『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「天之狹霧神」
大山津見神と野椎神の二柱の神が、山と野を分担して生んだ神として「天之狹霧神」を伝えます。
本エントリでは、「天之狹霧神」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
天之狹霧神あめのさぎりのかみ|天空に接する山の頂きに初々しく清浄に生じた霧の神!原初の自然現象を畏怖もふくめた信仰みたいな表れとして誕生
目次
天之狹霧神とは?その名義
「天之狹霧神」= 天空に接する山の頂きに初々しく清浄に生じた霧の神
『古事記』では、伊耶那岐命と伊耶那美命による神生みで、大山津見神と野椎神の二柱の神が、山と野を分担して生んだ神のなかで山の担当として「天之狹霧神」を伝えます。
「天之」は、「国之」に対する語で、山や崖のように地上から突き出て天空に接する場合にいいます。
「狭霧」は、原義としては「初めて生じた清浄な霧」の意。
「狭」は、「早」で、「初生の、ういういしく清浄な」の意。
用例は、「万葉集」巻八、1418番歌「志貴皇子の懽の御歌」。
石ばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも
→ 岩の上をほとばしる滝の上のみずみずしい蕨の新芽が萌え出る季節になったものだなぁ。」
ここでいう「さ蕨」の「さ」は、「その年初めて芽を出した」の意。ちなみに、、、「淡道之穂之狭別」の「狭」も「穂が初めて出ること」の意。
これらは植物の例ですが、『古事記』神功皇后の神懸り条では「建内宿禰 大臣さ庭に居て、神の命を請ひき」とあり、「さ庭」の例もあります。これは「清浄の庭」と解されてますが、原義は「初生の庭」。神降しをするために掃き清めて、新しくした庭のこと。そこから「ういういしく清浄である」の意味になります。
大山津見神と野椎神の二柱の神が、山と野を分担して生んだ神として「天之狹霧神」と「国之狹霧神」を伝えていることから、大八嶋国に生まれる自然現象のうち、山の方で初めて生じた清浄な霧を神格化したものと考えられます。
- 天之狹霧神・・・天空に接する山の頂きに初々しく清浄に生じた霧
- 国之狹霧神・・・国土(地上)に初々しく清浄に生じた霧
二項対立で整理されてる。合理的でロジカルな神様設定です。
ということで、
「天之狹霧神」=「天空に接する」+「初々しく清浄に生じた霧」+「神」= 天空に接する山の頂きに初々しく清浄に生じた霧の神 |
天之狹霧神が登場する日本神話
「天之狹霧神」が登場するのは、『古事記』上巻、神生み神話。以下のように伝えてます。
この大山津見神、野椎神の二柱の神が、山と野を分担して生んだ神の名は、天之狹土神、次に国之狹土神、次に天之狹霧神、次に国之狹霧神、次に天之闇戸神、次に国之闇戸神、次に大戸或子神、次に大戸或女神。(天之狹土神より大戸惑女神に至るまで、幷せて八神ぞ。)
此大山津見神・野椎神二神、因山野、持別而生神名、天之狹土神(訓土云豆知、下效此)、次國之狹土神、次天之狹霧神、次國之狹霧神、次天之闇戸神、次國之闇戸神、次大戸或子神(訓惑云麻刀比、下效此)、次大戸或女神。自天之狹土神至大戸惑女神、幷八神也。 (引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)
ということで、
神生みからの系譜は以下の通り。
▲「天之狹霧神」は、大山津見神と野椎神の二柱の神が、山と野を分担して生んだ神の系譜上で誕生。
大八嶋国に生起する自然現象のような神だったのが、段階的に、より具体的な自然物を表すようになっていくプロセスで生まれます。さらに、「(天之狹土神より大戸惑女神に至るまで、幷せて八神ぞ。)」とあり、ひとつのカタマリとして位置づけられてる。
一応、整理してみると以下の通りなんですが、、、
N | 神名 | どんな神? |
1 | 天之狹土神、国之狹土神 | 天(山)と地(野)の清らかな初々しい土地の神 |
2 | 天之狹霧神、国之狹霧神 | 天(山)と地(野)に立ちこめる清らかな初々しい霧の神 |
3 | 天之闇戸神、国之闇戸神 | 天(山)と地(野)に立ちこめる霞が深く暗い谷間の戸(山に挟まれた出入口)の神 |
4 | 大戸或子神、大戸或女神 | 大きな戸(山に挟まれた出入口)の谷間で迷う男子・女子の神 |
と、、整理はしてみたものの、、、天(山)と国(野)など、対比構造的なものはあるようですが、、実は、なぜこういう神が誕生してるのかは不明なんです。
説としては例えば、、「土(天之狭土神・国之狭土神)」から「霧(天之狭霧神・国之狭霧神)」が立ち、霧によって「暗く(天之闇戸神・国之闇戸神)」なり、暗くなって「惑う(大戸或子神・大戸或女神)」、といった「つながり」説があったりもするのですが、、後付けのような。。また、山と野という、境界神的な神格からの系譜なので、その境界にまつわる大地の神格化とする説もあったりします。
ただ、、
チェックしておきたいのは背景や経緯であり、それは、修理固成という壮大な構想のなかで「神生み」があるってこと。
さまざまな神が誕生するなかで、自然現象が具体的な表れをしていく、、だからこそ、原初の山や野、そして、そこで発生する具体的な自然現象は、人間にとって未知であり未開であり、、一方で、恵みをもたらす存在でもあり、、、そんな畏怖もふくめた信仰みたいなのが表れてると考えられます。
ちなみに、、、
後の「大国主神の子孫」の条では、「十七世神」中の第一六世神、天日腹の大科度美神の妻となる遠津待根神の親として「天狭霧神」の名で登場する神がいますが、「天之狹霧神」はこの神と同一神とみなされてます。
天之狹霧神を始祖とする氏族
なし
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。
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