天岩戸神話のプロデューサーは思兼神!?「深謀遠慮」と失われた世界秩序を回復する神事を読み解く

 

日本神話に伝える重要ワードやエピソードを、誰も頼んでないのに必要以上に掘り下げる「勝手にディープ日本神話解説」。

今回は、

天岩戸神話の神事とプロデューサー思兼神

をテーマにお届けいたします。

天岩戸神話で活躍する神といえば?どんな神を思い浮かべるでしょうか?

天照大神か、、天鈿女命か、、あるいは、最後に天照大神を外へ導き出す手力雄神かもしれません。

ですが!

よーく読むと、もう一柱、決して見逃せない神が浮かび上がる。それが、思兼神。

このお方、実は、天岩戸神話全体をプロデュースする役割を担っていて、かなり重要な神だったりします。

なんだが、、

思兼神の「深謀遠慮」による神事は

常世の長鳴鳥を鳴かせること

からスタート。って、、なぜ鳥???なぜ鳴かす??

でも、この不思議神事、実はめっちゃ深く考えられていて、

鶏 → 夜明け → 朝 → 朝廷 → 政務 → 統治者

という、つながりの中で構成されていたりします。

今回はそんな天岩戸神話の神事を、『日本書紀』第七段〔本伝〕をもとに、プロデューサー思兼神を切り口に分かりやすく解説していきます。

 

本記事の独自性、ここにしか無い価値

  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

天岩戸神話のプロデューサーは思兼神!?「深謀遠慮」と失われた世界秩序を回復する神事を読み解く

天岩戸神話を伝える『日本書紀』第七段〔本伝〕

まずは現場をチェック。

素戔嗚尊の無状あづきなし攻撃により、驚愕して、織り機の梭ひで身を傷つけてしまい、これでブチギレ。天石窟あまのいはやに入り、磐戸いはとを閉じて隠れ籠ってしまい、世界は常闇に包まれてしまった。。。てところから。

 この時、八十万神やそよろづのかみが天安河辺あまのやすのかはらに会合して、その祈るべき方法を計画した。それゆえ、思兼神おもひかねのかみは深謀遠慮をめぐらせ、遂に常世とこよの長鳴鳥ながなきどりを集めて互いに長鳴きさせ、また手力雄神たちからをのかみを磐戸の側に立たせた。そうして中臣連なかとみのむらじの遠祖とほつおや天児屋命あまのこやねのみことと忌部いみべの遠祖とほつおや太玉命ふとたまのみことが、天香山あまのかぐやまの五百箇いほつ真坂樹まさかきを根こそぎ掘り出し、上の枝には八坂瓊やさかにの五百箇御統いほつみすまるをかけ、中の枝には八咫鏡やたのかがみをかけ、下の枝には青和幣あをにきて、白和幣しろにきてをかけ、一緒にその祈祷きとうに尽くした。また猨女君さるめきみの遠祖天鈿女命あまのうずめのみことは、手に茅ちがやを纏まいた矟ほこを持ち、天石窟戸あまのいはやとの前に立って巧みに俳優わざおきをした。また天香山あまのかぐやまの真坂樹まさかきを鬘かづらにし、蘿ひかげを手繦たすきにして、かがり火を焚き、覆槽うけを伏せ置き、顕神明之憑談かむがかりした。

 この時、天照大神あまてらすおおかみはこれを聞いて「私がこのごろ石窟いはやを閉じて籠もっている以上、豊葦原中国とよあしはらのなかつくには必ず長く続く夜であるのに、どうして天鈿女命はこのように大笑いして楽しんでいるのだろうか。」と言い、そこで御手みてで磐戸いはとを少しだけ開いて窺うかがった。

 その時とばかり、手力雄神たちからをのかみが天照大神あまてらすおおかみの手を承け奉り、引いて石窟からお出し申し上げた。そこで、中臣神なかとみのかみと忌部神いみべのかみがただちに端出之縄しりくめなはを石窟の入り口に引き渡して境とし、そこで「二度とお戻りなさってはいけません。」と請い申しあげた。

※文中に挿入された注や別伝は割愛

引用:『日本書紀』第七段〔本伝〕より

ということで、

非常に有名な天岩戸神話の現場であります。まー、いろいろ謎なことやってるし、いろんな神が登場してパッと読んだだけではよー分からん世界ですよね。。

以下、その辺のことも分かりやすく解説していきます。ポイントは全部で5つ。

テーマは、「統治者・天照大神を本来の務めへ復帰させようとする思兼神の策略」であります。

 

