『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は、
「国之常立神」
『古事記』では、神世七代の第一代として、また、独神と成りまし身を隠した神として伝えてます。国(国土)が永久に立ち続けることを予祝する神として非常に重要な位置づけになってます。
ちなみに、『日本書紀』では「国常立尊」として登場。
本エントリでは、「国之常立神」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
国之常立神くにのとこたちのかみ|国土が永久に立ち続けることの神。神世七代の第一代として、国(国土)の確立や世界を形づくる展開に道をつける神
目次
国之常立神とは?その名義
国之常立神 = 国土が永久に立ち続けることの神
『古事記』では、のちに国になっていく前段階の状態である「稚い国」がクラゲのようにただよっているときに、神世七代の第一代として、また、独神と成りまし身を隠した神として伝えてます。
「国」は、「国(国土)」の意。
「常立」=常に立つこと=恒常的に確立していることを意味。
そもそも、「常」は、独立した単語としては存在しません。ここで使われている「常」は、例えば「常し」(形容詞)「常しなへ」(形容動詞)などの「常」で、単語を構成する「語幹」です。「語幹」とは、語尾が変化する語の、変化しない(と見なす)部分のこと。で、この語幹「常」が、名詞と結びついた例が「常夏」「常宮」など。いろいろ結びつくわけです。
一方の、「立」は、「立つ」の名詞形の「たち」(動詞の連用形が名詞となる型。例:あそぶ→あそび、等)。
なので、「常立」とは、通常の用法である語幹「常」+名詞「たち」という組み合わせの形になります。
従って、常に立つこと、つまり、恒常的に確立していることを意味するのが「常立」。
「国之常立神」は、国(国土)が永久に立ち続けることを予祝する神として非常に重要な位置づけになってます。
天地開闢のはじめにおいては、「稚い国」がふわふわ漂っていた状態でした。だからこそ、その最初に必要なのは、国土が土台として永久に立ち続けることであり、そのための神様です。
ということで、
「国之常立神」=「国(国土)」+「恒常的な確立(永久に立ちづけること)」+「神」= 国(国土)が恒常的に(永久に)立ち続けることの神 |
国之常立神の誕生を伝える日本神話(『古事記』編)
「国之常立神」が登場するのは、『古事記』上巻、天地初発の神話。以下のように伝えてます。
次に、成った神の名は、国之常立神。次に、豊雲野神。この二柱の神も、独神と成りまして、身を隱した。 次に、成った神の名は、宇比地邇神。次に、妹 須比智邇神。次に、角杙神。次に、妹 活杙神(二柱)。次に、意富斗能地神。次に妹 大斗乃辨神。次に、於母陀流神。次に、妹 阿夜訶志古泥神。次に、伊耶那岐神。次に、妹 伊耶那美神。 上の件の、国之常立神より下、伊耶那美神より前を、あわせて神世七代という。 (引用:『古事記』上巻より)
ということで。
まず、天地初発に誕生する神々を整理するとこんな感じ。
▲「国之常立神」は、「別天神」という尊貴な神々の次に誕生する「神世七代」の一代目。また独神として位置づけられてます。
ポイント3つ。
①独神として成りまして、身を隠す
『古事記』独特の表現。「独神」として身を隠すとは、「双神」に、彼らの活躍する世界を譲り、自らは立ち退くこと、をいいます。
「双神」の代表格は、伊耶那岐と伊耶那美。まさに世界を創生する2神。国生みも神生みも、この世界を形作ったのは双神の御業で。それだけでも十分すぎるほど尊い話なんですが、それよりさらに尊い存在がいるってなれば、、、これはもう、、、よく分からない感じが必要で。
独神のあとに続けて誕生する「双神」に、彼らが活躍する世界を譲り、自らは立ち退く立場を取っている、というのは、まさにこの激しく奥ゆかしく神秘的な雰囲気が必要だから、とも言えます。やはり、、尊い存在はなかなか表には出てこないのです。。。だからこそ、なんかスゲーってなるんです。
次!
②「天之常立神」のあとに引き継いで「国之常立神」が成り、天や国の確立、そして世界を形づくる展開に道をつけている
先ほどの神様一覧でやはり目につくのは、天之常立神と国之常立神。コレ、明らかに「天」と「国」との対応関係が組み込まれてます。
改めて、「天之常立神」は、造化三神に続く、別天神の最後の神。別天神や神名から、天の側に属すと考えられます。
一方、「国之常立神」は、対偶神の「宇比地邇神と須比智邇神」や「角杙神と活杙神」など、国土の側に属する神世七代の筆頭。
で、
この対応関係や立ち位置が重要です。
「天」の側に属する別天神の最後の神と、「地」の側に属する神世七代の最初の神という対応は、「天と地との対応」に根差している。
言い換えれば、
「天の常立」のあとに、これを引き継いで「国の常立」が成り、互いに対応する関係をかたちづくっているという事。
さらに、以下には、この国の恒常的な確立に引き続いて、国を構成する具体的な事物と神々が次々に継起的に誕生していく流れになってます。
これはつまり、
天や国の確立、そして世界を形づくる展開に道をつけるために、「天の常立の神」と「国の常立の神」を対応させ、引き継がせている、という事です。
非常にダイナミックな展開が神名を通じて埋め込まれている。ココ、是非チェック。
次!
