多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
日本最古の書『古事記』をもとに、
最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。
今回は、『古事記』上巻から、
神生み。
もう少しいうと、「神生みと、その果てに誕生する火神と伊耶那美の死」。
『古事記』神話の神生み。二神が生むのは全17柱の神々。その最後に火之夜芸速男神が生まれ、この子を生んだことで、みほとを炙かれ病んだ伊耶那美命が神避り、神生みは中断することになる。。。
なお、『古事記』的には神生みは合計35柱としており、二神が直接生んだ神以外の神様たちも含めて神生みと位置付けてます。
今回も、概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
『古事記』神生みの原文と現代語訳|神生みの果てに誕生する火之迦具土神と伊耶那美命の死
目次
『古事記』神生みの読み解きポイント
経緯としては、
天神の関与を通じて、伊耶那岐命・伊耶那美命の二神が結婚し、きちんとした手順を経て神聖な大八嶋国が誕生した、、ってところから。
↑経緯しっかり確認。
で、本文に入る前に、まずは押さえておきたいポイント、概要をチェック。
全部で4つ。
- 天神指令「国の修理固成」をどこまで解釈?それはきっと「瑞穂の国」の仕上げまで
- 神の誕生方法は大きく3パターン!?成りまし、出産、激烈シーン
- 生んだ全17柱の神々は、人民の生活を見据えて??
- 『古事記』的伏線??神生みで誕生する海と山の神は、のちのちの展開上、重要な役割を担います
てことで、以下、順に解説。
1つ目。
①天神指令「国の修理固成」をどこまで解釈?それはきっと「瑞穂の国」の仕上げまで
今回お届けするのは「神生み」ですが、思い出してほしい。あの頃のこと。
そもそもは、天神による「是の漂っている国を修理固成せよ」という指令から。
『古事記』における初の、神が発した言葉。ココが起点。スタート地点。「修理固成」、ふよふよ状態の未成熟な国を整えて固めなさい。「修理」=整えること、「固成」=固めること。
ポイントは、天神指令の修理固成を、伊耶那岐命・伊耶那美命の二神がどこまで解釈してたか?
もっというと、「修理固成」ってどこまでやるのがゴールなの?って話で。
単に、国を(形状的に)整え固めるだけなら、大八嶋国を生むだけでよかったはず。続けて神生みする必要はありません。
でも、二神は国生み後に当然のように神生みする訳です。てことは、やはり、修理固成とは、形状変化以上の意味、つまり、漂う国を「瑞穂の国」へ仕上げていく意味を込めてるってこと。
神々を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで、「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくろうとしてる、ってことでチェック。
次!
②神の誕生方法は大きく3パターン!?成りまし、出産、激烈シーン
神生み。
簡単に言ってるけど、結構深くて。実は、神の誕生方法には大きく3つパターンがあるんです。
それが、
成りまし、出産、激烈シーン
「成りまし」パターンは、高天原に成りました〜とあるように、自然発生的に誕生した非常に尊い神様の誕生方法。勝手に生まれちゃう訳ですから、存在そのものが尊貴。神威の凄さはその誕生プロセスにある。
「出産」パターンは、国生み、神生みでやってるやつ。男と女の神が結婚、交合することで誕生する方法です。これによって誕生する神の尊貴性や神威の根拠は、親の神威。親がスゴイから子もスゴイ論法。
そして3つ目が「激烈シーン」で生まれるパターン。激しい場面、それは死や恨みや神の道に外れるなど、通常ではありえないことが起こったときに生まれる方法。これによって誕生する神の尊貴性や神威は、その場面の激しさに依拠。
神が誕生すること、そのことはちょいちょい発生するのですが、それがどういう場面で誕生してるのか追いかけることで、その神がどんだけスゴイのか?みたいなのが見えてくる。
逆にいうと、神が誕生するってことはそれだけ重要なシーンだということで、そんな視点から神生みをチェック。
次!
③生んだ全17柱の神々は、人民の生活を見据えて??
神生み。二神が直接生んだ神々は全部で17柱。生んで生んで生んでいく中で、火之夜芸速男神が生まれたことで中断してしまう。なんならもっと生む可能性があった??
大事忍男神から、さー大事業が始まるぞ、と。石土毘古神から風木津別之忍男神は不可解な神が誕生し、ここから大自然系へと転換、大綿津見神から始まり、海 →水門 →風 →木 →山 →野 →船 →食 →火 といった流れ。
ポイントはやっぱり、将来的には「瑞穂の国」になっていくために必要な神、ということで、、そこに見据えているのは、、、、
人民の生活??
海 →水門 →風 →木 →山 →野 →船 →食 →火 って流れ。
確かに、大自然系からだんだんと文化的な神に移行していってる、、? 船や食、火って。。そこにあるのはきっと人民の生活なんじゃないか。。そんな視点で現場をチェック。
次!
④『古事記』的伏線??神生みで誕生する海と山の神は、のちのちの展開上、重要な役割を担います
海 →水門 →風 →木 →山 →野 →船 →食 →火 って流れで誕生する神々。
この中で、とくにチェックしておきたいのは、海の神と山の神。
- 海の神は、火遠理命に娘の豐玉毘賣を娶せ申し上げる神対応を。
- 山の神は、天津日高日子番能迩迩藝能命に娘の神阿多都比賣(木花之佐久夜毘賣)を娶せ申し上げる神対応をします。
いずれも、
日本神話的ストーリー展開において、また、天照大御神の系譜上、非常に重要な役割を担ってるので、しっかりチェック。
まとめます。
- 天神指令「国の修理固成」をどこまで解釈?それはきっと「瑞穂の国」の仕上げまで
- 神の誕生方法は大きく3パターン!?成りまし、出産、激烈シーン
- 生んだ全17柱の神々は、人民の生活を見据えて??
- 『古事記』的伏線??神生みで誕生する海と山の神は、のちのちの展開上、重要な役割を担います
以上の4つ。しっかりチェック。そのうえで現場へゴー!
