「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」は、島根県松江市にある日本神話伝承地。
ココ、この世から黄泉国(死の国)へ至るとされる坂で、ココから先は死者の世界が広がる、、それはそれは恐ろしいスポット。
現地は、人気のない山の中にあって、ひんやりとした空気がただよっています。
「黄泉比良坂伊賦夜坂」は、日本最古の書物『古事記』に登場。伊耶那岐命が、死んだ伊耶那美命を追って黄泉国へ入る神話の中で伝えられてます。
今回は、日本神話ファンとしては絶対に外しちゃならない鉄板おススメスポットについて、現地の様子のほか、『古事記』の原文と詳しい解説付きでご紹介します!
黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地|あの世の入口??この世から黄泉国へ至る坂の伝説地はおどろおどろしい空気が流れ込んでくるような気がした件
目次
黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地への道
「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」は島根県松江市にある神話伝承地。
出雲は、出雲神話と呼ばれる独自の神話があります。対する日本神話の中でも出雲が登場するのですが、どちらかというと伊奘冉系の神々やそれにまつわる神話伝承地が多くあります。
今回ご紹介する「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」もその一つで、近くには揖夜神社があったり、エリア一帯が伊奘冉系の死の匂いを発するミステリアスゾーンになってます。
場所は、島根県松江市東出雲町揖屋2407。
山陰道、9号線から山に入っていきます。
▲9号線から松江方面を臨む。右手の山をぐるっと回っていく感じで、途中から山道らしき道を登っていきます。
▲若干不安になるような細い道ですが、気にせずどんどんゴー!でも、黄泉の入口が近いから気をつけて。。。
▲こちら、「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」の駐車場。4~5台が停められるくらいのミニパーキング。黄泉の入口近くにパーキングがあるなんて!便利な世の中になったもんだ!
▲駐車場右手に、「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」へ入っていく道があります。パーキングをぐるっと迂回する感じで伝説地に入っていきます。
▲沼の主が棲んでいそうな雰囲気。。。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
そして、
こちらが黄泉の国への入口!!!
黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地
おおおおおお!!!キタ━ヽ(゚∀゚ )ノ━━!!!!
黄泉の入口!!!
なんて恐ろしい場所なんだ!!!
、、、て、どこが入口? どれが塞いだ岩??
ちょっとよくわからない、、、涙
他、、、
昭和15年、「神蹟黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」と刻んだ石碑が設立されました。昭和15年、何かと日本神話的に大きな転機となった年ですね。
●必読→ 神武天皇聖蹟調査(昭和15年)による「聖蹟顕彰碑」まとめ|大人の事情満載だけど確かなものもきっとある件 (マニア限定)
黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地にまつわる日本神話
現地の状況はともかく、『古事記』で伝える日本神話をチェックしておきましょう。
ここに、(伊耶那岐命は)伊耶那美命に会おうと欲って、黄泉国に追っていった。
そうして、(伊耶那美命が)御殿の閉じられた戸から出て迎えた時、伊耶那岐命は「愛おしい我が妻の命よ、私とお前が作った国は、まだ作り終えていない。だから還ろう。」と語りかけた。すると、伊耶那美命は答えて「残念なことです。あなたが早くいらっしゃらなくて。私は黄泉のかまどで煮炊きしたものを食べてしまいました。けれども、愛しき我が夫の命よ、この国に入り来られたことは恐れ多いことです。なので、還ろうと欲いますので、しばらく黄泉神と相談します。私を絶対に見ないでください。」と言った。
このように言って、その御殿の中にかえり入った。その間がとても長くて待ちきれなくなった。そこで、左の御美豆良に刺している神聖な爪櫛の太い歯を一つ折り取って、一つ火を灯して入り見たところ、(伊耶那美命の身体には)蛆がたかってごろごろ音をたてうごめき、頭には大雷がおり、胸には火雷がおり、腹には黒雷がおり、陰には拆雷がおり、左の手には若雷がおり、右の手には土雷がおり、左の足には鳴雷がおり、右の足には伏雷がおり、あわせて八つの雷神が成っていた。
