中洲(なかつしま)|葦原中国の中心となる地!東征の目的地「中洲」まとめ

 

日本神話に登場する、重要ワード、重要エピソードをディープに掘り下げる「日本神話解説シリーズ」。

今回は、

中洲なかつしま

をテーマにお届けします。

神武じんむ東征とうせい神話に登場する言葉で、東征とうせいの目的地。日本建国の地。

天地開闢てんちかいびゃくから日本建国までを伝えるのが日本神話。そのエンディングを飾る場所、すべてはココに繋がるために用意された物語。。そう考えると非常に重要な場所だったりします。

今回は、そんな「中洲なかつしま」について神武じんむ東征とうせい神話をもとにディープに掘り下げます。

 

中洲(なかつしま)|葦原中国の中心となる地。東征の目的地「中洲」まとめ

中洲が登場する日本神話

まずは、「中洲なかつしま」が登場する現場をチェック。

こちら、『日本書紀にほんしょき』巻三(神武じんむ紀)、通称「神武じんむ東征とうせい神話」で伝えます。

神武じんむ東征とうせい神話は、日本の建国神話。日本神話のなかで最大のクライマックスを彩るアツく奥ゆかしい建国譚であります。

この中で、中洲なかつしま」は東征とうせいの目的地として登場。

最初は、「胆駒山いこまやま」越えルートを行こうとする時、

改めて、東方、胆駒山いこまやまを越えて中洲なかつしまに入ろうとした。(更欲東踰膽駒山而入中洲)」とあり、東大阪ひがしおおさかから「胆駒山いこまやま(現在の生駒山いこまやま)」を越えたところに「中洲なかつしま」があると想定されてます。

孔舎衛坂激戦、敗退

次に登場するのは、熊野荒坂津くまのあらさかのつ。ココから熊野くまのの山を越えて行こうとする時、

東征一行は中洲なかつしまに向かおうとした。しかし、山中は険しく、進むべき道もなかった。進退窮まり、踏みわたるべきところも分からない。(既而皇師、欲趣中洲、而山中嶮絶、無復可行之路、乃棲遑不知其所跋渉」とあり、山を越えていった先にあることが想定されてます。

最後に登場するのは、橿原かしはら即位の時、

遠く辺境の地はいまだ静まらず、人を惑わす妖怪はなお勢いが強いが、中洲なかつしまの地は少しも騒乱がない。(雖邊土未淸餘妖尚梗、而中洲之地無復風塵)」とあり、平定した大和やまとの地が平和になったことを伝えてます。

『日本書紀』 巻第三(神武紀)

いずれも、現在の大和やまと平野へいや奈良盆地ならぼんち)が「中洲なかつしま」として位置づけられてます。

 

中洲とは、中央の地。地域。

ここからは、そんな「中洲なかつしま」を具体的に解説。ポイント2つ。

  • 葦原中国あしはらのなかつくにという日本全体を指す言葉より小さい、その中心となる地域である
  • 国の平定と統治の偉業を大きく広げ、王の徳を天下のすみずみまで届けるのにふさわしい場所である

1つめ。

葦原中国あしはらのなかつくにという日本全体を指す言葉より小さい、その中心となる地域である

中洲なかつしま」、意味的には、真ん中のしま、ということ。その大きさやイメージが分かるのがコチラ。

東征とうせい成就後、これを総括した言葉に、

「遠く辺境の地はいまだ静まらず、人を惑わす妖怪はなお勢いが強いが、中洲の地は少しも騒乱がない。(雖邊土未淸餘妖尚梗、而中洲之地無復風塵)」とありました。

ココでは、辺土へんど(周辺の地)」と対応する形で、「中央、中心の地」として位置づけられてます。

そして、「中洲なかつしま」の「しま」は、伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみことが生んだ「大八洲国おおやしまぐに」の「しま」。

