多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
正史『日本書紀』をもとに、
最新の学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。
今回は、
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段の一書の第7,8。
第五段〔一書7〕〔一書8〕も、神話全体の流れの中で読み解くのが○
概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第7,8 ~激烈なシーンで化成する激烈な神~
目次
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第7,8の位置づけ
前回、『日本書紀』巻第一(神代上)第五段〔一書6〕からの続き。下図、赤枠部分。
上図を見てのとおり、
第五段は、『日本書紀』神代の中で、最も異伝が多い段。こんな伝承もある、あんな伝承もある、と計11パターン。
『日本書紀』最大の特徴である、一書の存在。本伝と一書の関係についてはコチラ↓をチェック。
- 本伝の内容をもとに多角的、多面的に展開する異伝、それが一書。
- 本伝があっての一書であり、一書あっての本伝というように、お互いにつながり合って、関連し合って、踏まえ合って、多様で豊かな日本神話世界を構築している。
で、
それもそのはず。第五段は超重要テーマが目白押し。
特に、天下之主者生み、三貴子の誕生と分治、そして生と死の断絶など。今後の日本神話展開の起点となる設定がたくさん埋め込まれてる。
神ならではのワザ(神業)連発、神ならではの極端な振れ幅、基本的に意味不明。でも、ご安心を。当サイトならではの分かりやすいガイドがあれば迷うことはございません!
ということでコチラ
全11もある異伝も、大別すれば2通り。整理しながら読み進めるのが〇。
- 本伝踏襲 差違化型・・・〔一書1~5〕
- 書6踏襲 差違化型・・・〔一書6~11〕
※踏襲・・・踏まえるってこと。前段の内容、枠組みを。
※差違化・・・(踏まえながら)変えていくこと、違いを生んでいくこと。神話に新たな展開をもたらし、多彩で豊かな世界観を創出する。
で、今回お届けする〔一書7〕〔一書8〕は、〔一書6〕を踏襲した差違化展開型。
冒頭を〔一書6〕の一節と対応させつつ、〔一書6〕の展開と同じような配列になるよう調整しつつ、差違化を入れる組み立て。
なので、まずは〔一書6〕をチェック、その上で〔一書7〕〔一書8〕を読み解いていきましょう。
●必読→ 『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第6 ~人間モデル神登場による新たな展開~
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第7,8の概要とポイント
〔一書7〕〔一書8〕はセットでお届け。
ポイント3つ。
①〔一書7〕〔一書8〕はセット。一書が順を追って独自性を強めていく。ただし、あくまで〔一書6〕の枠組みをもとにした独自展開。
〔一書7〕〔一書8〕は、一書が順を追って独自性を強めていくよシリーズ。
その内容は、
- 〔一書6〕の基本を踏襲しつつ、ちょっと差違化の〔一書7〕
- 〔一書7〕から、さらに差違化した〔一書8〕
6をもとに7、7からさらに8。という具合に、一書が順を追って独自色を強めていく流れ。
ただ、独自を打ち出しているとは言え、〔一書6〕の枠組みや中核要素を逸脱してる訳じゃない。
たとえば、軻遇突智を斬断するところ。コレまでは三段だったのが〔一書8〕は五段になる、といったように、むしろその枠組みを強調するような独自性の出し方、差異化。
次!
②一書7、8の意味は「神殺しへの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付けること
〔一書7〕〔一書8〕の内容は、
- 軻遇突智を何段に斬った?
- 飛び散った血がどんな神になった?
の2点に集約されます。ほんと、そのためだけにつくったのね、ってくらい分かりやすい。ただ、これは表側の話であって、実は、本当のところで伝えたいメッセージがあるんです。
そのメッセージとは、
日本神話史上初の「神殺しの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付けること。
コレ。コレやがな。
神が神を殺す。神を殺した神を、神が殺す(報復・復讐)
て、、スゴイよね。のみならず、ココに親子関係も入ってきて、
子が親(母)を殺す。親(母)を殺した子を、親(父)が殺す(報復・復讐)
と、重層的構造をもとにした骨肉相食む壮絶神イベント発生なう。(;゚д゚)ゴクリ…
それだけ強烈なシーンですから、当然のように、強烈な神威をもった神が生まれる訳です。ココしっかりチェック。
次!
