多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
正史『日本書紀』をもとに、
最新の学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。
今回は、
『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕
テーマは
「誓約と三女神と五男神」
引きつづき、素戔嗚尊の狂言回し的立ち回りにより物語が大きく展開。誓約を通じて、天照大神の子が誕生し、素戔嗚尊の潔白が証明される。これが、七段以降の展開へつながっていく。
今回も、概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕
目次
誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕の位置づけ
前回、日神と素戔嗚尊の誓約|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書1、3〕からの続き。
今回お届けするのが第六段〔一書2〕。下図、赤枠部分。
特に、
〔一書2〕は、第六段〔本伝〕の差異化バージョン。
素戔嗚尊からのお願いをもとに物根交換あり。また、テーマは潔白の明確化。誓約を通じて三女神、五男神が誕生したことを伝えます。
誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕の概要とポイント
第六段〔本伝〕をもとに差異化された〔一書2〕。
そのポイントは、
- 素戔嗚尊が、羽明玉から「瑞八坂瓊之曲玉」をゲットし天照に献上すること。
- それに対して、実なのか嫌疑が立てられ誓約を実施すること。言葉の虚実が焦点。
- 物根交換により、曲玉から三女神が誕生すること。一方、天照の剣から五男神が誕生する。
と言った点になります。詳細解説はこの後で。
なんだが、
やはり、神話の大きながれの中で読み解くのがいいかと思います。
改めて、第六段では、大きく日神系と天照系の2つの系統があるってこと。
そのうえで、
コレらの2つの系統は、それぞれのテーマを持ちつつ、大きくは、日神から天照大神への入れ替わりの中で設定されてるってことをしっかりチェック。
そしてこれは、第六段のみならず、第七段にもまたがって段階的に入れ替わっていく展開になってる。
イメージとしては以下。
表側の誓約とか子の誕生とか、岩戸隠れといったイベントはありつつも、その裏では日神から天照大神へ段階的な移行が進行してるんです。これしっかりチェック。
さらに、
日神から天照大神へ。その移行は段階的に進んでいくんだが、実は、日神と天照でも、それぞれ系統があったりします。以下。
あくまでざっくりとしたイメージですが、
日神は祭祀とか象徴系、天照は律令とか統治系といった香り。少なくとも、日神、天照大神それぞれで挙動が違うってことはしっかりチェックであります。
誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕の本文と現代語訳
第六段〔一書2〕の現代語訳と原文
『日本書紀』国立国会図書館デジタルコレクションより慶長4(1599)刊版 ある書はこう伝えている。素戔鳴尊が、天に昇ろうとした時に、一柱の神があって、名を羽明玉といい、この神が迎え申しあげ、めでたい八坂瓊曲玉を進呈した。ゆえに、素戔鳴尊は、その美しい玉を持って天上に到った。
この時、天照大神は、弟に邪悪な心があると疑い、兵を起こして問い詰めた。素戔鳴尊は答えて「私が来たのは、本当に姉上とお会いしたかったからです。また珍しく貴重な宝物である瑞八坂瓊曲玉を献上しようと思ったからで、別の意図などありません」と言った。
この時天照大神が、また問うて「お前の言葉が嘘か実か、何を持って証拠とするのか」と言うと、「私が姉上と共に誓約を立てさせてください。誓約の間に、女を生めば黒心とし、男を生んだら赤心としてください」と言った。
そこで、天真名井を三箇所に掘ると、互いに向かいあって立った。この時、天照大神が、素戔鳴尊に「私の帯びる剣を、今、お前に奉ろう。お前は、お前の持っている八坂瓊曲玉を私に授ければよい」と言った。このように約束し、共に交換して取った。
そうしたあと、天照大神は、八坂瓊の曲玉を、天真名井に浮かべ寄せ、瓊の端を噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した。名を、市杵嶋姫命といい、大海の遠くに居る神である。また、瓊の中ほどを噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した。名を、田心姫命といい、大海の中ほどに居る神である。また、瓊の尾を噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した。名を、湍津姫命という。これが浜辺に居る神である。合わせて三女神である。
ここにおいて、素戔鳴尊が、持っていた剣を天真名井に浮かべ寄せて、剣の先を噛み切り、吹き出した気噴の中に神を化生した。名を、天穂日命という。次に、正哉吾勝勝速日天忍骨尊。次に、天津彦根命。次に、活津彦根命。次に、熊野櫲樟日命。合わせて五男神であると、このように言う。
一書曰、素戔嗚尊、將昇天時、有一神、號羽明玉、此神奉迎而進以瑞八坂瓊之曲玉。故、素戔嗚尊、持其瓊玉而到之於天上也。是時、天照大神、疑弟有惡心、起兵詰問。素戔嗚尊對曰「吾所以來者、實欲與姉相見。亦欲獻珍寶瑞八坂瓊之曲玉耳、不敢別有意也。」時天照大神、復問曰「汝言虛實、將何以爲驗。」對曰「請吾與姉共立誓約。誓約之間、生女爲黑心、生男爲赤心。」乃掘天眞名井三處、相與對立。是時、天照大神、謂素戔嗚尊曰「以吾所帶之劒、今當奉汝。汝、以汝所持八坂瓊之曲玉、可以授予矣。」如此約束、共相換取。已而、天照大神、則以八坂瓊之曲玉、浮寄於天眞名井、囓斷瓊端、而吹出氣噴之中化生神、號市杵嶋姬命、是居于遠瀛者也。又囓斷瓊中、而吹出氣噴之中化生神、號田心姬命、是居于中瀛者也。又囓斷瓊尾、而吹出氣噴之中化生神、號湍津姬命、是居于海濱者也。凡三女神。於是、素戔嗚尊、以所持劒、浮寄於天眞名井、囓斷劒末、而吹出氣噴之中化生神、號天穗日命。次正哉吾勝勝速日天忍骨尊、次天津彥根命、次活津彥根命、次熊野櫲樟日命、凡五男神、云爾。(『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕より)
誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕の解説
第六段の〔一書2〕、いかがでしたでしょうか?
