「斎田点定の儀」は、
大嘗祭に使われる「特別な稲」を育てる田んぼ(斎田)を、占いによって決める儀式。
大嘗祭では、新天皇と神(天照大神)との「共食」用に「特別なお米」がお供えされるのですが、
この「特別なお米」は、特別な田んぼ(斎田)で育てる必要があり、
そのために、斎田決定にあたって神意をうかがう特別な儀式が用意されてる次第。
ややクドイか。
でもコレ、
実は、やってることはめちゃくちゃスゴくて、
何かというと、
神の時代に由来する占いで決める
というミラクル。す、スゴ、、、いきなり神。
神代、天石屋神話に由来する占い方法で。
神が行っていた占い方法をもとに、現代の世でも占って決めるという、、、マジか事態
具体的には、
「波波迦の木」と「亀甲」を使った「亀卜」という占いによって、
「悠紀」「主基」という2つの場所(地方)を決めます。
その上で、「悠紀」「主基」の両地方には、「斎田」という特別な田んぼが設定され、
この斎田(悠紀田、主基田)で稲を植え、育て、秋になって収穫された米を神饌として供納する流れ。
大嘗祭という特別な場ですから、特別な稲が必要で、
そのために、特別な選び方をして決めてる経緯。
いやー、神の時代からの継承されてきた手法を使ってるなんて、、、壮大すぎ。今回はそんな「斎田点定の儀」について日本神話とあわせてご紹介です。
斎田点定の儀|特別な田んぼ「斎田」を亀卜で占う神事!神代から継承された奥ゆかしい儀式を日本神話とあわせてご紹介!
目次
なぜ「斎田点定の儀」を行うのか?
まずは、そもそもの理由、
なんで「斎田点定の儀」を行うのか?
についてご紹介。
先に結論から。
大嘗祭で行われる、
新天皇と神(天照大神)との「共食」の儀式に「特別なお米」をお供えするため。
「特別なお米」は「特別な田んぼ」で育てるので、神意をうかがって決める必要があるため。
背景には、
実は日本神話があり、古代日本人がもっていた「稲」への格別な信仰があります。
まずは、
とっかかりとして、
「大嘗祭」の言葉に注目。
ポイントは、
「嘗」
という漢字。
「嘗」とは「 あじわう、舌でなめ味わう」というのが原義、
天子や諸侯が、祖先の霊に、新穀を供え祭る秋の儀礼、という意味でもあり(『礼記』王制より)。
要は、
その年に収穫された新穀で作った酒や飯を「御饌」として祖神に供え、五穀豊穣に感謝するとともに、自ら食する(嘗める=あじわう、舌でなめ味わう)秋のお祭り。それが「嘗」の本来の意味。
で、
神にお供えし、自らも食する(嘗める)
この
共食
が、実は大嘗祭の核心で。
大嘗祭の場合、この神が天照大神になります。
必読:悠紀殿供饌の儀・主基殿供饌の儀|神に奉る・いただく( 薦・享)がセットの共食!天照大神と繋がる大嘗祭の中心儀式
そして、
その共食用にお供えされる「御饌=神饌」の中で、一番大事なのが「お米」。
これ、背景には、
古代の日本人が稲に対してもっていた特別な信仰があり、そして日本神話があります。
必読:大嘗祭(だいじょうさい)とは?天皇一代につき一度だけ斎行!日本神話に根ざす大嘗祭の全貌を徹底解説!
例えば、神話の中で、
日本の美称として登場するのが「豊葦原千五百秋瑞穂之地」や「秋津洲」という言葉。
コレ、稲に関係するワードで。
古来より、てか、神の時代から既に、
日本を表すのに「稲」に関係する言葉が設定されてるんです。これまさに稲を重要視する考え方。
また、
日本神話的には、稲は天上から、しかも、天照大神から直々にもたらされた設定になってます。
特別にその部分を抽出。
『日本書紀』第九段。天孫降臨の異伝版。
ココでは、天照大神が自ら高天原で育てていた「神聖な稲穂=斎庭の穂」を授けるシーンがあります。
(天照大神は)勅して、「私が高天原に作る神聖な田の稲穂を、また我が御子に授けよう」と仰せられた。(『日本書紀』神代下第九段〔一書2〕より一部抜粋)
と。
で、「斎庭の穂」を授かった火瓊瓊杵尊が地上に降臨。これにより、地上世界に「稲」が、しかも、天照大神が自ら育てていた神聖な稲がもたらされた訳です。
そして、
火瓊瓊杵尊以降、歴代の皇孫、天皇たちは、これを継承している、ということになってます。
だからこそ、
お米については格別なる背景や想いがあり、大嘗祭の中核的儀式に「特別なお米」が用意される。
そのために、特別に田んぼを定める必要があって、そんじょそこらのお米ではダメなんです。そこに、古代の人々は神意をうかがう儀式を採り入れた訳ですね。
それが、「斎田点定の儀」。
現代でも、神代で行われていた占い方法を踏襲し、神意を占うことで点定(決定)してる訳ですね。
ということで、
なんで「斎田点定の儀」を行うのか?
