日神と素戔嗚尊の誓約|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕

 

多彩で豊かな日本神話にほんしんわの世界へようこそ!

正史『日本書紀』をもとに、
最新の学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。

今回は、

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕

テーマは
「日神と素戔嗚尊の誓約」

誓約儀式の異伝版。〔一書1〕と〔一書3〕は日神が登場し、素戔嗚尊との誓約を行います。〔本伝〕とはテーマを微妙に変え「日神の陥落」を伝えます。

今回も、概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。

現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!

 

本記事の独自性、ここにしか無い価値

  • 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

日神と素戔嗚尊の誓約|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕

日神と素戔嗚尊の誓約|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕の位置づけ

前回、誓約と天照の子誕生|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段 本伝からの続き。

今回お届けするのは第六段の異伝の皆さん、の中でも〔一書1〕と〔一書3〕。下図、赤枠部分。

実は、、、

第六段の異伝は3つあるのですが、このうち、〔一書1〕と〔一書3〕は、日神が登場する伝承としてまとめることができるんです。一方で、〔本伝〕と〔一書2〕は天照系としてまとめ可能。

なので、今回は、少々イレギュラーながら、同じ系統を持つ〔一書1〕と〔一書3〕をまとめて解説。〔一書2〕は次回エントリで解説していきます。

 

日神と素戔嗚尊の誓約|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕の概要とポイント

第六段〔本伝〕をもとに差異化された〔一書1〜3〕。

今回、〔一書1〕と〔一書3〕をまとめてお届けしますが、その前に、まずは、第五段から第六段を経て第七段へ、全体をガバッと見た時のポイントをチェック。その上で、第六段の〔一書〕群の見方を解説。

ポイント3つ。

①日神から天照大神へ。第六段、第七段を通じて、段階的に入れ替わっていく

実は、天照大神は最初から天照大神ではなかった、それは段階を経て天照大神になったという話。

神話世界では、一つの名前には一つの意味を持たせる概念があり、その中で、天空に輝く太陽も、「光源」としての役割と「生き物にとっての恩恵」としての役割とがあって、それを、日本神話では、光源は「日神」として、恩恵は「天照大神」として表現されてる訳です。ま、後付け解釈かも知らんけど。

そういう前提があった上で、

神話の物語上、まず本伝で「日神」として最初誕生、その後、異伝で「天照大神」として誕生、それが第六段、第七段を通じて天照大神として一本化されていく、という構造になっとる。。。

イメージとしては以下。

なので、

表側の誓約とか子の誕生とか、岩戸隠れといったイベントはありつつも、それぞれの意味解釈は必要なんだけど、その裏では日神から天照大神へ段階的な移行が進行してるってこともチェックしておいてください。

次!

②第六段では、日神系と天照系で重視してるメッセージが分かれる。系統を意識しながら読み進めるのが◎

そういう構造の中で、第六段では誓約をメインイベントとはしつつ、各伝承ごとにテーマが分かれ、日神として伝える伝承と、天照大神として伝える伝承とで系統的なものがあったりする。。ざっくりまとめると以下。

〔本伝〕と〔一書2〕は天照大神系。素戔嗚尊からのお願いをもとに物根ものざねの交換があります。また、テーマは潔白の明確化であり、誓約の結果として子が生まれたことを重視します。

一方、〔一書1〕と〔一書3〕は日神系であり、日神が誓約を仕切り物根ものざねの交換はありません。テーマは、素戔嗚尊の勝ちに設定されてる。特に、第六段最後の異伝〔一書3〕の勝利宣言は、そのまま第七段の勝ちさびに繋がるように設計されてます。

こうした系統を念頭に置きながら読み進めていただけると整理しやすくなると思います。

次!

③2つの系統があるのは、高天原の統治者たる天照の系統で勝ち負けを強調しないための工夫だった??素戔嗚勝利は日神系で巻き取ることにする

素戔嗚の誓約勝利があるからこそ勝ちさびにつながる、それが岩戸隠れに繋がっていく。。逆にいうと、勝利がなければ勝ちさびにつながっていかないし岩戸隠れにも繋がらない、、、なので、誓約で素戔嗚が勝利したことを打ち出す必要がある。後付けかも知らんがそういう神話展開上の要請アリ。なんだが!!それは天照大神が負けたことを意味するわけで、これはこれで困るわけですよ皆さん!

高天原の統治者になったばかりでいきなり負けたとか、、、やっぱ具合が悪い。。なので、分けることにした。日神を使って、日神系は素戔嗚尊の勝利を印象付ける、一方の天照系は勝利というより潔白を印象付ける、、、かくして、神話展開の要請から2つの系統が立ち上がったと考えられる訳です。

その上で、

今回お届けする〔一書1、3〕は、日神系列の所伝。「誓約」における素戔嗚尊の「勝」に焦点を当ててます。

さらに、素戔嗚尊の「勝」に力点を置く度合を〔書一〕から〔書三〕にかけて強めていく。それが日神の地位を下げ、相対的に天照大神の地位を高めていく。。って、すごくない?この構造。

一方、「勝」をめぐっては、続く第七段〔本伝〕冒頭の「是後、素戔嗚尊之為行也、甚無状。」へ展開する準備にもつながっている。。この練りに練られた神話展開に震えろ。

ということで、

一旦、まとめます。

  1. 日神から天照大神へ。第六段、第七段を通じて、段階的に入れ替わっていく展開
  2. 第六段では、日神系と天照系で重視してるメッセージが分かれる。系統を意識しながら読み進めるのが◎
  3. 2つの系統があるのは、高天原の統治者たる天照の系統で勝ち負けを強調しないための工夫だった??素戔嗚勝利は日神系で巻き取ることにする

以上3点。しっかりチェックした上で、本文をどうぞ!各伝承ごとにサクッと解説していきます。

 

日神と素戔嗚尊の誓約|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕の本文と現代語訳と解説

第六段〔一書1〕の現代語訳と原文

『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版
『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版

