天照大神と素戔嗚尊の誓約の基本形をもとに、本伝と異伝の誓約構造の違いを考える

 

日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話補足解説シリーズ」。

今回は、

「天照大神と素戔嗚尊の誓約構造の違い」

をテーマにお届けします。

天照大神と素戔嗚尊の誓約は、一言で「誓約儀式」として括られてしまうのですが、実は、3つのバリエーションがあります。で、それをタイプ別に分類すると2つになる。

フツーに読んでると別に気にならないかもしれませんが、慎重に言葉を拾ってみると全然違うことが分かります。今回はそんな誰も突っ込まないぜ案件の「天照大神と素戔嗚尊の誓約構造の違い」について分かりやすく解説します。

 

天照大神と素戔嗚尊の誓約の基本形をもとに、本伝と異伝の誓約構造の違いを考える

誓約の基本構造

まずは、誓約の基本構造をチェック。基本を押さえてから現場をご案内。

日本神話のみならず『日本書紀』につたえる「誓」にまつわる伝承の多くが、「若」による仮定条件を表す句と、その帰結を表す句との句相互の関係によって成りたってます。

具体的には、

「条件句」に、なにごとか知りたい真実もしくは願わしい事柄などを仮定する。もし仮定したとおりだとすれば(もしくはそれに反するとすれば)、それに対応する事態が実際に発生する、もしくは発生させることを「帰結句」が表す。というもの。

条件句 なにごとか知りたい真実、もしくは願わしい事柄などを仮定する
帰結句 ・もし仮定したとおりだとすれば、それに対応する「事態」が現に発生する
・もし仮定したことに反するとすれば、同じく、それに対応する「事態」が現に発生する

で、

帰結として発生する「事態」は、発生が通常ほとんどありえない、超現実的な内容というのが通例で。そして、むしろ、これら超現実的な事態の発生が、仮定した事柄の真実もしくは願いの実現などを、いわば可視的に保証する訳です。

例えば、

誓約儀式を伝える『日本書紀』巻一第六段〔一書1〕では、以下のように伝えてます。

もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、お前の生む子は、必ず男だろう

~中略~

素戔鳴尊すさのをのみことが、たくさんの玉が連なった首飾りの玉を、天渟名井あまのぬないに濯いでこれを食べ、子を生んだ。名を、正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみことと言う。次に、天津彦根命あまつひこねのみこと。次に、活津彦根命いくつひこねのみこと。次に、天穂日命あまのほひのみこと。次に、熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと。合わせて五男神である。

それゆえ素戔鳴尊すさのをのみことは、勝ちの証拠を得た。

引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1〕より

ここでいう、

「もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば」が条件句。なにごとか知りたい真実、もしくは願わしい事柄などを仮定してますよね。

一方、「お前の生む子は、必ず男だろう」が帰結句。もし仮定したとおりだとすれば、それに対応する「事態」が現に発生するとしてる。今回で言えば「男を生む」。

それを承けて、、

「素戔鳴尊すさのをのみことが、たくさんの玉が連なった首飾りの玉を、天渟名井あまのぬないまたの名は去来いざの真名井まないというに濯いでこれを食べ、子を生んだ。名を、正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみことと言う。次に、天津彦根命あまつひこねのみこと。次に、活津彦根命いくつひこねのみこと。次に、天穂日命あまのほひのみこと。次に、熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと。合わせて五男神である。」ということで、実際に男神を生んだ。仮定したとおりだった訳で。それを承けて「それゆえ素戔鳴尊すさのをのみことは、勝ちの証拠を得た。」としてるんです。

上記内容が、「誓」の基本構造。まずこれをチェック。

 

天照大神と素戔嗚尊の誓約|第六段〔本伝〕

誓約の基本形を理解したところで、次は誓約の現場をチェック。まずは第六段〔本伝〕から。

(素戔嗚尊が)答えて「姉上と共に誓うけひすることをお願いします。この誓約うけひの中では、(誓約之中 ここでは「うけひのみなか」と云う)必ず子を生むことにしましょう。もし私の生むのが女であれば邪心があるとしてください。もし男であれば清き心があるとしてください」と言った。

