『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「豊雲野神」
『古事記』では神世七代の第二代であり、独神として「豊雲野神」を伝えます。『日本書紀』では「豊斟渟尊」として登場。
本エントリでは、「豊雲野神」の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
豊雲野神とよくもののかみ|豊かな、雲の覆う野の神!独神で神世七代の第二代。肥沃で慈雨をもたらす雲が覆う原野から豊かな実りを予祝する神
目次
豊雲野神とは?その名義
「豊雲野神」= 豊かな、雲の覆う野の神
『古事記』では、神世七代の第二代として「国之常立神」の次に誕生。さらに、独神として身を隠す神として「豊雲野神」を伝えます。
「豊」は、「豊かな、肥沃な」の意。
「雲」は、「(慈雨をもたらす)雲」の意。
「野」は、「野(原野)」の意。具体的な野は、神生みで「鹿屋野比売神(野椎神)」を野の神として伝えてますので、ココではそれ以前の原野的なイメージ。
ちなみに、、『古事記』では原文「豊雲上野神」と表記されていて、この声注(アクセントの注記)「上」に従って読むと「豊、雲野(豊かな、雲の覆う野)」の意味となります。『古事記』的には、意味上の誤解を防ぐために声注を施して「豊雲、野(豊かな雲 野)」の意味ではないとしてます。
「豊かな野で、雲の覆う野」。もう少し文学的に表現すると、豊かな実りを約束する地味の肥えた、そして慈雨をもたらす雲が覆う原野。予祝感満載の神名です。
ということで、
「豊雲野神」=「豊かな、肥沃な」+「(慈雨をもたらす)雲」+「原野」+「神」= 豊かな、雲の覆う神 |
豊雲野神が登場する日本神話『古事記』編
「豊雲野神」が登場するのは、『古事記』上巻、天地初発の神話。以下のように伝えてます。
次に、成った神の名は、国之常立神。次に、豊雲野神。この二柱の神も、独神と成りまして、身を隱した。 ~中略~ 上の件の、国之常立神より下、伊耶那美神より前を、あわせて神世七代という。
次成神名、國之常立神訓常立亦如上、次豐雲上野神。此二柱神亦、獨神成坐而、隱身也。 ~中略~ 上件、自國之常立神以下伊邪那美神以前、幷稱神世七代。上二柱獨神、各云一代。次雙十神、各合二神云一代也。 (『古事記』上巻より一部抜粋)
ということで。
まず、天地初発に誕生する神々を整理するとこんな感じ。
▲「豊雲野神」は、独神として身を隠す神として誕生。さらに「国之常立神」の次に誕生し、神世七代の第二代として位置づけられてます。
ポイント2つ。
①「独神」として身を隠すことで、双神の活躍に道を開く
「独神」とは、『古事記』における「神々の分類・カテゴリ」の一つで、その名のとおり、単独で誕生し、男女の対偶神を指す「双神」と対応する神をいいます。
まず「独神」が誕生し、続いてその後に「双神」が誕生するという流れ・順番。
「双神」よりも「独神」の方が尊貴。ゆえに、具体的な活動は伝えず、自らは立ち退く立場を取る。やはり、、激しく奥ゆかしく神秘的な存在なので。。尊すぎる存在はなかなか表には出てこないんです。。。だから、なんかスゲーってなるんす。
だからこそ、『古事記』では、「独神」について、全て「隠身」と組み合わせてる。これが激しく重要で。
独神として身を隠すとは、双神に彼らの活躍するこの世界を譲り、立ち退くことをいう。
言い方を変えると、
独神が身を隠すことで、双神の活躍に道を開く。身を隠しながらも、双神が生みなしたこの世界と神々とに関わり、その活躍を導き、あるいは助力する存在であり続ける。。
ってことで、、俄然、スゴイ神のような気がしてきましたね!?
実際、「双神」の代表格は、伊耶那岐と伊耶那美神で。コレ、まさに世界を創生する2神。国生みも神生みも、この世界を形作ったのは双神の御業な訳です。それだけでも十分すぎるほど尊い話なんですが、こうした「双神」の活躍も、「独神」が身を隠しながらも陰ながらサポートしていたからこそ、とも言えて。。
『古事記』の独自な世界を、この独神が担っているといっても過言ではない、非常に奥ゆかしく、それゆえ尊い存在であることチェックです。
次!
②神名に込められた予祝。「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくっていく
「豊雲野神」は、「神世七代」に属しながら、「国之常立神」とともに身を隠す。
流れとしては、
「国之常立神」によって、国(国土)の恒常的な確立を予祝。
さらに、「豊雲野神」によって、その国(国土)は、豊かな実りを約束する地味の肥えた、そして慈雨をもたらす雲が覆う原野が広がっている、つまり、ゆくゆくは葦原となり、稲が豊かに実る「瑞穂の国」になっていくことを予祝しているんです。
そのうえで、「双神」が活躍、特に最後の世代である伊耶那岐と伊耶那美神が、世界を創生していく。国を生み、神を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくっていく。。
壮大な構想、豊かな日本の創生、そうしたストーリーの中で誕生していることをしっかりチェック。
次!
