天の道は単独で変化する。だから純粋な男神となった件|日本神話が伝える天地開闢 No.5

葦の芽

 

日本の正史である『日本書紀』をもとに、日本神話が伝えるメッセージを読み解きます。

第5回目は「天地開闢てんちかいびゃく」の続き。

『日本書紀』第一段の内容を、複数回に分けてお届けしています。今回で第一段の本伝は終了です。

 

天の道は単独で変化する。だから純粋な男神となった件

葦の芽

の続きです。

引用:

国常立尊くにのとこたちのみことと号す。次に国狭槌尊くにのさつちのみこと。次に豊斟渟尊とよくむぬのみこと。凡て三神みつはしらのかみなり。乾道けんどう ひとす。ゆえに此の純男ひたをす。

号国常立尊。次国狭槌尊。次豊斟渟尊。凡三神矣。乾道独化。所以、成此純男。

読み
国常立尊(くにのとこたちのみこと)・・・国土がずっと存立する表象(一説)
国狭槌尊(くにのさつちのみこと)・・・国の初期の土、つまり若々しい土地の表象(一説)
豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)・・・豊かに汲む水のある沼の表象(一説)
三神(みつはしらのかみ)・・・神様を数える時は「はしら・柱」という量詞を使う。
乾道(けんどう)・・・天の道、陽の道の意。陰陽の結合によらず、陽の道のみで男神が生まれたことを言う。

訳出:

(最初に生まれた神を)国常立尊くにのとこたちのみことと言う。次に国狭槌尊くにのさつちのみこと。さらに豊斟渟尊とよくむぬのみこと。あわせて三柱みつはしらのかみの神。天の道は、単独で変化する。なのでこの「純男ひたを」、つまり「男女のつい」ではない「純粋な男神だんしん」となった。

 

いかがでしょうか?

 

ポイントは2つ。

  1. 「3神」の誕生、つまり「3」という数字は聖数である事
  2. 「純男」、つまり「純粋な男性神」は「尊卑先後の序」という原理原則に基づいて誕生したという事

以下詳細を見ていきます。

 

①「3」という聖数観念

「3」という数字は中国古代の「聖数観念」によるものです。奇数は「陽数」であり、偶数は「陰数」。誕生する神は「3神でなければならない理由」があったという訳です。

 

②「尊卑先後の序」という原理原則

女性の皆さんはあくまで参考と言うか、古代の考え方としてご理解いただければと思います。決して「野郎最高!」という意味ではありませんので。

ココで大事なのは「優先順位の考え方」であり、「原理原則に基づいて物語が構成されている」という事を記載したいだけです。誤解なきようにお願いします。

さて、

本件、なぜ、わざわざ「最初に生まれた神様が純粋な男だ」という事をいう必要があるのか?という事です。

まずは背景から。

天地開闢シリーズを読み解いていただけると分かりますが、日本神話の冒頭部分は「やけに説明くさい」ですよね。

「清なるものは集まりやすくて、濁ったものは凝り固まりにくい。だから最初に天ができてその後で地が定まった」とか、別に言わなくてもと思う箇所です。そして今説明している部分も。わざわざ「こうだから、こう」と理由を説明しています。

これは、明らかに「伝えたい事」があるからだと考えられます。

「伝えたい事」とは、天地開闢、世界創生、神々の誕生には「原理原則がある」という事です。

この「原理原則」の事を尊卑先後の序そんぴせんご の じょといいます。

一言で言うと「優先順位があるよ」「序列・順番・秩序があるよ」と。

尊貴なるものは卑なるものよりも優れている、という考え方であり、日本神話を読み解く上で大前提となるものです。

 

先ほどの、天地創生の順番もそうです。

  • まず天が先、地が後。

そしてここも。

  • まず純粋な男性神誕生が先、男女対の神は後。

という訳です。

男女対の神様とは、以後にでてくる神様たちの事で、有名なのは「伊奘諾尊いざなきのみこと(♂)・伊奘冉尊いざなみのみこと(♀)」ですね。

 

「物事には優先順位がある」。

「物事には原理原則がある」。

私たちに引き寄せて考えると、そういう事になるかと思います。

※くれぐれも、男が優先されるべき、という話ではありません。あくまで世界を構成する原理の話です。

 

以上のような背景があるからこそ、ここでは

「天の道は、単独で変化する。なのでこの「純男」、つまり「男女のつい」ではない純粋な男神となった。」

という説明臭い個所があるという訳です。

 

乾道けんどう」とは「天の道、陽の道」の事。陰陽の「陽」の意味。

どうやら、この「乾道」というのは単独で変化するようです。「陽」は単独で変化するから「男」になったと。

つまり、「純粋な男性神が最初に誕生した」ことを伝えるために、持ちだしてきた考え方ということですね。

 

以上をまとめると、

最初に生まれた「3神」は「純粋な男性神」であり、それは「尊卑先後の序」という原理原則に基づいて誕生した事を伝えている。

という読み解きになります。

 

意外にも、日本神話はロジック系です。

天地開闢、天地創生、神々の誕生を、原理原則に基づく合理的な理由をもって説明しているのです。

本シリーズ①でお伝えしましたが、最初の入口は曖昧に。でも、その後の物語展開は非常にロジカルであり説明臭い。非常におもしろい構成となっています。

 

乾道けんどう ひとす」

原理原則があるという意味で、是非チェックしておきたい言葉です。

 

まとめ

天の道は単独で変化する。

日本神話は「尊卑先後の序」という原理原則に基づいて構成されている。それは、優先順位の考え方そのもの。

「3神」の誕生、つまり「3」という数字は聖数である事、最初の神様は「純粋な男性神」である事も原理原則に基づいているという事を伝えています。

 

天地開闢まとめ、関連エントリはコチラで!

天地開闢

記事を取得できませんでした。記事IDをご確認ください。

日本神話解説
日本神話的な易の考え方

どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!

日本神話とは?多彩で豊かな神々の世界「日本神話」を分かりやすく解説!

日本書紀 現代語訳
『古事記』現代語訳
天地開闢
国生み神話

ついでに日本の建国神話もチェック!

神武東征神話1

日本神話編纂の現場!奈良にカマン!

飛鳥浄御原宮
藤原宮跡



1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT US
アバター画像
さるたひこ

日本神話.comへお越しいただきありがとうございます。
『日本書紀』や『古事記』をもとに、最新の文献学的学術情報を踏まえて、どこよりも分かりやすく&ディープな日本神話の解釈方法をお届けしています。
これまでの「日本神話って分かりにくい。。。」といったイメージを払拭し、「日本神話ってオモシロい!」「こんなスゴイ神話が日本にあったんだ」と感じていただける内容を目指してます。
日本神話研究の第一人者である佛教大学名誉教授の榎本先生の監修もいただいているので情報の確かさは保証付き!文献に即して忠実に読み解きます。
豊かで多彩な日本神話の世界へ。是非一度、足を踏み入れてみてください。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
error: Content is protected !!