③ここで生まれた神は、後段での再登場へ向けた布石、「わたり」としての位置づけ
ここで誕生する強烈な神は、その強烈な神威を根拠として、
- 〔一書7〕経津主神・・・第9段で、国譲りという大役を引き受ける神として再登場
- 〔一書8〕山祗・・・第9段で、降臨した天孫と結婚する神の親神として再登場
するんです。
なので、〔一書7〕〔一書8〕は、後段での再登場へ向けた布石、学術用語でいう「わたり」として位置づけられる。だからこそ、あえて単独の異伝として切り出したとも言えますね。
まとめます。
- 〔一書7〕〔一書8〕はセット。一書が順を追って独自性を強めていく。ただし、あくまで〔一書6〕の枠組みをもとにした独自展開。
- 内容は、軻遇突智を何段に斬った?飛び散った血がどんな神になった?の2点。その本質的なテーマは、日本神話史上初の「神殺しへの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付けること。
- ここで生まれた神は、後段での再登場へ向けた布石、学術用語でいう「わたり」として位置づけられる。
以上、激しくチェックしたうえで本文へゴー!
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第7,8の本文と解説
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第7の本文と解説
第五段〔一書7〕本文
『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版 ある書はこう伝えている。伊奘諾尊は剣を抜き軻遇突智を斬り三段になした。その一つは雷神となり、一つは大山祇神となり、一つは高龗となった。
また別の言い伝えではこう伝えている。軻遇突智を斬った時に、その血がほとばしり、天八十河中にあった五百箇磐石を染めた。それによって神が化成した。名付けて磐裂神と言う。次に根裂神、次に磐筒男神、次に磐筒女神、この児、経津主神。
倉稲魂、これを「うかのみたま」と読む。少童、これを「わたつみ」と読む。頭辺、これを「まくらへ」と読む。脚辺、これを「あとへ」と読む。熯は火のことである。音は「じぜん」の反。龗これを「おかみ」と読む。音は「りょくてい」の反。吾夫君、これを「あがなせ」と言う。泉之竈、これを「よもつへぐい」と読む。秉炬、これを「たひ」と読む。不須也凶目汚穢、これを「いなしこめききたなき」と読む。醜女、これを「しこめ」と読む。背揮、これを「しりへでにふく」と読む。泉津平坂、これを「よもつひらさか」と読む。尿、これを「ゆまり」と読む。音は「だいちょう」の反。絶妻之誓、これを「ことど」と読む。岐神、これを「ふなとのかみ」と読む。檍、これを「あはき」と読む。
一書曰。伊奘諾尊。抜剣斬軻遇突智、為三段。其一段是為雷神。一段是為大山祇神。一段是為高龗。又曰。斬軻遇突智時。其血激越、染於天八十河中所在五百箇磐石。而因化成神。号曰磐裂神。次根裂神。児磐筒男神。次磐筒女神。児経津主神。
倉稲魂。此云宇介能美挓磨。少童。此云和多都美。頭辺。此云摩苦羅陛。脚辺。此云阿度陛。熯火也。音而善反。龗。此云於箇美。音力丁反。吾夫君。此云阿我儺勢。飡泉之竈。此云誉母都俳遇比。秉炬。此云多妣。不須也凶目汚穢。此云伊儺之居梅枳枳多儺枳。醜女。此云志許売。背揮。此云志理幣提爾布倶。泉津平坂。此云余母都比羅佐可。尿。此云愈磨理。音乃弔反。絶妻之誓。此云許等度。岐神。此云布那斗能加微。檍。此云阿波岐。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第五段〔一書7〕より)
第五段〔一書7〕解説
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第8の本文と解説