③神世七代の神名を通じて、世界が次々に具体的な形をとって展開するさまを表象している
コチラ、②の続きですが、神世七代の神名にも、壮大なストーリーがあるってこと補足解説。
神世七代の要点をまとめると、以下になります。
神名 | 表象するもの | |
第一代 | 国常立 | 天の常立神に続き、それと対応して成る国の恒常的確立(予祝) |
第二代 | 豊雲野 | 地上世界に豊かな雲のわき立つ野が出現したこと、地上世界の豊穣(予祝) |
第三代 | 宇比地&須比地 | 天→国、雲野→泥砂という対応に即した、地上世界の土台 |
第四代 | 角杙&活杙 | 土台としての大地に標識となる杙を打ち込む |
第五代 | 意富斗&大斗乃 | 打ち込んだところに(外と内を隔てる)戸(門)を造立 |
第六代 | 於母陀&阿夜訶 | 男と女をそれぞれ「面足る」「あや畏ね」と称える |
第七代 | 伊耶那岐&伊耶那美 | 男と女とが互いに誘いあう |
これ、ホントによくできた神名になっていて。
表象しているのは、神の世に、新しく世界が次々に具体的な形をとって展開するさまであり、以下のような物語展開。
- 先ずは、国(国土)が恒久的に(永久に)確立することを予祝
- その国(国土)に、豊穣を約束する「雲のわき立つ野」が出現することを予祝
- そのうえで、双神により具体的な表れとして、大地の土台ができ、そこに標識となる杙を打ち込み、戸を造立する
- そして、その中で結婚に向け、男女の神により、互いに全き性を具有することを称えあい、誘い合う、、
という、日本的な、極めて日本的な世界創生の物語。。。壮大な構想をもとにつくられてるってことも合わせてチェック。
豊雲野神が登場する日本神話『日本書紀』編
ちなみに、、
『日本書紀』神代紀では、「豊斟渟尊」「豊組野尊」など発音が少しずつ変わった別名を掲げています。
『日本書紀』第一段の〔本伝〕と〔一書1〕に登場。まずは〔本伝〕から。
まさにその時、天地の中に一つの物が生まれた。それは萌え出る葦の芽のような形状であった。そして、変化して神と成った。この神を国常立尊と言う。次に国狭槌尊。さらに豊斟渟尊。あわせて三柱の神である。天の道は、単独で変化する。だから、この純男、つまり男女対ではない純粋な男神が化生したのである。
于時、天地之中生一物。状如葦牙。便化為神。号国常立尊。次国狭槌尊。次豊斟渟尊。凡三神矣。乾道独化。所以、成此純男。 (引用:『日本書紀』第一段〈本伝〉より抜粋)
そして、異伝である〔一書1〕がコチラ。
ある書はこう伝えている。天地が初めて分かれ、その間のガランとした中に一つの物があった。その物のかたちは言い表しがたい。その中に物が変化して生まれた神があった。名を国常立尊と言う。また国底立尊とも言う。その次に国狭槌尊。また国狭立尊とも言う。さらに豊国主尊。また豊組野尊とも言う。また豊香節野尊、浮経野豊買尊、豊国野尊、豊齧野尊、葉木国野尊、或いは見野尊とも言う。
一書曰、天地初判、一物在於虚中。状貌難言。其中自有化生之神。号国常立尊。亦曰国底立尊。次国狭槌尊。亦曰国狭立尊。次豊国主尊。亦曰豊組野尊。亦曰豊香節野尊。亦曰浮経野豊買尊。亦曰豊国野尊。亦曰豊齧野尊。亦曰葉木国野尊。亦曰見野尊。 (『日本書紀』巻一(神代上)第一段〔一書1〕より)
ということで。
ここでは、〔本伝〕から補足解説。
「豊斟渟尊」は、天地開闢に誕生した純男神の三番目、神世七代の三代目として位置づけられてます。ちなみに、『日本書紀』で伝える「純男」は、『古事記』でいう「独神」と考えるのが妥当。
いずれにせよ、「国常立尊」により国の恒常的確立を予祝し、「国狭槌尊」「豊斟渟尊」以降、神の誕生を通じて新しく世界が次々に具体的な形をとって展開するさまを表象してると考えられます。
豊雲野神を始祖とする氏族
無し
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より 一部分かりやすく現代風修正。
豊雲野神が登場する日本神話の詳しい解説はコチラ!
「豊斟渟尊」「豊国主尊」「豊組野尊」「豊香節野尊」「浮経野豊買尊」「豊国野尊」「豊囓野尊」 『日本書紀』神代上
豊雲野神 『古事記』上
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