『古事記』神生みの原文と現代語訳
既に国を生み竟へて、更に神を生んだ。ゆえに、生んだ神の名は、大事忍男神。次に石土毘古神を生み、次に石巣比売神を生み、次に大戸日別神を生み、次に天之吹男神を生み、次に大屋毘古神を生み、次に風木津別之忍男神を生み、次に海の神、名は大綿津見神を生み、次に水戸神、名は速秋津日子神、次に妹速秋津比売神を生んだ。(大事忍男神より秋津比賣神に至るまで、幷せて十神ぞ。)
此の速秋津日子、速秋津比売の二柱の神、河と海によって場所を分けて生んだ神の名は、沫那芸神、次に沫那美神、次に頬那芸神、次に頬那美神、次に天之水分神、次に国之水分神、次に天之久比奢母智神、次に国之久比奢母智神。(沫那藝神より國之久比奢母智神に至るまで、幷せて八神ぞ。)
次に風の神、名は志那都比古神を生み、次に木の神、名は久久能智神を生み、次に山の神、名は大山津見神を生み、次に野の神、名は鹿屋野比売神を生んだ。またの名は野椎神という。(志那都比古神より野椎に至るまで、幷せて四神ぞ)。
この大山津見神、野椎神の二柱の神が、山と野を分担して生んだ神の名は、天之狹土神、次に国之狹土神、次に天之狹霧神、次に国之狹霧神、次に天之闇戸神、次に国之闇戸神、次に大戸或子神、次に大戸或女神。(天之狹土神より大戸惑女神に至るまで、幷せて八神ぞ。)
次に生んだ神の名は、鳥之石楠船神、またの名は天之鳥船という。次に大宜都比売神を生んだ。次に火之夜芸速男神を生んだ。またの名は火之炫毘古神と謂う、またの名は火之迦具土神という。
この子を生んだことに因って、みほとを炙かれて病み臥せになった。嘔吐に生んだ神の名は、金山毘古神、次に金山毘売神。次に屎に成った神の名は、波迩夜須毘古神、次に波迩夜須毘売神。次に尿に成った神の名は、彌都波能売神、次に和久産巣日神。この神の子は、豊宇氣毘売神という。ゆえに、伊耶那美神は火の神を生んだことに因って、遂に神避った。
数えあわせて伊耶那岐、伊耶那美の二神が、共に生んだ嶋は10と4つの嶋であり、神は35柱である。是れ伊耶那美神、未だ神避る前に生んだ神ぞ。ただ、意能碁呂嶋のみは生んだものではない。亦た姪子と淡嶋は子の例には数えない。
※音指定の「注」は、訳出を分かりやすくするため割愛。
既生國竟、更生神。故、生神名、大事忍男神、次生石土毘古神訓(石云伊波、亦毘古二字以音。下效此也)、次生石巢比賣神、次生大戸日別神、次生天之吹上男神、次生大屋毘古神、次生風木津別之忍男神(訓風云加邪、訓木以音)、次生海神、名大綿津見神、次生水戸神、名速秋津日子神、次妹速秋津比賣神。自大事忍男神至秋津比賣神、幷十神。
此速秋津日子・速秋津比賣二神、因河海、持別而生神名、沫那藝神(那藝二字以音、下效此)、次沫那美神(那美二字以音、下效此)、次頰那藝神、次頰那美神、次天之水分神(訓分云久麻理、下效此)、次國之水分神、次天之久比奢母智神(自久以下五字以音、下效此)、次國之久比奢母智神。自沫那藝神至國之久比奢母智神、幷八神。
次生風神・名志那都比古神(此神名以音)、次生木神・名久久能智神(此神名以音)、次生山神・名大山上津見神、次生野神・名鹿屋野比賣神、亦名謂野椎神。自志那都比古神至野椎、幷四神。
此大山津見神・野椎神二神、因山野、持別而生神名、天之狹土神(訓土云豆知、下效此)、次國之狹土神、次天之狹霧神、次國之狹霧神、次天之闇戸神、次國之闇戸神、次大或子神(訓惑云麻刀比、下效此)、次大戸或女神。自天之狹土神至大戸惑女神、幷八神也。
次生神名、鳥之石楠船神、亦名謂天鳥船。次生大宜都比賣神(此神名以音)。次生火之夜藝速男神(夜藝二字以音)、亦名謂火之炫毘古神、亦名謂火之迦具土神(迦具二字以音)。
因生此子、美蕃登(此三字以音)見炙而病臥在。多具理邇(此四字以音)生神名、金山毘古神(訓金云迦那、下效此)、次金山毘賣神。次於屎成神名、波邇夜須毘古神(此神名以音)、次波邇夜須毘賣神(此神名亦以音)。次於尿成神名、彌都波能賣神、次和久產巢日神、此神之子、謂豐宇氣毘賣神(自宇以下四字以音)。故、伊耶那美神者、因生火神、遂神避坐也。自天鳥船至豐宇氣毘賣神、幷八神。
凡伊耶那岐、伊耶那美二神、共所生嶋壹拾肆嶋、神參拾伍神。是伊耶那美神、未神避以前所生。唯意能碁呂嶋者、非所生。亦姪子與淡嶋、不入子之例也。 (『古事記』上巻より抜粋)
『古事記』神生みの解説
『古事記』の神生み、いかがでしたでしょうか?
