。『日本書紀』のように、神聖化っ!とか、儀式っ!とか、ガチガチな感じがあんまりしない。。より日本的な感じに寄せてる空気。

『日本書紀』第四段

『古事記』国生みは、2つの構成で読み解くのが◎

  • 前半:天神あまつかみ指令から子を生む
  • 後半:天神あまつかみお伺いから大八嶋国おおやしまくにを生む

ポイントは、天神あまつかみ関与」と「過ちのビフォーアフター」

前半は、天神あまつかみによる修理固成指令。後半は天神による改善指令。いずれも、起点となっているのは天神。古事記こじき』版は天神あまつかみ関与による国生みを全面に出しています。

そして、過ちのビフォーアフター。コレ、柱巡みはしらめぐり後の会合時に、どっちが先に声をあげるべきか?という問題で。女神めかみが先に声をあげるのはNG。前半はこの過誤により水蛭子ひるこ淡嶋あわしまが生まれます。後半は、是正され、男神おかみが先に声をあげて大八嶋国おおやしまくにが生まれます。

ということで、

さっそく、前半から解説を。

 

前半:天神指令から子を生むまで

  • ここにおいて、天神あまつかみ諸々の命をもって、伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことの二柱の神にみことのりして「この漂っている国を修理をさめ固め成せ」と、天沼矛あめのぬぼこを授けてご委任なさった。
  • 於是天神、諸命以、詔伊耶那岐命・伊耶那美命二柱神「修理固成是多陀用幣流之國。」賜天沼矛而言依賜也。

天神あまつかみによる、二神への国修理固成指令。

ポイント4つ。

  1. 天神あまつかみ指令は一種の「天神ギャランティー」
  2. 「命以―言依」がセット。言葉によって委任する
  3. 国の修理固成。国のあり方や形成を象徴する超重要語
  4. ミッション+グッズ=重要指令発令時の、神話世界の掟

以下、順に解説。

天神あまつかみ指令は一種の「天神ギャランティー」

天神あまつかみ諸々の命をもって(天神諸命以)」とあります。

経緯を踏まえると、ココで言う「天神あまつかみ諸」とは、天地のはじまりに誕生した「別天神ことあまつかみ」を中心とする尊貴な神々と想定されます。。伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことに命令することができるくらい格が高い神様群。

●必読→ 別天神(ことあまつかみ)|天地のはじまりに誕生した独神で身を隠す五柱の神々。

●必読→ 『古事記』の天地開闢|原文、語訳とポイント解説!神名を連ねる手法で天地初発を物語る。

で、「天神あまつかみ諸々の命をもって」とあるように、皆さん勢揃いで命令を下したって。。結構、りき入ってます。。

ポイントは、天神あまつかみ指令という体(体裁)になってること。

コレ、『日本書紀にほんしょき』と比較するとかなり明確で。『日本書紀』の場合、〔本伝〕では、天神は登場せず、伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみことが(自主的に)国生みをする、という体(体裁)。二神が「創生神そうせいのかみ」としてかなり尊貴な位置づけになってる。

一方の『古事記こじき』は、伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみこと天神あまつかみの指示命令によって動かされる存在であり、天神あまつかみより下の位置づけ。

コレ、言い方を変えると、『古事記』は『日本書紀』以上に尊貴な存在(天神あまつかみ)を想定し、その指示、関与を通じて国が生まれた、という形にしてるってこと。

コレ、理由は、

国生みの成果物である「大八嶋国」を尊貴化するため。

古事記こじき』では、そもそもが「別天神ことあまつかみ」のように、『日本書紀にほんしょき』の「神世七代かみよななよ」よりも尊貴な神様カテゴリを設定してる。この構造をもとに、伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことよりさらに尊貴な神々、つまり天神あまつかみが直接指令を下す、国生みに深く関与する形をとることで、結果的に誕生する大八嶋国おおやしまくに=日本を尊貴な国として位置づけようとしてる訳ですね。

日本書紀にほんしょき』を向こうに回してもっと尊貴に、もっとスゴイ感じを伝えようとしてるのが『古事記こじき』であります。

ちなみに、、、

『日本書紀』第四段の異伝である〔一書1〕は、『古事記』と同じながら、より予祝感を全面に出した感じになってます。コチラ!

豊葦原千五百秋瑞穂之地とよあしはらのちいほあきのみずほのちがある。往って国をつくるための準備をせよ。(有豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之。) (『日本書紀』巻第一神代紀 第四段〔一書1〕より一部抜粋)

『日本書紀』第四段

ということで。

あの天神あまつかみが言ったんですよ。天神あまつかみが。

豊かな葦の茂る原でめっちゃ大量にずーっと稲穂が収穫できるみずみずしくてすばらしい地(豊葦原千五百秋瑞穂之地)があるよと、予祝よしゅく的に言ったんです。

コレ、天神あまつかみギャランティー。要は、天神の「お墨付き」というやつで。保証付き。

その価値、その意味を、全身で感じていただきたい!

私たちはなんて素晴らしい場所で生かさせていただいてるんでしょうか! ってなる仕掛け。『古事記こじき』も同様で。『古事記』の場合は、それが「国の修理固成」という訳。

天神あまつかみ関与、天神ギャランティー、かなり重要な位置づけになってます。

次!

②「命以―言依」がセット。言葉によって委任する

天神あまつかみ諸々の命をもって ~ ご委任なさった。」(天神諸命以 ~ 言依賜也。)とあります。

まず、「命以」は「命令をもって、言葉で」の意味。「言依」は「ことよさす」と読ませ「委任する」という意味。

ココでは、天神あまつかみによる「命以―言依」がセットになって、言葉によって命令的に委任する形で使われてます。

特に、「命以」は、『古事記こじき』独特の表現で、基本的には天照大御神あまてらすおおみかみ高御産巣日神たかみむすひのかみによる命令、指令の時だけ使用。結構、重たい言葉なんですよね。

伊耶那岐命いざなきのみこと」「伊耶那美命いざなみのみこと」も、そもそも天地のはじまり、神世七代かみよななよとして成りました時は「伊耶那岐神いざなきのかみ」「伊耶那美神いざなみのかみ」だったのが、ココ「命以」以降は「伊耶那岐命いざなきのみこと」「伊耶那美命いざなみのみこと」として活動。つまり、命=ミッションを持つ存在として位置づけられてるんです。

恐らく、「命」というのが高天原たかあまのはらのヒエラルキー、秩序の根拠となっており、その意味で、天神あまつかみは二神に「命」を下せるほどの尊い存在、格が上の存在。

なお、委任された側は、委任した側と同じ立場・権限を持って行動する、と考えられます。もっと言うと、委任した存在(天神あまつかみ)が行動してるとみなされる、ってことで。

国生みを、天神あまつかみ関与、もっと言うと、なんなら天神あまつかみが国生みをしたくらいの勢いで位置づけようとしてる『古事記』。もちろん、狙いは国生みの成果物として誕生する大八嶋国おおやしまくに=日本の尊貴化であります。

次!

