金鵄飛来=祥瑞応見|「瑞(みつ)」は王の聖徳に天が応えて示す「しるし」。古代にはそれなりのもんげー制度があった件

『日本書紀』神武紀

神武東征神話を分かりやすく解説するシリーズ

今回は18回目。

神武東征神話のクライマックス。大和最大最強の敵・長髄彦ながすねびことの最終決戦において、「金鵄きんし」が飛来するシーンをお届けします。

これ、超有名シーン。

忽然たちまちに、そら くら氷雨ひさめ ふる」なか、「金色のあやしきとび」が飛来し神武の弓の先に止まります。この金鵄きんしの「光り曄煜てりかがやき、流電いなびかりの如し」という威力に、長髄彦の兵卒はみな目がくらみ、戦闘不能の状態に!

昔から、いくつもの絵画に描かれてきました。

例えば、こんなのとか、

金鵄飛来
出典:月岡芳年「大日本名将鑑」より「神武天皇」。明治初期。

こんなのとか、、

金鵄飛来
出典:『国史画帳・大和桜』〔1935〕の「神武天皇東征之図」。

こんなのとか、

金鵄飛来
出典:ヨイコドモ 下 文部省著作発行 昭和16年発行(国民学校二年生用国定修身教科書)

他にも、

金鵄勲章
金鵄勲章

と、、、やっぱ右旋回していってしまうのがナニですが。。。汗。

本エントリでは「そもそもなぜ金鵄???」というところから、古代のディープな祥瑞応見しょうずいおうけん」と呼ばれる制度の概要をご紹介します。

 

祥瑞応見|「瑞(みつ)」は王の聖徳に天が応えて示す「しるし」。古代にはそれなりのもんげー制度があった件

 

まず、そもそも論は古代中国の文献から。

天道聰明てんどうそうめい、善をたすけ、悪にわざわいし、瑞異ずいい(=瑞祥や変異)を以て符效ふこうす。『漢書』元后伝

要は、

  • 天が、善を助け、悪に災いを降らす
  • その際には、「符效ふこう=しるし」を示す

という考え方であります。

 

  • 良い行い、良い政治には、良いしるしを。
  • 悪い行い、悪い政治には、悪いしるしを。

それぞれ天が示しますよ、と。

 

でだ。

その中で、すばらしい徳をもって、もんげー政治を行えば、天がその聖徳に応えてしめす「しるし」がこの世に登場すると。

これを祥瑞応見しょうずいおうけんといいます。

  • 祥=めでたい
  • 瑞(ずい=みつ)=しるし

 

特に、鳥で現れるのが多かったようです。

珍鳥登場=めでたいしるし=聖徳の証

という訳。

古代中国の鳥類の瑞には、「瑞燕(つばめ)」「瑞応鳥(鳳凰)」「瑞鶴(つる)」「瑞雁(かり)」「瑞禽(鸞=らん の類)」「瑞鵲(かささぎ)」「瑞雉(きじ)」などがあるのです。

 

(゚A゚;)ゴクリ めっちゃあるやん・・・

 

「鵄瑞」はこれらに通じるんですね。

「金鵄」理解のためには、まずこの基本的な考え方の理解が必要です。

その上で、日本でどのように解釈・運用されてたか?を以下簡単に。

※コレ、ディープすぎるので概要レベルに留めますが、制度と事例の2つに分けてご説明します。

 

祥瑞応見の制度概要

まず、制度から。

『儀制令(養老令)』では、「祥瑞応見しょうずいおうけん」について取扱を定めています。

基本的には、

  • 発見→報告→認定→奏上→褒賞

という流れ。

祥瑞応見しょうずいおうけん

で、

発見された「瑞=みつ」にもランクがあって、

  • 大瑞、中瑞、下瑞

に分けられていたようです。

 

まず、「大瑞」であれば、これはもんげーめでたい事なので、ソッコーで奏上です。

要は、天皇にご報告!もんげー!で、勅によって発表。

それ以外なら翌年の「元日」に発表という流れ。ま、これはこれで、そこそこめでたいということで。

 

とにもかくにも、発見したらすぐ報告。

報告に当たっては、品目や発見場所を知らせる事!

 

、、、たしかに大事だ。

動物で生きたまま捕獲された場合は、そのまま山野に放ちます。

もったいない気もしますが、超めでたいしるしですから。殺さないための措置だったようです。

 

また、捕獲または持ち運びできない場合は、都への配送は不要との事。

その代り、図を描いて送れと。この判断は、祥瑞を受け付けた役所=国郡とその役人に委ねられていたようです。

発送先は、治部省。ここでは、祥瑞の扱いを決定することが職務として含まれていました。

 

で、めでたすぎる場合は、なんらかの賞を発生させることになります。

これは、臨時の勅によってなされます。

 

以上。

ま、概要レベルでは以上で十分かと。この制度、都度変更されていたようで、どの時点の内容かによっていろいろ分かれるので、このへんで。

 

次に、実際の運用事例について。

祥瑞応見の運用事例

例えば、

大化の改新を断行した孝徳天皇の時代に「白雉しろきぎす」が出現!

みことのりに、「聖王出でて、天下を治むる時に、天応えて其の瑞祥ずいしょう(みつ)を示す。」と記述あり。

で、皇太子は「よごと」を奉り、「陛下、清平なる徳を以て天下を治むるが故にここに白雉 西の方(長門)より出づること有り。」と伝えます。

そして、白雉の出現を天の示しためでたいしるしとして、元号を大化から「白雉」に改めてもいます。

他、例えば、天武天皇15年にも「朱鳥」を得て改元しています。

他にも、発見された場所を担当する役人さんの人事考課が良くなったり。。。このあたりの対応は今も昔も変わりませんね。

 

といった感じです。

制度と事例、それぞれ、へーそうなんだ的な感じでチェックしておいていただければと。

 

要は、神武東征神話のクライマックスで登場する「金鵄きんし」は、こうした背景がある事を理解しておいていただければと思う次第。

 

まとめ

祥瑞応見しょうずいおうけん

古代より、天が、良い政治には良いしるしを、悪い政治には悪いしるしを示す、という考え方がありました。

その中で、すばらしい徳をもって、もんげー政治を行えば、天がその聖徳に応えてしめす「しるし」がこの世に登場すると。

これは、「祥瑞応見」の制度として実際の政治にも組み込まれており、さらに発生事例もあるくらい、超重要事項でありました。

神武東征神話における「金鵄(きんし)」飛来には、こうした背景がある事を踏まえて読み進めるといいと思います。

そして、東征神話における意味としては、

金鵄の飛来=東征を勧奨・奨励する、つまり、天が背中を押して応援していることを伝える事があります。

天神とは別に、天が東征に目に見えるかたちで聖徳の偉業認定を下した。

その「しるし」が「金鵄」の飛来なのです。

 

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本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)、他

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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