 ある書はこう伝えている。日神ひのかみはもともと素戔鳴尊すさのをのみことが勇猛で物を圧倒する意図があることを知っていて、それが上り至るに及んで、すぐさま「弟が来たのは善意ではあるまい。必ずや私のあまのはらを奪おうとするに違いない」と言い、雄々しい武装をととのえ、身には十握剣とつかのつるぎ九握剣ここのつかつるぎ八握剣やつかつるぎを帯び、背にゆきを負い、またひじには強力な髙鞆たかともを着け、手に弓矢をつかみ、みずから迎え防御した。

 この時、素戔鳴尊すさのをのみことは「私はもともと悪い心などありません。ただ姉上とお会いしたいと、ただそのために少しの間来ただけです」と告白した。そこで、日神素戔鳴尊すさのをのみことと共に、向かいあってうけひを立て「もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、お前の生む子は、必ず男だろう」と言い、言い終わると、身に帯びていた十握剣とつかのつるぎを先に食べて子を生んだ。名を、瀛津島姫おきつしまひめと言う。また九握剣ここのつかのつるぎを食べて子を生んだ。名を、湍津姫たぎつひめと言う。また八握剣やつかのつるぎを食べて子を生んだ。名を、田心姫たごりひめという。合わせて三女神である。

 そうしたあと素戔鳴尊すさのをのみことが、たくさんの玉が連なった首飾りの玉を、天渟名井あまのぬないまたの名は去来いざ真名井まないというに濯いでこれを食べ、子を生んだ。名を、正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみことと言う。次に、天津彦根命あまつひこねのみこと。次に、活津彦根命いくつひこねのみこと。次に、天穂日命あまのほひのみこと。次に、熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと。合わせて五男神である。

 それゆえ素戔鳴尊すさのをのみことは、勝ちの証拠を得た。そこで、日神は、素戔鳴尊すさのをのみことにもともと悪意がなかったことを知り、そこで日神の生んだ三女神筑紫つくしのくにくだし、三女神に教えて「おまえたち三神は、道中みちなかに降り居て、天孫てんそんを助け奉り、天孫に祭られなさい」と言った。

一書曰、日神、本知素戔嗚尊有武健凌物之意、及其上至、便謂「弟所以來者、非是善意。必當奪我天原。」乃設大夫武備、躬帶十握劒・九握劒・八握劒、又背上負靫、又臂著稜威高鞆、手捉弓箭、親迎防禦。是時、素戔嗚尊告曰「吾元無惡心。唯欲與姉相見、只爲暫來耳。」於是、日神共素戔嗚尊、相對而立誓曰「若汝心明淨、不有凌奪之意者、汝所生兒、必當男矣。」言訖、先食所帶十握劒生兒、號瀛津嶋姬。又食九握劒生兒、號湍津姬。又食八握劒生兒、號田心姬。凡三女神矣。已而素戔嗚尊、以其頸所嬰五百箇御統之瓊、濯于天渟名井亦名去來之眞名井而食之、乃生兒、號正哉吾勝勝速日天忍骨尊。次天津彥根命、次活津彥根命、次天穗日命、次熊野忍蹈命、凡五男神矣。故素戔嗚尊、既得勝驗。於是、日神、方知素戔嗚尊固無惡意、乃以日神所生三女神、令降於筑紫洲、因教之曰「汝三神、宜降居道中、奉助天孫而爲天孫所祭也。」『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1〕より)

 

第六段〔一書1〕の解説

改めて、〔一書1〕は、日神系列の所伝。「誓約」における素戔嗚尊の「勝」に焦点を当てます。

その上で、、

以下詳細解説。

  • ある書はこう伝えている。日神ひのかみはもともと素戔鳴尊すさのをのみことが勇猛で物を圧倒する意図があることを知っていて、それが上り至るに及んで、すぐさま「弟が来たのは善意ではあるまい。必ずや私のあまのはらを奪おうとするに違いない」と言い、雄々しい武装をととのえ、身には十握剣とつかのつるぎ九握剣ここのつかつるぎ八握剣やつかつるぎを帯び、背にゆきを負い、またひじには強力な髙鞆たかともを着け、手に弓矢をつかみ、みずから迎え防御した。
  • 一書曰、日神、本知素戔嗚尊有武健凌物之意、及其上至、便謂「弟所以來者、非是善意。必當奪我天原。」乃設大夫武備、躬帶十握劒・九握劒・八握劒、又背上負靫、又臂著稜威高鞆、手捉弓箭、親迎防禦。

→日神は第五段〔本伝〕で誕生。それを承けての日神のスタンス。

先に言葉の解説を。

「武健」は、武勇に優れたくましいこと。荒々しく力強い様子。

「凌物」は、物を凌駕する、圧倒する。物は、ここでは高天原の神々や秩序などと考えられ、それを凌駕する、あるいは蹂躙する。強引に奪い取る意。

大夫ますらを」 は、雄々しくりっぱな(男子)の意。

ゆき」は、矢を入れる武具。

稜威いつ」は、相手を恐れさせる強盛な威力。神や天皇の力を示す際に使われ、「威勢が激しいこと」や「強い天の威光」を指す。

髙鞆たかとも」は、弓を射る時に弦が左肘に当たるのを防ぐ道具。高い音を立てる鞘。

その上で、、

ポイント3つ。

①日神のスタンスは第五段〔本伝〕を承けて。素戔嗚尊について「勇ましく残忍な神」と伝えてたっけ、、

日神ひのかみはもともと素戔鳴尊すさのをのみことが勇猛で物を圧倒する意図があることを知っていた。」とあります。

この日神のスタンスは、第五段〔本伝〕を承けてるから。第五段〔本伝〕で、素戔嗚尊について以下内容で伝えてました。

この神は勇ましく残忍であって、いつもき泣くことを行いとしていた。このため、国内の人民の多くを早死にさせ、また青々とした山を枯らしてしまった。

此神 有勇悍以安忍 且常以哭泣爲行 故令國内人民 多以夭折 復使青山變枯(『日本書紀』第五段〔本伝〕より一部抜粋)

『日本書紀』第四段

ということで、

「勇悍」や「哭泣」といった凶暴性は、素戔嗚尊が本来、神性かみさがとして持つ生まれながらの性質として描かれてましたよね。外的要因によって怒ってる訳でもなく、不満がある訳でもなく、生まれつき凶暴な性質をもってた。無垢。ナチュラルボーン。

これを承けて「勇猛で物を圧倒する意図がある」としてるし、上ってくる時も「「弟が来たのは善意ではあるまい」として奪国嫌疑からの武装防御へとエスカレートしていく訳です。

そして!