③国の修理固成。国のあり方や形成を象徴する超重要語

天神あまつかみによる「この漂っている国を修理をさめ固め成せ。」という指令。「修理」=整えること、「固成」=固めること。

『古事記』における、初の、神が発した言葉。この意味、超重要。「みことのり」なんで、絶対命令。

●参考→ 勅命 受けたらどうするよ?律令に規定する専念&復命義務を分かりやすくまとめ!

この「修理固成」は、先ほど同様、天地のはじまりにおける描写がもとになってます。別天神ことあまつかみの4,5番目誕生時、

次に、国がわかく浮いている脂のように海月クラゲなすただよえる時に、(次、國稚如浮脂而久羅下那州多陀用幣流之時、)『古事記』上巻より

古事記 天地開闢

とあり、

要は、このころ、国はまだ未成熟で、水(想定としては海)に浮いてる脂のようで、クラゲみたいにふよふよ漂っていた状態。

そんなんで、人民の住む国がつくれるわけがないっ!!

「修理固成」、ふよふよ状態の未成熟な国を整えて固めなさい、てことです。

で、

実は、この「修理固成」。『古事記』における国のあり方や、その形成を象徴する超重要語として古くから議論百出。

大きく。1つは、この国を、天神が想定している本来のあるべき姿に整えること。先ほどの、ふよふよ状態をなんとかしろと、いうもの。2つ目は、建て直し、作り直し、と捉えるもの。ただよへる国を、ことよさし通りに大規模に作り直す、とする。

いずれも、ポイントは、『古事記』の元ネタたる『日本書紀』を踏まえる事。

つまり、『日本書紀』第四段の異伝である〔一書1〕のコチラ!

豊葦原千五百秋瑞穂之地とよあしはらのちいほあきのみずほのちがある。往って国をつくるための準備をせよ。「有豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之。」(『日本書紀』巻第一神代紀 第四段〔一書1〕より)

『日本書紀』第四段

を踏まえて整理。

つまり、「修理固成」には、ただよへる国を、瑞穂の地から「瑞穂の国」へ仕上げていくことが含まれてる、ってこと。それこそ、天神が想定したとおりの、あるべき姿に整えることをいう訳です。

実際に、天神指令の修理固成を、伊耶那岐命・伊耶那美命の二神がどこまで解釈してたか?ってことについて。

単に、国を(形状的に)整え固めるだけなら、大八嶋国を生むだけでよかったはず。しかし、二神はこの後、続けて神生みへ突入していきます。

てことは、やはり、修理固成とは、単なる整え固めるってだけでなく、ただよへる国を「瑞穂の国」へ仕上げていく意味を込めてるってこと。神々を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで、「瑞穂の国」に向けた土壌をつくっていく、ということでチェック。

ちなみに、、

この「修理固成」、位置付けとしては、今後の神話的展開のとっかかりになってることも確認しておきましょう。

物語として、コレまではただ単に、神々が次々と誕生しましたーってことしか語ってなかった訳で。神話的に、どこに進むのかよく分からない状態だったのが、ここでようやく、テーマ設定がされたんです。方向性が示され、ついでに言うと、神話を展開させるエンジンを獲得した訳です。その意味で、非常に重要な言葉なんす。

次!

④ミッション+グッズ=重要指令発令時の神様コンピテンシー

天神あまつかみが「天沼矛あめのぬぼこを授けて、ご委任なさった。(賜天沼矛而言依賜也。)」と。

コレ、神話世界では、何らかの重要指令を下すときは「ミッション(命)+グッズ」のセットがパターン。神様的行動特性。

例:

種別 誰から誰へ ミッション(命)+グッズ
天神あまつかみミッション 天神→ 伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみこと 国修理固成+天沼矛あまのぬぼこ
伊耶那岐命いざなきのみことミッション 伊耶那岐命→ 天照大御神あまてらすおおみかみ 高天原統治+御頸珠みくびたま
天照大御神あまてらすおおみかみミッション 天照大神あまてらすおおかみ→ 邇邇芸命ににぎのみこと 葦原中国あしはらのなかつくに統治+三種さんしゅ神器じんぎ

といった感じ。

ちなみに、天照あまてらすミッションによって下賜かしされた「三種さんしゅ神器じんぎ」を引き継いでいるのが天皇という事。神話を引き継ぐ天皇陛下。神話が今と繋がってる例でもあります。奥ゆかしい日本ならでは。

とにかく、ここでは、

重要指令が出されるときは、「ミッション+グッズのセット」というのが神様行動特性(神様コンピテンシー)。ということで、今に繋がる重要テーマを含むことも合わせてチェックです。

なお、

天沼矛あめのぬぼこ」については詳細コチラで→ 天之瓊矛/天沼矛|矛で嶋を成す?国生みで二神が使用した特殊な矛「天之瓊矛/天沼矛」を徹底解説!

日本書紀にほんしょき』では「天之瓊矛あまのぬほこ」。「天之」は美称。「けい」は玉飾りのこと。麗しい玉飾りのついた矛。

これをベースに、古事記こじき』では「天沼矛あめのぬぼこ」。「沼」は「瓊」の訓仮名として。『日本書紀』では「瓊」を「」と読めと注しており、この「」の音を「」で表現してるからです。

次!

  • そこで、二柱の神は天浮橋あめのうきはしに立ち、その沼矛を指し下ろしてかき回し、海水をこをろこをろと搔きらして引き上げた時、その矛のさきよりしたたり落ちる海の水が、かさなり積もって嶋と成った。これがしまである。
  • 故、二柱神、立訓立云多多志天浮橋而指下其沼矛以畫者、鹽許々袁々呂々邇此七字以音畫鳴訓鳴云那志而引上時、自其矛末垂落之鹽累積、成嶋、是淤能碁呂嶋。自淤以下四字以音。

天浮橋あまのうきはしから天沼矛あめのぬぼこを指しおろして海をかき混ぜる。

ポイント4つ。

  1. 天浮橋あまのうきはしは、天空てんくうに浮かぶ橋。天上から地上世界へ降りてくる途中にある橋
  2. 古事記こじき』独特の擬音語・反復法「こをろこをろ」
  3. 海、いつからできてた??多分、最初から。
  4. 不思議の島の「淤能碁呂嶋おのごろしま」。矛の特別なパワー発動??