思兼神はアイデアを出しただけじゃない!天石窟神事全体の「プロデューサー(演出者)」だった

まず最初に注目するのは、思兼神について使われた、「深謀遠慮」という言葉。

これ、分かりやすく言うと「目の前の手段だけでなく、最終的な結果まで見通して計画すること」で。

つまり、思兼神は、「とりあえず鶏を鳴かせてみよう」と提案しただけの神じゃなくて、最終的に、天照大神を外へ出し再び天石窟へ戻れない状態にするところまでを計画してるスゲー神ってことなんす。

これ、全体の流れを見てみると分かってくる。

全体の流れとしては、

  1. 八十万神が集まる
  2. 思兼神が「深謀遠慮」する
  3. 常世の長鳴鳥を鳴かせる
  4. 手力雄神をすでに磐戸の側へ配置する
  5. 神事に突入する

という順序ですが、

思兼神は、天照大神がまだ岩戸を開けていない段階で、最後に必要となる手力雄神を配置済みなんすよ皆さん!

そのうえで、

神事を行い天照大神が「磐戸いはとを少しだけ開いて外の様子を窺うかがった。その時とばかり、手力雄神たちからをのかみが天照大神あまてらすおおかみの手を承け奉り、引いて石窟からお出し申し上げた。」ってことで、

これ、言い方によっては、手力雄神たちからをのかみが天照大神の手を引いて外に出さなかったら、もしかすると天照は外の様子を窺っただけで岩戸の中から出てこなかったかもしれない!!とも言える。

なので、

神事全体と出てきた経緯をみると、最初の一手と最後の一手がつながっているのが浮かび上がりますよね。これが思兼神の「深謀遠慮」。思兼神的には最初から構想していた?見えていた??

これってつまり、思兼神は最初から最後まで天石窟神事全体をプロデュースしてると言えるてことで、ココしっかりチェック。

 

なぜ鳥を鳴かす??①「長鳴」は「夜明けを告げる鶏」と結びついていた

次に注目なのが「常世の長鳴鳥」。謎の鳥、、、そして、思兼さん、天照大神を岩戸から出すためになんで鶏を鳴かせんのか?ってところ。

これ、まずは名前に注目。

2つあって、まず一つ目は「長鳴」について。

参考となる例をいくつかご紹介。

『藝文類聚』巻九十一・鳥部中「鶏」に集められた詩・賦などから。

『藝文類聚』は、唐代初期に編纂された大規模な類書で、天から災異まで46部(子目727)に分類され、各項目ごとに重要な故事や史実(事)を載せ、その後にそれに関連する詩文(文)を典拠つきで併記してるスンゲー書物。早くから日本にも伝えられ、『日本書紀』の編纂にあたっても漢文の修飾(レトリック)や用例の典拠として大いに活用されたといわれてます。

ここから、、

晩唐の詩人である李商隠りしょういんの漢詩『鶏』の一節より。

「塒識将曙、長鳴高樹巓」(引用:梁・簡文帝「鶏鳴詩」)

訳:鶏はねぐらにいながらにして、まもなく夜が明けようとしていることを察知し、高い木のこずえに登って、長く尾を引く声で高らかに鳴いている。

続けて、、

「何伺晨之早発、抗長音之逸声」(引用:晋・陸善「長鳴鶏賦」)

訳:(この鶏は)どうして夜明けを待ちわびてこんなにも早く鳴き出し、長く伸びる声をどこまでも高く響かせるのだろうか。

続けて、、

「精神妙覚、独暁冥冥、風雨如晦、不愆其鳴」(引用:晋・湛方生「長鳴鶏賛」)

雄鶏の精神(すぐれた本能)は不可思議なほど鋭く目覚めており、まだ天地が夜の深い闇(冥冥)に包まれているうちから、独りだけでいち早く夜明けの本質を察知している。 たとえ激しい嵐(風雨)のために空が暗転し、まるで夜のようになってしまっても、雄鶏は惑わされることなく、時を告げるその鳴き声を決して間違えることはない。

ということで、

古代において、「長鳴」と「鶏」、そして「夜明け」が結びついてたことが伺えますよね。

つまり、長鳴= 鶏が長く鳴き、夜明けを告げる鶏、ってことで。

天岩戸神話に戻ると、

長鳴鳥は夜明けを告げる存在として位置付けられていて、思兼神的にはそれを踏まえて長鳴鳥を配置したと考えられる訳です!!コレも深謀遠慮での構想として、スゲーな思兼神。って私は何様でしょうか??

