大八洲国/大八島国(おおやしまぐに)|八つの洲(嶋)を一括して国化!儀礼を通じて誕生した神聖な日本の国土

大八洲国

 

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」とは、日本神話で伝える、「日本」の国土のこと。『日本書紀にほんしょき』では「大八洲国おおやしまぐに」、『古事記こじき』では「大八嶋国」と伝えます。

コレ、「国」っていう漢字が使われてますが、「日本」のことなんですが、、

国ではございません。

なぜなら、「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」として誕生したときは、国民も主権も無い状態だから。

国を構成する三要件「領土、国民、主権」のうち、二要件無し。だから、国とは言えない。。。

正確に言うと、将来的には日本の国土になる土台。

国生み神話で登場。伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみことが結婚し、産んだと伝える「しま/嶋」が八つ。それらをまとめて「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」と名付けられてます。

ココから、神話的展開の中で、人民(国民)が誕生するし、統治者(≑主権)も誕生して、最終的に日本という国になる。。

今回は、そんな不思議の国の「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」について分かりやすくディープに解説します。

 

本記事の独自性、ここにしか無い価値

  • 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

大八洲国/大八島国(おおやしまぐに)|八つの洲(嶋)を一括して国化!儀礼を通じて誕生した神聖な日本の国土

大八洲国/大八島国とは

まずは、「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」とは何か?についてチェック。

改めて、

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国とは、将来的には日本の国土になる土台。

登場するのは、国生み神話。伊奘諾尊いざなきのみこと(伊耶那岐命)と伊奘冉尊いざなみのみこと(伊耶那美命)が結婚し産んだと伝える「しま/嶋」が八つ。それらをまとめて「洲国くに/国」と名付けられます。

で、実は、

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」については、計7つの伝承があり、多彩な神話世界が展開されてるんです。

日本書紀にほんしょき』で6つの異伝+『古事記こじき』、計7つ。

日本神話全体のなかで、1つのテーマで7つもバリエーション持ってるのは「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」だけ。

高天原たかあまのはらの最高神「天照大神あまてらすおおかみ」ですら、その誕生バリエーションは記紀きき合わせて4つ。日本神話的な「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」への力の入れようが分かります。それだけ大事だってこと。

で、大事なのは、その理由。それは、

日本神話が「日本という国の成立へ繋がっていくお話」だから。

なんだかんだと、日本神話の目的は、日本という国の成立経緯を明らかにすることであり、その意味で、なんなら、日本という国がいかに素晴らしいか、スゴイかを伝えることが大事な訳で、この結果、ボリュームが増える、バリエーションが増える?

私たちが今、『日本書紀にほんしょき』や『古事記こじき』を通して見ているのは、あくまで編纂の結果なので、そういう背景を理解して読み解く必要があるってことですね。

ちなみに、、

国の成立には3つの要件が必要で。それが、国土、国民、主権の3要件。

で、日本神話的に、特に力を入れて伝えてるのが、国土と主権(統治者)の2つであります。

この2つについては、誕生プロセスが細かく伝えられてる。どういう経緯で生まれたのか?を明らかにすることで、結果として誕生する国土や主権者(統治者)の正当性とか、なんなら尊貴さを伝えようとしてるんです。

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」についていえば、そのプロセスは、儀礼、つまり、正式な手続きにのっとった結婚儀礼を踏まえるという形で伝えてる。

「正式な手続きにのっとった結婚儀礼」とは、具体的には、、

  1. 左旋右旋させんうせん、②先唱後和せんしょうこうわ、③身体問答しんたいもんどう、④交合結婚こうごうけっこんという手続き、流れを踏むこと。
  2. それぞれのプロセスでは、伊奘諾尊(伊耶那岐命)が主導で進めること。

の2点。詳しくはコチラで。

『日本書紀』第四段
『日本書紀』第四段
『古事記』国生み

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」の正当化や神聖化。それはつまり、日本の神聖化と同義なので、超重要事項。

さらに、この基本形をもとに、さまざまに差違化、バリエーション化して、多彩で豊かな日本を打ち出してるんです。ココ、しっかりチェック。

 

大八洲国の誕生現場 『日本書紀』『古事記』より

ということで、ココからは、「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」誕生の現場をお届け。

まずは日本の正史『日本書紀にほんしょき』からお届け。基本形をチェックして、応用を見ていきます。

こちら、全部で6パターンの大八洲国おおやしまぐにアリ。

って、この時点で、

多すぎだろ。。

正史の中で、国土誕生神話を6個も持ってる国がどこにあるというのだ。、。多彩にも程がある!