てことで、以下順に解説。

天浮橋あまのうきはしは、天空てんくうに浮かぶ橋。天上から地上世界へ降りてくる途中にある橋

伊耶那岐命いざなきのみこと伊耶那美命いざなみのみことが立った「天浮橋あまのうきはし」について、詳細はコチラで→ 天浮橋とは? 天にあって下界全体が見渡せる橋

コレ、「天空てんくうに浮かぶ橋」のことで、ここから地上世界の様子がまー良く見えるらしい。

天界と下界をつなぐ橋、といった説もありますが、文献的には、天浮橋あまのうきはしはあくまで天空てんくうにあり、天神あまつかみが天上から下界の様子を察知する場合のみ登場。尊いお方は、まずこういうところから下界を見渡すわけです。

②『古事記』独特の擬音語・反復法「こをろこをろ」

「こをろこをろに(鹽許々袁々呂邇)」とあります。

コレ、『古事記こじき』が文学的と言われる所以の箇所。

雄大、写実的

天から長大な矛を指しおろし、こをろこをろと海をかき混ぜる。。。なんて文学的なんだ!!!

文体として、擬音語と反復法を用いて写実的に描写。とくに反復技法については、『古事記こじき』が古代の口誦性の復元を意図していることに起因してます。

現代では、同じ言葉や単調な反復は避けるのが常識なのですが、古代ではあたりまえだったようで。そんな背景から「こをろこをろに」が使用されてること、チェック。

次!

③海、いつからできてた??多分、最初から。

原文では「鹽」。語訳として「海水」、つまり海としています。

コレ、先ほど解説した「修理固成」の箇所と同様、天地のはじまりにおける描写がもとになってます。

国が未成熟で、浮いてる脂のようで、クラゲみたいにふよふよ漂っていた状態。この浮いてるところって、、、やっぱり海。「鹽」=塩という漢字が使用されているところから。

日本書紀にほんしょき』ではより具体的に「天之瓊矛あまのぬほこを指し下ろして探ってみるとを獲た。(廼以天之瓊矛、指下而探之。是獲滄溟。)第四段〔本伝〕」と伝えてます。これも海の根拠になってます。

てことで、突然登場してる感じの「海水」。辿っていくと、天地のはじまりのときにできてたんだろう、、、ということで。地ができたってことは海もできてた?的な感じでチェック。

④不思議の島の「淤能碁呂嶋」。矛の特別なパワー発動??

其の矛のさきよりしたたり落ちる海の水が、かさなり積もって嶋と成った。是れしまぞ。(自其矛末垂落之鹽累積、成嶋、是淤能碁呂嶋。)」

と、いうことで。どうやら、海をかき混ぜた矛から滴り落ちた海水=しお=塩が累積してしまに成ったらしい。

コレ、ま、神なんで、そういうこともできるんでしょう、と処理も可能ですが、、、もう少し文献学的に深めてみます。

古事記こじき』には登場しないのですが、『日本書紀にほんしょき』ではいわゆる「ほここう」というべき、古代の思想とか考え方を伝えてます。

ほこ」については、例えば、『日本書紀』第九段で登場。葦原中国あしはらのなかつくに平定の際、大己貴神おおあなむちのかみ経津主神ふつぬしのかみ武甕槌神たけみかづちのかみに「広矛ひろほこ」を授けます。その際、大己貴神おおあなむちのかみは、その「広矛ひろほこ」を「平国(国を平定する)」に功があり、さらに「治国(国を治める)」にも効果を発揮するとつたえます。

コレが「ほここう」。

つまり、
ほこを使うことでこうを収める、
矛を使うことで平定や統治という功績をあげることができる、という考え方です。

ほこにはそうした特別な力がある、ってこと。コレ、古代における思想的なものとしてチェック。

なお、ここでは矛の「こう」は「淤能碁呂嶋おのごろしま」そのものになります。矛の持つ特別な力、ほここう、チェックです。

次!

  • その嶋に天降あもりして、あめの御柱みはしらを見立て、八尋やひろ殿どのを見立てた。
  • 於其嶋天降坐而、見立天之御柱、見立八尋殿。

淤能碁呂嶋おのごろしま天降あまくだって、あめ御柱みはしら八尋殿やひろどのを見立てたと。。

ポイント3つ。

  1. 見立てる=見る事によって現前させる。『古事記こじき』的意訳
  2. あめ御柱みはしら=もともとは国の中心である柱=地の中央であり天と通う場所
  3. 八尋殿やひろどの=もともとは、新たに足を踏み入れた地に居住し、結婚し、出産する一連の展開~という神様特有の行動特性の一環から

1つ目。

①見立てる=見る事によって現前させる。『古事記』的意訳

「見立てる(原文:見立)」とあります。が、これ単品では解釈がむずかしい。。

そこで登場、『日本書紀』第四段〔一書1〕

ここでは、同様の場面で、

八尋之殿やひろのとのを作った。また天柱あまのみはしらを立てた(原文: 化作八尋之殿。又化竪天柱。)」と伝えます。

八尋之殿やひろのとのを化し作った。また天柱あまのみはしらを化し立てた。と。

ポイントは「化作かさく化堅かけん」。化し作る、化し竪てる。

「化(かす)」は『日本書紀にほんしょき』ならではの表現で、自動詞的用法。例えば、神の誕生が「化生かせい」という方法(第一段)。天と地の間に「もの」ができて、この「もの」が化すことで神が生まれる。つまり変化して生まれる、化けるイメージ。

ただ、「化作かさく」「化竪かけん」は、他動詞的用法での「化(かす)」使用。

そして、「作」は御殿を作るので作。「堅」は柱を立てるので竪。

まとめると、

化作かさく」「化竪かけん」は、~を化し作る、化し竪てる。つまり、二神の意欲ないし念慮のようなものが八尋殿やひろどの天柱てんのみはしらを出現させた、実体化させた、ということになります。

まさに神業かみわざ

で、『古事記』ではこれを意訳して、「見立てる」としてる訳です。『日本書紀』「化作かさく」、からの『古事記』「見立」。見ることによって現前させる、まさに神業的作業としてチェック。

次!