②日神は第五段〔本伝〕で伊奘諾・伊奘冉から天上の事を授けられた。なので自分の担当領域=あまのはらを持っている

必ずや私のあまのはらを奪おうとするだろう」とあります。

これ、やはり日神が誕生した第五段〔本伝〕を承けての内容。第五段〔本伝〕では以下のように伝えてました。

そこで、共に日神ひのかみを生んだ。(中略)「すぐに天に送り、天上の事を授けるべきだ」と言った。(中略)それで天柱あまのみはしらをもって天上に送り挙げた。

共生日神(中略)自當早送于天、而授以天上之事(中略)故以天柱、擧於天上也(『日本書紀』第五段〔本伝〕より一部抜粋)

『日本書紀』第四段

ということで、

伊奘諾と伊奘冉が日神を生み、あまりに素晴らしいので天に送り天上の事を授けてました。なので、日神は自分の担当領域を持ってる訳です。それを、第六段〔一書1〕では「あまのはら」と伝え、このあまのはらを奪いにきたのだとしてる訳ですね。

最後!

③冒頭部分、第六段〔本伝〕を踏襲してるのは、中盤以降の差異化を際立たせるため

地味なんだけど、、構造的に重要なので解説。実は、〔一書1〕の冒頭部分は〔本伝〕を踏襲して作られてる。〔本伝〕では天照大神だったのが、〔一書1〕では日神に変更しただけかのような様相。。以下、比較してみる。

〔本伝〕 〔一書1〕

始、素戔嗚尊昇天之時、(中略)

(A)天照大神、素知其神暴悪、

(B)至聞来詣之状、

(C)乃勃然而驚曰「吾弟之来、豈以善意乎。謂当有奪国之志歟。」

(a)日神、本知素戔嗚尊有武健凌物之意、

(b)及其上至、

(c)便謂「弟所以来者、非是善意。必当奪我天原。」

ということで、いや、マジそっくり、、

これ、なんでかというと、〔一書1〕中盤以降の日神独自の差異化を際立たせるため。スタートを同じにすることで、むしろその後の差異化展開、その違いを際立たせようとしてる、、コチラ後ほど詳しく。

 

次!

  • この時、素戔鳴尊すさのをのみことは「私はもともと悪い心などありません。ただ姉上とお会いしたいと、ただそのために少しの間来ただけです」と告白した。そこで、日神素戔鳴尊すさのをのみことと共に、向かいあってうけひを立て「もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、お前の生む子は、必ず男だろう」と言い、言い終わると、身に帯びていた十握剣とつかのつるぎを先に食べて子を生んだ。名を、瀛津島姫おきつしまひめと言う。また九握剣ここのつかのつるぎを食べて子を生んだ。名を、湍津姫たぎつひめと言う。また八握剣やつかのつるぎを食べて子を生んだ。名を、田心姫たごりひめという。合わせて三女神である。
  • 是時、素戔嗚尊告曰「吾元無惡心。唯欲與姉相見、只爲暫來耳。」於是、日神共素戔嗚尊、相對而立誓曰「若汝心明淨、不有凌奪之意者、汝所生兒、必當男矣。」言訖、先食所帶十握劒生兒、號瀛津嶋姬。又食九握劒生兒、號湍津姬。又食八握劒生兒、號田心姬。凡三女神矣。

→日神、、自分で誓約して条件設定して生んだのが女神て、、、何がしたいんだ??

言葉の解説を少し。

「惡心」は、悪い心、ここでは、国を奪い取る反逆心のこと。

その上で、、

①第五段〔本伝〕で根国追放処分を受けた素戔嗚尊。きっと根国へ行く途中に寄ったんだろう説

この時、素戔鳴尊すさのをのみことは「私はもともと悪い心などありません。ただ姉上とお会いしたいと、ただそのために少しの間来ただけです」と告白した。」とあります。

この発言の背景は第五段〔本伝〕で伊奘諾・伊奘冉に言われた根国追放処分。以下内容でした。

それゆえ、父母の二神は素戔嗚尊に勅して「お前は、甚だ道に外れている。この世界に君臨してはならない。必ず、遠く根国ねのくにへ行かなければならない」と言い、遂に追放した。

『日本書紀』第五段

ということで、

父母の二神は素戔嗚尊に勅して」とあり、勅命にて根国行きが下されてます。それを承けて、根国行きの途中に姉ちゃんに会いに少しのあいだ立ち寄ったってことですね。

そして!

②「誓」の提案をはじめ日神が主宰・主導。これにより「日神の負け」が強く印象づけられる

そこで、日神素戔鳴尊すさのをのみことと共に、向かいあってうけひを立て「もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないならば、お前の生む子は、必ず男だろう」と言い、言い終わると、身に帯びていた十握剣とつかのつるぎを先に食べて子を生んだ。」とあります。

コレ、、〔本伝〕とは全然違う。。。

ココ〔一書1〕では、

物根交換も無く、完全に日神主導の誓約。本来であれば嫌疑をかけられた素戔嗚が誓約によって潔白証明すべき流れなのですが、なぜか日神が誓を立てそのまま剣を食べて女神を生んでる、、

コレ、なんでかというと、

〔本伝〕からの差異化として、日神の負け=素戔嗚の勝ちバージョンを作るため。

どういうことかというと、

素戔嗚の勝利があるから勝ちさびにつながって岩戸隠れへと展開していく訳で。。逆にいうと、勝利がなければ勝ちさびにつながっていかないし岩戸隠れにも繋がらない、、、なので、誓約で素戔嗚が勝利する必要がある。後付けかも知らんがそういう神話展開上の要請があるってことなんす。 なんだが!!それだと天照大神が負けたことを意味するわけで、これはこれで困るわけです。高天原の統治者になったばかりでいきなり負けたとか、、、やっぱ具合が悪い。。なので、分けることにした。日神を使って。日神系は素戔嗚尊の勝利を印象付ける、一方の天照系は勝利というより潔白を印象付ける、、、かくして、神話展開の要請から2つの系統が立ち上がった。。

そんな背景から、ここ〔一書1〕では日神主導で誓約が行われ一方的に日神が負ける=素戔嗚尊が勝利するという展開になってると考えられる訳です。

ということで、

まとめると、日神主導の誓約という枠組みの中で、日神が女神を生む一方、素戔嗚が男を生み「勝」が確定。コレにより日神の負け=当初いだいた疑惑の間違いが露呈。これが

  1. この後の流れとして、素戔嗚尊の勝ちさびへつながっていく
  2. さらに、日神の負けは、日神の地位を下げ、相対的に天照大神の地位を高めていくことになる

てことで。

特に、②については、第六段の異伝を通じて天照の地位が上がっていき、第七段を経て第八段でいよいよ天照へ一本化されていくようになる。

なので、ここではそうした大きな日神から天照大神への転換のために日神主導になってるってことでチェック。

最後!