その答えは、
大嘗祭で行われる、
新天皇と神(天照大神)との「共食」の儀式に「特別なお米」をお供えするため。
「特別なお米」は「特別な田んぼ」で育てるので、神意をうかがって決める必要があるため。
という次第。
背景には、実は日本神話があり、古代日本人がもっていた「稲」への格別な信仰があるってこととあわせてチェック。
「斎田点定の儀」の大嘗祭での位置づけ
「斎田点定の儀」がなんで行われるのか、その理由が分かったところで、
ココからは、
「大嘗祭」における「斎田点定の儀」の位置づけについてご紹介。
ポイントは、
やはり、、、
稲
稲の行方をもとに、大嘗祭の流れを見てみるとめっちゃ分かりやすくなる。だって、共食のメインは食事であって、そのメインはお米だから。
てことで、
大嘗祭を、大きく2段階で整理。
- お米作り
- 大嘗祭での共食
大嘗祭というと、どうしても当日の儀式ばかり目がいきがちですが、実は、それまでの準備、特に稲の確保が重要なんす。もうお分かりですよね。
「斎田点定の儀」は大嘗祭へ向けた準備の一番最初の儀式。なんならココから大嘗祭は始まる、遠足は家を出てから帰るまでが遠足なのであります。
大嘗祭のメニュー
分類 | N | 儀式 | 概要 | 場所 | 時期 |
お米作り | 1 | 斎田点定の儀 | 悠紀及び主基の両地方(斎田を設ける地方)を定めるための儀式 | 神殿 | 5月 |
2 | 大嘗宮地鎮祭 | 大嘗宮を建設する予定地の地鎮祭 | 皇居東御苑 | 7月 | |
3 | 斎田抜穂の儀 | 斎田で新穀の収穫を行うための儀式 | 斎田 | 秋 | |
4 | 悠紀主基両地方新穀供納 | 悠紀主基両地方の斎田で収穫された新穀の供納をする行事 | 皇居 | 秋 | |
お祭り | 5 | 神宮に勅使発遣の儀 | 神宮に大嘗祭を行うことを奉告し幣物を供えるために勅使を派遣される 儀式 |
宮殿 | 11月 |
6 | 大嘗祭前一日鎮魂の儀 | すべての行事が滞りなく無事に行われるよう天皇始め関係諸員の安泰を祈念する儀式 | 皇居 | 11月 | |
7 | 大嘗祭当日神宮に奉幣の儀 | 神宮に大嘗祭を行うことを勅使が奉告し幣物を供える儀 | 神宮 | 11月 | |
8 | 大嘗祭当日賢所大御饌供進の儀 | 賢所に大嘗祭を行うことを奉告し御饌を供える儀式 | 賢所 | 11月 | |
9 | 大嘗祭当日皇霊殿神殿に奉告の儀 | 皇霊殿及び神殿に大嘗祭を行うことを奉告する儀式 | 皇霊殿、神殿 | 11月 | |
10 | 大嘗宮の儀 ・悠紀殿供饌の儀 ・主基殿供饌の儀 |
大嘗宮の悠紀殿及び主基殿において初めて新穀を皇祖及び天神地祇に供えられ、自らも召し上がり、国家・国民のためにその安寧と五穀豊穣などを感謝し、祈念される儀式 | 皇居東御苑 | 11月 | |
11 | 大饗の儀 | 大嘗宮の儀の後、天皇が参列者に白酒、黒酒及び酒肴を賜り、ともに召し上がる饗宴 | 宮殿 | 11月 |
※宮内庁発表の「即位の礼及び大嘗祭関係諸儀式等(予定)について」資料より加工
最終ゴールは、
大嘗祭のメインイベント「大嘗宮の儀」。
ココでお供えされる「神饌」の重要アイテムとして「特別なお米」があり、
そこへ向けた準備として、
稲を育てる「特別な田んぼ(斎田)」を決める「斎田点定の儀」が行われる次第。
具体的には、
皇居、宮中三殿の神殿前で行われ、宮中祭祀をつかさどる「掌典」と呼ばれる方々が担当。
亀の甲羅を火であぶり、ひび割れの具合から、大嘗祭でお供えするお米を育てる「悠紀地方」と「主基地方」の2つの地方(国)を決定します。
コレ、「亀卜」という特別な占いで。後ほど詳細紹介。
で、
気になるのは、
「悠紀」「主基」という言葉、そして、なぜ二箇所選ぶのか?