引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔本伝〕より

ということで、

誓約の基本構造に入れ込んで整理してみると、、

条件句 ・もし私の生むのが女であれば
・もし男であれば
帰結句 ・(女なら)邪心があるとしてください。
・(男なら)清き心があるとしてください

となります。

ただ、、ちょっと待って。コレ、なんか違和感ありません?特に条件句。

「もし私の生むのが女であれば邪心があるとしてください。もし男であれば清き心があるとしてください」って、よーく見てみると、表現上は条件句なんですが、なにごとか知りたい真実もしくは願わしい事柄などを仮定するという要件をそなえてないですよね。。

さらに、帰結句として位置する「(女なら)邪心があるとしてください」「(男なら)清き心があるとしてください」にいたっては、超現実的な事態の発生になんらかかわりを持っていない。。

つまり、、

誓約の基本構造をもとに検証すると、実は、第六段〔本伝〕は、誓約とは似て非なるいかがわしい実態が見いだされるてことになります。

〔本伝〕て、誓約の初出であり、基本形なはずなのに、、、汗

ということで、

まずは、第六段〔本伝〕は、誓約の基本構造に沿った形になってない、ってことで、いきなりチェック。

ちなみに、第六段〔一書2〕も、〔本伝〕と同じ誓約条件になってます。

 この時天照大神あまてらすおおかみが、また問うて「お前の言葉が嘘か実まことか、何を持って証拠とするのか」と言うと、「私が姉上と共に誓約うけひを立てさせてください。誓約うけひの間に、女を生めば黒心きたなきこころとし、男を生んだら赤心きよきこころとしてください」と言った。

引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕より

ということで、

誓約の基本構造に入れ込んで整理してみると、、

条件句 ・女を生めば
・男を生んだら
帰結句 ・(女なら)黒心きたなきこころとし
・(男なら)赤心きよきこころとしてください

てことで、

確かに〔本伝〕と同じ構造、つまり表現上は条件句なんですが、なにごとか知りたい真実もしくは願わしい事柄などを仮定するという要件をそなえてない形になってます。

まとめると、

第六段〔本伝〕と〔一書2〕は同じ条件設定群としてまとめられるってことでチェック。

 

天照大神と素戔嗚尊の誓約|第六段〔一書1〕と〔一書3〕

続けて、他の異伝である第六段〔一書1〕と〔一書3〕をチェックしていきます。

まずは、〔一書1〕から(と言っても、一番最初に紹介した通りですが、、再掲)

もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、お前の生む子は、必ず男だろう

~中略~

素戔鳴尊すさのをのみことが、たくさんの玉が連なった首飾りの玉を、天渟名井あまのぬないまたの名は去来いざの真名井まないというに濯いでこれを食べ、子を生んだ。名を、正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみことと言う。次に、天津彦根命あまつひこねのみこと。次に、活津彦根命いくつひこねのみこと。次に、天穂日命あまのほひのみこと。次に、熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと。合わせて五男神である。

それゆえ素戔鳴尊すさのをのみことは、勝ちの証拠を得た。

引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1〕より

ということで、

誓約の基本構造に入れ込んで整理してみると、、

条件句 もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、
帰結句 お前の生む子は、必ず男だろう

となり、

「条件句」に、なにごとか知りたい真実もしくは願わしい事柄などを仮定。もし仮定したとおりだとすれば(もしくはそれに反するとすれば)、それに対応する事態が実際に発生する、もしくは発生させることを「帰結句」が表す形になってますよね。

続けて、

〔一書3〕もチェック。以下。

「お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、お前の生む子は必ず男である。

~中略~

そうしてのち素戔鳴尊すさのをのみことが、その左手の髻みづらに巻きつけていたたくさんの玉が連なった髪飾りの玉を口に含み左の手のひらにつけ、男を化生し、これを称たたえて「まさしくも、私が勝ったのだ」と言った。それによって名付け、勝速日天忍穂耳尊かちはやひあまのおしほみみのみことと言う。 ~以下略~