③自分の物を使って子を生みなすのは親子の関係を強く結びつけるため。それにより一層、日神の負け・素戔嗚尊の勝ちが強調される

身に帯びていた十握剣とつかのつるぎを先に食べて子を生んだ。」とあります。

〔本伝〕では交換があったのですが、〔一書1〕では交換なし。日神は自分の剣を食べて子を生んだ訳です。なんでこんなことやってるかと言うと、日神の女神生み=負け、素戔嗚尊の男神生み=勝ち、を強調するため。

どういうことかというと、

みずから身に着ける物品をもとに生むことで、生んだ子が親に強く結びつけられる。言い方を変えると、親が子に強く結びつけられる訳です。

自分の所有物を使って生むという形式だからこそ、生まれた子の属性は親の属性とイコールになる。子≒親。だからこそ、女神を生んだ日神は負けであり、男神を生んだ素戔嗚尊は勝ちということになる。むしろ、その勝敗を強調するために、こうした形式になってるんだなぁ。ココ、しっかりチェック。

最後!

④誓約の構造変化によりさらに日神の負けが強調されるようになってる。

うけひを立て「もしお前の心が明浄で、奪い取る意図がないのならば、お前の生む子は必ず男だろう」と言い」とあります。コレ、日神の負け&素戔嗚尊の勝ちを強調する仕掛け、その2。

少々小難しい話になりますが、誓約の構造についてお話を。

誓約の構造、その一番重要なのは「不可知(A)を、可視の具体的な事態(B)を通してみきわめる」という点です。

「不可知(A)」とは目に見えないこと、例えば、素戔嗚尊が清い心=反逆心が無いかどうか。一方、「可視(B)」とは目に見えること・事象・事態のこと。例えば、生む子が女か男か。

基本となる〔本伝〕では、以下のような構造になってます。

(A )如吾所生、是女者

(B )則可以為有濁

(A )若是男者

(B )則可以為有

ということで、(A)(B)の組み合わせから成りたってることが分かりますよね。(A)に男もしくは女の化生を仮定し、(B)にその所生の女を濁心、男を清心とする関係。二つの事態を(A)に仮定し、そのそれぞれの場合について(B)に帰結を示す構造になってます。

一方で、ココ〔一書1〕では、これが変化します

(A )若汝心明浄、不有凌奪之意者

(B )汝所生児、必当男

ということで、二つの事態を仮定することなく一つだけ。さらに、(B)に著しい違いがあって、「必」を加えて、仮定した(A)の成立が必然的に(B)の発生・惹起につながることを強調してる訳です。

とくに、「必」により、日神が強い確信をもって結果を断言してる。もしお前の心が明浄で、圧倒して奪い取る意図がないのならば、お前の生む子は必ず男だろうと、、(コレはつまり、簒奪の意図があるなら女だということでもある)それなのに!!!日神じしんが女を生んでしまう。。。これはつまり、日神の負けを強調するための設定として考えられる訳ですね。

これ、このあと解説する〔一書3〕でも同じ構造になってます。

ということで、誓約の構造変化によりさらに日神の負けが強調されるようになってるってことで、チェック。

以上をまとめると、

日神の負け&素戔嗚尊の勝ちを強調するために

  1. 「誓約」の提案をはじめすべてを日神が主宰・主導する形式になってる
  2. そして、自分の物を使って子を生みなす形式にすることで、親子の関係を強く結びつけている
  3. さらに、誓約の構造を変えることにより、日神の確信とか断言を強調している

ってことで、むしろ意図的に日神の負けを強調するために差異化され設定されてる感じであります。

生んだ三女神については、この後の日神の降下命令のところで解説します。

 

次!

  • そうしたあと素戔鳴尊すさのをのみことが、たくさんの玉が連なった首飾りの玉を、天渟名井あまのぬないまたの名は去来いざ真名井まないというに濯いでこれを食べ、子を生んだ。名を、正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみことと言う。次に、天津彦根命あまつひこねのみこと。次に、活津彦根命いくつひこねのみこと。次に、天穂日命あまのほひのみこと。次に、熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと。合わせて五男神である。
  • 已而素戔嗚尊、以其頸所嬰五百箇御統之瓊、濯于天渟名井亦名去來之眞名井而食之、乃生兒、號正哉吾勝勝速日天忍骨尊。次天津彥根命、次活津彥根命、次天穗日命、次熊野忍蹈命、凡五男神。

→日神の誓の形式を踏襲。自らの装飾品を使って男を生む素戔嗚尊。

先に言葉の解説少し。

「五百箇御統」は、たくさんの玉を紐で通して輪にしたもの、たくさんの玉が連なった首飾り。

「瓊」は、美しい玉。

その上で

①素戔嗚尊が男を生んだので、「心が明浄で、圧倒して奪い取る意図がない」ことが証明された

なんてこった、素戔嗚尊が男を生んだぞ。しかも自分の装飾具を使って。。コレまでの解説でお分かりの通り、自分の物を使う=親子関係を強く結びつける仕掛けな訳で、男を生んだってことはつまり素戔嗚尊の心が明浄で簒奪の意図がないことが証明された訳です。

日神は確かに「もしお前の心が明浄で、圧倒して奪い取る意図がないのならば、お前の生む子は必ず男だろう」って言ってたしね。

ちなみに、五男神の「五」は奇数なので聖数。かつ、天照大神の「三」に対する素戔嗚尊の「五」と言うことで、勝ちを強調する設定としてチェック。

五男神については生まれる順番が〔本伝〕とは違ってます。。シャッフル??

