神武東征神話を分かりやすく解説するシリーズ
目次
今回は18回目。
神武東征神話のクライマックス。大和最大最強の敵・長髄彦との最終決戦において、「金鵄」が飛来するシーンをお届けします。
これ、超有名シーン。
「忽然に、天 陰く氷雨る」なか、「金色の霊しき鵄」が飛来し神武の弓の先に止まります。この金鵄の「光り曄煜き、流電の如し」という威力に、長髄彦の兵卒はみな目がくらみ、戦闘不能の状態に!
昔から、いくつもの絵画に描かれてきました。
例えば、こんなのとか、
こんなのとか、、
こんなのとか、
他にも、
と、、、やっぱ右旋回していってしまうのがナニですが。。。汗。
本エントリでは「そもそもなぜ金鵄???」というところから、古代のディープな「祥瑞応見」と呼ばれる制度の概要をご紹介します。
祥瑞応見|「瑞(みつ)」は王の聖徳に天が応えて示す「しるし」。古代にはそれなりのもんげー制度があった件
まず、そもそも論は古代中国の文献から。
天道聰明、善を佑け、悪に災し、瑞異(=瑞祥や変異)を以て符效を為す。『漢書』元后伝
要は、
- 天が、善を助け、悪に災いを降らす
- その際には、「符效=しるし」を示す
という考え方であります。
- 良い行い、良い政治には、良いしるしを。
- 悪い行い、悪い政治には、悪いしるしを。
それぞれ天が示しますよ、と。
でだ。
その中で、すばらしい徳をもって、もんげー政治を行えば、天がその聖徳に応えてしめす「しるし」がこの世に登場すると。
これを「祥瑞応見」といいます。
- 祥=めでたい
- 瑞(ずい=みつ)=しるし
特に、鳥で現れるのが多かったようです。
珍鳥登場=めでたいしるし=聖徳の証
という訳。
古代中国の鳥類の瑞には、「瑞燕(つばめ)」「瑞応鳥(鳳凰)」「瑞鶴(つる)」「瑞雁(かり)」「瑞禽(鸞=らん の類)」「瑞鵲(かささぎ)」「瑞雉(きじ)」などがあるのです。
(゚A゚;)ゴクリ めっちゃあるやん・・・
「鵄瑞」はこれらに通じるんですね。
「金鵄」理解のためには、まずこの基本的な考え方の理解が必要です。
その上で、日本でどのように解釈・運用されてたか?を以下簡単に。
※コレ、ディープすぎるので概要レベルに留めますが、制度と事例の2つに分けてご説明します。
祥瑞応見の制度概要
まず、制度から。
『儀制令(養老令)』では、「祥瑞応見」について取扱を定めています。
基本的には、
- 発見→報告→認定→奏上→褒賞
という流れ。
祥瑞応見
で、
発見された「瑞=みつ」にもランクがあって、
- 大瑞、中瑞、下瑞
に分けられていたようです。
まず、「大瑞」であれば、これはもんげーめでたい事なので、ソッコーで奏上です。
要は、天皇にご報告!もんげー!で、勅によって発表。
それ以外なら翌年の「元日」に発表という流れ。ま、これはこれで、そこそこめでたいということで。
とにもかくにも、発見したらすぐ報告。
報告に当たっては、品目や発見場所を知らせる事!
、、、たしかに大事だ。
動物で生きたまま捕獲された場合は、そのまま山野に放ちます。
もったいない気もしますが、超めでたいしるしですから。殺さないための措置だったようです。
また、捕獲または持ち運びできない場合は、都への配送は不要との事。
その代り、図を描いて送れと。この判断は、祥瑞を受け付けた役所=国郡とその役人に委ねられていたようです。
発送先は、治部省。ここでは、祥瑞の扱いを決定することが職務として含まれていました。
で、めでたすぎる場合は、なんらかの賞を発生させることになります。
これは、臨時の勅によってなされます。
以上。
ま、概要レベルでは以上で十分かと。この制度、都度変更されていたようで、どの時点の内容かによっていろいろ分かれるので、このへんで。
次に、実際の運用事例について。
祥瑞応見の運用事例
例えば、
大化の改新を断行した孝徳天皇の時代に「白雉」が出現!
詔に、「聖王出でて、天下を治むる時に、天応えて其の瑞祥(みつ)を示す。」と記述あり。
で、皇太子は「賀」を奉り、「陛下、清平なる徳を以て天下を治むるが故に爰に白雉 西の方(長門)より出づること有り。」と伝えます。
そして、白雉の出現を天の示しためでたいしるしとして、元号を大化から「白雉」に改めてもいます。
他、例えば、天武天皇15年にも「朱鳥」を得て改元しています。
他にも、発見された場所を担当する役人さんの人事考課が良くなったり。。。このあたりの対応は今も昔も変わりませんね。
といった感じです。
制度と事例、それぞれ、へーそうなんだ的な感じでチェックしておいていただければと。
要は、神武東征神話のクライマックスで登場する「金鵄」は、こうした背景がある事を理解しておいていただければと思う次第。
まとめ
祥瑞応見
古代より、天が、良い政治には良いしるしを、悪い政治には悪いしるしを示す、という考え方がありました。
その中で、すばらしい徳をもって、もんげー政治を行えば、天がその聖徳に応えてしめす「しるし」がこの世に登場すると。
これは、「祥瑞応見」の制度として実際の政治にも組み込まれており、さらに発生事例もあるくらい、超重要事項でありました。
神武東征神話における「金鵄(きんし)」飛来には、こうした背景がある事を踏まえて読み進めるといいと思います。
そして、東征神話における意味としては、
金鵄の飛来=東征を勧奨・奨励する、つまり、天が背中を押して応援していることを伝える事があります。
天神とは別に、天が東征に目に見えるかたちで聖徳の偉業認定を下した。
その「しるし」が「金鵄」の飛来なのです。
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本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)、他
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