あめ御柱みはしら=もともとは国の中心である柱=地の中央であり天と通う場所

あめ御柱みはしらを見立てた。(見立天之御柱)」とあります。

「天之御柱」は、神仙の山として名高い崑崙山こんろんさん天柱てんちゅうとみなす説がよく知られてます。

一例を挙げれば、

  1. 「崑崙山、天中柱也」(『芸文類聚』巻七「崑崙山」所引「龍魚河図」)
  2. 「崑崙山為天柱」(『初学記』巻五「総戴地第一」所引「河図括地象」)など

なお、

②の背景設定としては、「天柱の崑崙山から気が上昇して天に通い、そこが地の中央に当たる」とする思想あり。

分かってる人には分かる、そういう設定。ま、これまでご紹介してきたポイント全てにそういう漢籍かんせきをベースにした創意工夫があるんです。

ちなみに、、、

日本書紀にほんしょき』第四段〔一書1〕では、「天柱あまのみはしら」として登場。コレ、天や天神あまつかみとのつながりを確保する柱として位置づけられてます。

実際、『日本書紀にほんしょき』第四段に続く第五段〔本伝〕では、これを「天柱あまのみはしらを使って(日神を)天上に送り挙げたのである。(故、以天柱挙於天上也)」と日神ひのかみを天上に挙げる手段として使用しています。

これを踏まえると「天御柱あめのみはしら」を登場させたのは、このあと、天神あまつかみへの報告シーンがあるので、自分たちが天上世界へ帰るための手段、経路を確保するためだった、と考えられます。

そもそも天神あまつかみ指令から始まってますから。ほう告・れん絡・そう談は欠かせません、ってことでチェック。

次!

八尋殿やひろどの=もともとは、新たに足を踏み入れた地に居住し、結婚し、出産する一連の展開~という神様特有の行動特性の一環から

八尋やひろ殿どのを見立てた。(見立八尋殿)」とあります。

結婚と国生みですから!新婚さんのラブホーム。盛り上がって参りました。的な処理でもいいのですが、ここではもう少し深く解釈を。

つまり、なんで殿との建てた。。。?ってこと。

コレ、実は、神様行動特性(神様コンピテンシー)の一つで。、

題して、

「新たに足を踏み入れた地に居住し、結婚し、出産する、一連の展開の巻」

コレ、特に理論ガチガチの『日本書紀にほんしょき』で分かりやすく表現されていて、例えば、

  • 素戔嗚尊すさのおのみことの「建宮」(第八段本伝)
  • 皇孫こうそんの「立宮殿」(第九段一書2)

と、

新たに踏み入れた出雲いずもの地で、素戔嗚尊すさのおのみことの場合は、奇稲田姫くしなだひめと過ごす宮を、ラブを。
新たに踏み入れた葦原中国あしはらのなかつくにで、瓊瓊杵尊ににぎのみことの場合は、鹿葦津姫かあしつひめを召した宮殿を、ラブを。

といった具合で同じフレームで伝えてます。

今回も、新たに踏み入れた(天降あまくだった)地上で、二神が見立てた八尋殿やひろどのであり。もちろんラブであり。

同じ構造を持ってますよね。新たに足を踏み入れた地では、まず宮をつくる。そして住む。コレ神様特有の行動特性。神様コンピテンシー。

いいじゃないですか、八尋殿やひろどのを見立てて一緒に住んでラブなことをしようとした訳ですよ。激しく盛り上がって参りました。

次!

  • ここに、その妹伊耶那美命いざなみのみことに問うて「の身はどのように成っているのか。」と言うと、「私の身は、出来上がっていって出来きらないところが一つあります」とおえになった。ここに伊耶那岐命いざなきのみことみことのりして「私の身は、出来上がっていって出来すぎたところが一つある。ゆえに、この私の身の出来すぎたところをもって、汝の身の出来きらないところに刺しふさいで、国土くにを生み成そうとおもう。生むことはどうだろうか」と言うと、伊耶那美命は「それがいでしょう」と答えた。
  • 於是、問其妹伊耶那美命曰「汝身者、如何成。」答曰「吾身者、成成不成合處一處在。」爾伊耶那岐命詔「我身者、成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處、刺塞汝身不成合處而、以爲生成國土、生奈何。」訓生、云宇牟。下效此。伊耶那美命答曰「然善。」

身体問答しんたいもんどう=男女の形状の違いを、互いに言い合って確かめ合う。

これ、なんでこんなことやってるか?というと、「言表」という神様固有の行動特性があるからです。

言表げんぴょうとは、言い表すこと。神様は「まず言表げんぴょうし、そして行為に及ぶ。」コレが、神様行動特性(神コン)であります。

●必読→ 言表と行為|神様の行動パターン。神はまず、言表し、そして行為に及ぶ。

なので、ココでは、

性別による男女のありかたの違いを、それぞれの形状をたがいに言表げんぴょうすることによって、確かめあってるという次第。

この後からです。二神が怪しくなってくるのは。。。

御殿を作ってさー夫婦になるぞと、盛り上がって参りましたねと、ラブな雰囲気が高まるに従っておかしなことをやり始める、、、

次!

  • そこで伊耶那岐命いざなきのみことは詔して「それならば、私と汝でこの天のあめの御柱みはしらを行きめぐり逢って、みとのまぐはいをしよう。」と言った。このようにちぎって、さっそく「汝は右より廻り逢へ。私は左より廻り逢おう。」と言い、ちぎり終えて廻った時、伊耶那美命いざなみのみことが先に「ほんとうにまあ、いとしいお方ですことよ。」と言い、そのあと伊耶那岐命いざなきのみことが「なんとまあ、かわいい娘だろうか。」と言った。
  • おのおのが言い終えた後、そのいもに「女人おみなが先に言ったのは良くない。」と告げた。しかし、寝床で事を始め、子の水蛭子ひるこを生んだ。この子は葦船に入れて流し去てた。次に、淡嶋あはしまを生んだ。これもまた子のかずには入れなかった。
  • 爾伊耶那岐命詔「然者、吾與汝行廻逢是天之御柱而、爲美斗能麻具波比此七字以音。」 如此之期、乃詔「汝者自右廻逢、我者自左廻逢。」約竟廻時、伊耶那美命、先言「阿那邇夜志愛袁登古袁。此十字以音、下效此。」後伊耶那岐命言「阿那邇夜志愛袁登賣袁。」各言竟之後、告其妹曰「女人先言、不良。」雖然、久美度邇此四字以音興而生子、水蛭子、此子者入葦船而流去。次生淡嶋、是亦不入子之例。