概要は以下。

正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみこと 本伝では「正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊まさかあかつかちはやひあまのおしほみみのみこと」。天照大神の命により、地上を治めるために降り立った(天孫降臨)の瓊瓊杵尊の父親にあたる。
天津彦根命あまつひこねのみこと 本伝では「天津彦根命あまつひこねのみこと」。凡川内直おほしかふちのあたひ山代直やましろのあたひ等の祖神。多くの豪族の祖先となった神。
活津彦根命いくつひこねのみこと 本伝では「活津彦根命いつくひこねのみこと」。各地の古代豪族(凡河内氏など)の祖先となった神。
天穂日命あまのほひのみこと 本伝では「天穂日命あまのほひのみこと」。出雲臣いづものおみ土師連はじのむらじ等の祖神。特に、出雲臣は出雲国造のことで出雲大社の祭祀を司る一族。
熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと 本伝では「熊野櫲樟日命くまののくすひのみこと」。紀伊国(現在の和歌山県)の熊野地方に祀られ、霊験あらたかな神として信仰を集めました。

 

次!

  • それゆえ素戔鳴尊すさのをのみことは、勝ちの証拠を得た。そこで、日神は、素戔鳴尊すさのをのみことにもともと悪意がなかったことを知り、そこで日神の生んだ三女神筑紫つくしのくにくだし、三女神に教えて「おまえたち三神は、道中みちなかに降り居て、天孫てんそんを助け奉り、天孫に祭られなさい」と言った。
  • 故素戔嗚尊、既得勝驗。於是、日神、方知素戔嗚尊固無惡意、乃以日神所生三女神、令降於筑紫洲、因教之曰「汝三神、宜降居道中、奉助天孫而爲天孫所祭也。」

→素戔嗚尊の勝利により、日神はようやく素戔嗚に悪意がなかったことを知る、

言葉の解説を少し。

「勝驗」は、勝ちの証拠、しるし、あかし。「驗」は、主に「ためす」「しるし」「ききめ」という意味。馬の良し悪しを実際に乗り比べて調べたことに由来。「霊験」とか、神仏の不思議な力とか効能とか効き目のことを言いますよね。

「道中」は、潮路しおじ、海流の流れる道筋、海の道。ちなみに、〔一書3〕でも「海の北の道中」という海路として伝えます。玄界灘げんかいなだの沖ノ島に沖津宮おきつみや、大島に中津宮なかつみや宗像むなかた返津宮へつみやがあります。

「天孫」は、後に降臨する火瓊瓊杵尊ほのににぎのみこと

その上で

①「素戔嗚尊の勝ち」をことさら強調する〔一書1〕

素戔鳴尊すさのをのみことは、勝ちの証拠を得た」とあります。

素戔嗚の勝ちをことさら強調する箇所。これ、〔本伝〕では伝えてない内容で。この勝ちの強調が、続く第七段で勝ちさびにつながっていく。なので、ここではそのための布石、前振りとして伝えてるってことでチェック。

なお、これにより「日神は、素戔鳴尊すさのをのみことにもともと悪意がなかったことを知」った訳で、冒頭の、「弟が来たのは善意ではあるまい。必ずや私のあまのはらを奪おうとするに違いない」と疑いまくってたところから大きく転換。

コレ、先ほど解説した通り、冒頭の一方的&決めつけスタンスがあったからこそ、ここでの転換が劇的なものになってる。よく考えられた構成かなと。

それにしても、、「雄々しい武装をととのえ、身には十握剣とつかのつるぎ九握剣ここのつかつるぎ八握剣やつかつるぎを帯び、背にゆきを負い、またひじには強力な髙鞆たかともを着け、手に弓矢をつかみ、みずから迎え防御し」てた日神、、、この状況、痛すぎないか、、、??

そして!

②海路を守護する神として三女神を位置付け。コレが宗像大社の起源。

そこで日神の生んだ三女神筑紫つくしのくにくだ」とあります。この降した地、鎮座したと伝える場所が現在の宗像大社。福岡県宗像市田島にあり。

(ちなみに、、地元伝承として、福岡県鞍手郡鞍手町にある六ヶ岳は、宗像三女神が最初に天降った場所として伝わってたりして。。)

三女神に教えて「おまえたち三神は、道中みちなかに降り居て、天孫てんそんを助け奉り、天孫に祭られなさい」と言った」とあります。

ここで言う「海路」とは、北九州から朝鮮半島への海路のこと、一つの参考として、宗像大社の返津宮、中津宮、沖津宮の三社を結ぶ線(海路)。この線は北端を経て朝鮮半島の釜山につながってたりします。

ちなみに、

沖津宮がある沖ノ島は玄界灘の中央にある孤島で、縄文から弥生時代の漁撈民、また古墳時代以降朝鮮半島や大陸と交通する人々の海上安全祈願の聖なる島として信仰を集めた「神の島」だったようで。沖津宮社殿付近には巨岩群があり、鏡・玉・剣ほか多くの遺物が散在し、磐座として祭祀をした遺跡とされてます。

なお、宗像大社曰く、これら沖ノ島から出土した約八万点の遺物(祭器等)は国家祭祀の痕跡であると。つまり、日神が下命した「天孫に祭られなさい」の痕跡というわけで。ちなみに、歴史において、天皇の勅使が宗像に遣わされた初出は、465年  第21代 雄略天皇の時であります。

最後に、それぞれの神の概要をまとめておきます。

三女神 主な神威 ご利益
田心姫神 外海の守護 航海安全・海運・漁業 沖津宮
湍津姫神 水流・海の豊穣 水難除け・漁業繁栄 中津宮
市杵島姫神 海・芸術・財福 芸能上達・金運・航海安全 辺津宮

ということで、

日神系、物根交換無し、日神の負け&素戔嗚尊の勝ちを強調する系統の〔一書1〕でした。まー色々考えて構想してある。この創意工夫がやっぱすごいんだよなぁ。

続いて、〔一書3〕の解説です!!