第五段〔一書8〕本文
『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版 ある書はこう伝えている。伊奘諾尊は軻遇突智命を斬り五段になした。このそれぞれが五つの山祇に化成した。一つは首で、大山祇となった。二つは身体で、中山祇となった。三つは手で、麓山祇となった。四つは腰で、正勝山祇となった。五つは足で、䨄山祇となった。
この時、斬った血がほとばしり流れ、石や礫、樹や草を染めた。これが草木や砂礫が自ら火を含むようになった由縁である。
麓は、山のふもとのことを言う。これを「はやま」と読む。正勝、これを「まさか」と読む。ある書では「まさかつ」とも読まれる。䨄これを「しぎ」と読む。音は烏含の反。
一書曰。伊奘諾尊斬軻遇突智命、為五段。此各化成五山祇。一則首、化為大山祇。二則身中、化為中山祇。三則手、化為麓山祇。四則腰、化為正勝山祇。五則足、化為䨄山祇。是時斬血激灑、染於石礫樹草。此草木・沙石自含火之縁也。
麓、山足曰麓。此云簸耶磨。正勝、此云麻沙柯菟。一云麻左柯豆。鷸䨄、此云之伎。音鳥含反。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第五段〔一書8〕より)
第五段〔一書8〕解説
〔一書8〕にいたると、独自がいっそう顕著になります。。。前半は、軻遇突智の斬断をめぐって「為 五段 」と数を増やします。
〔一書7〕「為 三段 」→〔一書8〕「為 五段 」
ふ、増えとるやないけ。。
コレ、〔一書7〕の枠組みや中核要素を逸脱してる訳ではなく、むしろその枠組みを強調するような独自化。
他にもあります。軻遇突智を斬った血が飛び散って神になる部分。
- 〔一書7〕斬 軻遇突智 時、其血激越
- 〔一書8〕是時、斬血激灑
と、簡略化する一方、
- 〔一書7〕其血激越、染 於天八十河中所在五百箇磐石 而因化成神
- 〔一書8〕斬血激灑、染 於石礫樹草 。此草木沙石、自含火之縁也
と、形式をそろえながら、〔一書7〕の神の化成に代えて、「磐石」に関連する「石礫樹草」にちなむ起源を伝える〔一書8〕、という差違化の進行。
コレもまた、〔一書7〕の枠組みや形式をもとに独自化している例。
一書が順を追って独自性を強めていく。ただし、あくまで〔一書7〕の枠組みをもとにした独自展開、てところ、まずチェック。
その上で、ポイント2つ。
①五種の山祗。バリエーションが多い=神威が強い
5つに斬った各々から五種の山祗が化成、飛び散った血に染まった草木や石は自然発火するようになったと伝えます。
火から山が生まれる。火山列島日本ならではの神ですよね。火山噴火&溶岩噴出イメージ。そして、草木や砂礫がそれ自体に火を含み燃えるようになった、とは、木炭や石炭、燐といったものでしょうか。
ココ、五種類の山がどうのこうのというよりも、バリエーションが多い=神威が強い、重要な神である、といった意味で表現されてます。
ちなみに、珍説?てか、若干、無理やり感が否めないのですが、一つの説をご紹介。題して、人間の体、五体と対応させてるんじゃ無いか説。
- 首:頭。身体の最重要部なので、大山祗。
- 身体:胴体。体の中心部なので、中山祗。
- 手:身体の端なので、端山祗。
- 腰:胴体と脚との境界なので、マサカ(真堺)山祗。
- 足:山の足(山裾、ふもと)を連想し、そこの雑木林などに猟鳥のシギが棲息したことから、䨄山祇。
、、、何とでも言えるよね。そーかもしれんし、そーじゃないかもしれん。一つのご参考に。
次!
②強大な山祗誕生は、後段の再登場に向けた「わたり」
5つに分かれて化成するほど非常に強力・強大な山祇。
先ほどの、〔一書7〕の経津主神と同様、この山祇も、後段の再登場に向けた前振り、わたりとして位置付けられます。
第九段、降臨した皇孫が最初に結婚するのは大山祇神の娘、鹿葦津姫であります!超絶美人!