柱巡みはしらめぐりの重要局面。

先に重要ワードをチェック。

みとのまぐはい(美斗能麻具波比)」の、「美斗みと」は「御所みと」のことで寝所をいいます。「麻具波比まぐはい」は「交合」のこと。「爲美斗能麻具波比」で、寝所での交合を為す、交合しよう、という意味になります。

寝床で事を始め子を生んだ(久美度邇興而生子)」の、「久美度」は「」のことで寝所を言い換えたもの。「興」は、はじめる、さかんになる、の意味。勃興とか興隆とか。なので、「久美度邇興而生子」で、寝所に(事を)はじめて子を生んだ、という意味になります。

阿那迩夜志愛あなにやしえ袁登古袁をとこを[此十字以音下效此]」は、音注の「此十字以音」が付いてるので、おんで読めということで「あなにやしえをとこを」となり、意味としては「あらまあ、愛しい男だわ」。さらに、声注の「」が付いてるので強調され、「ほんとうにまあ、愛しい男(お方)ですことよ!」というトーンになります。めっちゃ盛り上がってるのを感じて。。

その上で、ここでのポイント3つ。

  1. 結婚=儀礼。きちんとした手順やルールを踏まえることが大事
  2. 間違いがあるからこそ、分かることがある。伝えられることがある
  3. 水蛭子ひるこ淡嶋あわしまの処遇=社会の成熟度という観点で解釈

1つ目。

①結婚=儀礼。きちんとした手順やルールを踏まえることが大事

結婚=儀礼ですから、きちんとした手順を踏むことが重要です。

きちんとした手順とは、陽主導であること、陽が先であること。易の概念がベース。

●必読→ 日本神話的易の概念|二項対立の根源とその働きによって宇宙はつくられ動いている

●必読→ 尊卑先後の序|日本神話を貫く超重要な原理原則!世界の創生当初から存在する原理的次序で、天→地→神という成りたちを導く

『古事記』では明記はされてませんが、ここでいう「陽」とは伊耶那岐命であり、「陰」は伊耶那美命。

これをもとに、結婚=儀礼の具体的方法とは、

  1. 伊耶那岐命いざなきのみことが左旋、伊耶那美命いざなみのみことが右旋
  2. 伊耶那岐命いざなきのみことが先唱、伊耶那美命いざなみのみことが後和

という流れになります。

イメージ化するとこんな感じ。

『古事記』柱巡りと出産の現場

で、陽主導であること、陽が先であることがポイントで。

これによって、この儀式が正当なものである、神聖なものであるとみなされ、その結果である、国生みが正当化される、成果物としての大八嶋国が神聖化される、というロジック。コレ、しっかりチェック。

●参考→ 日本神話的時間発生起源|伊奘諾尊・伊奘冉尊の柱巡りが時間の推移や季節を生みだした件

次!

②間違いがあるからこそ、分かることがある。伝えられることがある

そんな儀式手順がありつつ、、

今回、途中で伊耶那美命が先に声をあげてしまいます。

伊耶那美命が先に「ほんとうにまあ、いとしいお方ですことよ。」と言ひ、後に伊耶那岐命「なんとまあ、かわいい娘だろうか。」と言った。」と。。盛り上がりすぎたか、、、

つまり、

  1. 伊耶那岐命いざなきのみことが左旋、伊耶那美命いざなみのみことが右旋
  2. 伊耶那美命いざなみのみことが先唱、伊耶那岐命いざなきのみことが後和

ということで、①はよかったんだけど、②で間違えた、ってことです。ココ、しっかりチェック。

で、

意外にも、伊耶那岐命いざなきのみことは分かってるようです。女人おみなが先に言ったのは良くない。」とお告げになった。と。コレ、陽主導の残り香。。

でも、、、誘惑にてなかったのか、、、然れども、寝床で事を始めて子の水蛭子ひるこを生む。と。。

、、、てなかったらしい。。

そこで誕生したのが、水蛭子ひるこ淡嶋あわしま。いずれも、流したり子のかずには入れなかった。とあります。

コレ、要は、

手順を間違えたことで、良くない結果を生んだ、ってことですよね。

言い方を変えると、

表側では華やかなウェディングイベントが進行しているのですが、
裏側では神さえも従わなければならない絶対ルールが働いていたってことなんです。それが易をもとにした宇宙法則。。。

でも、、、

この間違いがあるからこそ、分かることがある。伝えられることがあるんです

ルールを破るとどうなるか?

それは、ルールを破ってみないと本当のところは分からない。

「間違い+結果(代償)」のセットは必須の展開だとも言えて。

間違いがあるから学びがある。深く伝えられる。

その意味では、非常によく練られた構成としてチェック。決して、二神とも誘惑に克てませんでした、という話ではございません!

次!

③水蛭子、淡嶋の処遇=社会の成熟度という観点で解釈

「此の子は葦船に入れて流してた。次に淡島あはしまを生んだ。是もまた、子のかずには入れなかった。」とあります。

水蛭子ひるこは、蛭(ひる)のように手足の萎えた子。葦船は、葦を編んで造った船。葦は邪気を払うという思想があり、葦船で水蛭子ひるこの邪気を流し捨てる、、、的な意味あいもあるようなないような。。。

ちなみに、遺棄された水蛭子ひるこですが、例えば兵庫ひょうご県の西宮神社にしのみやじんじゃでは、水蛭子ひるこはその後、西宮にしのみやに漂着し、「夷三郎殿」と呼ばれ大事に育てられた、といった伝承あり。流されたものの、今では日本に約3500社ある、えびす総本社のご祭神として人々の崇敬を集めています。これはこれで良いお話かも。

それはさておき、神話の話。

この、流し去てる、子の数には入れない、という対応。単にヒドイ!ってことじゃなくて、もう少し深く捉えたい。

コレはこれで、神代じんだいにおける社会の未熟さという事で解釈。

神様だって社会を構成します。

天地開闢てんちかいびゃくからの国生みの時代はまだ色んなことが未成熟だったんす。だからこそ、二神は流したり認知しなかったりする。現代の感覚からすると違和感があるのは当然で。

社会の成熟度合いは、「個別的に長期生存が不可能な個体(弱者)」を生き延びさせる考え方や仕組みの出来具合に比例します。どれだけの個体が生き延びられるか、どれだけの「弱者」を生かすことが出来るかは、その社会の持つ力に比例する訳ですよね。

神様の織りなす世界も、社会として機能してくるのは岩戸いわと神話あたりから。それまでは、まだまだ未成熟な感じを引きずってたんすね、って私は何様でしょうか?