 

なぜ鳥を鳴かす??②「常世」の鳥だからこそ、闇の中でも鳴けたに違いない

続けて、謎の鳥「常世の長鳴鳥」についてポイント2つ目。

今回登場してるのは、「長鳴鳥」ではなく「常世の」長鳴鳥。フツーの鳥ではなく、常世の鳥なんす。これ、実は、あえて選ばれてるスペシャルな鳥だったりする!!

なぜかというと、、

この世界の鶏、フツーの鶏は、天照大神がいない闇の中では鳴かない訳ですよ皆さん!!

そうですよね。鳥さんだって夜明けの兆しとか東の空が白白と明けてくるのを察して長鳴きしてるハズで、今回のケースでは、天照が岩戸に籠ったまんまなので兆しもクソもない訳です。真っ暗闇。そりゃ鳴かんわ。

てことで登場するのが、常世の鳥!!

まずは、常世について解説を。詳しくはコチラ↓で!

常世國

ポイントは、

「常世」は普通には到達できない、隔絶した世界として位置付けられてる。普通の日常世界と連続した場所として単純には描かれていない、ってこと。

だからこそ、

「常世」の長鳴鳥であれば、逆に、通常の時間から隔絶された鳥なんで、夜が明ける兆しがなくても、天照が岩戸に籠ったまんまの闇の中でも、鳴いてくれる訳ですよ皆さん!!!

なので、

まだ朝が来ていない状況で、闇の中でも鳴いてくれる鳥として、常世の長鳴鳥でなければならなかった訳で、コレはもっと言うと、朝を先取りして演出するために必要な鳥として選ばれてる訳ですね。ここ激しくチェック。いや、まじスゲーな思兼神。って私は何様でしょうか??その2

 

鳥を鳴かす意味:『詩経』では、「鶏が鳴く」ことが「統治者、仕事の時間です」につながる

ここからは、鶏の名前からさらに突っ込んで「鶏が鳴く意味」を解説。

コレについては『詩経』斉風「鶏鳴」に参考となる記述があります。

『詩経』斉風「鶏鳴」は、朝を告げる鶏の声や空の様子をめぐって、妃が君主を起こそうとする様子が歌われた詩です。なお、『詩経』は、全体で約500〜600年(西周初期〜春秋時代)に成書化されました。

そこからいくつかご紹介。

「鶏既鳴矣 朝既盈矣」(引用:『詩経』斉風「鶏鳴」第一章より)

訳:鶏がもう鳴いたわよ、朝廷(の役人たち)はもういっぱい集まっているわよ」

他にも、

「東方明矣 朝既昌矣」(引用:『詩経』斉風「鶏鳴」第二章より)

訳:「(すっかり夜が明けて)東の空が明るくなったわよ。朝廷(の役人たち)はもうすっかり集まって出勤している時間よ」

と言うことで、

コレらは、賢い妃が怠けがちな君主(哀公など)を起こすために、「もう鶏が鳴いて夜が明け、役人たちが朝廷に出仕して待っていますよ」と急き立てている様子を詠んだものです。朝廷の政務の実行に向けて意識高く君主に働きかけてるのが賢妃であります。

ちなみに、、

鶏はすでに鳴いた。東方が明るくなった。その後の「朝」てのは、

漢詩大系『詩経 上』(高田眞治訳注)では、「会朝の朝の意味として、朝廷にて朝早く政務を聴くことと解する。」としています。つまり、「鶏鳴」が夜明けを告げたからには、朝廷の政務 はすでに盛んに執り行われていると。そんな風景。

なお、

コレらの詩に対する注釈をつけた書が『毛詩』詩序「鶏鳴」。この中では、以下のように伝えてます。

「鶏鳴、思賢妃也。哀公、荒淫怠慢。故陳賢妃貞女夙夜警戒相成之道焉。」

訳:『鶏鳴』の詩は、賢い妃を慕い、ほめたたえたものである。(斉の)哀公が酒色におぼれて淫乱で、政治を怠った。そのため、陳の国から嫁いできた賢く貞淑な女性(妃)が、朝から晩まで(夫である君主を)いさめ戒め、立派な君主に育て上げようとした道(心情・あり方)を述べたものである。

