「国生み神話」の舞台が淡路島とされてるのは何故なのか?
その謎に迫ります。
国生み神話を伝えるのは、『日本書紀』巻一(神代上)第四段。
『古事記』では、実は『日本書紀』の第四段〔一書1〕と同じような内容で伝えられてます。
今回は、正史である『日本書紀』をもとに、国生み神話の舞台が淡路島とされてる理由を考えていきます。
「国生み神話」が淡路島なのはなぜ?国生み神話で伝える淡路島の意味と理由を徹底解説!
国生み神話とは
国生み神話とは、伊奘諾尊と伊奘冉尊の二神が国を産む神話伝承。
正確に言うと、
日本の土台となる「大八洲国」を産む神話。
「国生み神話」の舞台が淡路島とされてるのは何故なのかを探るべく、まずは、その「国生み神話」のリアルな現場をチェックしましょう。
正史『日本書紀』第四段〔本伝〕から。
そもそも、淡路島がどのような位置づけになっているのか、検証です。
伊奘諾尊と伊奘冉尊の二柱の神は、天浮橋の上に立って共に計り、「この下の底に、きっと国があるはずだ。」と言った。そこで、天之瓊矛を指し下ろして探ってみると海を獲た。
その矛の先から滴り落ちた潮が自然に凝り固まり、一つの嶋と成った。それを名付けて「磤馭慮嶋」といった。
二柱の神は、ここにその島に降り居ると、共に夫婦となり、国を産もうとした。
そこで、磤馭慮嶋を、国の中心である柱とし、陽神は左から巡り、陰神は右から巡り、同じ所であい会した。 ー中略ー ここで陰陽(男女)が始めて交合し、夫婦となったのである。
産む時になって、まず淡路洲を胞としたが、それは意に不快なものであった。そのため「淡路洲」と名付けた。
こうして大日本豊秋津洲を産んだ。次に伊予二名洲を産んだ。次に筑紫洲を産んだ。そして億歧洲と佐渡洲を双児で産んだ。世の人に双児を産むことがあるのは、これにならうのである。次に越洲を産んだ。次に大洲を産んだ。そして吉備子洲を産んだ。これにより、はじめて八洲を総称する国の「大八洲国」の名が起こった。
このほか、対馬嶋、壱岐嶋、及び所々の小島は、全て潮の泡が凝り固まってできたものである。また水の泡が凝り固まってできたともいう。
伊奘諾尊・伊奘冉尊、立於天浮橋之上、共計曰、底下豈無国歟。廼以天之瓊矛、指下而探之。是獲滄溟。其矛鋒滴瀝之潮、凝成一嶋。名之曰磤馭慮嶋。 二神於是降居彼嶋。因欲共為夫婦、産生洲国。便以磤馭慮嶋、為国中之柱。而陽神左旋、陰神右旋。分巡国柱、同会一面。 ー中略ー 於是、陰陽始遘合、為夫婦。 及至産時、先以淡路洲為胞。意所不快。故、名之曰淡路洲。廼生大日本〈日本、此云耶麻騰。下皆效此。〉豊秋津洲。次生伊予二名洲。次生筑紫洲。次双生億岐洲与佐度洲。世人或有双生者、象此也。次生越洲。次生大洲。次生吉備子洲。由是、始起大八洲国之号焉。即対馬嶋、壱岐嶋及処処小嶋、皆是潮沫凝成者矣。亦曰、水沫凝而成也。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 本伝より一部修正・略して引用)
と、いうことで、
ポイントは以下
- 二神が「天之瓊矛」を指し下ろし、矛の先から滴り落ちた潮によってできた嶋が「磤馭慮嶋」。
- 二神は「磤馭慮嶋」に降り立ち、これを国の中心となる柱として周囲を回り、反対側で会合し結婚した。
- 産むときになって「淡路洲」を胞としたが、不快だったので「淡路洲」と名付けた。
- そして、大日本豊秋津洲をはじめ、合計八つの洲を産み、最後に一括して「大八洲国」とした。
と、この時点で、
国生み神話の舞台が淡路島じゃない
ことが分かります。淡路島の皆様すみません。。。
文献上は、
そして、
- 「淡路洲」は、出産時に胞として使用した「洲」であり、結局使われなかった。「意にあわない=あわぢ」を原義に持つ洲。
ということが分かります。(あくまで文献上。淡路島を貶めようという訳ではございません、、)
なので、
国生み神話の舞台が淡路島とされてる理由、、
とかいったレベルでもなく、、
そもそも、淡路島は国産みの舞台じゃなくて、神が出産時に使う胞(胎盤のような膜)として位置づけられてるんです。
神が出産時に使う胞? なんのこっちゃ? という点はコチラで詳しく↓
●必読→ 『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 本伝 ~聖婚、洲国生み~
要は、
さーこれから産むよ-!というときになって、まず、淡路洲というのが既にあって、それを胞(膜)とした、ってこと。
これってつまり、
出てくる胎児(ここでは洲のこと)を膜で包もうとした、ということ。
神の出産は、胎児が「胞(膜)」に包まれて出てくるのではなく、
胎児が出てくるときに「胞(膜)」を使う、という方法らしい、、、
これ、日本神話的「神の出産」スタイル。
現代の私たちが近代合理や科学の力によって分かってる・理解してるコトと、『日本書紀』編纂当時の人たちが分かってたコトには、大きなギャップがあります。出産は神秘そのもの。外から見えるものをもとに想像していくしかない訳で。神様スタイルと人間スタイルの出産の違いは、古代の人たちのイメージへのロマンとして考えてみるといいかと。
話を戻して。
じゃ、国生み神話の舞台はどこなのよ?という話、次の章で検証してみます。
国生み神話の舞台はどこ?