「国」としての実質はなく、それより小さい単位の地域的な意味合いが強い言葉です。

また、

熊野くまの遭難そうなんの際、天照大神あまてらすおおかみが救援する言葉に「それ葦原中国はさやげりなり」とあり、遭難そうなんから回復した後に「既にして皇師、中洲に趣かむとす」とあり、ココから、葦原中国あしはらのなかつくにという日本全体を指す言葉より小さい、その中心となる地域をいうことが分かります。

まとめると、

  • 辺土へんど(周辺の地)」と対応し、「中央、中心の地」である。
  • 葦原中国あしはらのなかつくにという日本全体を指す言葉より小さい、その中心となる地域をいう。

ことが分かります。

ちなみに、、

東征とうせい成就後の神武じんむの言葉には、「あの畝傍山うねびやまの東南の橿原の地は、思うに国の奥深くにある安住の地であろう(夫畝傍山東南橿原地者、蓋國之墺區乎)」とあり、ココでは、橿原かしはらの地を、国の奥深くにある安住の地「墺區もなか」として伝えてます。

つまり、「中洲なかつしま」が地域的な大きさだとすると、「墺區もなか」は一つの場所的な大きさ。

全部まとめると

葦原中国あしはらのなかつくに中洲なかつしま墺區もなか

こんな感じのイメージで整理できます。

2つ目。

②国の平定と統治の偉業を大きく広げ、王の徳を天下のすみずみまで届けるのにふさわしい場所である

中洲なかつしま」がどんな意味を持っているのか、それが分かるのがコチラ。

東征とうせい神話の最初、東征とうせい発議ほつぎを行うのですが、そこで神武じんむが語る言葉に、

かの地は豊葦原瑞穂とよあしはらのみずほの国の平定と統治の偉業を大きく広げ、王の徳を天下のすみずみまで届けるのにふさわしい場所に違いない。きっとそこが天地四方の中心だろう。(彼地必當足以恢弘大業・光宅天下、蓋六合之中心乎)」とあります。

「恢弘大業・光宅天下」とは、王としての業績(事業、制度、教え等)を広く大きくしていくこと、天下にみちゆきわたらせることを言います。

広く、瓊々杵尊ににぎのみこと以来受け継いできた地上統治の「わざ」を広げていくこと、さらにその先には、豊葦原瑞穂とよあしはらのみずほの国の平定と統治が見据えられてる訳で。。結構壮大な、そして重い言葉なんですよね。もちろん、そこには人々が安心して豊かに暮らせる国をつくりたいという熱い想いがある訳で。

そうした大業を成す場所こそが「六合りくごう之中心」。

六合りくごう」とは、天地てんち(上下)+四方しほう(東西南北)をいいます。いわば「世界の中心」であり、ここに都を置く事が想定されてます。

要は、この六合りくごう之中心」が「中洲なかつしま」であり、その地は大業を成すに相応しい場所として位置づけられてるんです。

日本建国にふさわしい場所として選ばれたのが「中洲なかつしま」であり、ここから日本を、なんなら世界を見据えて統治を広げていくことが想定されてる訳です。非常に重要な言葉です。

 

まとめ

中洲なかつしま

神武じんむ東征とうせい神話に登場する言葉で、東征とうせいの目的地。日本建国の地。

天地開闢てんちかいびゃくから日本建国までを伝えるのが日本神話。そのエンディングを飾る場所、すべてはココに繋がるために用意された物語。

ポイントは2つ。

  • 葦原中国あしはらのなかつくにという日本全体を指す言葉より小さい、その中心となる地域である
  • 国の平定と統治の偉業を大きく広げ、王の徳を天下のすみずみまで届けるのにふさわしい場所である

葦原中国あしはらのなかつくに中洲なかつしま墺區もなか

大きさのイメージとあわせて、この地こそが、大業を成すに相応しい場所として位置づけられてること、しっかりチェックです。

 

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本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)、他

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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