水蛭子ひるこ淡嶋あわしまの「流す」とか「子への不算入」といった事、それ自体の良し悪しを議論するのは稚拙で。それよりも社会の成熟度合いといった観点から考えてみると深みがでてくると思います。

ということで、

二神としては結局、命を下した当の天神あまつかみを頼るほかない。。。ということで天上へ。天神あまつかみホウレンソウ(ほう告・れん絡・そう談)。仕事の基本を実践。

続いて後半に突入!

 

後半:天神あまつかみお伺いから大八嶋国おおやしまくにを生む

  • ここに、二柱の神ははかって「今、私が生んだ子は良くない。やはり天神の御所みもとまをしあげるのがよい。」と言い、すぐに共にまいのぼって、天神のめいを仰いだ。そこで天神の命をもって、太占に卜相うらない「をみなの言葉が先立ったことにり良くないのである。再びかへくだって改めて言いなさい。」と仰せになった。
  • ゆえにかへり降りて、更にその天の御柱を先のように往きめぐった。ここに、伊耶那岐命いざなきのみことが先に「なんとまあ、かわいい娘だろうか。」と言い、その後にいも伊耶那美命いざなみのみことが「なんとまあ、いとしいお方ですこと。」と言った。
  • 於是、二柱神議云「今吾所生之子、不良。猶宜白天神之御所。」卽共參上、請天神之命、爾天神之命以、布斗麻邇爾上此五字以音ト相而詔之「因女先言而不良、亦還降改言。」故爾反降、更往廻其天之御柱如先、於是伊耶那岐命先言「阿那邇夜志愛袁登賣袁。」後妹伊耶那美命言「阿那邇夜志愛袁登古袁。」

天神あまつかみに報告相談の巻。

ポイント2つ。

  1. 天神あまつかみによる占いの意味=より尊貴に、より高く
  2. 天神あまつかみ太占ふとまに=天神さえ服従する「超絶的な働き=神意」を知るための儀式

1つ目。

①天神による占いの意味=より尊貴に、より高く

生み損ないの原因・理由不明状態で天神あまつかみへホウレンソウ。

ココでオモシロいのが、

最後の砦、天神あまつかみでさえ、原因が分からない!??

、、残念です。

天神あまつかみさん、卜占ぼくせんを頼みとして宇宙メッセージを受信しはじめるの巻。ゞ( ̄∇ ̄;)ヲイヲイ

で、

占いの結果、「先唱後和せんしょうこうわの順序に問題があった」ことが判明。再下降を命じる流れに。

コレ、構造的に解説すると、、、

最終的には大八嶋国おおやしまくにの尊貴化、神聖化につなげるための仕掛け、という事。

古事記こじき』は、二神より尊貴な存在である天神あまつかみを登場させ、天神ミッションという形によって大八嶋国おおやしまくにを尊貴化しようとしてるわけで。

この占いエピソードは、これをさらに格上げしようとするためのものなんす。

二神より尊貴な天神あまつかみよりさらに尊貴な宇宙的存在があるんだと。このメッセージを卜占ぼくせんによって受信したんだと。それによって誕生したのが大八嶋国おおやしまくになんだと、ダブルで尊いんだと。二神入れたらトリプル尊いんだと。

ま、そういう話です!!!、。

より尊貴に、より高く、、、

この上方向へ一段ずつ上げていく指向性は、『古事記こじき』の造化三神ぞうかさんしん別天神ことあまつかみといった神様カテゴリの設定と共通するものがあります。

より尊貴に、より高く、、、なればなるほど説明は無くなっていく。よく分からない雰囲気。良くいえば、奥ゆかしい存在になっていく。

まさに、

「なにごとの おはしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる (作:西行)」の境地であります。よー分からんのであります。それがなんかスゴいんす。

次!

天神あまつかみ太占ふとまに=天神さえ服従する「超絶的な働き=神意」を知るための儀式

天神あまつかみが占いをする、、、

何度聞いても、スゴイ違和感。。。天神あまつかみが占いをする、、、あの、、、天神って何なんでしょうか?

太占ふとまにについては、『古事記こじき』の一説を参照するのが例。

天照大御神あまてらすおおみかみ天岩屋あまのいわやに隠れた際に行った神事のなかに

天香山あまのかぐやま真男鹿まをじかの肩を内抜うつぬきに抜きて、天香山のあまのははかを取りて卜合うらなひまかなはしむ」(『古事記』)

とあり、

要は、鹿の骨を使って占いをするんだと。

これ、どうやるかというと、
天香山あまのかぐやまの「ははかの木」の枝を採ってきて、先っちょを焼きます。オレンジ色に焼けた「ははかの木」の枝の先っちょを鹿の骨にぎゅーっと押しつけます。これを何度か繰り返すと、ポクってヒビが入ります。このヒビのでき方によって吉凶を占うという訳です。この割れる「ポクっ」という音をもとに「卜」という漢字ができてたりします。

占いというと、亀の甲羅のイメージが強いかと思いますが、神話世界では鹿なんすね。

しかも、コレ、現代の大嘗祭だいじょうさい関連の儀式でも行われているという、、、スゴ

二神の報告に際して天神あまつかみの行った太占ふとまにも、この卜占ぼくせんに通じる訳で。実際に天神がやってるところをイメージ。ポクってね。

で、

天神あまつかみが占ったのは何か?

については、天神が二神に伝えたをみなの言葉が先立ったことにり良くないのである。」という言葉に答えあり。

占いの結果、「女が先に言葉を発したから(良くない結果がうまれた)」と。コレ、つまり、物事には順番があるよと。儀式だよと。そういうことで。

厳粛なる儀礼上、尊卑先後そんぴせんごの序は揺るぎなく働いている、従って、男が先に声をあげないとダメ。儀礼=きちんとした手順、ルールがある。と。

占いの結果、それをたがえたことが原因だと分かった訳ですね。

一同、せーので「なるほどー!!!」と。

そういうことか、と。そりゃそうだよね。占いでようやっと分かった。よかったよかった。。。って、この展開。。天神あまつかみも二神もみんな大丈夫でしょうか?