次から次へと神様が誕生していて、、しかも、原文は、音指定、読み方指定の注がたくさんあって、何が何だか分からなくなる感じ。。汗
でもご安心を。
当サイトならではの、分かりやすい解説で読み解きます。
『古事記』神生みは、やっぱり目的を押さえておくことが大事。
神生みの目的、それは、最終的には「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくろうとしてる、ってこと。
そのために必要な、海や風や山や野や食糧の神を生んでいくんです。コレ、しっかりチェック。
ちなみに、、
『古事記』の神生みも、『日本書紀』と比較することで、重視しているポイント、伝えたいことが分かりやすくなります。
『古事記』神生みと同様の流れをもつのは、『日本書紀』第五段〔一書6〕。ココから、冒頭部分が以下。
ある書はこう伝えている。伊奘諾尊と伊奘冉尊は共に大八洲国を産んだ。その後に、伊奘諾尊は、「私が生んだ国は朝霧だけがかすんで立ちこめ満ちていることよ。」と言った。そこで吹き払った気が化して神となった。名を級長戸辺命と言う。また級長津彦命と言う。これが、風の神である。また飢えた時に子を生んだ。名を倉稲魂命と言う。また、海神等を生んだ。名を少童命と言う。山神等は名を山祇と言い、水門神等は名を速秋津日命と言い、木神等は名を句句迺馳と言い、土神は名を埴安神と言う。その後に、悉くありとあらゆるものを生んだ。(『日本書紀』第五段〔一書6〕より一部抜粋)
ということで。
大八洲国のあと、風の神や倉稲魂命、海神などを生み、その後に、悉くありとあらゆるものを生んだ、と伝えます。で、『古事記』でも「次に風の神、名は志那都比古神を生み~」と同じような内容を伝えてますよね。
なお、『日本書紀』ではこのあと、黄泉往来譚、伊奘諾尊の禊祓を経て、、世界の統治者「天照大神」の誕生へつながっていく。
コレ、実は、大きく3つのステップになっていて、
- 大八洲国を生む
- 主要な神を生み、万物を生む
- 世界の統治者を生む
という流れ。統治者誕生へ向かう前に、神生みや万物生みがある。逆に言うと、神生みや万物生みを通じて条件を整えたうえで、最終的に統治者が誕生する流れ、ってことで。
単に「神生み」としてだけでなく、統治者誕生へ向けた条件整備といった、大きな枠組み、流れを意識して現場をチェックすると奥行きが出てくると思います。
ということで、
さっそく以下、詳細解説をどうぞ!
コチラ
- 此の速秋津日子、速秋津比売の二柱の神、河と海によって場所を分けて生んだ神の名は、沫那芸神、次に沫那美神、次に頬那芸神、次に頬那美神、次に天之水分神、次に国之水分神、次に天之久比奢母智神、次に国之久比奢母智神。
- 原文: 此速秋津日子・速秋津比賣二神、因河海、持別而生神名、沫那藝神那藝二字以音、下效此、次沫那美神那美二字以音、下效此、次頰那藝神、次頰那美神、次天之水分神訓分云久麻理、下效此、次國之水分神、次天之久比奢母智神自久以下五字以音、下效此、次國之久比奢母智神。自沫那藝神至國之久比奢母智神、幷八神。
→伊耶那岐命、伊耶那美命の二神ではない神生み。
速秋津日子、速秋津比売の二柱の神が生んだ神名を伝えます。
水門の男女神についてなぜ系譜を??って、これも正直よく分かっていません。
ココでのポイントは、『古事記』神生みの特徴である「持別」。つまり分担して生む、という内容。
速秋津日子、速秋津比売が、それぞれの持ち場を分担して神を生んでいくのです。
N | 神名 | どんな神? |
1 | 沫那芸神、沫那美神 | 水戸(水門)にたつ泡の、男女神 |
2 | 頬那芸神、頬那美神 | 水戸(水門)の水面の、男女神 |
3 | 天之水分神、国之水分神 | 水の分配の、天と地の神 |
4 | 天之久比奢母智神、国之久比奢母智神 | 水の分配の容器をもつ、天と地の神 |
と、
一覧整理はしてみたものの、、、男神と女神、天と国など、対比構造的なものはあるようですが、かといって、なぜこういう神が誕生してるのかは、実際は不明。
水門からの水の分配という流れになってることから、人間の生命維持に必要不可欠な水の重要性を伝えてる、、と解釈できなくもないが、、、
あるいは、河と海があわさるところに生じる泡とその水面、からの、、水が蒸発して天へ、そして雨となって国土に降り注ぎ、湧き出す、、といったプロセスを天之水分神・国之水分神が司り、天之久比奢母智神・国之久比奢母智神がそれを補助して水を分かち与える、という水の恵みを讃えたものとする説も。。
ちなみに、、、
水分は、飛鳥、奈良の都に水を供給する水源(吉野、宇太、都祁、葛城等)に祭る、水分の神。水分神は祈念祭に、久比奢母智神は鎮火祭、速秋津比売は大祓の祝詞に登場します。
次!
- 次に風の神、名は志那都比古神を生み、次に木の神、名は久久能智神を生み、次に山の神、名は大山津見神を生み、次に野の神、名は鹿屋野比売神を生んだ。亦の名は野椎神という。
- 原文: 次生風神・名志那都比古神此神名以音、次生木神・名久久能智神此神名以音、次生山神・名大山上津見神、次生野神・名鹿屋野比賣神、亦名謂野椎神。自志那都比古神至野椎、幷四神。
→再び、伊耶那岐命、伊耶那美命の二神による神生み4柱。
それぞれ、、
N | 神名 | どんな神? |
1 | 志那都比古神 | 気息を長く吹く=風の神 |
2 | 久久能智神 | 木の神 |
3 | 大山津見神 | 山の神 |
4 | 鹿屋野比賣神(野椎神) | 山裾に広がる地帯に生える茅=野の神 |
一見、何の脈絡もなさそうな神名列挙。。。のようですが!
ポイント2つ。
- 『古事記』ならではの、壮大なストーリーらしきものあり!
- やっぱり『日本書紀』と比較すると分かりやすい!
以下、解説。
①『古事記』ならではの、壮大なストーリーらしきものあり!