なんせ、初めて地上に降臨した皇孫の、最初の嫁さんになるお方ですから、、、そんじょそこらの娘でオッケーする訳には参りません。
ということで、
〔一書7〕〔一書8〕で誕生する強烈な神は、その強烈な神威を根拠として、
- 〔一書7〕経津主神・・・第9段で、国譲りという大役を引き受ける神として再登場
- 〔一書8〕山祗・・・第9段で、降臨した天孫と結婚する神の親神として再登場
するってこと、後段での再登場へ向けた布石、学術用語でいう「わたり」として位置づけられてる。だからこそ、あえて単独の異伝として切り出したとも言えること、しっかりチェック。
練りに練られたプロット、構成、構造をもつ神話なんです。日本神話。感動。
まとめ
『日本書紀』巻第一(神代上)第五段の一書の第7,8
だーっと解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
内容としては、
直前の〔一書6〕で語られなかった内容を補足・補強する形で、
- 軻遇突智を何段に斬った?
- 飛び散った血がどんな神になった?
の2点をもとに展開。最終的には、「めっちゃ神威の強い神誕生」てところに集約。
ポイントとなる神は、経津主神と大山祇神。
いずれも、その強烈な神威を根拠として、
- 〔一書7〕経津主神・・・第9段で、国譲りという大役を引き受ける神として再登場
- 〔一書8〕山祗・・・第9段で、降臨した天孫と結婚する神の親神として再登場
これはつまり、後段での再登場へ向けた布石、学術用語でいう「わたり」として位置づけられてる。
練りに練られたプロット、構成のもとでつくられてるんですね。編纂チームの創意工夫、知恵の結晶がココに。ほんとにスゴイです日本神話。
続きはコチラで!一方的な絶縁スタイル!!
神話を持って旅に出よう!
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住所:奈良県奈良市春日野町160
日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
本シリーズの目次はコチラ!
佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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〔一書7〕は前半と後半の2部構成。その境目が「又曰」。
まずは前半から。
前半:軻遇突智の斬段から神誕生
→息子を3つに刻む、、((( ;゚Д゚))ガクブル
ポイント4つ。
①冒頭を〔一書6〕に対応させ、順を追った配列にしている
冒頭の箇所は、実は〔一書6〕とバッチバチに対応。並べてみます。
同じですよね。。コレにより、〔一書7〕は〔一書6〕を引き継ぐことを明示。さらに、その後の伝承も〔一書6〕の流れに対応した順番で展開してます。
次!
②〔一書6〕の軻遇突智斬断から誕生した神々を具体化
その上で、〔一書6〕で伝えてなかったことを具体化していく。
〔一書6〕の伝えてない箇所がコチラ。
ということで。
「このそれぞれが神へ化成した」とあるんだが、誕生した神への言及無し。どんな神になったか分からず、、〔一書6〕はコレで終わってました。
〔一書6〕を引き継ぐことを踏まえると、〔一書7〕で伝える「その一つは雷神となり、一つは大山祇神となり、一つは高龗となった」というのは、三つに刻んでからどんな神が誕生したのかを具体化してると解釈できる。
誕生したのは以下3神。
火神を刻んでみたところ、、、火とはあまり関係なさそうな神が誕生してますが、、雷(雷神)による山(大山祇神)火事、そして雨(高龗)、、、的なストーリー???正直、これ以上は分かりません。
ですが、チェックしておきたいのは、大山祇神。コチラ、〔一書8〕でも登場し、より具体化する展開に。神話全体の中でも重要な神として位置付けられてます
ということで、
前半部分は〔一書6〕で伝えてなかったことを伝えること。伊奘諾尊が火神を三つに刻んでからどんな神が誕生したのか、具体化してる、ということでチェック。
次!
後半:斬った血が飛び散って神になる系譜
→岩系な神々の誕生から、、経津主神??
