『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「天之御中主神」
天(高天原)の中央に、主として座す神。同じく高天原に化成した、高御産巣日神と神産巣日神とのちょうど真ん中に当たる神として位置付けられます。
『古事記』では「天之御中主神」、『日本書紀』では「天御中主尊」として伝えます。
今回は、「天之御中主神」について、神名の名義、誕生にまつわる神話を詳しく解説していきます。
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
天之御中主神アメノミナカヌシノカミ|天(高天原)の中央に主として座す神!天地初発に高天原に成りました最初の独神
目次
天之御中主神とは?その名義
「天之御中主神」=天(高天原)の中央に主として座す神
「天」は、「天つ神」の住む天上界、特に高天原のこと。接頭語として、天上界を賛美する美称として用いられてます。
「御中」は、同一平面の中央ではなく、あれこれ対立するものの真ん中の意味。
「御中」の用例としては、例えば、『万葉集』で、富士山を詠んだ歌に「なまよみの甲斐の国、うち寄する駿河の国と、こちごちの国のみ中ゆ、出で立てる富士の高峰は(以下略)」とうたい、この山を、甲斐国(山梨県)と駿河国(静岡県)とあちらこちらの国のちょうど真ん中から聳え立つものと位置づけています。
「主」は、「主人・主君たるお方」という意味の尊称。
つまり、
富士山が四方を見下ろす独立峯であり、それゆえにまた山々の盟主であると同じく、天之御中主神も、神々の主たる位置に立つ、てことです。
ちなみに、、「造化三神」のなかでは、この「御中主」の位置が、同じく高天原に化成した高御産巣日神と神産巣日神とのちょうど真ん中に当たることになります。
ということで、
「天之御中主神」=「天(高天原)」+「(あれこれ対立するものの)真ん中」+「主人・主君たるお方」+「神」= 天(高天原)の中央に主として座す神 |
天之御中主神の活動と位置づけ(『古事記』編)
続けて、「天之御中主神」はどんな神なのか?、その活動からチェックです。
『古事記』において「天之御中主神」について伝えてるのは2か所。
- まず『古事記』序文で「造化三神」として伝え
- その後、本文で誕生を伝える
の流れ。
なので、まずは、『古事記』序文をチェック。序文とは、『古事記』の概略を説明した箇所。ココから、「造化三神」部分を抜粋。
乾坤(天と地)が初めて分かれ、三柱の神が創造のはじめとなり、陰陽(男と女)がここに開かれ、二柱の神(伊邪那岐命と伊邪那美命)が万物の祖となりました。
乾坤初分、參神作造化之首、陰陽斯開、二靈爲群品之祖 (※『古事記』序文より)
ということで。
「乾坤(天と地)が初めて分かれ、三柱の神が創造のはじめとなり、」とあるように、天地初発において、三柱の神が創造のはじめとなったとしてます。
『古事記』序文の原文では「造化」という言葉が使われているため、これを根拠に「造化三神」という神様カテゴリが言われるようになってます。
つまり、、
「天之御中主神」は、最初は神名を伝えておらず、「造化三神」という神様カテゴリだけを伝えてる。三神って何?ってなったときに本文をみると、高天原に「天之御中主神」をはじめとする三神が成りましたと伝えてるので、なるほどそういうことかと理解できるようになってます。
いずれにしても、最初に登場する序文では、「天之御中主神」は、「参神造化の首」とあり、造化の最初の神とされてることをチェック。
次に、いよいよ『古事記』本文をチェック。
「天之御中主神」は『古事記』上巻で登場。
天地が初めて發った時に、高天原に成った神の名は、天之御中主神。次に、高御産巣日神。次に、神産巣日神。この三柱の神は、みな独神と成りまして、身を隠した。
天地初發之時、於高天原成神名、天之御中主神訓高下天、云阿麻。下效此、次高御產巢日神、次神產巢日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。 (引用:『古事記』上巻より一部抜粋)
ということで。
ここではじめて「天之御中主神」が登場。ですが、、「天之御中主神」については、これ以上は何も伝えていません。なので、正直よく分からないのが実際の所であります。、
ただ、その中でもポイントとして5つあります。
- 天地初発に誕生した神である
- 高天原に成りました神である
- 三柱の神である
- 独神であり身を隠した