と。

今までご紹介してきた詩の内容をつなぐと、

鶏が鳴く
↓
朝が来る
↓
朝廷の政務が始まる
↓
統治者が政務を怠ってはいけない

となる訳で。

つまり、

鶏の鳴き声が、単なる、「朝ですよ」ではなく、「朝です。統治者として仕事をする時間ですよ」という意味へつながる訳です。

これをもとに再度、天岩戸神話を考えると、

思兼神の長鳴鳥の策てのは、統治者・天照大神に、その立場に伴う義務や責任を直接働きかける仕掛けとして位置付けられる訳ですね。スゴいよ思兼神、その深謀遠慮がマジですげー

 

思兼神は「賢臣」。天岩戸神話は統治秩序を回復する物語になる

で、先ほごご紹介した『詩経』斉風「鶏鳴」ですが、実はポイントはもう一つありまして。。それが

「賢妃けんぴ」

の存在。これ、統治者が寝過ごして政務を怠らないよう警戒する素敵な奥さんとして位置付けられてました。

構造的には、

隠れ籠ってしまった天照大神(統治者)へ働きかける思兼神と同じであって、思兼神の策は、長鳴鳥を鳴かせるだけではない!!

回復した世界を、すでに実現しているかのように天照大神へ演出するところに策の核心があります。

『詩経』側の「賢妃」に対応して、思兼神をは「賢臣」と言うべき存在なんですね。

賢臣

↓ 統治者を支え、危機に際して適切に政務を補佐する臣下。

さらに、思兼神が面白いのは、

自分ですべてやらないことです。

  • 長鳴鳥に朝を告げさせる
  • 天児屋命・太玉命に祭祀を担わせる
  • 天鈿女命の所作によって天照大神の関心を引く
  • 手力雄神を先に配置する
  • 最後は中臣神・忌部神が仕上げる

それぞれの神に、それぞれの役割があります。

コレはつまり、

神々が一致した意思を持ち、思兼神が各神の「職掌」に応じて仕事を割り当てる構造であって、つまり社会や組織を形成してる訳です。

職掌

↓ それぞれが担当する固有の役割・仕事。

このことから、天石窟神事には、まつりごとの体制が確立をみた、あるいはそれがすでに確立していたことを示す意味があって。ここが超重要。

つまりこれは、

「神様たちが協力して太陽を救いました」だけの話ではない。

統治者が退いた危機に、賢臣が各神の職掌を組織し、統治秩序を回復する物語

として見えてくる訳です。

長鳴 → 夜明け

鶏鳴 → 朝 → 政務

賢妃 → 統治者への働きかけ

という漢籍側の構造と、

長鳴鳥 → 天照大神

思兼神 → 統治者への働きかけ

という『日本書紀』側の構造との関連。いやー深い、、深すぎるぞ日本神話。

 

天岩戸神話のプロデューサーは思兼神 まとめ

天岩戸神話のプロデューサーは思兼神

あらためて、天岩戸神話全体を読むと、やっぱり思兼神の策は、最初から最後まで「深謀遠慮」でつながってる。思兼神は単なる「知恵の神」ではなく、「神事全体を設計する存在」として描かれてることがやっぱ重要。

さらに、

思兼神を「賢臣」と読むと、天岩戸神話そのものの意味が変わる。

「太陽が隠れたので連れ戻す物語」から、

「統治者が退いたことで崩れた秩序を、賢臣と職掌を持つ神々が回復する物語」へ。

これはこれでかなり深い話だったりしますよね。

面白いのは、古代漢籍の膨大な知識をそのまま活用するのではなく、

「常世の長鳴鳥」

「天鈿女命」

「手力雄神」

「天児屋命・太玉命」

という日本神話の要素へ組み込み、一つの物語として成立させているところ。

そこに見えてくるのは、古代日本人の単なる「知識量」だけではなく、知識を物語へ変換する創意工夫なんだと思います。

一羽の鶏から『詩経』へ。

『詩経』から賢妃へ。

賢妃から思兼神へ。

思兼神から高天原の「まつりごと」へ。

小さな一語を丁寧に追いかけることで、神話を編纂した人々の巨大な知識世界と、物語を設計する知性まで見えてくる。古代日本の神話づくりのすごさと、文献学で『日本書紀』を読む醍醐味だったりします。

 

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

 

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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