まずは『日本書紀』の本伝から。本伝は国生みの基本、原型です。ポイントをしっかりチェック。その上で、異伝を確認していきます。

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」の基本型 『日本書紀』第四段<本伝>

 (伊奘諾尊と伊奘冉尊は)産む時になって、まず淡路洲あはぢのしまえなとしたが、それはこころに不快なものであった。そのため「淡路洲あはぢのしま」と名付けた。こうして大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしまを産んだ。次に伊予二名洲いよのふたなのしまを産んだ。次に筑紫洲つくしのしまを産んだ。そして億歧洲おきのしま佐渡洲さどのしまを双児で産んだ。次に越洲こしのくにを産んだ。次に大洲おほしまを産んだ。そして吉備子洲きびのこしまを産んだ。これにより、はじめて八洲を総称する国の「大八洲国おほやしまぐに」の名が起こった。

 及至産時、先以淡路洲為胞。意所不快。故、名之曰淡路洲。廼生大日本豊秋津洲。次生伊予二名洲。次生筑紫洲。次双生億岐洲与佐度洲。次生越洲。次生大洲。次生吉備子洲。由是、始起大八洲国之号焉。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 本伝より一部「注」は削除)

『日本書紀』第四段

ということで。

さーこれから産むよ-!というときになって、淡路洲あわじのしまが既にあったんで、それをえな(膜)とした。ところが、そのえなとした淡路洲あわじのしま、二神とも、これ気持ち悪くてヤダー!ってなる。淡い感じでふわーっとしてズルズルした感じが気持ち悪かった?? でも、結局生んだ。気持ち悪いけどえな(膜)を使って出産したんす。それで誕生したのが大八洲国おおやしまぐに

ポイントは4つ。

  • 陽神おかみ左旋させん運動踏襲。基本、左回りで生んでいく
  • 最後に8つのしまを「まとめて」大八洲国おおやしまぐにとする
  • 大八洲国おおやしまぐにの「八」は「多数」あるいは聖数を表す
  • しまと嶋の使い分け。しまは国として一括される大きさを持つ

大事なのは、結果じゃなくてプロセス。「大八洲国おおやしまぐに」自体に語るポイントはあんまり無い、、、?

以下、解説。

①陽神の左旋運動踏襲。基本、左回りで生んでいく

一応、伊奘諾尊(陽神)と伊奘冉尊(陰神)による柱巡みはしらめぐり儀礼の直後で。子であるしまの生み方も陽神おかみ左旋させん運動を踏襲します。左優位の考え方。

『日本書紀』柱巡り

からの、、、

と。

生み方にも原則的なルールがある。(あくまで現場目線で)左回りで産んでいく訳です。

聖なる洲国くにの誕生ですから当然、陽神おかみ主導の左旋させんを利用。これもチェック。

次!

②最後に8つの洲を「まとめて」大八洲国とする

以下一覧。

大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしま 本州
伊予二名洲いよのふたなのしま 四国
筑紫洲つくしのしま 九州
億歧洲おきのしま 隠岐島
佐渡洲さどのしま 佐渡
越洲こしのしま 北陸道
大洲おほしま 周防国大島(山口県屋代島)
吉備子洲きびのこしま 備前児島半島(岡山県)

バラバラに生んだ「大日本豊秋津洲おおやまととよあきづしま」以下の八洲を、最後にをまとめて「大八洲国おおやしまぐに」と号する訳です。

最初から大八洲国おおやしまぐにを生んだのではなく、生んだ結果が八つのしまだったから大八洲国おおやしまぐに。ちょっとしたニュアンスの違いかもしれませんが、大事です。神聖な手続きを踏んで生まれましたから、生まれ方や数にも神聖さが表出される訳で。

次!