実は、ココ、誕生する神には、『古事記』的なストーリーらしきものがありそうです。
最初の風神は、大八嶋国を生んだ後だからこそ何もない状態、きっと生まれたての神々と朝霧が立ちこめてるだけの状態で、それを吹き払った気息が化して神(志那都比古神)となったイメージ。 そして、木の神(久久能智神)は、風神の存在を、木々の揺らぎによってそれと知らせるもの。 さらに、山の神(大山津見神)は、山林、豊かに木々の繁る山だから、国土が豊かに成長しているさまを表象。 最後に、野の神(鹿屋野比賣神(野椎神))は、山・野・原という大地を構成する3つの場の中間地帯。このあと、葦原中国の葦原が生まれることを予定する。そしてきっとそこには人間の姿も・・・
風、木、山、野という4柱の神!そう考えると、なんか、修理固成、、シンカしてる感じがする、、?
②やっぱり『日本書紀』と比較すると分かりやすい!
って、上記内容も、実は、先ほどチェックした『日本書紀』第五段〔一書6〕の冒頭部分、
「伊奘諾尊と伊奘冉尊は共に大八洲国を産んだ。その後に、伊奘諾尊は、「私が生んだ国は朝霧だけがかすんで立ちこめ満ちていることよ。」と言った。そこで吹き払った気が化して神となった。名を級長戸辺命と言う。」以下の箇所と比較することで見えてくる。
『古事記』の物語だけだと、なんとも解釈が難しいけれど、『日本書紀』を踏まえれば、その比較によってイメージができるようになるんです。
その他にも、、
木の神=句句迺馳、山の神=山祇(第五段〔一書6〕、そして、野の神=草野姫、またの名を野槌(第五段〔本伝〕、というように『日本書紀』をベースに差異化、あるいは『古事記』風にアレンジされてたりします。
いずれにしても、
ポイントは、大八嶋国に必要な神であり、それは、将来的には「瑞穂の国」になっていくために必要な神として生んでるってこと。コレ、やっぱり重要です。
あとは、補足として。
山神の大山津見神はしっかりチェック。コチラ、海神の大綿津見と対応。いずれも、日本神話後半で皇孫と関係をもつ超重要神。
山の神である大山津見神は、木花之佐久夜毘売の父神として、海の神である大綿津見は豊玉姫の父神として、それぞれ登場。そう、ここで生まれてたんですね。
次!
- 此の大山津見神、野椎神の二柱の神、山と野によって場所を分けて生んだ神の名は、天之狹土神、次に国之狹土神、次に天之狹霧神、次に国之狹霧神、次に天之闇戸神、次に国之闇戸神、次に大戸惑子神、次に大戸惑女神。
- 原文: 此大山津見神・野椎神二神、因山野、持別而生神名、天之狹土神(訓土云豆知、下效此)、次國之狹土神、次天之狹霧神、次國之狹霧神、次天之闇戸神、次國之闇戸神、次大戸惑子神(訓惑云麻刀比、下效此)、次大戸惑女神。自天之狹土神至大戸惑女神、幷八神也。
→大山津見神、野椎神の二柱の神による系譜的神生み。かつ、再度登場、『古事記』オリジナル、持別生み。8柱。
山と野によって場所を分けて生んだ神は以下。
N | 神名 | どんな神? |
1 | 天之狹土神、国之狹土神 | 天と国の清らかな初々しい土地の神 |
2 | 天之狹霧神、国之狹霧神 | 天と地の、その土地に立ちこめる清らかな初々しい霧の神 |
3 | 天之闇戸神、国之闇戸神 | 天と地の、立ちこめる霞が深く暗い谷間の戸(山に挟まれた出入口)の神 |
4 | 大戸或子神、大戸或女神 | 大きな戸(山に挟まれた出入口)の谷間で迷う男子・女子の神 |
と、、こちらも整理はしてみたものの、、、天と国など、対比構造的なものはあるようですが、、
かといって、なぜこういう神が誕生してるのかは、実際は不明。
説としては例えば、、「土(天之狭土神・国之狭土神)」から「霧(天之狭霧神・国之狭霧神)」が立ち、霧によって「暗く(天之闇戸神・国之闇戸神)」なり、暗くなって「惑う(大戸或子神・大戸或女神)」、といった「つながり」説があったりもするのですが、、後付けのような。。また、山と野という、境界神的な神格からの系譜なので、その境界にまつわる大地の神格化とする説もあったりします。
ただ、、
チェックしておきたいのは背景や経緯であり、それは、修理固成という壮大な構想のなかで「神生み」があるってこと。
さまざまな神が誕生するなかで、自然現象が具体的な表れをしていく、、だからこそ、原初の山や野、そして、そこで発生する具体的な自然現象は、人間にとって未知であり未開であり、、一方で、恵みをもたらす存在でもあり、、、そんな畏怖もふくめた信仰みたいなのが表れてると考えられます。
次!