コレについて先にご紹介。
結論から。
「悠紀」と「主基」は、もともと「斎忌」と「次」。
つまり、
メインとサブ。というのが原型の考え方。
こちら、
即位儀礼の原型が形作られた飛鳥時代に起源アリ。
正史『日本書紀』の天武天皇条には以下内容が伝えられてます。
天武天皇5年(676年)9月
神官奏して曰さく「新嘗の為に国郡を卜はしむ。斎忌は尾張国の山田郡、次は丹波国の訶沙郡、並に卜に食へり」とまうす。(十一月朔日、新嘗の事を以て、告朔せず)
と、
新嘗のために占いをして、「斎忌」を尾張の国に、「次」を丹波の国に選んでます。
で、
この「斎忌は~、次は~」という内容
- 斎忌・・・斎き(神聖な)
- 主基・・・次(次の、補完的な)
※「斎」とは、心身を清め、飲食などの行為をつつしんで神をまつる。いわう。いつく、という意味。「忌」とは、この上なく清浄、いみきよめるという意味。忌火などの例。
てことで、メインとサブ。
じゃあ、
なんでメインとサブみたいな形になってるのか?
というと、
要は、、、
稲だから。
豊作のときもあれば、不作のときもある。なんなら異常気象とかで収穫できない場合だってありますよね。
そうした事態へのリスクヘッジとして、メインとサブという仕組みを用意してる、って事なんす。だから二箇所選ぶ。
占いによってまずはメインとなる「斎忌」を定め、次に、万が一のための代替えとなる「次」を定める。律令で定められた当時の、原型としての考え方はそんな感じだったんですね。
「斎田点定の儀」 斎田を選ぶ「亀卜」
ということで、ココからは「斎田点定の儀」の中身をご紹介。
「斎田点定の儀」で行われるのが、「亀卜」という占い。
コレ、亀の甲羅を焼いて、ひび割れによって吉凶を判断するというもので、
具体的には、
手で持てるサイズの木の枝、その先っちょを忌火(清浄な火)で焼く。すると、先っちょが真っ赤に焼ける。この状態で甲羅に焼けた先端を押しつける。
先っちょを焼いて、押しつけてを何度か繰り返すと、あるとき「ポクっ」てヒビが入る。このヒビ割れによって占いをする、というもの。
で、
実は、この占い方法、日本神話にその起源があったりします。
それがコチラ
天岩屋神話に登場する神々の占い。
素戔嗚尊の乱暴狼藉により、天照大御神は天岩屋戸に幽居。世界は悉く闇に包まれます。そこで八百万の神々が集まって協議、神事を行い「天照大御神よ出てきておくれ大作戦」を実行します。その神事に登場するのが件の占い。
天兒屋命は、布刀玉命を召して、天香山の真男鹿の肩をそっくり抜いて、天香山の天波波架を取って、占合いをさせた。 (『古事記』上巻より一部抜粋)
と。
ココでは、「鹿の肩骨」と「天波波架の木」を使って占いをしてます。獣骨と木。方法は先ほどご紹介した内容と同じ(のはず)。
で、
「斎田点定の儀」では、この神代の神々の占い方法を踏襲し、
- 「鹿の肩骨」→亀の甲羅(東京都小笠原村より)
- 「天波波架の木」→「波波迦の木」(奈良県橿原市の天香山神社より)
それぞれ調達し、儀式を行っているのです。
スゴイですよね、ほんと。
神の時代から継承されてきた手法を使ってるなんて、、、壮大すぎです。神話と歴史が入り交じるロマン発生地帯。
「斎田点定の儀」に使用する亀甲
「斎田点定の儀」で使用する亀の甲羅、
現代ではアオウミガメの甲羅が使われるのですが、実際はこんな感じです。
で、
実は、アオウミガメは絶滅の恐れがあり、国際的な取引を規制する「ワシントン条約」をはじめ、国内法でも保護の対象となってたりします。
そんな制限の中での甲羅確保の巻。
宮内庁は大嘗祭の1年以上も前から準備。まずは、東京都の小笠原村に協力依頼。同村では東京都の許可を受けて、アオウミガメの漁が一定量認められてるんです。
これにより、8頭分のアオウミガメの甲羅を確保。いや良かったよ、、確保できて。
で、
実際の占い用の加工にあたっては、倉院修復に関わった業者さんに依頼。
占い用として使用するには、分厚く硬い甲羅をホームベース形に切り出して、厚さ1ミリまで削る必要があって。
木の枝の先っちょを焼いて、それを甲羅に押しつけてヒビ割れさせる訳で。甲羅が分厚いと割れないんですよね。薄さがポイント。
で、今度は、正倉院の宝物修復に関わった鼈甲加工業者に加工の依頼が入りました。
「鼈甲」とは、熱帯に棲むウミガメの一種「タイマイ」という亀の甲羅の加工品。飴色をしたガラスみたいな工芸品です。