天神あまつかみさえ分からないことがある、それは占いという儀式を通じてでないと分からない。でも、絶対的に働いている法則であり、原理である。

これは、言い方を変えると、天神あまつかみさえ服従する超絶的な働きがある、ということでもあって。占いによって判明する神意を、そういう形で描いてるんですね。

一方で、

天神あまつかみを絶対視しない、あるいは、神を絶対者としない思想は、

多神教的思想、またはアニミズム(自然界のそれぞれに固有の霊が宿るという信仰)に根ざす思惟とも言えて、すでにココに「きざし」として表現されてる!と言えます。

次!

  • このように言ひ終わって御合みあひして生んだ子は、淡道之穗之狹別嶋あはぢのほのさわけのしま。次に、伊豫之二名嶋いよのふたなのしまを生んだ。此の嶋は、身一つにして顔が四つ有る。顔ごとに名が有る。伊豫国いよのくに愛比売えひめといい、讚岐国さぬきのくに飯依比古いひよりひこといい、粟国あはのくに大宜都比売おほげつひめといい、土左国とさのくに建依別たけよりわけという。次に、隠伎之三子嶋おきのみつごのしまを生んだ。またの名は天之忍許呂別あめのおしころわけ。次に、筑紫嶋を生んだ。この嶋もまた、身一つにして顔が四つ有る。顔毎に名が有る。筑紫国は白日別しらひわけといい、豊国とよのくに豊日別とよひわけといい、肥国ひのくに建日向日豊久士比泥別たけひむかひとよくじひねわけといい、熊曾国くまそのくに建日別たけひわけという。次に、伊岐嶋いきのしまを生んだ。またの名は天比登都柱あめひとつばしらという。次に、津嶋を生んだ。またの名は天之狹手依比売あめのさでよりひめという。次に、佐度嶋さどのしまを生んだ。次に、大倭豊秋津嶋おほやまととよあきづしまを生んだ。またの名は天御虚空豊秋津根別あまつみそらとよあきづねわけという。ゆえに、この八嶋やしまを先に生んだことに因って、大八嶋国おほやしまくにという。

  • 如此言竟而御合生子、淡道之穗之狹別嶋。訓別、云和氣。下效此。次生伊豫之二名嶋、此嶋者、身一而有面四、毎面有名、故、伊豫國謂愛比賣此三字以音、下效此也、讚岐國謂飯依比古、粟國謂大宜都比賣此四字以音、土左國謂建依別。 次生隱伎之三子嶋、亦名天之忍許呂別。許呂二字以音。次生筑紫嶋、此嶋亦、身一而有面四、毎面有名、故、筑紫國謂白日別、豐國謂豐日別、肥國謂建日向日豐久士比泥別自久至泥、以音、熊曾國謂建日別。曾字以音。次生伊伎嶋、亦名謂天比登都柱。自比至都以音、訓天如天。次生津嶋、亦名謂天之狹手依比賣。次生佐度嶋。次生大倭豐秋津嶋、亦名謂天御虛空豐秋津根別。故、因此八嶋先所生、謂大八嶋國。

→正しい手順を踏まえて結婚し、生んだ「淡道之穗之狹別嶋」以下、8つの嶋。

「八」は多数あるいは聖数を表します。

神代紀に散見する例は他にも、、「八雷やくさのいかづち八色雷公やくさのいかづち)」「八十万神やそよろづのかみ」「八箇少女やたりのをとめ」「八丘八谷やをやたに」「八十木種やそこだね」「八日八夜やかやよ」「八重雲やへくも」「百不足之八十隈ももたらずやそくまで」、またあるいは「八咫鏡やたのかがみ」「八坂瓊曲玉やさかにのまがたま」など(紀バージョン)。

『古事記』版の、生んだ島は以下の通り。

淡道之穗之狹別嶋あはぢのほのさわけのしま 淡路島
伊豫之二名嶋いよのふたなのしま伊豫国いよのくに愛比売えひめ讚岐国さぬきのくに飯依比古いひよりひこ粟国あはのくに大宜都比売おほげつひめ土左国とさのくに建依別たけよりわけ 四国
隠伎之三子嶋おきのみつごのしま天之忍許呂別あめのおしころわけ 隠岐島
筑紫嶋(筑紫国は白日別しらひわけ豊国とよのくに豊日別とよひわけ肥国ひのくに建日向日豊久士比泥別たけひむかひとよくじひねわけ熊曾国くまそのくに建日別たけひわけ 九州
伊岐嶋いきのしま天比登都柱あめひとつばしら 壱岐
津嶋(天之狹手依比売あめのさでよりひめ 対馬
佐度嶋さどのしま 佐渡
大倭豊秋津嶋おほやまととよあきづしま天御虚空豊秋津根別あまつみそらとよあきづねわけ 本州

古事記こじき』も、隠岐など例外はありつつ、おおむね左回りで国を生んでます。まさに、島国って雰囲気が伝わってきますよね。

この「おおむね左回り」で嶋を生んでいく運動はもちろん、柱巡りの延長から。

『古事記』柱巡りと出産の現場

からの、、、

『古事記』国生みの順番

で、これら、8つの嶋を一括して「大八嶋国」としています。

古事記こじき』は、生んだ嶋に神名をつけることで神格化してるのがポイント。

特徴として、男と女の名(比古ひこ比売ひめ等)、四国は穀物系、九州はお日様系、といった感じ。

コレ、

生まれた大八島国おおやしまくにが、伊耶那岐いざなき伊耶那美いざなみの子供であること、血縁関係にあること、生まれた島々が血脈によるつながりをもっていることを伝えてる、てこと。

もっというと、

名付け=親権の発生

であり、伊耶那岐いざなき伊耶那美いざなみが親としての責任をもって、それこそ修理固成によって「瑞穂の国」へ仕上げていくことを意味してる訳です。

一方、別の言い方をすると、『古事記』が天皇家の皇太子教育のテキストだったこともふまえると、名づけにより領有権の発生、つまり、日本の国土であることを明確にしているとも言えますね。

そして、、

  • その後、還りす時、吉備児嶋きびのこしまを生んだ。またの名は建日方別たけひかたわけという。次に、小豆嶋あづきしまを生んだ。またの名は大野手比売おほのでひめという。次に、大嶋を生んだ。またの名は大多麻流別おほたるわけという。次に、女嶋ひめしまを生んだ。またの名を天一根あめひとつねという。次に、知訶嶋ちかのしまを生んだ。またの名は天之忍男あめのおしをという。次に、両児嶋ふたごのしまを生んだ。またの名は天両屋あめふたやという。吉備の児島から天両屋の島まで合わせて六つの島である。