- 次に生んだ神の名は、鳥之石楠船神、亦の名は天之鳥船という。次に大宜都比売神を生んだ。次に火之夜芸速男神を生んだ。亦の名は火之炫毘古神と謂う、亦の名は火之迦具土神という。
- 原文: 次生神名、鳥之石楠船神、亦名謂天鳥船。次生大宜都比賣神(此神名以音)。次生火之夜藝速男神(夜藝二字以音)、亦名謂火之炫毘古神、亦名謂火之迦具土神(迦具二字以音)。
→再び伊耶那岐命、伊耶那美命の二神による神生み。
それぞれ、、
N | 神名 | どんな神? |
1 | 鳥之石楠船神(天鳥船) | 天空を飛翔する鳥のように海洋を航行する石のように固い楠材の船の神。 |
2 | 大宜都比売神 | 食糧の神 |
3 | 火之夜芸速男神(火之炫毘古神、火之迦具土神 | 火の明るく輝く男神、火のほのかにちらちら揺れる男神 |
ポイント3つ。
- 鳥之石楠船は、『日本書紀』でいう「鳥磐櫲樟橡船」。大宜都比賣神は、『日本書紀』でいう「保食神」
- 『古事記』的押し込み?国の成り立ちに関わる大事に2神の生んだ子を関与させる伏線設定
- 二神の神生みはこれで打ち止め。経緯をたどると人民誕生が見えてくる
1つめ。
①鳥之石楠船は、『日本書紀』でいう「鳥磐櫲樟橡船」。大宜都比賣神は、『日本書紀』でいう「保食神」
一見脈絡のない神神が誕生してるように見えます。それぞれについてまずは解説。
1柱目、「鳥之石楠船神」。不思議な神、。コレ、『日本書紀』でいう「鳥磐櫲樟橡船」。
楠は船材。『日本書紀』第八段〔一書5〕に、素戔嗚尊が「杉と櫲樟とを浮宝(=船)にすべし」と伝え、船の建造用材としてクスノキがあったことが分かります、また、考古学的調査からは、実際にクスが古代船の船材として多用された発掘もあったりして。
その石のように固い楠材の船の神。
「鳥」を冠するのは、天空を飛翔する鳥と海洋を航行する船とが結びつくほか、天と海とが水平線で一続きになるから。万葉集でも「天の海に雲の波立ち月の船 星の林に榜ぎ隠る見ゆ」(詠天1068番)とあり。
面白いのは、『日本書紀』第五段〔一書2〕で伝える内容とは違う場面で登場してること。参考として以下。
ある書はこう伝えている。日と月は既に生まれた。次に蛭児を産んだ。この子は三年経っても脚が立たなかった。これは初めに、伊奘諾・伊奘冉尊が御柱を巡った時に、陰神が先に喜びの声を発したからである。陰陽の原理に背いてしまったのだ。そのせいで今蛭児が生まれた。ー中略ー 次に鳥磐櫲樟橡船を産んだ。この船に蛭児を乗せ、流れにまかせ棄てた。(『日本書紀』第五段〔一書2〕より一部抜粋)
とあり、
『日本書紀』では、三年経っても脚が立たない蛭児が生まれたので、鳥磐櫲樟橡船を生んで、この船に載せ、流したと伝えてます。『古事記』とは違う位置づけ。こちら後ほど②で追加解説。
2柱目、「大宜都比売神」は、食料の神であり、『日本書紀』でいう保食神。
『古事記』では、後になって、速須佐之男命が高天原を追放されるときに再登場。速須佐之男命が、食べ物を大宜都比賣神に乞うと、「大宜都比売神」は鼻・口・尻から食べ物を出してそなえるという神対応。これにより、大宜都比賣神は速須佐之男命に殺されてしまいます。
が、その際に、大宜都比賣神に五穀の種が生ると伝えてます。コレ、まさに『日本書紀』第五段〔一書11〕の保食神がモデル。
この時、保食神は実際すでに死んでいた。ただ、その神の頭頂部は化して牛馬と成り、額の上に粟が、眉の上に蚕が、眼の中に稗が、腹の中に稲が、陰には麦と大豆、小豆が生じていた。天熊人はそれを全て取って持ち去り、天照大神に奉った。(『日本書紀』第五段〔一書11〕より一部抜粋)
同じ位置づけですよね。
ポイントは、
修理固成の神生みで、ついに食糧の神が誕生した、ってこと。
食糧って、何のために?それは当然、人民のため。なんのために?それはもちろん豊かな「瑞穂の国」を予定してるから。ということでチェック。
次!
②『古事記』的押し込み?国の成り立ちに関わる大事に2神の生んだ子を関与させる伏線設定
そうは言っても、やはり一見脈絡のない神神が誕生してるように見えます。「鳥之石楠船神」と「大宜都比売神」。
ただ、一つ言えるのは、この2神、このあとの神話展開上、非常に重要な役割を担うってこと。
「鳥之石楠船神」は、葦原中国平定の神話に登場。
簡単にいうと、
葦原中国平定に向けて神を派遣するシーンで、天照大御神が遣わすのが「建御雷之男神」。で、この「建御雷之男神」に副えて遣わしたのが「天鳥船神」です。コレ、「鳥之石楠船神」のことで。雷光が天を切り裂き走る姿が、雷神が天を飛翔する船に乗って天翔けるイメージに重ねられてる。
大事なのは、
大国主神に国譲りさせる「建御雷之男神」につき従い、実際は乗せて天上を飛びかける「天鳥船神」が、葦原中国の平定に大きく関わるという形になってるってこと。
コレ、『古事記』的伏線設定というべきもので。あとで登場する平定神話で回収されていく仕掛けになってます。
そしてもう一つ、「大宜都比売神」。
こちらも、先ほどご紹介した通り、速須佐之男命に神対応(実際は無礼な対応でしたが、、)をしたせいで殺されてしまいます。が、その際に、大宜都比賣神に五穀の種が生ると伝えてます。
これも、五穀の起源という非常に重要な意味をもつ神話であり、それに直接関わる重要な神として位置づけられてるんですね。
いずれも、
国の成り立ちに関わる大事に、伊耶那岐と伊耶那美の2神が生んだ子を関与させる『古事記』的伏線設定であり、むしろ、そのために、火神誕生の前、この場所に押し込めてきた、というのが実際のところかと思います。
次!