③大八洲国の「八」は「多数」あるいは聖数を表す

そんな「八」という数字。これは多数あるいは聖数を表します。

神代紀に散見する例を他に。
八雷やくさのいかづち八色雷公やくさのいかづち)」「八十万神やそよろづのかみ」「八箇少女やたりのをとめ」「八丘八谷やをやたに」「八十木種やそこだね」「八日八夜やかやよ」「八重雲やへくも」「百不足之八十隈ももたらずやそくまで」、またあるいは「八咫鏡やたのかがみ」「八坂瓊曲玉やさかにのまがたま」など、

いずれも、「八」にちなむ例は「大八洲国おおやしまぐに」より後に登場。ココからスタート、これが起点になってるってことですね。

ちなみに、これまでの流れも再確認。

純男神三代(3)→男女神四代(4)→神世七代(7)→大八洲国(8)

といった設定で、第一段から広がりをもった数字の設定、その線上にあります。

まとめます。

  • 陽神おかみ左旋させん運動踏襲。基本、左回りで生んでいく
  • 最後に8つのしまを「まとめて」大八洲国おおやしまぐにとする
  • 大八洲国おおやしまぐにの「八」は「多数」あるいは聖数を表す

以上が基本形。しっかりチェック。

 

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」の差異化型① 『日本書紀』第四段<一書 第一>

続いて、基本をもとにした応用編。差違化変形パターンの〔一書〕群をチェックしていきます。

差違化の狙いは、多彩で豊かな日本を打ち出していくことなので、1つ1つの細かいところを何でやねん?と突っ込むことにあまり意味がなくて。むしろ、この多彩さを、豊かさをそのまま楽しむのが◎

まずは、〔一書1〕。続いて〔一書6〕~〔一書9〕を一括してお届けします。

 このあと、同じ宮に共に住み、子を産んだ。その子を大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしまと名付けた。次に淡路洲あはぢのしま。次に伊予二名洲いよのふたなのしま。次に筑紫洲つくしのしま。次に億歧三子洲おきのみつごのしま。次に佐渡洲さどのしま。次に越洲こしのしま。次に吉備子洲きびのこしま。これにより、この八洲やしま大八洲国おほやしまのくにと言う。

然後、同宮共住、而生児。号大日本豊秋津洲。次淡路洲。次伊予二名洲。次筑紫洲。次億岐三子洲。次佐度洲。次越洲。次吉備子洲。由此、謂之大八洲国矣。瑞、此云弥図。妍哉、此云阿那而恵夜。可愛、此云哀。太占、此云布刀磨爾。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第四段〔一書1〕より)

『日本書紀』第四段

ということで。

一応、第四段本伝との違いを見るため一覧でまとめてみます。

  第四段本伝 第四段一書1
大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしま 本州 大日本豊秋津洲 本州
伊予二名洲いよのふたなのしま 四国 淡路洲 淡路島
筑紫洲つくしのしま 九州 伊予二名洲 四国
億歧洲おきのしま 隠岐島 筑紫洲 九州
佐渡洲さどのしま 佐渡 億歧三子洲おきのみつごのしま 隠岐島
越洲こしのしま 北陸道 佐渡洲 佐渡
大洲おほしま 周防国大島(山口県屋代島) 越洲 北陸道
吉備子洲きびのこしま 備前児島半島(岡山県) 吉備子洲 備前児島半島(岡山県)

〔一書1〕でも、本伝同様、陽神おかみ左旋させんを引き継いで、原則、左回りに生んでいってますね。

あとは、本伝の「大洲おおしま」差し替え「淡路洲あわじのしま」挿入の巻。本伝では出産用の膜として使っていた「淡路洲あわじのしま」が、大八洲国おおやしまぐにのほうに組み込まれてます。

感じてください。この多彩さを。奥ゆかしさを。。。

 

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」の差異化型② 『日本書紀』第四段<一書 第六、七、八、九>

次に、一書第6~9はセットでお届け。

第6の冒頭「二柱の神は交合して夫婦となった。」を踏まえ、第7以降どの一書も夫婦前提で書き出してます。本伝にもとづく伝承。差違化。

ポイントは、えなの使用くらいかと。。。ここでは、

  • 淡路洲あわじのしま淡洲あわのしま
  • 磤馭慮嶋おのごろしま

が、「えな(膜)」として使用され出産。それぞれが、何でそれなのか?はあまり意味が無く、差違化の結果として理解。どれもこれも断片的な伝承になってます。

<一書 第六>

 ある書はこう伝えている。二柱の神は交合して夫婦となった。まず淡路洲あはぢのしま淡洲あはのしまえなとして、大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしまを生んだ。次に伊予洲いよのしま、次に筑紫洲つくしのしま、そして億歧洲おきのしま佐渡洲さどのしまとを双児で生んだ。次に越洲こしのしま、次に大洲おほしま、そして子洲こしま