引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書3〕より

ということで、

誓約の基本構造に入れ込んで整理してみると、、

条件句 お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、
帰結句 お前の生む子は必ず男である

となり、

〔一書〕と同じ、基本構造に則った形になってます。

帰結として発生する「事態」は、発生が通常ほとんどありえない、超現実的な内容であり、むしろ、これら超現実的な事態の発生が、仮定した事柄の真実もしくは願いの実現などを、いわば可視的に保証する構造にもなってます。

ということで、まとめると、

実は、異伝たる〔一書1〕や〔一書3〕の方が、誓約の基本構造に則った形になってる、ってことでチェックです。

 

天照大神と素戔嗚尊の誓約を比較してみる

ということで、まとめとして、これまでご紹介した天照大神と素戔嗚尊の誓約構造を改めて並べてみます。

第六段〔本伝〕

条件句 ・もし私の生むのが女であれば
・もし男であれば
帰結句 ・(女なら)邪心があるとしてください。
・(男なら)清き心があるとしてください

続けて、

第六段〔一書2〕

条件句 ・女を生めば
・男を生んだら
帰結句 ・(女なら)黒心きたなきこころとし
・(男なら)赤心きよきこころとしてください

続けて、

第六段〔一書1〕

条件句 もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、
帰結句 お前の生む子は、必ず男だろう

続けて、

第六段〔一書3〕

条件句 お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、
帰結句 お前の生む子は必ず男である

ということで、、

並べてみると

  • 〔本伝〕と〔一書2〕
  • 〔一書1〕と〔一書3〕

では構造が違うのが分かりますよね。

超絶シンプルに、

〔本伝〕と〔一書1、3〕の誓約ロジックをまとめてみます。

〔本伝〕と〔一書2〕 〔一書1〕と〔一書3〕
女なら濁心、男なら清心 心明浄なら、必ず男
男を生んだので清心(勝ち曖昧) 男を生んだので心明浄 + 勝ち強調
結論:清心だった(曖昧にされ鬱憤?) 結論:心明浄+勝ち(ウェーイ!)

ということで、

〔本伝〕+〔一書2〕の誓約も、〔一書1,3〕の誓約も、いずれも結論は素戔嗚尊が清心だった・明浄だったってことで同じなんだが、条件句の設定の違いにより素戔嗚尊の心情的な違いが発生してるんです。ココ、超重要。

〔本伝〕は、「女なら濁心、男なら清心」ということで、あくまで場合分け的な条件設定になってます。なので、素戔嗚尊が男を生んだので清心証明されたんだが、誓約に勝った的な意味合いが曖昧になってる。本文でも天照大神の発言もことさら勝ちを強調するようには伝えていない。

一方の、〔一書1,3〕は、「心明浄なら、必ず男」ということで、「必」という言葉もついてきっぱり断定してますよね。場合分けとかでもない。なので、素戔嗚尊が男を生んだので明浄証明されたほか、勝ち確定が強調される訳です。本文でも素戔嗚尊の言葉でも勝ちを強調する言葉を伝えてます。

大事なのは、

いずれにしても、誓約儀式を経て素戔嗚尊の勝ちさび無双につながっていく訳で、その勝ちさびの実態とか背景とかいうのが、両方のニュアンスで捉えられるようになってるってことなんす。

〔本伝〕系を背景とすれば、一方的に嫌疑受けて言いたい放題言われて誓約で男を生んだのに勝ちかどうかを曖昧にされたうっぷんが爆発したから、とも解釈できるし、

〔一書1,3〕系を背景とすれば、誓約で完全勝利をおさめたので調子に乗って大暴れしたから、と解釈できる訳です。

第七段で伝える素戔嗚尊の勝ちさびは、こうした背景とか設定をもとに読み解くと深みがでておもろいと思います。激しくオススメ。

 

ということで、この続きは、、、

第六段〔本伝〕解説をチェックしたい場合はコチラ!

 

〔一書1,3〕はコチラ!

 

〔一書2〕はコチラ!

 

 

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この記事を監修した人

榎本福寿教授 佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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