- 真ん中の神であるってことが重要
てことで、
以下、突っ込んで解説。
①天地初発に誕生した神である
そもそも、日本神話が神様たちのお話であることを考えると、その「最初に誕生した神であること」は非常に大きな意味をもちます。しかも、天地初発のまさに一番最初。
これはつまり、『古事記』的には神々の頂点に立つ存在として位置づけられてるってことです。それは、国を生み、神を生んだ伊耶那美命や伊耶那美命よりも上で、世界を統治する天照大神よりも上ってこと。トップオブザトップ。まずはこの位置づけ、しっかりチェック。
②高天原に成りました神である
高天原に成りましたってことも重要で。誕生する場所はつまり神格を決定づける重要なファクター。
●必読→ 高天原(たかまがはら)とは? 天の原からさらに上、世界を統治する至尊神の君臨する場所
参考として、『古事記』冒頭、天地開闢に誕生した他の神々と比較してみたのが以下。
天地開闢では、全12代、合計17柱の神々が誕生するのですが、この中で、高天原に誕生したと伝えるのは造化三神のみ。それだけ、非常に尊貴であるってことです。コレ、次のポイントとつながるお話。
③三柱の神である
三柱の神であること、つまり「造化三神」であることも非常に重要で。陽数が使用され、天地開闢の一番最初、高天原に成りました超スペシャルな神々であると位置づけられてる。これもしっかりチェック。
●必読→ 造化三神(ぞうかさんしん)|天と地ができたその原初の時に、高天原に成りました三柱の神神。あとに誕生する神神に、彼らが活躍する世界を譲り、自らは立ち退く立場を取る奥ゆかしすぎる神神。
④独神であり、身を隠した
独神であることも重要です。ですが、、、独神については『古事記』では詳細を語っておらずよー分からんのが正直なところ。ですが、直後の「身を隠した」という行動特性からその位置づけが推定できます。詳細はコチラで。
●必読→ 独神(ひとりがみ)|単独で誕生し、男女の対偶神「双神」と対応する神。双神が生みなしたこの世界と神々とに関わり、その活躍を導き助力する存在
要は、
双神に先行して誕生する独神が、双神の活躍に道を開き、なおかつ身を隠しながらも、双神が生みなしたこの世界と神々とに関わり、その活躍を導き、あるいは助力する存在であり続ける。
ってことで。「天之御中主神」も同様に、単独で生まれた尊い神で身を隠すんだけど、それはこの後に誕生する双神らがつくりだす世界を導く存在なんだと。陰ながら見守ってくれてるんだと、つまりそういう存在ってことですね。
最後!
⑤真ん中の神であるってことが重要
「天之御中主神」については、なんだかんだと、神名にある「真ん中の主」というのが重要。
コレ、関係性の話なので、つまり、一緒に誕生した高御産巣日神と神産巣日神をチェックすることで理解が深まります。
●必読→ 高御産巣日神|造化三神の一柱で、2番目に化成した独神。「産霊」ならびに「産日」の霊能を発動。
●必読→ 神産巣日神|造化三神の一柱で、3番目に化成した独神。生命体の蘇生復活を掌る至上神。
名義のところで解説したように、「御中=あれこれ対立するもののその真ん中」という意味から、天之御中主単体で解釈するのではなく、高御産巣日神と神産巣日神との関係を踏まえて理解する必要あるってことなんす。
日本神話的には、国や神々が誕生したあとの世界で、高御産巣日神は高天原系の神の代表、一方の神産巣日神は出雲系の神の代表として、それぞれ活躍します。
で、この両神、高天原代表と出雲代表が、その対立的関係のもとに、それぞれ高天原サポート、出雲サポートとして役割を分担してる訳です。
一方で、
対立的な関係とは言え、実質的には高天原系の神が出雲系の神を支配する関係でもあるため、それゆえに、両神を融和的に止揚する必要があるのです。
※止揚=対立する二つの概念や事物を、いっそう高次の段階に高めて、新しい調和と秩序のもとに統一すること。
この神話的要請に応える存在が、まさに、天之御中主神です。
天之御中主神については、往々にして「諸神の中心的な存在であるこの神が、再び登場することが無いのは不審である」と評されますが、真ん中に位置する存在そのものにこそ、この神の意義があると言えます。
活動すれば高御産巣日神と神産巣日神の役割分担に干渉しかねないばかりか、調和的な両神の関係を破りかねません。その意味で、両神の活動と役割分担を保証し、裏打ちする存在が天之御中主神と言える、だから身を隠すし後にも活動内容を伝えていないのです。
天之御中主尊(『日本書紀』編)