③二神の神生みはこれで打ち止め。経緯をたどると人民誕生が見えてくる
天神の修理固成指令、からの国生み、神生みは、いったんココで打ち止め。
言い方を変えると、
これまで生んだ国や神が、伊耶那岐命、伊耶那美命の二神的修理固成解釈と実践だった訳で。
再度、二神が生んだ神をまとめてみると、、、
N | 神名 | どんな神? |
1 | 大事忍男神 | これから神を生みなす大いなる事業を成す威力のある神 |
2 | 石土毘古神 | 岩のような土の男神 |
3 | 石巣比売神 | 岩のようなすみかの女神 |
4 | 大戸日別神 | 大きな出入口に射す日の男神 |
5 | 天之吹男神 | 天上の気息を吹き付ける男神 |
6 | 大屋毘古神 | 大きな家屋の男神 |
7 | 風木津別之忍男神 | 風に吹かれる樹木の威力ある男神 |
8 | 大綿津見神 | 海の神 |
9 | 速秋津日子神 | 水門の神 |
10 | 妹速秋津比売神 |
からの、、
N | 神名 | どんな神? |
1 | 志那都比古神 | 気息を長く吹く=風の神 |
2 | 久久能智神 | 木の神 |
3 | 大山津見神 | 山の神 |
4 | 鹿屋野比賣神(野椎神 | 山裾に広がる地帯に生える茅=野の神 |
そして、、
N | 神名 | どんな神? |
1 | 鳥之石楠船神(天鳥船) | 天空を飛翔する鳥のように海洋を航行する石のように固い楠材の船の神。 |
2 | 大宜都比売神 | 食糧の神 |
3 | 火之夜芸速男神(火之炫毘古神、火之迦具土神 | 火の明るく輝く男神、火のほのかにちらちら揺れる男神 |
ということで、、
大事忍男神から、さー大事業が始まるぞ、と。石土毘古神から風木津別之忍男神は不可解な神が誕生し、ここから大自然系へと転換、大綿津見神から始まり、海 →水門 →風 →木 →山 →野 →船 →食 →火 といった流れ。
ポイント2点。
- 将来的には「瑞穂の国」になっていくために必要な神様たち。そこに見据えているのはきっと人民の生活
- 『古事記』的伏線設定として、4柱の神はしっかりチェック。山、海、船、食料。のちの神話展開上、非常に重要な役割を担う
1つめ。
①将来的には「瑞穂の国」になっていくために必要な神様たち。そこに見据えているのはきっと人民の生活
くどいけど、、やっぱり、なんだかんだいって「瑞穂の国」になっていくために必要な神生み、ってことなんす。そして、そこに見据えているのは、、、、
そう、
人民の生活
であります。
やっぱ人民す。
コレ、日本神話的ストーリー展開上、
人間が生まれてないと、話がつながらないんすよ、、、
っていう事情もあり。。実際、このあとの流れとして、
黄泉往来譚の最後、二神の絶縁シーンで、伊耶那美命による1日千人縊り殺す宣言と、伊耶那岐命による1日1500産屋を立てる宣言につながっていく。
コレ、人間生まれてないと無理だから!縊り殺すのも、産屋立てるのもっ
なので、
将来的には「瑞穂の国」になるのに必要な神の誕生プロセスにより、実は人間が誕生していて、なんなら生活も始まってた、ってことでチェック。人民がいての瑞穂の国ですから。
2つめ。
②『古事記』的伏線設定として、4柱の神はしっかりチェック。山、海、船、食糧。のちの神話展開上、非常に重要な役割を担う
この中で、とくにチェックしておきたいのは、海の神と山の神。そして、先ほど解説した船と食糧です。
まずは、海の神と山の神。コレ、のちの展開上、非常に重要な役割を担います。
- 海の神は、火遠理命に娘の豐玉毘賣を娶せ申し上げる神対応を
- 山の神は、天津日高日子番能迩迩藝能命に娘の神阿多都比賣(木花之佐久夜毘賣)を娶せ申し上げる神対応を
それぞれする訳です。
いずれも、
日本神話的ストーリー展開上、また、天照大御神の系譜上、非常に重要なイベントとして位置づけられてるので、しっかりチェック。
そして、船と食糧。
こちらも、
- 船の神は、葦原中国の平定で、大国主神に国譲りを迫る神対応を
- 食糧の神は、自らの死を通じて五穀の誕生につなげる神対応を
それぞれしてます。
これら4つの神は、いずれも、
神生みのもう一つの側面である、伊耶那岐と伊耶那美との血脈的「つながり」をもっていることを根拠として、その神威の強さ、そのスゴさを、ココで設定してる、ってこと。
一応、伊耶那岐命と伊耶那美命の二神は、神世七代の尊貴なジェネレーションですから。その神が生んだ子も非常に尊貴な神様カテゴリに入ってる。神威も抜群であります。
次!最後の箇所です。
- 此の子を生んだことに因って、みほとを炙かれて病み臥せになった。嘔吐に生んだ神の名は、金山毘古神、次に金山毘売神。次に屎に成った神の名は、波迩夜須毘古神、次に波迩夜須毘売神。次に尿に成った神の名は、彌都波能売神、次に和久産巣日神。此の神の子は、豊宇氣毘売神という。ゆえに、伊耶那美神は火の神を生んだことに因って、遂に神避りなさった。
- 原文; 因生此子、美蕃登(此三字以音)見炙而病臥在。多具理邇(此四字以音)生神名、金山毘古神(訓金云迦那、下效此)、次金山毘賣神。次於屎成神名、波邇夜須毘古神(此神名以音)、次波邇夜須毘賣神(此神名亦以音)。次於尿成神名、彌都波能賣神、次和久產巢日神、此神之子、謂豐宇氣毘賣神(自宇以下四字以音)。故、伊耶那美神者、因生火神、遂神避坐也。自天鳥船至豐宇氣毘賣神、幷八神。
→火神を生んだことにより病み臥せり、いろんなものを吐瀉する伊耶那美命。そして神避る。。なんてこった。
細かいですが、原文、最初に嘔吐物から生んだ時は「生」という漢字が使われてます。次いで、屎や尿は「成」という漢字。
コレ、いずれも伊耶那美命の排泄物に生んだ→排泄物に成った、ということで親子の関係は同じ。初めに「生」を使い、以降は「成」を使うことで、神の成りまし方を実態に近いかたちに表現を変えていく『古事記』的用字であります。
ポイント3点。
- 神生み中断!火神による日本神話史上初の神殺し&親殺し!
- 吐瀉物からも神が誕生。全部で6柱。伊耶那美命を「大地母としての神格」として生活必需品の神々
- 神避る=神的な死。『日本書紀』と比較することでいろいろ見えてくる。
1つめ。
①神生み中断!火神による日本神話史上初の神殺し&親殺し!