一書曰、二神合爲夫婦、先以淡路洲・淡洲爲胞、生大日本豐秋津洲。次伊豫洲。次筑紫洲。次雙生億岐洲與佐度洲。次越洲。次大洲。次子洲。

 

<一書 第七>

 ある書はこう伝えている。まず淡路洲を生んだ。次に大日本豊秋津洲、次に伊予二名洲いよのふたなのしま、次に億岐洲、次に佐渡洲、次に筑紫洲、次に壱岐洲いきのしま、次に対馬洲つしま

一書曰、先生淡路洲。次大日本豐秋津洲。次伊豫二名洲。次億岐洲。次佐度洲。次筑紫洲。次壹岐洲。次對馬洲。

 

<一書 第八>

 ある書はこう伝えている。磤馭慮嶋をえなとして、淡路洲を生んだ。次に大日本豊秋津洲。次に伊予二名洲。次に筑紫洲。次に吉備子洲きびのこしま。次に億歧洲と佐渡洲を双児で生んだ。次に越洲。

一書曰、以磤馭慮嶋爲胞、生淡路洲。次大日本豐秋津洲。次伊豫二名洲。次筑紫洲。次吉備子洲。次雙生億岐洲与佐度洲。次越洲。

 

<一書 第九>

 ある書はこう伝えている。淡路洲を胞として、大日本豊秋津洲を生んだ。次に淡洲。次に伊予二名洲。次に億歧三子洲おきのみつごのしま。次に佐渡洲。次に筑紫洲。次に吉備子洲。次に大洲。

一書曰、以淡路洲爲胞、生大日本豐秋津洲。次淡洲。次伊豫二名洲。次億岐三子洲。次佐度洲。次筑紫洲。次吉備子洲。次大洲。

ということで。

一覧として以下。

一書6 一書7 一書8 一書9
大日本豊秋津洲 淡路洲 淡路洲 大日本豊秋津洲
伊予洲 大日本豊秋津洲 大日本豊秋津洲 淡洲
筑紫洲 伊予二名洲 伊予二名洲 伊予二名洲
億歧洲 億岐洲 筑紫洲 億歧三子洲
佐渡洲 佐渡洲 吉備子洲 佐渡洲
越洲 筑紫洲 億歧洲 筑紫洲
大洲 壱岐洲 佐渡洲 吉備子洲
子洲 対馬洲 越洲 大洲

※大日本豊秋津洲(本州)、伊予洲(四国)、筑紫洲(九州)、億歧洲(隠岐の島)、佐渡洲(佐渡島)、大洲(周防国大島/山口県屋代島か)、子洲・吉備子洲(備前国/岡山県の児島半島)、壱岐洲、対馬洲、越洲(北陸道一帯)

と、やっぱ1つ1つに対して、なんでコレは入っててコレは入ってないの?と問うてもあんまり意味が無い。。。狙いは、差違化による「多彩で奥ゆかしいジャパーン創出」なので。そういうものとして理解。

ただ、中でも特徴的なのはやっぱり、えなの使用かと。言いたいんじゃない?本伝でも伝えてるし。一書でも2箇所で伝えてますしね。神様独特の出産方法であります。

続けて『古事記こじき』バージョンです。

 