 

第六段〔一書3〕の現代語訳と原文

『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版

 ある書はこう伝えている。日神ひのかみ素戔鳴尊すさのをのみことは、天安河あまのやすのかはを隔てて、向かい合い誓約うけひを立て「お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、お前の生む子は必ず男である。もし男を生めば、子となして天原あまのはらを治めさせよう」と言った。そこで、日神が、先にその帯びていた十握剣とつかのつるぎを食べ子を化生した。瀛津嶋姫命おきつしまひめのみことである。またの名を市杵嶋姫命いちきしまひめのみことという。また九握剣ここのつかのつるぎを食べて子を化生した。湍津姫命たぎつひめのみことである。また八握剣やつかのつるぎを食べて子を化生した。田霧姫命たきりひめのみことである。

 そうしてのち素戔鳴尊すさのをのみことが、その左手のみづらに巻きつけていたたくさんの玉が連なった髪飾りの玉を口に含み左の手のひらにつけ、男を化生し、これをたたえて「まさしくも、私が勝ったのだ」と言った。それによって名付け、勝速日天忍穂耳尊かちはやひあまのおしほみみのみことと言う。また、右の髻の玉を口に含み、右の手のひらにつけ、天穂日命あまのほひのみことを化生した。また、くびにかけていた玉を口に含み、左ひぢにつけ、天津彦根命あまつひこねのみことを化生した。また、右臂から、活津彦根命いくつひこねのみことを化生した。また、左足より、熯之速日命ひのはやひのみことを化生した。また、右足から、熊野忍蹈命くまののおしほみのみことを化生した。またの名を、熊野忍隅命くまののおしくまのみことという。

 その素戔鳴尊すさのをのみことの生んだ子はみんな男だった、ゆえに、日神ひのかみ素戔鳴尊すさのをのみことにもともと潔白な心であったことを知った。そこでその六男を引き取って日神の子とし、天原あまのはらを治めさせた。日神の生んだ三女神は、葦原中国あしはらのなかつくに宇佐嶋うさのしまくだした。今、海の北の道中みちなかに在って、名を道主貴みちぬしのむちと言う。これは筑紫つくし水沼君みぬまのきみの祭る神である。「熯」は、「かん」である。ここでは「」と云う。

一書曰、日神與素戔嗚尊、隔天安河、而相對乃立誓約曰「汝若不有奸賊之心者、汝所生子必男矣。如生男者、予以爲子而令治天原也。」於是、日神、先食其十握劒化生兒、瀛津嶋姬命、亦名市杵嶋姬命。又食九握劒化生兒、湍津姬命。又食八握劒化生兒、田霧姬命。巳而素戔嗚尊、含其左髻所纒五百箇御統之瓊而著於左手掌中、便化生男矣、則稱之曰「正哉吾勝。」故因名之曰勝速日天忍穗耳尊。復、含右髻之瓊、著於右手掌中、化生天穗日命。復、含嬰頸之瓊、著於左臂中、化生天津彥根命。又、自右臂中、化生活津彥根命。又、自左足中、化生熯之速日命。又、自右足中、化生熊野忍蹈命、亦名熊野忍隅命。其素戔嗚尊所生之兒皆已男矣、故日神方知素戔嗚尊元有赤心、便取其六男以爲日神之子、使治天原。卽以日神所生三女神者、使隆居于葦原中國之宇佐嶋矣、今在海北道中、號曰道主貴、此筑紫水沼君等祭神是也。熯、干也、此云備。『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書3〕より)

 

第六段〔一書3〕の解説

第六段〔一書3〕は、〔一書1〕と同じく日神系伝承。〔一書1〕の延長上にありつつ、特徴としては、「勝」を、誕生した子の命名に結びつけて展開してるところ。

ちなみに、〔一書1〕から〔一書3〕にかけては、素戔嗚尊の「勝」に力点を置く度合を強めていき、それが日神の地位を下げ、相対的に天照大神の地位を高めていく構造になっとります。

そんな概観を踏まえて、、

以下詳細解説。

  • ある書はこう伝えている。日神ひのかみ素戔鳴尊すさのをのみことは、天安河あまのやすのかはを隔てて、向かい合い誓約うけひを立て「お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、お前の生む子は必ず男である。もし男を生めば、子となして天原あまのはらを治めさせよう」と言った。そこで、日神が、先にその帯びていた十握剣とつかのつるぎを食べ子を化生した。瀛津嶋姫命おきつしまひめのみことである。またの名を市杵嶋姫命いちきしまひめのみことという。また九握剣ここのつかのつるぎを食べて子を化生した。湍津姫命たぎつひめのみことである。また八握剣やつかのつるぎを食べて子を化生した。田霧姫命たきりひめのみことである。
  • 一書曰、日神與素戔嗚尊、隔天安河、而相對乃立誓約曰「汝若不有奸賊之心者、汝所生子必男矣。如生男者、予以爲子而令治天原也。」於是、日神、先食其十握劒化生兒、瀛津嶋姬命、亦名市杵嶋姬命。又食九握劒化生兒、湍津姬命。又食八握劒化生兒、田霧姬命。

→差異化の果てに、もはや素戔嗚尊の昇天さえ伝えずいきなり誓約儀式からはじまる斬新さ。。

先に言葉の解説を少し。

天安河あまのやすのかは」は、天原に流れる河・川。河のほとりは祭りの場、神聖な場所。水の流れがある=穢れを浄化する場所でもあって、、誓約儀礼に相応しい場所として選定されてます。

姧賊之心あたなふのこころ」は、国を奪い取る邪悪な心。単なる泥棒(盗賊)よりも、「国家や統治の秩序を内側から乱す、狡猾な悪人」という文脈で使われることが多く、しばしば「叛賊(はんぞく)」や「国賊」と同義で扱われます。「姧」は、「おかす(法や道を犯す)」「よこしま(邪悪)」。「賊」は、「そこなう(傷つける、害する)」という意味。

その上で、、

日神ひのかみ素戔鳴尊すさのをのみことは、天安河あまのやすのかはを隔てて、向かい合い誓約うけひを立て「お前にもし国を奪い取る邪悪な心がないならば、お前の生む子は必ず男である。もし男を生めば、子として天原あまのはらを治めさせよう」と言った。」とあります。