そこで、伊耶那岐命は、その姿を見て恐れて逃げ還る時に、その妹伊耶那美命が「よくも私に辱をかかせましたね」と言って、黄泉の醜女を遣わして追いかけさせた。ここに伊耶那岐命は、黒御縵を取って投げ棄てると、たちまち山ぶどうの実が生った。(醜女が)これを拾って食む間に、逃げて行く。なおも追ってくるので、また、その右の御美豆良に刺していた神聖な爪櫛の歯を折り取って投げると、たちまち笋が生えた。(醜女が)これを拔き食む間に、逃げて行った。また、その後には、八種の雷神に、千五百の黄泉軍を副えて追わせた。そこで、腰に帯びていた十拳劒を拔いて、後手に振りながら逃げて来た。なおも追いかけて、黄泉比良坂のふもとに到った時、そのふもとに生えていた桃子を3つ取って、待ち撃ったところ、ことごとく逃げ返った。
そこで伊耶那岐命は、その桃子に「お前が私を助けたように、葦原中国に生きているあらゆる人々(青人草)が苦しい目にあって患い困る時に助けるがよい。」と告げて、意富加牟豆美命という名を授けた。
最後に、その妹伊耶那美命が自ら追ってきた。そこで、千人かかってやっと引きうごかせるくらいの岩をその黄泉比良坂に引き塞いで、その岩をあいだに置いて、おのおの向かい立って、離縁を言い渡した時、伊耶那美命が「愛しい我が夫の命よ、このようにされるならば、私はあなたの国の人草を、一日に千人絞め殺しましょう。」と言った。そこで、伊耶那岐命は「愛しい我が妻の命よ、お前がそのようにするならば、私は一日に千五百の産屋を建てよう。」と言った。
こういうわけで、一日に必ず千人死に、一日に必ず千五百人生まれるのである。ゆえに、その伊耶那美命を号けて黄泉津大神という。また言うには、その追って来たのをもって道敷大神という。また、その黄泉の坂に塞いだ石は、道反之大神と名付け、また塞ぎ坐す黄泉戸大神ともいう。ゆえに、其のいわゆる黄泉比良坂は、今、出雲国の伊賦夜坂という。 (『古事記』上巻より抜粋)
ということで、以下ポイント解説。
- 黄泉国に追っていった。
→日本神話では、この世とあの世はつながってる設定。なので、死者を追っていくとそのまま黄泉国に辿り着けるんです。
- (伊耶那美命が)御殿の閉じられた戸から出て迎えた時
→御殿あり。この御殿は『古事記』では、異界を象徴するもの。
この象徴する建物、実は、日本神話に登場する「異界」によって設定が違います。
- 黄泉・・・殿
- 根国・・・室
- 海神国・・・魚鱗のごと造れる客室
この黄泉国の「殿」は、志怪小説の世界を反映。街があり、役所があり、貴人の住む住居が「殿」。もちろん、従者も大勢いるらしい、、、
次!
- 「愛おしい我が妻の命よ、私とお前が作った国は、まだ作り終えていない。だから還ろう。」と語りかけた。
→『古事記』黄泉往来譚の前段で、伊耶那岐命と伊耶那美命が二神で「国生み」をしていた経緯のことを言います。伊耶那岐命は未完の事業を完遂するために、伊耶那美を迎えにきたんです。いや、多分愛情もあったとは思うけど、。。
次!
- 残念なことです。あなたが早くいらっしゃらなくて。私は黄泉のかまどで煮炊きしたものを食べてしまいました。
→伊耶那美命としては、愛する夫が来るのを待ち焦がれていた。でも、待っている間に黄泉の国の食べ物を食べてしまった(黄泉戸喫をしてしまいました)。
「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、ある共同体への帰属、一員になるかどうかは、その共同体で食されてる物を食べるかどうかだったりします。伊耶那美命が「もう食べちゃったよ」と言ってるってことは、黄泉国の住人になった、つまり元には戻れない、、、といった意味になります。
次!
- しばらく黄泉神と相談します。私を絶対に見ないでください。
→「還ろう」という旦那の誘いに対して「黄泉神に相談します」との回答。元の世界に還るには相談、そして許可が必要だってことですよね。めっちゃオモロー!な世界観です。
黄泉国には統治者がいる。その統治者とは「黄泉神」であり、黄泉の長官。後で解説しますが、その原型は「泰山府君」。唐代以降「裁き」が追加されて「閻魔大王」になっていくお話。だからこそ、統治ルール上、黄泉国を出るときには長官の許可が必要という事。国としての世界観が設定されてることをチェック。
「私を絶対に見ないでください。」と言った。」とあります。伊耶那美命が課す「見るなの禁」。日本神話では他にも、
- 鹿葦津姫の出産
- 豊玉姫の出産
でも同様に、見るなの禁が登場。いずれも、男が見てしまうことで女の正体が露見するパターン。ポイント4つ。
- 男(人間)に対して女(異類)が見るなと禁を課す。
- それは女にとって見られたくないものであり、通常は、異類の本質・本性である。
- また、それだけに、男としては余計に見たくなるという心理が働く仕掛けになってる。
- その結果、見てしまい、正体露見により、異類とは別れるほかないという必然を物語に織り込んでいる。
コレ、古今東西の物語・伝承に共通した型(話型)なんです。
異界の女性とこの世界の男性が出会い、情を交わした後、女が課した「見てはならない」という禁忌・タブーを男が破ってしまい、女の正体を見たことにより破局を迎えるという展開。
次!