「天之御中主神」は、『日本書紀』では「天御中主尊」として伝えてます。以下、『日本書紀』巻一(神代上)第一段〔一書4〕からご紹介。
ポイントは、〔一書4〕が『日本書紀』本伝にたいする異伝であり、その異伝の中のさらなる異伝で伝えてるってところです。
ある書はこう伝えている。天地が初めて分かれ、初めに倶に生まれた(双生の)神がいた。名を国常立尊と言う。次に国狭槌尊。またこうも伝えている。高天原に生まれた神の名は、天御中主尊と言う。次に高皇産霊尊。次に神皇産霊尊。皇産霊は、ここでは「みむすひ」という。
一書曰、天地初判、始有倶生之神。号国常立尊。次国狭槌尊。又曰、高天原所生神名、曰天御中主尊。次高皇産霊尊。次神皇産霊尊。皇産霊、此云美武須毘。(『日本書紀』巻一(神代上)第一段〔一書4〕より)
ということで。
『古事記』とほぼ同様の伝承になってます。(『日本書紀』からすると『古事記』が同じ伝承になってると見えますが、、)
なので、
『日本書紀』で伝える「天御中主尊」についても、その名義や活動、役割については『古事記』とほぼ同じと考えてよくて、まとめると、
- 高天原に成りました神である
- 三柱の神である
- 真ん中の神であるってことが重要
一番最初!だったり、独神であったりが無い、あるいは伝えてないので分からないところですが、それ以外の3つはしっかりチェック。
天之御中主神を始祖とする氏族
後代において、中臣氏の遠祖として系譜づけられるようになりました。(『続紀』天応元年7月16日の条)
天之御中主神 まとめ
天之御中主神= 天(高天原)の中央に主として座す神
天(高天原)の中央に主として座す神として、同じく高天原に化成した高御産巣日神と神産巣日神との、ちょうど真ん中に位置する神です。
『古事記』本文から読み取れるポイントは5つ。
- 天地初発に誕生した神である
- 高天原に成りました神である
- 三柱の神である
- 独神であり身を隠した
- 真ん中の神であるってことが重要
中でも、大事なのは、「天之御中主神」単体で理解するのではなく、神名の通り、関係性の中で整理すること。
同時に誕生した高御産巣日神と神産巣日神。
高御産巣日神は高天原系の神の代表、一方の神産巣日神は出雲系の神の代表として、それぞれ活躍。
日本神話的には、高天原系と出雲系は対立的関係でもあり、とは言え、高天原系の神が出雲系の神を支配する関係でもあるので、それゆえに、両神を融和的に止揚する必要があります。この神話的要請に応える存在が天之御中主神ということ。
両神との調和的な関係の中で、もっというと、高天原と出雲との調和的な関係の中で、主として存在しているところに「天之御中主神」の中心的な役割と意味があります。
天之御中主神の登場を伝える日本神話の詳しい解説はコチラで!
天之御中主神を祭る神社の皆さん
主祭神として位置づけられている神社をピックアップ!
● 水天宮:日本の神々の祖先神であり、安産・子授けなどに広大無辺なご神徳
住所:東京都中央区日本橋蛎殻町2丁目4-1
● 秩父神社:北辰妙見として鎌倉時代に合祀!
住所:埼玉県秩父市番場町1-3
●天御中主神社:清水城の南側地形が北斗七星を象って見えることから北辰大明神と称される!
住所:鹿児島県霧島市国分清水3-4-17-17
● 墨坂神社:天地宇宙創造の神としてお祭り中!
住所:奈良県宇陀市榛原萩原703
● 天之御中主尊神社:虚空蔵大菩薩神社として祀られた経緯もあり!
住所:滋賀県近江八幡市中之庄町612
● 鎮宅霊符神社:国家安穏、五穀豊穣、家屋敷の安全を守る神としてお祭り中!
住所:奈良県奈良市陰陽町
● 天津神社:大津大神=造化三神の一柱としてお祭り中!
住所:京都府京都市北区平野宮本町89
● 建水分神社:金剛葛城の山麓に水神として奉祀
住所:大阪府南河内郡千早赤阪村水分357
● 和田神社:南濱の総氏神として広く人々に親しまれ崇敬されてます
住所:兵庫県神戸市兵庫区和田宮通3丁目2−45
● 天一神社:貞観13年国司源寛王が祈雨をしたところからの経緯
住所:愛媛県松山市藤野町91
● 宮部神社:秦氏族がこの地に移住し祖神を祀った経緯あり!
住所:滋賀県長浜市宮部町852
コチラも是非!『古事記』を中心に登場する神様たちをまとめてます!
佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より 一部分かりやすく現代風修正。
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