神生みは、火之夜芸速男神(火之炫毘古神、火之迦具土神)の誕生により中断してしまうのが実際のところ。
火神が生まれてなかったら、もしかすると神生み続行してた?可能性もあって。。修理固成を命じた天神の皆さんは、この顛末をどう考えてるのでしょうか?詔ベースで指令を出したのに最終報告もない。。
一応、
伊耶那岐命的には、この後の黄泉往来譚、からの禊祓で三貴神が誕生したことをもって「あは子を生み生みて、生みの終に三柱の貴き子を得たり」と言ってることから、なんだかんだいろいろあったけど、その中で神を生み続けて、結果的に三貴神が生まれたから良かったんじゃね?的な、一つの区切りをつけた感覚はあったのだと思われます。
なので、伊耶那岐命と伊耶那美命の二神による神生みは中断したものの、伊耶那岐命的には続行してて、最終的に三貴神誕生によって一つの区切りをつけた、ということで整理。
さて、
このお方、生まれた瞬間に、生んでくれた母を、おのが火によって死に至らしめるという、スゴイ神。日本神話史上初の神殺し&親殺しであります。
なお、
『日本書紀』では第五段〔一書2~4〕でも登場し、その主な役目として、
神殺し&親殺しをもやってのける猛烈な神、という設定をもとに、
- 卑の連続出産という悪循環を止める
- 人間の生活必需品誕生のきっかけをつくる
- 猛烈な神を化成させる元となる
といった3点が設定されてます。
『古事記』の「火之夜芸速男神(火之炫毘古神、火之迦具土神)」は、このうち、②の「人間の生活必需品誕生のきっかけをつくる」という部分を切り出してます。
次!
②吐瀉物からも神が誕生。全部で6柱。伊耶那美命を「大地母的神格」として誕生する生活必需品の神々
火神を生んだことに因って、みほとを炙かれて病み臥せになって、嘔吐、脱糞、失禁、、そこから計6柱の神が誕生。
コチラ
N | 成った場所 | 成った神 | どんな神? |
1 | 嘔吐 | 金山毘古神、 次に金山毘売神。 |
たぐりに成った、溶けた鉱石の男と女の神 |
2 | 屎 | 波迩夜須毘古神、 次に波迩夜須毘売神。 |
屎に成った、祭器の土器をつくる粘土の男と女の神 |
3 | 尿 | 彌都波能売神、 次に和久産巣日神。 |
尿に成った、水の神と生成霊の神 |
コレ、
イメージ的には、伊耶那美命を「大地母的神格」として位置づけ、火を通じて、溶けた鉱石、祭器土器、水、五穀生成の神が生まれてる。
ここには、生活必需品、あるいは祭祀的なニュアンスも含まれてる、と解釈できなくもない。
なお、和久產巢日神の子として「豐宇氣毘賣神」が生まれてます。これも、やはり『日本書紀』〔一書2〕で五穀が稚産霊の体に生じたとする伝承から案出されたもの。
- 『日本書紀』:稚産霊ー五穀
- 『古事記』 :和久產巢日神ー豐宇氣毘賣神ー五穀
ちなみに、豐宇氣毘賣神は、伊勢神宮の外宮の祭神「豊食物神」であります。
次!
③神避る=神的な死。『日本書紀』と比較することでいろいろ見えてくる。
「ゆえに、伊耶那美神は火の神を生んだことに因って、遂に神避りなさった。」とあります。
「神避る」。神的な死の表現。
『日本書紀』では、「終」「去」「退去」などの表現が使われており、「神避る」は『古事記』的な表現で使われてます。
ポイントは、
「神避る」は、ただ単に死滅する以上に、この世界から避る(去る)、という位置づけであること。
これってつまり、伊耶那岐命中心の世界へ移行する、ということでもある。メインプレーヤー2神から1神が退場、残る1神がメインに。
実際、
このあとの神話は、伊耶那岐命が中心として展開し、それは黄泉往来譚を通じて、生(伊耶那岐命)と死(伊耶那美命)の対立構造と、決別、なんなら生の優位( 産屋建てる1500 VS 縊り殺す1000 )という着地へつながっていきます。
壮大な神話展開が用意されてる、この構想力に震えが止まりません、、、
次!
- 数えあわせて伊耶那岐、伊耶那美の二神が、共に生んだ嶋は10と4つの嶋であり、神は35柱である。是れ伊耶那美神、未だ神避る前に生んだ神ぞ。ただ、意能碁呂嶋のみは生んだものではない。亦た姪子と淡嶋は子の例には数えない。
- 原文: 凡伊耶那岐、伊耶那美二神、共所生嶋壹拾肆嶋、神參拾伍神。是伊耶那美神、未神避以前所生。唯意能碁呂嶋者、非所生。亦姪子與淡嶋、不入子之例也。
→これまでのまとめ的な注が挿入されてます。
国生みの嶋の数のほか、神を35柱としていますが、、、
『古事記』的神生みをまとめると、、
大事忍男神から速秋津比賣神まで | 9神 |
沫那藝神から國之久比奢母智神まで | 8神 |
志那都比古神から野椎神まで | 4神 |
天之狹土神から大戸惑女神 | 7神 |
鳥之石楠船神から和久產巢日神まで | 3+4=7神 |
合計35柱。
ということで、
ポイントは、男女ペア神については1神とカウントする、ってこと。
- 速秋津日子神と速秋津比賣神
- 大戸惑子神、大戸惑女神
- 金山毘古神と金山毘賣神
- 波邇夜須毘古神と波邇夜須毘賣神
なので、
大事忍男神のあとの速秋津比賣神までは10神誕生してますが、男女ペアが1組あるので、9神。
天之狹土神のあとの大戸惑女神までは8神誕生してますが、男女ペアが1組あるので、7神。
火神を生んだことで嘔吐、脱糞、失禁、、そこから6神誕生してますが、男女ペアが2組あるので、1(男女)+1(男女)+2=4神。
まとめると、
9+8+4+7+7=35柱
ということになります。
以上が、神生みの一旦の区切り。このあと、神が激変。これまでの尊貴な雰囲気から、一気に人間臭く、泥臭い「ドロドロ人間ドラマ」が展開します。。
まとめ
『古事記』「神生み」
神生みの果てに誕生する火神と伊耶那美の死、いかがでしたでしょうか?