- 殿の内に還り入った ~中略~ 蛆がたかってごろごろ音をたて~
→「殿」の内に伊耶那美命が入っていく。この「殿」は古代の「殯宮」に相当。屍体の安置所です。まースゴイ世界観。ほぼ真っ暗ななかで蛆がごろごろと音を立てるくらい這いまわる、しかも雷の神まで生まれている。。。なんて恐ろしいんだ!
次!
- 見畏みて逃げ還る
→「見畏みて」、コレ結構大事な強調ワード。類例として。降臨した天孫「瓊瓊杵尊」に大山津見神が献上した女の石長比売を、天孫は「甚凶醜に因りて、見畏みて返し送りき」と、「凶醜」であるが故につき返しています。つまり、「見畏」には、畏怖嫌厭の情が伴うってこと。見た目でヤバい感じ、しっかりチェック。
次!
- 豫母都志許賣を遣はして追わしめた。~中略~ 八くさの雷神に、千五百の黄泉軍を副て追わしめた。
→設定が「黄泉国」ですから。領域、人民、主権(統治者)があって、それらを守る軍隊が存在するのは当然であります。
次!
- 黄泉比良坂の坂本に到った時、其の坂本に在る桃子三箇を取って、待ち撃ったところ、悉に逃げ返った。
→「坂本」=この世とあの世の境界。坂は、境の意味。桃には悪霊退散の呪力があると信じられていたことが伺えます。
- 千引の石を其の黄泉比良坂に引き塞いで、
→千人がかりで引っ張るくらい巨大な岩。「石」って書いてあるけど。。。石レベルの話ではございません。だからこそ、「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」の
↑これが、、は? ってなっちゃう訳です。。涙
せめて、、
↑これくらいは欲しい。。三重県の花窟神社より。
- 伊耶那美命が「愛しき我が夫よ、このように離縁されるならば、汝の国の人草、一日に千人絞り殺しましょう。」と言った。ここに伊耶那岐命は「愛しき我が妻の命よ、汝がそのようにするならば、吾、一日に千五百の産屋を立てよう。」と詔された。是をもって、一日に必ず千人死に、一日に必ず千五百人生まれるのである。
→泥沼離婚劇。。。ここでの二神の掛け合いは「死に対する生の優位」が、枠組みとして設定されてて、それは数字の大小で明確に表現されてます。
- 死:伊耶那美命:伊耶那岐の世界の国民(人草)を1日1,000人縊り殺す
- 生:伊耶那岐命:自分の世界の国民を1日1,500人産ませる
これにより、生が死よりも優位にあることを伝えてるんですね。生と死の別離、人口増、男女の離婚(離縁)の起源譚でもあります。
で、『古事記』では最後に、「故に、其のいわゆる黄泉比良坂は、今、出雲国の伊賦夜坂という。」と伝えており、現在の「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」とされてる次第。現場と合わせて是非チェックされてください。
黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地から続く山の中
「黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地」から右手へ、山道が続きますが、これが「伊賦夜坂」と言われていて、途中に「塞の神」が祀ってあります。この道を通るときは「塞の神」に小石を積んで通るという風習があるそうで、今でも小さな石が積まれています。
『日本書紀』では「そこで「これよりは出て来るな。」と言って、さっと杖を投げた。これを岐神と言う。」と、「伊奘諾尊」が投げた杖から誕生した神として伝えてます。
他にも、伊耶那岐が黄泉国から逃げ帰る時に、黄泉比良坂のふもとに生えていた桃の実を3つ取り、追いかけて来た黄泉の軍に投げつけたと伝える桃の木もあります!
そこで伊耶那岐命は、其の桃子に「汝、吾を助けたように、葦原中国に生きているあらゆる青人草(人民)が苦しい目にあって患い困る時に助けるがよい。」と告げて、意富加牟豆美命という名を授けた。と伝えます。
まとめ
黄泉比良坂伊賦夜坂伝説地
島根県松江市にある神話伝承地で、日本神話において「この世から黄泉国(死の国)へ至るとされる坂」。それはそれは恐ろしいスポット。
山の中にあって、ひんやりとした空気がただよっていて、なしか背筋が寒くなるよな心地になれます。
現地を訪れる際には、是非日本神話とご一緒に。物語があると楽しみ方にぐっと奥行きが出てきます。
日本神話ファンとしては絶対に外しちゃならないスポット、是非訪ねてみてくださいね。
住所 | 島根県松江市東出雲町揖屋2407 |
駐車場 | あり(6台分)無料 |
トイレ | 無し |
黄泉についてもっと詳しく知りたい方はコチラをどうぞ!必読です!
どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!
[…] た。なお、その黄泉比良坂は、現在の出雲国(島根県)の伊賦夜坂いふやざかといいます。 […]