神武天皇のもとになぜ金のトビが飛んできた?神武東征神話をもとに金鵄飛来の理由と意味を分かりやすく解説!

神武東征神話

 

日本神話にほんしんわに登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話にほんしんわ解説シリーズ」。

今回は、

神武じんむ天皇のもとに金のトビが飛んできた理由と意味

をテーマにお届けします。

神武東征じんむとうせい神話におけるクライマックス。最大の敵「長髄彦ながすねびこ」との最終決戦。なかなか勝利を得られないところに突然、空がかき曇りひょうが降ってくる。すると、金色の霊妙なとびが飛来し、神武じんむ天皇の弓のはず に止まる。そのとびは燃える火のように輝き、稲妻のように光を放った。。。と。

後世に語り継がれ、数々の絵画にも描かれたシーンです。

今回は、なぜ神武じんむ天皇のもとに金のトビが飛んできたのか?その理由と意味を、『日本書紀にほんしょき』をもとにディープに解説します。

 

本記事の独自性、ここにしか無い価値

  • 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

神武天皇のもとになぜ金のトビが飛んできた?神武東征神話をもとに金鵄飛来の理由と意味を分かりやすく解説!

神武天皇のもとに金のトビが飛んできた場面

まずは、実際の、神武じんむ天皇のもとに金のトビが飛んできた場面をチェック。

登場するのは『日本書紀にほんしょき』巻三、通称「神武紀じんむき」と呼ばれる箇所。この最後のところで大和やまと最大の敵「長髄彦ながすねびこ」との戦いが描かれてるのですが、ここで金のトビが登場。以下。

12月4日に、東征軍はついに長髄彦を攻撃した。ところが、続けて幾度となく戦っても勝利を得ることができなかった。

その時、突然、空がかき曇りひょうが降ってきた。すると、金色の霊妙なとびが飛来し、彦火火出見の弓のはず に止まった。その鵄は燃える火のように輝き、稲妻のように光を放った。この光に打たれ長髄彦の軍兵はみな目がくらみ惑って、もはや反撃して戦うことができなくなった。

十有二月癸巳朔丙申、皇師遂擊長髄彥、連戰不能取勝。時忽然天陰而雨氷、乃有金色靈鵄、飛來止于皇弓之弭、其鵄光曄煜、狀如流電。由是、長髄彥軍卒皆迷眩、不復力戰。(『日本書紀』巻三 神武紀より抜粋)※原文中の「天皇」という言葉は、即位前であるため、生前の名前であり東征の権威付けを狙った名前「彦火火出見」に変換。

『日本書紀』神武紀
▲橿原神宮で公開中の「神武天皇御一代記御絵巻」から。

東征神話とうせいしんわ最大の劇的なシーン。後世に語り継がれ多くの絵画に描かれた場面。

非常にドラマチックですよね。その時、突然、空がかき曇りひょうが降ってきた。すると、金色の霊妙なとびが飛来し、神武じんむの弓のはず に止まった。そのとびは燃える火のように輝き、稲妻のように光を放った。。。と。

以下、少し原文もふまえて解説。

突然、空がかき曇り(忽然天陰)」の「天陰」は、『漢書かんじょ五行志ごぎょうしに「天陰、昼夜不見日月」とあり、闇に閉ざされること。金鵄きんしの出現を劇的なものとする演出として使われてます。しかも、「ひょうが降ってきた(雨氷)」とあり、確かに12月なんでひょう、氷の粒がザーっと降ってきたと。そこに登場、「金色の霊妙なとび(金色靈鵄)」。暗闇とひょうに対して非常にコントラストが効いてます。

弓のはず に止まった」とあるように、弓は武力、軍事力の象徴ですから、天が神武じんむの軍勢に加勢しているということを強調してる訳です。

ちなみに、「はず」とは、弓の両端の弦を懸ける金具のこと。弓を射る時、上になる末筈うらはずを指します。

真っ暗な中にそんな金鵄きんしが登場し「燃える火のように輝き、稲妻のように光を放った」なんてことされたら、、そりゃ「長髄彦ながすねびこの軍兵はみな目がくらみ惑って、もはや反撃して戦うことができなくなった」のも納得で。

苦戦しなかなか勝利を得られなかった戦いも一変。一気にマウントゲット。非常に大きな転換点として位置づけられてます。

 

神武天皇のもとになぜ金のトビが飛んできたのか?

続けて本題。神武じんむ天皇のもとに金のトビが飛んできた理由と意味を解説。

金のトビが飛んできた理由、結論を一言で言うと、、

天が味方してるから。

天が味方してるから金のトビが飛んできた。

って、まずはコレ、古代、それこそ『日本書紀にほんしょき編纂へんさん当時の考え方をチェックする必要あり。

まず押さえていただきたいのが祥瑞応見しょうずいおうけんという言葉。考え方。

  • 祥=めでたい
  • 瑞(ずい=みつ)=しるし

つまり、

すばらしい徳をもって、素晴らしい政治を行えば、天がその聖徳に応えて「しるし」となるモノがこの世界に登場する、という考え方のこと。

古代にはこんな考え方があったんですね。。

コレ、そもそも論は古代中国ちゅうごくの文献が根拠になってます。

天道聰明てんどうそうめい、善をたすけ、悪にわざわいし、瑞異ずいい(=瑞祥や変異)を以て符效ふこうす。 『漢書』元后伝より

要は、

  • 天が、善を助け、悪にわざわいを降らす
  • その際には、「符效ふこう=しるし」を示す

という考え方。つまり、

  • 良い行い、良い政治には、良いしるしを。
  • 悪い行い、悪い政治には、悪いしるしを。

それぞれ天が示しますよ、と。

その良いしるしを示して天が応えてくれるというのが祥瑞応見しょうずいおうけんという訳です。

特に、鳥で現れるのが多かったようです。

珍鳥登場=めでたいしるし=聖徳の証

という訳。で、古代中国ちゅうごくの鳥類の「瑞」には、「瑞燕(つばめ)」「瑞応鳥(鳳凰)」「瑞鶴(つる)」「瑞雁(かり)」「瑞禽(鸞=らん の類)」「瑞鵲(かささぎ)」「瑞雉(きじ)」などがあるのです。めっちゃある・・・(゚A゚;)ゴクリ 