ポイント2つ。

①〔一書1〕と同様に、日神主導&物根交換無し。自分の物を使って子を生むのは、日神の負けを強調する設定

コレまでの解説の通り、〔一書3〕も日神主導の誓約スタイル。日神が誓約の条件設定した後、先に、子を生んでる。てか、〔一書3〕は、もはや昇天プロセスの描きもないので奪国嫌疑すら設定されていない、、

しかも、勝利条件を設定した本人が女神を生む。。しかも自分の物を使って、、なんか、、すごくイけてない、、日神。。

さらに、

②〔一書1〕と同じく日神の負けを強調するための構造がココでも、、、

先ほど、〔一書1〕のところで解説した通り、誓約の条件設定も、〔本伝〕の二つの事態を仮定するのではなく一つだけになってます。

(A )汝若不有賊之心者

(B )汝所生子、必男

さらに、(B)では「必」を加えることによって、仮定した(A)の成立が必然的に(B)の発生・惹起につながることを強調しています。「必」により、日神が強い確信をもって結果を断言してるんですね。

それなのに、日神じしんが女を生んでしまう。。。しかも、3→4神。増えてる!これはつまり、日神の負けを強調するための構造と言えます。改めてチェック。

最後!

③「もし男を生めば、子となして天原あまのはらを治めさせよう」てのは、系譜づくりのほか、統治者として位置付ける重要な意味あり

実は、第六段〔本伝〕や他の〔一書〕では、天照または日神の子としたところまでは伝えていたが統治させるまでは伝えてなかったんす。それが、ここ〔一書3〕で初めて、統治させるところまで踏み込んだ。この意味は結構大きくて。

単に子としただけでは、その子が統治する根拠は薄い。親からの直接の任命があって初めて正当性が発生する訳です。

ちなみに、、

この後に伝える内容で

  • 「正哉吾勝」という勝利宣言により、その勝を名に冠した子 = 親の「元有赤心」や勝をその身に体現している
  • 誕生の仕方も、珍貴な子に相応しいかたちをとっている

これらすべてが、天原を統治させるに相応しいとするための設定になってることもチェックです。後ほど解説。

 

次!

  • そうしてのち素戔鳴尊すさのをのみことが、その左手のみづらに巻きつけていたたくさんの玉が連なった髪飾りの玉を口に含み左の手のひらにつけ、男を化生し、これをたたえて「まさしくも、私が勝ったのだ」と言った。それによって名付け、勝速日天忍穂耳尊かちはやひあまのおしほみみのみことと言う。また、右の髻の玉を口に含み、右の手のひらにつけ、天穂日命あまのほひのみことを化生した。また、くびにかけていた玉を口に含み、左ひぢにつけ、天津彦根命あまつひこねのみことを化生した。また、右臂から、活津彦根命いくつひこねのみことを化生した。また、左足より、熯之速日命ひのはやひのみことを化生した。また、右足から、熊野忍蹈命くまののおしほみのみことを化生した。またの名を、熊野忍隅命くまののおしくまのみことという。
  • 巳而素戔嗚尊、含其左髻所纒五百箇御統之瓊而著於左手掌中、便化生男矣、則稱之曰「正哉吾勝。」故因名之曰勝速日天忍穗耳尊。復、含右髻之瓊、著於右手掌中、化生天穗日命。復、含嬰頸之瓊、著於左臂中、化生天津彥根命。又、自右臂中、化生活津彥根命。又、自左足中、化生熯之速日命。又、自右足中、化生熊野忍蹈命、亦名熊野忍隅命。

→玉を口に含んで吐き出して化生した、、、だと??

ポイント2つ。

①6神の誕生方法は、日神の子となして天原を統治するに相応しい生まれ方

素戔鳴尊すさのをのみことが、その左手のみづらに巻きつけていたたくさんの玉が連なった髪飾りの玉を口に含み左の手のひらにつけ、男を化生し」とあります。

素戔嗚尊が生んだ6柱の男神は、特別な生み方が設定されてます。

玉を口に含む+六臂(両手、両臂、両足)に吐き出しつける

なんでこんなことやってるかというと、先ほど日神が言った「もし男を生めば、子として天原あまのはらを治めさせよう」を承けてるから。つまり、日神の子となして天原統治をさせるために相応しい誕生方法として設定されてる訳です。

類例としては、第五段〔一書1〕。

伊奘諾尊が、日・月に当たる神の誕生を次のように伝えてました。

伊奘諾尊曰「吾欲生御寓之珍子。」乃以左手持白銅鏡則有化出之神。是謂大日尊。右手持白銅鏡則有化出之神。是謂月弓尊。

ということで、

白銅鏡を左右の手に持つと神が化出するこのありかたは、ココ〔一書3〕の五百箇の統の瓊を含んで左右の手の掌中に著けると男が化生するというかたちに通じてる訳です。

第五段〔一書1〕では、神の化出を「生御寓之珍子」に相応しいものとしていたように、ココ〔一書3〕でも、誕生した後に「便取其六男以為日神之子、使治天原。」と処遇する、子に相応しい誕生の仕方として演出した訳ですね。

この演出は、〔一書3〕が〔一書1〕をひき継ぐなかで、子の誕生に加え、誕生した子の尊貴化をはかる差違化によるものであります。

そして!