ポイント3つ。
①〔一書6〕を合体させて〔一書7〕。そこで伝えるのは「経津主神の系譜」
実は、この箇所も〔一書6〕を承けての内容。経津主神の系譜を欠く〔一書6〕に手を加えてつくられてるんです。
〔一書6〕では、
ということで、太字の部分↑、剣の刃から滴る血が磐石に、剣の先から滴る血がほとばしって磐裂神以下の神に、と伝えてます。
この2つの伝承を合体させて〔一書7〕では、
と伝えてるんです。
さらに!ちょっと飛びますが、『日本書紀』第9段〔本伝〕では、葦原中国へ派遣すべき神を選定するシーンで以下を伝えます。
ということで、
つまり、第五段〔一書6〕から〔一書7〕、からの第九段〔本伝〕へと、3つの伝承をまたがって経津主神の系譜を伝えてるんです。ここがポイントで。
特に、最後の九段では、〔一書7〕で伝える神々を夫婦に組み替え、その子として経津主神を位置づけてる。
なんでこんなことやってるかというと、経津主神はそれだけ重要な神だから。
日本神話上の設定として、国譲り神話で大己貴神に国譲りを迫り、譲らせるほどの神威を持つ神として経津主神が位置付けられてる。大己貴神に対しては並の神で太刀打ちできる訳が無く、、。大己貴神と同等、もしくはそれ以上の神威を持つ神としてのバックグラウンド設定として、いくつかの伝承を重ねながら経津主神ツエェェェェ!ってのを打ち出そうとしてる訳です。
神威超絶な神であればあるほど、さまざまな伝承を持つようになるし、さまざまな神名を持つようになる訳で。
ということで、第五段〔一書6〕から〔一書7〕、からの第九段〔本伝〕へと、3つの伝承をまたがって経津主神の系譜を伝えてるってこと、しっかりチェック。
次!
②日本神話史上初の「神殺しへの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付ける
〔一書6〕から経津主神誕生経緯を切り出し独立した書として展開してるとも言える〔一書7〕。そこで強調したいのは、何度も言うけど経津主神ツエェェェェ!ってこと。
激しい悲痛やら恨みやら復讐やらの中から生まれる神は、その強烈さ劇的さ故に、超強力な神威を持つ。
軻遇突智斬段のシーンとは、
と、重層的構造をもとにした骨肉相食む壮絶神イベント。
経津主神は、元を辿ればそういう強烈なシーンで誕生した神を祖として持つ。故に、非常に神威の強い神である。コレが言いたい訳です。
ちなみに、、、
少し脱線しますが、別の側面からもこの重要性を確認。
第一段の天地開闢から第三段までは、道由来の神々が、道が持つ働きによって化生する展開でした。
それが、第四段からは、男女神の結婚と出産によって国や神が誕生する展開へ。
大きな時代変化のただ中にあって、
本来であれば、出産による神誕生であるべきなんですが、よほどの大事件が発生した場合、あるいはよほどのスゴイ神が誕生する場合に限って、単独化成イベントが発生。
〔一書7〕〔一書8〕も同様で、要は、時代背景的にも特別な生まれ方をしてる、それだけ特別な神である、とも言えるよと、これも是非チェック。
次!
③後段での再登場へ向けた布石、「わたり」としての位置づけ
先ほどの話の続き。国譲りでは「経津主神」を筆頭に「武甕槌神」の二神が大己貴神に国譲りを迫ります。葦原中国を自ら平定した「大己貴神」にその国を譲れと言う訳ですから、並の神では太刀打ちできる訳が無い。
大己貴神と同等、もしくはそれ以上の神威を持つ神としてのバックグラウンドを設定するために、このシーンが選ばれてる訳で、その意味で、〔一書7〕の伝承は、
第九段の国譲り神話に繋げてる=布石、わたり
と言う意味とか役割がある訳ですね。
ちなみに、〔一書6〕で登場する「激越」という文字に着目すると、、、
〔一書6〕「復剣鋒垂血、激越 為神。」をひき継いで、
〔一書7〕「其血激越、染 於天八十河中所 在五百箇磐石 而因 化成神、〜児経津主神。」と展開させてるのが分かりますし、
なんなら、その延長上に、経津主神が十握剣の「剣鋒」に垂る血により成った神の子孫として、第9段の国譲りで「踞 其鋒端 (十握剣の切先にあぐらをかいて座り)」という行動に出たものとみることができる。
『日本書紀』編纂チームの創意工夫、知恵の結晶がココに。すごい構想力ですよね。