③神世七代の神名を通じて、世界が次々に具体的な形をとって展開するさまを表象している
世界を形づくっていくこと、その具体的な表れは「神世七代」の神名を通じて表現されます。
神世七代の神名の要点をまとめると、以下になります。
神名 | 表象するもの | |
第一代 | 国常立 | 天の常立神に続き、それと対応して成る国の恒常的確立(予祝) |
第二代 | 豊雲野 | 地上世界に豊かな雲のわき立つ野が出現したこと、地上世界の豊穣(予祝) |
第三代 | 宇比地&須比地 | 天→国、雲野→泥砂という対応に即した、地上世界の土台 |
第四代 | 角杙&活杙 | 土台としての大地に標識となる杙を打ち込む |
第五代 | 意富斗&大斗乃 | 打ち込んだところに(外と内を隔てる)戸(門)を造立 |
第六代 | 於母陀&阿夜訶 | 男と女をそれぞれ「面足る」「あや畏ね」と称える |
第七代 | 伊耶那岐&伊耶那美 | 男と女とが互いに誘いあう |
これ、ホントによくできた神名になっていて。
表象しているのは、神の世に、新しく世界が次々に具体的な形をとって展開するさまであり、以下のような物語展開。
- 先ずは、国(国土)が恒久的に(永久に)確立することを予祝
- その国(国土)に、豊穣を約束する「雲のわき立つ野」が出現することを予祝
- そのうえで双神により具体的な表れとして、大地の土台ができ、これを力強い杙がしっかり固定
- そして、男女の神により、互いに全き性を具有することを称えあい、誘い合う、、
、、、ステキですね。ゾクゾクします。
日本的な、極めて日本的な世界創生の物語。。。壮大な構想をもとにつくられていることをしっかりチェック。
『古事記』が伝える「国之常立神」をまとめます。
- 「国之常立神」は、国(国土)が永久に立ち続けることを予祝する神として非常に重要な位置づけ。天地開闢のはじめにおいては、「稚い国」がふわふわ漂っていた状態だった。だからこそ、その最初に必要なのは、国土が土台として永久に立ち続けることであり、そのための神様。
- 「別天神」という尊貴な神々の次に誕生する「神世七代」の一代目。また独神として位置づけられている。
- 独神として成りまし身を隠すことで、独神のあとに続けて誕生する「双神」に、彼らが活躍する世界を譲り、自らは立ち退く立場を取っている。
- 「天之常立神」のあとに引き継いで「国之常立神」が成り、天や国の確立、そして世界を形づくる展開に道をつけている。
- 「神世七代」の神名を通じて、世界が次々に具体的な形をとって展開するさまを表象している。
以上5つ。しっかりチェック。
国常立尊の誕生を伝える日本神話(『日本書紀』編)
続けて、『日本書紀』が伝える「国常立尊」についてもおまけとして解説。
『日本書紀』では、巻一の第一段と第三段に登場。
まさにその時、天地の中に一つの物が生まれた。それは萌え出る葦の芽のような形状であった。そして、変化して神と成った。この神を国常立尊と言う。次に国狭槌尊。さらに豊斟渟尊。あわせて三柱の神である。天の道は、単独で変化する。だから、この純男、つまり男女対ではない純粋な男神が化生したのである。(引用:『日本書紀』巻一(神代上)第一段〔本伝〕より)
ということで。
天地開闢における最初の神を「国常立尊」としています。
続けて、第三段。
合わせて八柱の神である。これは陰の道と陽の道が入り混じって現れた。それゆえ男と女の性となったのである。そして、国常立尊から、伊奘諾尊・伊奘冉尊に至るまでを、神世七代と言う。(引用:『日本書紀』巻一(神代上)第三段 本伝より)
ということで。
「国常立尊」は神世七代であり、その誕生の順番から一番最初の世代にあたる神としています。
『日本書紀』的には、「国常立尊」のポイントは4つ。
1つ目。
①「最初の神」として国土神があるのは、国土の恒常的確立の予祝をからめているから
『日本書紀』的には、天地開闢において最初に誕生した神が「国常立尊」としています。これは、『日本書紀』においては、天界よりも、天皇や人民の住む現実の国土の原初を求めることに主眼が置かれていたためで、「最初の神」として国土神があるのは、国土の恒常的確立の予祝をからめてのこと。位置づけの重要性をチェックです。
2つ目。
②天の道が単独で変化することにより、純粋な男性神として誕生した