②「正哉吾勝」という勝利宣言により、その勝を名に冠した子 = 親の「元有赤心」や勝をその身に体現している

これをたたえて「まさしくも、私が勝ったのだ」と言った。それによって名付け、勝速日天忍穂耳尊かちはやひあまのおしほみみのみことと言う。」とあります。

これも、似たような話ですが、「正哉吾勝」という勝利宣言をあえてやって「勝速日天忍穂耳尊かちはやひあまのおしほみみのみこと」と名付けてるってことは、勝を名に冠した子 = 親の「元有赤心」や勝をその身に体現している訳で、まさに天原統治に相応しいお方じゃ〜という話になる訳です。

補足で言うと、

〔一書1〕では、客観的な事実として「(凡五男神矣)故、素戔嗚尊既得勝験。」とつたえるだけで、いかにも簡潔な記述だったのが、〔一書3〕では、同じ結果ながら「(便化生男矣)則称之曰、正哉吾勝。故、因名之曰勝速日天忍穂耳尊。」と勝利宣言のかたちをとり、なおかつそれを子の名の冒頭に冠するようになる。素戔嗚尊の勝ちを〔一書1〕から〔一書3〕にかけて強化してる雰囲気を感じていただければと。。

ちなみに、、この強化してる雰囲気は化生した神の数にも表れてます。〔一書1〕では5神だったのが6神へ。。概要は以下。

〔一書1〕 〔一書3〕
正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみこと ①著於左手掌中:勝速日天忍穗耳尊
天津彦根命あまつひこねのみこと ③著於左臂中:天津彥根命
活津彦根命いくつひこねのみこと ④自右臂中:活津彥根命
天穂日命あまのほひのみこと ②著於右手掌中:天穗日命
熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと ⑥自右足中:熊野忍蹈命
⑤左足中:熯之速日命

※〔一書3〕の番号は生まれた順番

ちなみに、、、6番目に追加された「熯之速日命」について、これまで「熯速日神」や「熯速日命」として第五段〔一書6〕で誕生してましたが、ココでも。。??一説には、第五段〔一書6〕で誕生した神とは同じではない、といったものもあります。

 

次!

  • その素戔鳴尊すさのをのみことの生んだ子はみんな男だった、ゆえに、日神ひのかみ素戔鳴尊すさのをのみことにもともと潔白な心であったことを知った。そこでその六男を引き取って日神の子とし、天原あまのはらを治めさせた。日神の生んだ三女神は、葦原中国あしはらのなかつくに宇佐嶋うさのしまくだした。今、海の北の道中みちなかに在って、名を道主貴みちぬしのむちと言う。これは筑紫つくし水沼君みぬまのきみの祭る神である。「熯」は、「かん」である。ここでは「」と云う。
  • 其素戔嗚尊所生之兒皆已男矣、故日神方知素戔嗚尊元有赤心、便取其六男以爲日神之子、使治天原。卽以日神所生三女神者、使隆居于葦原中國之宇佐嶋矣、今在海北道中、號曰道主貴、此筑紫水沼君等祭神是也。熯、干也、此云備。

→日神、、ついに素戔嗚がもともと潔白だったことを知る、、ガーン!そうだったのねん

先に言葉の解説を少し。

「赤心」は、きよきこころ。潔白な心。例えば「赤子」のように「赤」には純粋とか潔白の意味あり。

その上で、、

ポイント1つ。

①6男神と3女神、、処遇格差がスゴい、、、

そこでその六男を引き取って日神の子とし、天原あまのはらを治めさせた。日神の生んだ三女神は、葦原中国あしはらのなかつくに宇佐嶋うさのしまくだした。」とあります。

素戔嗚尊の化生した六男に天原を統治させ、もう一方の日神の生んだ三女神を葦原中国の宇佐嶋に降居させた訳ですが、この処遇、非常に対照的です。

  • 取其六男以為日神之子、使治天原
  • 以日神所生三女神者、使降居于葦原中国之宇佐嶋矣

これ、

〔本伝〕の処遇方法とは非常に対立的。

〔本伝〕では、天照大神が五男神を吾が子として養育し、三女神を素戔嗚尊の子として授ける(そして地に降す)という天照大神を中心とした展開でした。

素戔嗚尊の勝を強調する所伝の展開がその大きな要因なんだが、遡れば、素戔嗚尊がみずからの「物根」によって六男を化生した「誓約」による。

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〔一書1、3〕で誕生した神々

〔一書1〕三女神瀛津島姫、湍津姫、田心姫。五男神:正哉吾勝勝速日天忍骨尊まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみこと天津彦根命あまつひこねのみこと活津彦根命いくつひこねのみこと天穂日命あまのほひのみこと熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと

〔一書3〕瀛津嶋姫命おきつしまひめのみこと市杵嶋姫命いちきしまひめのみこと湍津姫命たぎつひめのみこと田霧姫命たきりひめのみこと勝速日天忍穂耳尊かちはやひあまのおしほみみのみこと天穂日命あまのほひのみこと天津彦根命あまつひこねのみこと活津彦根命いくつひこねのみこと熯之速日命ひのはやひのみこと熊野忍蹈命くまののおしほみのみこと熊野忍隅命くまののおしくまのみこと)。

 

誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕 まとめ

『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕

だーっと解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

大きくは、日神から天照大神へ。第六段、第七段を通じて、段階的に入れ替わっていく中での話。

表側の誓約とか子の誕生といったイベントはありつつも、裏では日神から天照大神へ段階的な移行が進行してる訳です。

その上で、

今回お届けしてきた〔一書1、3〕は、日神系列の所伝。「誓約」後の、とりわけ素戔嗚尊の勝と化生した子の処遇とに焦点を当ててます。

さらに、素戔嗚尊の「勝」に力点を置く度合を〔書一〕から〔書三〕にかけて強めていく。それが日神の地位を下げ、相対的に天照大神の地位を高めていく。。って、やっぱすごくない?この構造。

一方、「勝」をめぐっては、続く第七段〔本伝〕冒頭の「是後、素戔嗚尊之為行也、甚無状。」へ展開する準備にもつながっている。。この練りに練られた神話展開に震えていただければとおもいます。

古代日本人の叡智、構想力がほんとスゴイ。そして、それを物語として落とし込む力というか、実現力も超絶であります。現代の私たちにも多くの学びになるかと思います。

ということで、次回は第六段〔一書2〕!お楽しみに!!

 

神話を持って旅に出よう!

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宗像大社 辺津宮の「高宮祭場」宗像三女神が最初に天降った場所として伝わってたりします

六嶽神社(下宮):六ヶ岳の麓にある、三女神を祀る神社。六ヶ岳の上宮は、三女神が最初に降臨した場所とされる山頂付近の「崎門山」にあります。

神興(しんぐう)地区:六ヶ岳(鞍手町)の東側に隣接する福津市神興地区も、三女神の降臨や神話に関わりのある地域とされています。

 

この記事を監修した人

榎本福寿教授 佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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