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」の差異化型③ 『古事記』上巻

日本書紀にほんしょき』が「大八洲国おおやしまぐに」という名前だったのが、『古事記こじき』では「大八嶋国おおやしまくに」へ。

まずは本文をチェック。

 このように言ひ終わって御合みあひして生んだ子は、淡道之穗之狹別嶋あはぢのほのさわけのしま。次に、伊豫之二名嶋いよのふたなのしまを生んだ。此の嶋は、身一つにして顔が四つ有る。顔ごとに名が有る。伊豫国いよのくに愛比売えひめといい、讚岐国さぬきのくに飯依比古いひよりひこといい、粟国あはのくに大宜都比売おほげつひめといい、土左国とさのくに建依別たけよりわけという。次に、隠伎之三子嶋おきのみつごのしまを生んだ。またの名は天之忍許呂別あめのおしころわけ。次に、筑紫嶋を生んだ。この嶋もまた、身一つにして顔が四つ有る。顔毎に名が有る。筑紫国は白日別しらひわけといい、豊国とよのくに豊日別とよひわけといい、肥国ひのくに建日向日豊久士比泥別たけひむかひとよくじひねわけといい、熊曾国くまそのくに建日別たけひわけという。次に、伊岐嶋いきのしまを生んだ。またの名は天比登都柱あめひとつばしらという。次に、津嶋を生んだ。またの名は天之狹手依比売あめのさでよりひめという。次に、佐度嶋さどのしまを生んだ。次に、大倭豊秋津嶋おほやまととよあきづしまを生んだ。またの名は天御虚空豊秋津根別あまつみそらとよあきづねわけという。ゆえに、この八嶋やしまを先に生んだことに因って、大八嶋国おほやしまくにという。

如此言竟而御合生子、淡道之穗之狹別嶋。訓別、云和氣。下效此。次生伊豫之二名嶋、此嶋者、身一而有面四、毎面有名、故、伊豫國謂愛比賣此三字以音、下效此也、讚岐國謂飯依比古、粟國謂大宜都比賣此四字以音、土左國謂建依別。 次生隱伎之三子嶋、亦名天之忍許呂別。許呂二字以音。次生筑紫嶋、此嶋亦、身一而有面四、毎面有名、故、筑紫國謂白日別、豐國謂豐日別、肥國謂建日向日豐久士比泥別自久至泥、以音、熊曾國謂建日別。曾字以音。次生伊伎嶋、亦名謂天比登都柱。自比至都以音、訓天如天。次生津嶋、亦名謂天之狹手依比賣。次生佐度嶋。次生大倭豐秋津嶋、亦名謂天御虛空豐秋津根別。故、因此八嶋先所生、謂大八嶋國。 (『古事記』上巻より一部抜粋)

『古事記』国生み

ということで。

『古事記』国生みの順番

『古事記』も同様に、左回りで嶋を生んでいきます。

こちら一覧化。

淡道之穗之狹別島あはぢのほのさわけのしま   淡路島
伊豫之二名島いよのふたなのしま 身一つにして顔が四つ
伊豫国いよのくに愛比売えひめ
讚岐国さぬきのくに飯依比古いひよりひこ
粟国あはのくに大宜都比売おほげつひめ
土左国とさのくに建依別たけよりわけ
四国
-愛媛
-香川
-徳島
-高知
隠伎之三子島おきのみつごのしま 天之忍許呂別あめのおしころわけ 隠岐の島
※島根県八束郡美保関から隠岐の島へ向かうときの視覚に基づく。島の前にある西ノ島の焼火山、西にある知夫島、東にある中ノ島。
筑紫島 身一つにして顔が四つ
筑紫国は白日別しらひわけ
豊国とよのくに豊日別とよひわけ
肥国ひのくに建日向日豊久士比泥別たけひむかひとよくじひねわけ
熊曾国くまそのくに建日別たけひわけ
九州
-福岡
-大分
-熊本
-鹿児島
伊岐島いきのしま 天比登都柱あめひとつばしら 壱岐島
津島 天之狹手依比売あめのさでよりひめ 対馬
佐度島さどのしま   佐渡島
大倭豊秋津島おほやまととよあきづしま 天御虚空豊秋津根別あまつみそらとよあきづねわけ 本州

古事記こじき』は、生んだ島に神名をつけてるのが特徴。男と女の名(比古ひこ比売ひめ等)、四国は穀物系、九州はお日様系、といった感じ。

ポイントは、

名を付与することで神格化する

コレ、

生まれた大八島国おおやしまくにが、伊耶那岐いざなき伊耶那美いざなみの子供であること、血縁関係にあること、生まれた島々が血脈によるつながりをもっていることを、『日本書紀にほんしょき』以上に明確に伝えるため

親と子の関係を強固に打ち出す。そのための神名付与人格化パターンであります。

 