  • 然後、還坐之時、生吉備兒嶋、亦名謂建日方別。次生小豆嶋、亦名謂大野手比賣。次生大嶋、亦名謂大多麻上流別。自多至流以音。次生女嶋、亦名謂天一根。訓天如天。次生知訶嶋、亦名謂天之忍男。次生兩兒嶋、亦名謂天兩屋。自吉備兒嶋至天兩屋嶋、幷六嶋。 

→「然る後、還りす時(然後、還坐之時)」とあり、どうやら、柱巡りして反対側で大八嶋国を生み終え、そこからは復路にあたり、引き返すときに嶋が生まれたようです。

吉備児嶋きびのこしま建日方別たけひかたわけ 岡山県児島半島
小豆嶋あづきしま大野手比売おほのでひめ 小豆島
大嶋(大多麻流別おほたるわけ 山口県大島郡屋代島と推定
女嶋ひめしま天一根あめひとつね 大分県の姫島
知訶嶋ちかのしま天之忍男あめのおしを 長崎県五島列島
両児嶋ふたごのしま天両屋あめふたや 長崎県 男島、女島と推定

地図上のプロットは以下の通り。

『古事記』国生みの順番2

一説には、これら追加で生んだ6つの嶋は、瀬戸内海航路および遣唐使の寄港地として重要な場所が選ばれている、とされてます。

 

『古事記』国生み まとめ

古事記こじき』の国生みを原文、語訳を通じて解説してきましたがいかがでしたでしょうか?

『古事記』の国生みで押さえておきたいポイントは以下の通り。

  1. 天神あまつかみ指令は、「命以―言依」がセット。言葉によって委任する。意味は、一種の「天神ギャランティー」
  2. 国の修理固成。国のあり方や形成を象徴する超重要語、そこには「瑞穂の国」へ仕上げていくことが意味として含まれてる。
  3. 天神あまつかみからの矛の下賜は、ミッション+グッズ=重要指令発令時の、神話世界の掟として。
  4. 天浮橋は、天空てんくうに浮かぶ橋。天上から地上世界へ降りてくる途中にある橋。尊いお方はここから下界を見渡す。
  5. 不思議の島の「淤能碁呂嶋おのごろしま」。『古事記こじき』独特の擬音語・反復法「こをろこをろ」。矛の特別なパワー発動??
  6. まさに神業!見立てる=見る事によって現前させる。『古事記こじき』的意訳。
  7. あめ御柱みはしら=もともとは国の中心である柱=地の中央であり天と通う場所としての位置づけ。
  8. 八尋殿やひろどのを建てたのは、新たに足を踏み入れた地に居住し、結婚し、出産する一連の展開~という神様特有の行動特性から
  9. 身体問答しんたいもんどうは、「言表」という神様固有の行動特性があるから。神様は「まず言表げんぴょうし、そして行為に及ぶ。」
  10. 結婚=儀礼。きちんとした手順やルールを踏まえることが大事。そして、間違いがあるからこそ、分かることがある。伝えられることがある。
  11. 水蛭子ひるこ淡嶋あわしまの処遇=社会の成熟度という観点で解釈しよう。
  12. 天神あまつかみによる占いの意味=より尊貴に、より高次の存在とか法則とかも使って誕生する国を尊貴化したい。
  13. 天神あまつかみ太占ふとまに=天神さえ服従する「超絶的な働き=神意」を知るための儀式。
  14. 古事記こじき』も、隠岐など例外はありつつ、おおむね左回りで国を生んでいる。左回り運動は柱巡りの陽神の動きの延長から。
  15. 古事記こじき』は、生んだ嶋に神名をつけることで神格化。生まれた大八島国おおやしまくにが、伊耶那岐いざなき伊耶那美いざなみの子供であること、血縁関係にあること、生まれた島々が血脈によるつながりをもっていることを伝えてる。
  16. 名付け=親権の発生であり、伊耶那岐いざなき伊耶那美いざなみが親としての責任をもって、それこそ修理固成によって「瑞穂の国」へ仕上げていくことを意味してる。

ということで、

それぞれに非常に深い意味を持たせてること、しっかりチェックされてください。

全般を通してみると、

やはり、冒頭、いきなり登場の天神あまつかみ」の存在がめっちゃ重要ってこと。。

天神あまつかみプロデュース

天神あまつかみミッションをもとに二神が活動。間違いを犯し、結果の理由を天神に聞きに行く。間違うから分かることがある。で、天神あまつかみが答えを占いで出す。ここで天神以上の存在というか宇宙法則が意識され、さらに格上げされる。そうした雰囲気の中で今度は正しい手続き、儀礼によって大八嶋国おおやしまくにが誕生する。

非常に練られた、緻密に設計、構築された神話世界が展開しています。

一つひとつに当時の最先端知識をもとにした創意工夫を盛り込んでつくられている日本神話の世界。多彩で豊かな世界観は古代日本人の智恵の結晶なんですね。

 

続けて神生み!ガンガン生もうぜ!?

『古事記』上巻神生み

 

『日本書紀』との比較を通じて、国生み神話をより立体的に捉えるのだ!必読!

『日本書紀』第四段
『日本書紀』第四段

 

神話を持って旅に出よう!

国生み神話のもう一つの楽しみ方、それが伝承地を巡る旅です。以下いくつかご紹介!

●上立神岩:伊奘諾尊と伊奘冉尊が柱巡りをした伝承地

 

●自凝神社(おのころ神社):伊奘諾尊と伊奘冉尊の聖婚の地??

 

●絵島:国生み神話の舞台と伝えられるすっごい小さい島。。

 

●神島:国生み神話の舞台と伝えられるこちらも小さな島。。

 

この記事を監修した人

榎本福寿教授 佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

日本神話の神様一覧|『古事記』をもとに日本神話に登場し活躍する神様を一覧にしてまとめ!

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日本神話とは?多彩で豊かな神々の世界「日本神話」を分かりやすく解説!

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ついでに日本の建国神話もチェック!

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さるたひこ

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日本神話研究の第一人者である佛教大学名誉教授の榎本先生の監修もいただいているので情報の確かさは保証付き!文献に即して忠実に読み解きます。
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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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