国産み(結婚・出産)の舞台はあくまで「磤馭慮嶋」であり、「磤馭慮嶋」は「淡路洲」とは別の嶋だということは確認できました。
じゃ、
この「磤馭慮嶋」ってどこなのよ?
という話ですが、これもやっぱり文献にヒントあり。
『日本書紀』第四段〔本伝〕のポイント再確認。
- 二神は「磤馭慮嶋」に降り立ち、これを国の中心となる柱として周囲を回り、反対側で会合し結婚した。
- 産むときになって「淡路洲」を胞としたが、不快だったので「淡路洲」と名付けた。
- そして、大日本豊秋津洲をはじめ、合計八つの洲を産み、最後に一括して「大八洲国」とした。
と。
ここで確認すべきは、
- 「嶋」と「洲」の違い
- 「磤馭慮嶋」と「淡路洲」の距離感
まず、
1つ目。「嶋」と「洲」の違いについて。
コレ、文献的には一応、使い分けられていて、要は「大きさ」がポイント。
- 嶋・・・「磤馭慮嶋」「対馬嶋」や「壱岐嶋」といった小島といった規模感
- 洲・・「大日本豊秋津洲=本州」「伊予二名洲=四国」や「筑紫洲=九州」といった大きさ。ただし、「億歧洲」のような例外もあり。
いずれにしても、
嶋は、小島レベル、洲は大きな島レベル、といった区分けがあるんです。
ということで、まずは、国生み神話の舞台としての「磤馭慮嶋」については、どうやら小島くらいの大きさだ、ということでチェック。
次に、
2つ目。「磤馭慮嶋」と「淡路洲」の距離感について。
「磤馭慮嶋」で結婚し、その流れで出産。そのときに「淡路洲」を使ったけど合わなかった、という内容。
コレ、つまり、
「磤馭慮嶋」と「淡路洲」はそんなに離れてない距離
と言えそうです。
出産にあたって、手近にあった洲を使ってみたけど合わなかったから「淡路洲」と名付けた、的な感じなので。
そうなると、、、逆に言うと、
「淡路洲」からそんなに遠くないところに「磤馭慮嶋」があったとも言えて。
以上の2つの要件をまとめると
ということになり、
これをもとに、地図にあてこめて見てみると、、、、
うーん、、、
淡路島に近くて、対馬や壱岐と同じくらいの嶋、、、
やっぱ、、、
小豆島?
って、
言いたいんだけど、『日本書紀』的には。
ところが、『古事記』では、同じ国生み神話で「大八島国」を産んだあと、続けて6つの島を産んでるのですが、その中に、、、
小豆島 別名「大野手比売」
があって、、、涙
淤能碁呂島に降り立って、国を産んで、それで小豆島を産んだ訳なので、
淤能碁呂島≠小豆島
てことで。
あくまで『古事記』的にな!
、、、終了。
●参考→ 『古事記』国生み原文と現代語訳と解説!伊耶那岐命と伊耶那美命の聖婚と大八嶋国誕生の物語
もうちょっと寄ってみるかい。
うーん、、、
淡路島に近くて、対馬や壱岐と同じくらいの嶋、、、(再びの)
てことは、
やっぱ、、、
沼島
神島
かい?
てことで、
結局、よく言われてる
①沼島 と ②神島 に来てしまう訳です。
小さすぎるのが玉に瑕。。。
大きさはほぼ同じなので、、、近い方を?ということで、、、
当サイト的には、一応、
国生み神話の舞台「磤馭慮嶋」は沼島かも
ということにさせていただければと存じます。よろしくお願い申し上げます。
ということで、コチラをチェック
沼島への行き方はコチラでどうぞ。
ちなみに、、、
なぜ国生みの舞台「磤馭慮嶋」を沼島(周辺?)に定めたのか?
についてお答えして終わりたいと思います。
それは、、、
国の中心だから!
『日本書紀』や『古事記』が編纂された時代、つまり、日本神話が編まれた時代は、7世紀後半から8世紀初頭。
このころの大和の支配圏は東北の手前くらいまで達していました。
ざっくりこんなイメージ。
ね?
「磤馭慮嶋を、国の中心である柱とし」とあったように、
国生みの舞台「磤馭慮嶋」は国の中心となる位置にあったってこと。
それはまさに、淡路島近辺だったんですね。
世界の、いや、日本の中心で愛を育み結婚出産する。
いいじゃないですか、この日本的なる誕生譚。合わせてチェックされてください。
まとめ
「国生み神話」の舞台が淡路島とされてるのは何故なのか?
改め、「国生み神話」の舞台はどこなんだ?
ということでお届けしてきましたが、いかがでしたでしょうか?
国生み神話を伝えるのは『日本書紀』巻一(神代上)第四段。文献に即して、文献に忠実に追いかけていくと、国生みの舞台「磤馭慮嶋」として怪しいのは小豆島、でも『古事記』伝承があるから結局、沼島(または神島)というところに行きつきました。
今回の思考実験を参考に、是非、ご自身の神話ロマンを広げていっていただければと思います。
国生み神話の詳細解説!こちらも是非!
神話を持って旅に出よう!
国生み神話のもう一つの楽しみ方、それが伝承地を巡る旅です。以下いくつかご紹介!
●上立神岩:伊奘諾尊と伊奘冉尊が柱巡りをした伝承地
●自凝神社(おのころ神社):伊奘諾尊と伊奘冉尊の聖婚の地??
●絵島:国生み神話の舞台と伝えられるすっごい小さい島。。
●神島:国生み神話の舞台と伝えられるこちらも小さな島。。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!
日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
多分それ煙島ですね。
淡路島にある禁足地です。