『日本書紀』では、別箇所で「天の道は、単独で変化する。だから、この純男、つまり男女対ではない純粋な男神が化生したのである」と伝えてます。「天の道」とは「乾道」であり、天の徳、道理、本体、といったもの。ベースには、易の概念があって、陽の気、陰の気が混じり合って世界がつくられている。で、「国常立尊」は、坤とか陰とかが混ざらない、純粋な乾とか陽の要素から化生した神として、非常に尊い神として位置づけられてます。
3つ目。
③天地の中に生まれた萌え出る葦の芽のようなモノが変化して神と成った
神は、完全な形では生まれません。神は、まず物として、葦の芽のような形をして生まれる。それが神に化す。「化=化ける」「生=生まれる、なる」。「国常立尊」も同様に、「化す」という運動のなかで、葦の芽のような形のものが姿を変えて神様の形に変わったのです。コレ、超絶ジャパーン的。アニミズムの国だからこその神生成イメージ。
4つ目。
④世界のはじまりに誕生した、最初の神であり、神世七代という尊貴な神様カテゴリである
世界のはじまりに誕生した一番最初の神として、非常に重要な位置づけになってること、改めて確認。先ほど触れた「純粋な乾とか陽の要素から化生した神」も同じ意味あいです。また、神世七代という非常に尊貴な神様カテゴリに含まれてることも重要。
神様を一覧化すると、、、以下の通りです。
神世 | 神名 | 誕生方法 | 登場場所 |
一代 | 国常立尊 | 乾道独化 (純男の神) |
第一段 |
二代 | 国狭槌尊 | ||
三代 | 豊斟渟尊 | ||
四代 | 泥土煑尊 | 乾坤之道、相参而化 (男女一対の神) |
第二段 |
沙土煑尊 | |||
五代 | 大戸之道尊 | ||
大苫辺尊 | |||
六代 | 面足尊 | ||
惶根尊 | |||
七代 | 伊奘諾尊 | ||
伊奘冉尊 |
ということで、、
非常に合理的に組まれてます。「乾道独化」した「純男の神」は、最も尊い存在。なので「3」という陽数設定。一方の「男女ペアの神」は、次順の存在。なので「4」という陰数設定。
合理的で数学的にも美しい世界、それが『日本書紀』的な、天地開闢にまつわる神々誕生の神話観です。
まとめます。
- 「最初の神」として国土神があるのは、国土の恒常的確立の予祝をからめているから
- 天の道が単独で変化することにより、純粋な男性神として誕生した
- 天地の中に生まれた萌え出る葦の芽のようなモノが変化して神と成った
- 世界のはじまりに誕生した、最初の神であり、神世七代という尊貴な神様カテゴリである
以上4つ、『日本書紀』における「国常立尊」のポイントとしてチェック。
尚、神代紀上の一書では、「国底立尊」の別名をあげてます。これは、「国土の土台の成立」の意味。
国之常立神を始祖とする氏族
無し
国之常立神の登場箇所
国常立尊・国底立尊 『日本書紀』神代上
→「『日本書紀』巻第一(神代上)第一段 本伝 ~天地開闢と三柱の神の化生~」
→「『日本書紀』巻第一(神代上)第一段 一書第1~6 体系性、統一性、系統性を持つ一書群が本伝をもとに様々に展開」
国之常立神 『古事記』上
→「『古事記』天地開闢|原文と現代語訳|神名を連ねて物語る古事記の天地開闢を分かりやすく解説!」
国之常立神をお祭りする神社
● 國常立神社 天香久山の頂上にある神社
住所:奈良県橿原市南浦町326● 玉置神社 第十代崇神天皇の時代に王城火防鎮護と悪神退散のため創建
住所:奈良県吉野郡十津川村玉置川1● 熊野速玉大社 第三殿(証誠殿)ご祭神、家津美御子大神・国常立尊は、阿弥陀如来として
住所:和歌山県新宮市新宮1● 御嶽神社 国土系の神々として国常立尊、大己貴命、少彦名命を祭る
住所:長野県木曽郡王滝村3315● 日枝神社 日枝大神の一柱として国常立神を祭る
住所:東京都千代田区永田町2-10-5
コチラも是非!『古事記』を中心に登場する神様を分かりやすく解説!!!
佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ(S23)。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より 一部分かりやすく現代風修正。
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