大八洲国/大八島国 誕生経緯に込められた意図

最後に、「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」の誕生経緯をまとめ、そこに込められたメッセージをお届けです。

改めて、「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」誕生における最大のポイントは、

儀礼を通じて誕生する

ってこと。詳しいプロセス解説はコチラで。

『日本書紀』第四段
『日本書紀』第四段
『古事記』国生み

儀礼とは、正式な手続きにのっとった結婚儀礼の事。

コレって、つまり、

結果ではなくプロセスが大事だってことすね。「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」はあくまで結果。重要なのは誕生のプロセス。

で、ココでいう手順とは、

  1. 左旋右旋させんうせん
  2. 先唱後和せんしょうこうわ
  3. 身体問答しんたいもんどう
  4. 交合結婚こうごうけっこん

のこと。そして、ルールとは

尊卑先後そんぴせんごの序」に基づく「陽主導」であること。

これらの手順、ルール、手続きにのっとることで、、、結婚自体が正当なものになる、そしてなにより、結婚によって生まれてくる子(つまり日本の国土)の正当性が担保される、ってこと。そらそうだ、そのへんでテキトーにヤッてデキちゃいました。。では正当性もクソもないだろう。

きちんとした手続き、手順を踏むことで、そりゃスゴイねと、分かってるじゃないかと。評価をいただける訳です。誰に?世界に。神でさえ従うべき手順、ルールがあるし、それを支える原理があるんだと。ますますよく分かってるじゃないかと。

正当性の他にも伝えたいこととは、、、

産んだ子「大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国」は神聖な洲国くに(国)だよ

ってこと。神聖な洲国くに。尊い洲国くに。それでこそ日本の土台たるに相応ふさわしい。

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国の神聖化

それは、

日本の神聖化と同じであって、そのための仕掛けや設定になってるってことですね。

生む当事者、当事者による生む行為、そのプロセス、すべてをことわりのっとらせる。誕生させたヤツらもスゴイ、誕生させた方法もスゴイ、マジヤバイぜスゲーぜ我らが「大八洲国おおやしまぐに」!

と。そういうところへ着地させたい。そのための理論、ロジックがこれでもかと、てんこ盛り。創意工夫の大盛り丼。

この、一番のポイントをチェックです。

 

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国 まとめ

大八洲国おおやしまぐに/大八嶋国

日本神話で伝える「日本」の国土。「日本」のことなんだけど、「国」っていう漢字が使われてるけど、国ではなく、将来「国」になっていく土台のこと。

伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみことが結婚して産んだ「しま」が八つ、一つのまとまりとして「洲国くに」と名付けられてるだけの状態。

ポイントは、結果以上にプロセスが大事って事で。

正式な手続きにのっとった結婚儀礼を踏まえて誕生するのが「大八洲国おおやしまぐに/大八島国」。これにより、大八洲国おおやしまぐにの正当化や神聖化が実現される。それはつまり、日本の神聖化と同義。

大八洲国おおやしまぐに/大八島国」自体は、

  • 陽神おかみ左旋させん運動踏襲。基本、左回りで生んでいく
  • 最後に8つのしまを「まとめて」大八洲国おおやしまぐにとする
  • 大八洲国おおやしまぐにの「八」は「多数」あるいは聖数を表す

といった基本形をもとに、差違化、バリエーション化。その狙いは、多彩で豊かな日本を打ち出していくことであります。

古代日本人が生み出した日本の誕生経緯。そこに込められた創意工夫のスゴさはもちろんのことながら、素晴らしい国にしていこうという願いやら想いやらも込められてる訳で。私たちが継承していくべきはこういう想いだったりするんじゃないかと思います。

 

こちら大八洲国を伝える日本神話!必読です!

『日本書紀』第四段
『日本書紀』第四段
『古事記』国生み
国生み神話

 

この記事を監修した人

榎本福寿教授 佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。

参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)

 

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1件のコメント

旧出雲国の島根県安来市にある十神山は古事記の言うオノゴロ島っぽいよね。近くにイザナミの神陵の比婆山もあり、足立美術館に鷺の湯温泉、和鋼博物館、清水寺と見どころ満載だ。

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豊かで多彩な日本神話の世界へ。是非一度、足を踏み入れてみてください。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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