神武じんむ天皇のもとに飛んできた金のトビの理解にはこうした知識が必要不可欠。逆に言うと、金のトビがとんできたってことは、天が神武じんむ天皇に味方してるという意味であり、分かってる人には分かるという形になってます。

 

古代日本における祥瑞応見の制度概要

この祥瑞応見しょうずいおうけんですが、実は、古代においては制度化されてたりするので、それを補足解説。概念とか理想とかいう話ではなく、昔の人は結構マジです。

祥瑞応見しょうずいおうけん」について、例えば、『儀制令ぎせいりょう養老令ようろうりょう)』ではその取扱を定めています。

基本的には、

  • 発見→報告→認定→奏上→褒賞

という流れ。

祥瑞応見しょうずいおうけん=祥瑞、とてもめでたいみつ、しるし的なものを、天が聖徳に応じてこの世界に見せてくれた的な感じなので、、

発見された「瑞=みつ」はまずは報告する訳です。

しかも、この「瑞=みつ」にはランクがあって、、

  • 大瑞、中瑞、下瑞

に分けられていたようです。

儀制令ぎせいりょう』第十八では、「玄鵄、青鳥、赤鳥、三足鳥、赤鷲、赤雀」を「上瑞じょうずい」としており、つまり、「金鵄きんし」は「大瑞だいずい」にあたる訳で。天の示す「みつ」の中でも上物じょうものであります。

今回ご紹介してる神武じんむ天皇のもとに金のトビが飛んできた意味は、つまり、天の示す「みつ」の中でも上物じょうものであり、スゴイ勢いで天が味方してるんだよと、それを伝えてる訳です。

話を戻して。

みつ発見。中でも、「大瑞だいずい」であれば、これはもんげーめでたい事なので、ソッコーで奏上。天皇にご報告!で、それをみことのりによって発表。中、下のみつなら、翌年の「元日がんじつ」に発表という流れ。

とにもかくにも、発見したらすぐ報告。しかも、報告に当たっては、品目や発見場所を知らせる事!

、、、たしかに大事だ。

ちなみに、動物で生きたまま捕獲された場合は、そのまま山野に放ちます。もったいない気もしますが、超めでたいしるしですから。殺さないための措置だったようです。代わりに、図を描いて送れと。この判断は、祥瑞しょうずいを受け付けた役所=国郡とその役人に委ねられてました。発送先は、治部省じぶしょう。ここでは、祥瑞しょうずいの扱いを決定することが職務として含まれていました。で、めでたすぎる場合は、なんらかの賞を発生させることになります。これは、臨時のみことのりによってなされます。

と、、実際は『儀制令ぎせいりょう養老令ようろうりょう)』は漢文によるガチガチの法律なのですが、概要としてはこんな感じです。

実際の運用事例としては、例えば、

大化たいか改新かいしんを断行した孝徳こうとく天皇の時代に「白雉しろきぎす」が出現!みことのりに、「聖王出でて、天下を治むる時に、天応えて其の瑞祥ずいしょう(みつ)を示す。」と記述あり。で、皇太子は「よごと」を奉り、「陛下、清平なる徳を以て天下を治むるが故にここに白雉 西の方(長門)より出づること有り。」と伝えます。

そして、白雉しろきぎすの出現を天の示しためでたいしるしとして、元号げんごう大化たいかから「白雉はくち」に改めてもいます。

他、例えば、天武てんむ天皇15年にも「朱鳥あかみとり」を得て改元かいげんしています。他にも、発見された場所を担当する役人さんの人事考課が良くなったり。。。このあたりの対応は今も昔も変わりませんね。

 

まとめ

神武天皇のもとになぜ金のトビが飛んできたのか?

神武東征じんむとうせい神話におけるクライマックス。最大の敵「長髄彦ながすねびこ」との最終決戦において、神武じんむ天皇のもとに突然飛来した金のトビ。

この意味は、ズバリ、天が神武じんむ天皇に味方してる、ということ。

背景には、祥瑞応見しょうずいおうけんという考え方があり。

  • 祥=めでたい
  • 瑞(ずい=みつ)=しるし

すばらしい徳をもって、素晴らしい政治を行えば、天がその聖徳に応えて「しるし」となるモノがこの世界に登場する、という考え方。古代において、律令りつりょうで制度化され、実際に「祥瑞応見しょうずいおうけん」があった場合、改元かいげんしたりしてました。

ポイントは、金のトビは、天の示す「みつ」の中でも上物じょうものであり、スゴイ勢いで天が味方してるんだよ、という意味が込められてるってこと。しかも!!「弓のはず に止まった」とあるように、弓は武力、軍事力の象徴ですから、神武じんむの軍勢に天が加勢しているということを、ことさらに強調してる訳ですね。このあたりもしっかりチェックです。

 

神武天皇のもとに金のトビが飛んできたシーンの詳しい解説はコチラ!必読です!

『日本書紀』神武紀

 

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この記事を監修した人

榎本福寿教授 佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

 

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日本神話研究の第一人者である佛教大学名誉教授の榎本先生の監修もいただいているので情報の確かさは保証付き!文献に即して忠実に読み解きます。
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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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