『古事記』版の神生み。二神が生むのは全17柱の神々。その最後に火之夜芸速男神が生まれ、此の子を生んだことで、みほとを炙かれて病んだ伊耶那美命が神避り、神生みは中断することに。
『古事記』的には神生みは合計35柱としており、二神が直接生んだ神以外の神様たちも含めて神生みと位置付けてます。
ポイントは以下の通り。
- 神々を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで、「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくろうとしてる。
- 最初の10神については不可解。。体系なり、統一性なりが見いだせない。あえて定義するなら、大八嶋国の土台、そこに生起する自然物、自然現象か。
- 速秋津日子、速秋津比売の二神が生んだ神も詳細は不明。人間の生命維持に必要不可欠な水の重要性を伝えてる、、と解釈できなくもないが、、、
- 志那都比古神(風神)以降の4柱の神には壮大なストーリーらしきものあり。『日本書紀』と比べることで見えてくるものがある。
- 大山津見神、野椎神の二神による系譜的神生みも詳細は不明。原初の山や野は人間にとって未開の地である一方、恵みをもたらす地でもあって、、、畏怖もふくめた信仰みたいなのが表れてる。。?
- 海の神と山の神、船と食糧は要チェック。『古事記』的伏線設定。伊耶那岐と伊耶那美との血脈的「つながり」をもっていることを根拠として、その神威の強さ、そのスゴさを設定してる。
- 神生み全体の流れ、大事忍男神から始まり、石土毘古神から風木津別之忍男神は不可解な神が誕生、ここから大自然系へと転換、大綿津見神から始まり、海 →水門 →風 →木 →山 →野 →船 →食 →火 というプロセスの中で、実は人間が誕生していて、なんなら生活も始まってた。
- 火之夜芸速男神(火之炫毘古神、火之迦具土神)は、生まれた瞬間に、生んでくれた母を、おのが火によって死に至らしめるという、スゴイ神。日本神話史上初の神殺し&親殺し。
- 火神を生み、ほとを炙かれて病み臥せ嘔吐、脱糞、失禁、、のなかで誕生した神々は、伊耶那美命を「大地母的神格」として位置づけ、火を通じた生活必需品、あるいは祭祀的なニュアンスも含まれてる?
- 「神避る」は、ただ単に死滅する以上に、この世界から避る(去る)、という位置づけ。これにより、伊耶那岐命中心の世界へ移行する。
ということで、
当サイトとしては、『日本書紀』との違いも含めてしっかりチェックです。
『古事記』的神生み。非常に練られた、緻密に設計された神話世界が展開してるのが分かります。一つひとつに創意工夫を盛り込んでつくられている日本神話の世界。多彩で豊かな世界観は古代日本人の智恵の結晶なんだと思います。
続きはコチラ!ついに登場!人間モデル神!!?
佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!
ついでに日本の建国神話もチェック!
日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
→国生みからの神生みへ。継起的に続行。
ポイント2つ。
1つめ。
①なんで神様を生むのか?それはきっと天神ミッションからの流れ
神生みだから神生むんだよ、ってだけじやなくて、ちゃんと理由を考えたい。改めて、そもそも論をチェック。かなり重要。
「既に国を生み竟へて、更に神を生んだ。」とあります。もとはと言えば、天神による「是の漂っている国を修理め固め成せ。」という指令から。『古事記』における、初の、神が発した言葉。ココが起点。スタート地点。
「修理固成」、ふよふよ状態の未成熟な国を整えて固めなさい、と。「修理」=整えること、「固成」=固めること。
単に、国を(形状的に)整え固めるだけなら、大八嶋国を生むだけでよかったはず。続けて神生みする必要はありません。
でも、二神は国生みの後に、当然のように神生みする訳です。てことは、やはり、「修理固成」とは、形状変化以上の意味、つまり、ただよへる国を「瑞穂の国」へ仕上げていく意味を込めてると解釈できます。
神々を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで、「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくろうとしてる、ってことでチェック。
②『古事記』独自の創作神!?なんとも不可解な10神の誕生
そんな経緯、枠組みの中で誕生した最初の10神。
注を付して(大事忍男神より秋津比賣神に至るまで、幷せて十神ぞ。)って書いてあるってことは、これはこれでカテゴリ化したかった?
それぞれ
なんですが、、
実際のところ、この10神については不可解。。体系なり、統一性なりが見いだせないのが正直なところ。
7の「風木津別之忍男神」までは、大八嶋国の上に生むと推定されるので、土台形成的な意味をもち、8の大綿津見神という海の前なので、自然物のようにも考えられますが、、、やはり、体系や統一性は不明。
住居関連と括る解説が多いのですが、それはそのような雰囲気がする、というだけで勝手な解釈です。例えば、「天之吹男神」は、神名の原義で純粋に解釈すると「天上の気息を吹き付ける男神」となり、これが住居と関連するかは分からない。「萱葺」といった解説もあったりしますが、実際には分かりません。説明をつけたがる気持ちは分かりますが、捻じ曲げはご法度です。
一応、あえて定義するなら、
大八嶋国の土台、そこに生起する自然物、自然現象
って感じがギリギリ。これ以上はホント、よくわからないのです。
で、
この後、二神が生む神は、海から山、木、風、野などの大自然系へと移行。以後は、先ほどの『日本書紀』第五段〔一書6〕にも対応する神なので、理解しやすくなってきます。
その前に、系譜的な神名が登場してる、、、