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『古事記』を中心に登場する神様をご紹介します。今回は「宇摩志阿斯訶備比古遅神」です。
『古事記』では「宇摩志阿斯訶備比古遅神」、『日本書紀』では「可美葦牙彦舅尊」として登場。
宇摩志阿斯訶備比古遅神|国土浮漂のとき、葦芽のように勢いよく芽生え伸びてゆくものを、神の依代として化成した独神で、身を隠していた別天つ神
『古事記』における宇摩志阿斯訶備比古遅神の誕生
天地初めて發りし時に、高天の原に成りませる神の名は、天之御中主の神。次に、高御産巣日の神。次に、神産巣日の神。此の三柱の神は、みな独神と成りまして、身をお隠しになった。
次に、国が稚く、浮ける脂のごとくして、海月なすただよへる時に、葦牙のごとく萌え騰る物によりて成りませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅の神。次に、天之常立の神。此の二柱の神も、みな独神と成りまして、身をお隠しになった。 上の件の五柱の神は、別天つ神ぞ。
『日本書紀』における可美葦牙彦舅尊の誕生
参考として:『日本書紀』巻第一(神代上)第一段〔一書2〕
ある書はこう伝えている。昔、国も土地もできて間もなく幼かったころは、例えるなら水に浮かんだ脂の状態で漂っていた。そんな時、国の中に物が生まれた。その形は葦の芽が突き出たようであった。これにより変化して生まれた神があった。その名を可美葦牙彦舅尊と言う。次に国常立尊。次に国狭槌尊。葉木国は、ここでは「はこくに」という。可美は、ここでは「うまし」という。

宇摩志阿斯訶備比古遅神の名義
立派な葦の芽の男性。
「宇摩志」は、良いものを心に感じて讃ほめる語。
「阿斯訶備」は春先に萌え出る葦の芽。
「訶備」は「黴」と同源の言葉で、物が発酵すること、芽吹くこと。
「比古遅」は、男性への親称。
宇摩志阿斯訶備比古遅神の活動と位置づけ
国土浮漂のとき、葦芽のように勢いよく芽生え伸びてゆくものを、神の依代として化成した独神で、身を隠していた別天つ神。

天地開闢に誕生した神々の中で、4代目の神で、天に誕生、別天神であり独神。
独神なので、男女の性別以前の神なのに、「比古遅」という男性への親称をつけるのは矛盾します。しかし、これは、葦芽の形態と勢いから、陽神として捉えたことによる命名と思われます。
この神を天つ神としたのは、葦の芽が中空にあってなお天を志向しているから。
『日本書紀』神代紀上では、「国常立尊」とともに化成し、国土神として位置づけし、「始めて神人有り」と述べているように、人格神としているので、その意味からも「彦舅」をつけてもおかしくはありません。
葦芽が神名となったのは、葦の芽の勢いのよさにありますが、葦は元来、邪気を払う植物であったこと、また葦の生える土壌であれば必ず稲が育つという信仰に支えられてのことです。
始祖とする氏族
無し
登場箇所
『日本書紀』神代上:「可美葦牙彦舅尊」
『古事記』上:「宇摩志阿斯訶備比古遅神」
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より 一部分かりやすく現代風修正。
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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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