同じ亀ですから。
前回、平成の御代替わりのときの資料は残されていなかったようで、使用した道具も不明。加工業者さんは、宮内庁から渡された儀式の内容資料を元に加工、とにかく「薄さ」を求められたとのことで、最終的に1.5mmの薄さに仕上げたそうです。
と、そんな経緯を経ての亀甲確保でした。
「斎田点定の儀」に使用する波波迦の木
次は、甲羅を焼くために、
つまり、甲羅にヒビを入れるために使われる「波波迦の木」のご紹介。
こちら、
先ほどご紹介しましたが、日本神話に起源アリ。
天岩屋神話に直接登場。「天香山の天波波架を取って、占合いをさせた。」と。
まさに、コレ、奈良県の天香久山にある天香山神社にある「波波迦の木」。
スゴいよね、、、
神の時代で行われた岩屋神事が天香久山と繋がってる。。。しかも、そこで使われた木が実際に生えてるなんて、、、((;゚Д゚)))ガクブル
で、
この「波波迦の木」の確保も、亀甲確保と同様、
昨年の段階で、橿原神宮経由で天香山神社に採取の依頼連絡がはいりました。
で、宮司様はじめ地元の方々のいろんな準備を経て行われたのが、コチラの神事。
スゴいよ奈良、、、涙
ロマンがあふれすぎて涙がとまらない。。
で、
コチラは、持ち運べるサイズに切って、宮司様が自ら宮内庁へお運び申し上げたそうです。
いろんな準備を経て儀式当日に至ってるんですね。
ということで、
「斎田点定の儀」。神々の占い方法を踏襲し、
- 「鹿の肩骨」→亀の甲羅(東京都小笠原村より)
- 「天波波架の木」→「波波迦の木」(奈良県橿原市の天香山神社より)
でそれぞれ調達し、儀式を行っている次第。
スゴイですよね、ほんと。
神の時代から継承されてきた手法を使ってるなんて、、、壮大すぎです。是非チェックされてください。
まとめ
「斎田点定の儀」は、大嘗祭に使われる「特別な稲」を育てる田んぼを決める儀式。
大嘗祭で行われる、新天皇と神(天照大神)との「共食」用に、特別なお米をお供えするため。特別なお米は、特別な田んぼで、神意をうかがうことで決めるため。
コレ、実は、やってることはめちゃくちゃスゴくて、
何かというと、
神の時代に由来する占いで決める
というミラクル。す、スゴ、、、いきなり神。
神代、天石屋神話に由来する占い方法で。神が行っていた占い方法をもとに、現代の世でも占って決めるという、、、マジか事態
具体的には、
「波波迦の木」と「亀甲」を使った「亀卜」という占いによって、
「悠紀」「主基」という2つの場所(地方)を決めます。
その上で、「悠紀」「主基」の両地方には、「斎田」という特別な田んぼが設定され、
この斎田(悠紀田、主基田)で稲を植え、育て、秋になって収穫された米を神饌として供納する流れ。
大嘗祭という特別な場ですから、特別な稲が必要で、
そのために、特別な選び方をして決めてる経緯。
神の時代からの継承されてきた手法を使ってるなんて、、、壮大すぎ。そんなロマンをもとにチェックされてください。
参考文献
訓讀註釋儀式践祚大嘗祭儀(皇學館大学神道研究所編、思文閣出版)、日本古代即位儀礼史の研究(加茂正典、思文閣出版)、大嘗祭の研究(皇學館大学神道研究所編、皇學館大学出版部)、大禮と朝儀 付有職故実に関する講話(出雲路通次郎、臨川書店)、日本の祭祀(祭祀学会編、星野輝興先生遺著刊行会)、平安朝儀式書成立史の研究(所功、国書刊行会)、復刻版 卽位禮と大嘗祭(三浦周行、神社新報社)、律令制祭祀論考(菊地康明編、塙書房)、古代祭祀の史的研究(岡田精司、塙書房)、古代伝承と宮廷祭祀(松前健、塙書房)、続大嘗祭の研究(皇學館大学神道研究所編、皇學館大学出版部)、古事記研究(大嘗祭の構造)(西郷信綱、未来社)、記紀神話と王権の祭り(水林彪、岩波書店)
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日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
[…] 何と!「大嘗祭」に関連する占いで用いられる木だというのだ!この件について後で移動時に調べたら、日本神話.comという素晴らしいサイトが見つかり(「天香山神社/神意を伺う占いの神「櫛眞命」を祭る!」)、その数日後に同サイトにUPされた最新記事には、今回の大嘗祭の「斎田点定の儀」の亀占にもこの「波波迦の木」が使われた事が書かれていた。 […]