突然登場する「羽明玉」という神、しかも勾玉を素戔嗚尊に進呈??さらに、相変わらず素戔嗚を疑いまくる天照、、
と、初めて読まれた方は何のこっちゃ感満載だったかと思いますが、、でも、ご安心ください。そのための日本神話.com。以下、まるっと解説します。
- ある書はこう伝えている。素戔鳴尊が、天に昇ろうとした時に、一柱の神があって、名を羽明玉といい、この神が迎え申しあげ、めでたい八坂瓊曲玉を進呈した。ゆえに、素戔鳴尊は、その美しい玉を持って天上に到った。
- 一書曰、素戔嗚尊、將昇天時、有一神、號羽明玉、此神奉迎而進以瑞八坂瓊之曲玉。故、素戔嗚尊、持其瓊玉而到之於天上也。
先に言葉の解説を少し。
「瑞」は、霊異なあらわれを表す。めでたい、若々しくみずみずしい様子、神聖な。
ちなみに、、『日本書紀』では「瑞」は動物の出現を霊異なあらわれとするのが通例。日本神話でも、例えば神武東征神話では、「金色の霊妙な鵄」が登場。コレを「鵄瑞」と伝えてます。
なんだが、
第六段〔一書2〕では「瑞+曲玉」。この例は、第九段〔一書2〕で、大己貴神が幽隠の世界に退き、そこで「治神事」「治幽事」に加え「祭祀」を受ける上に、その神に相応しい呪具として「瑞之八坂瓊」を身に着けた例が相当。
「八坂瓊曲玉」は、大きな美しい珠(瓊)でできた勾玉。後で素戔嗚が言うように、珍しく貴重な宝物であります。
その上で、、
ポイント1つ。
①素戔嗚が八坂瓊曲玉をゲットしたのは天照大神に献上するため
「一柱の神があって、名を羽明玉といい、この神が迎え申しあげ、めでたい八坂瓊曲玉を進呈した」とあります。
実は、〔一書2〕の最大の特徴がコレ。羽明玉から曲玉をゲットする。
まず、ココ、
原文では「奉迎」とあり、羽明玉が迎え申し上げた。つまり、素戔嗚が出向いたから羽明玉が出迎えた訳です。で、羽明玉は玉の神で、珍宝「八坂瓊曲玉」を持っている。それを素戔嗚に進呈した。。。
この、素戔嗚の曲玉ゲットだぜイベント、なんのためかというと、この後で素戔嗚が言う「姉上とお会いしたかったからです。また珍しく貴重な宝物である瑞八坂瓊曲玉を献上しようと思ったから」で、つまり、天照大神に会見して献上する曲玉を受けとるためだった訳です。
で、なんでこんなことやってんの??っていう話なんですが、
結論から言うと、コレ、
素戔嗚的「臣之道」の実践としてやってるから。
素戔嗚の「臣之道」の実践、、、て、ちょっと意外かもしれませんが、実は、そういう側面も持ってる。で、この挙動はここ〔一書2〕だけじゃないんです。
それが、第八段〔本伝〕。
第八段〔本伝〕では、素戔嗚尊が天から地上へ降った先、出雲国で退治した八岐大蛇の尾に一振りの剣を得て「是は神剣である。私がどうしてあえて自分のものとして置こうか(是神剣也。吾何敢私以安乎)」と考え、これを「そこで天神に献上したのである。(上献於天神也)」と献上したことを伝えてます。「神剣」だから自分のものにはできないという考えであり、コレもつまり、「臣之道」を実践する素戔嗚として描かれてる次第。
素戔嗚は暴れん坊の困ったちゃんといった印象が強いかと思いますが、実はそれだけじゃない。天照に対して、もう少し大きく言うと、高天原を頂点とする支配構造の中で「臣之道」を実践する神として描かれてる側面があったりするんす。単なるアナーキストではなく、ちゃんと序列構造とかヒエラルキーを理解してる。だけど元々の暴れん坊の神性も併せ持ってるので、例えば誓約で勝ったとかってなると暴れ出してしまう訳ですね(勝ちさび)。
なので、そもそも論として、素戔嗚尊はこうした二面性があるってことをチェック。それが前提にあって、ここ第六段〔一書2〕では、珍しく貴重な宝物である曲玉を天照に献上しようと、羽明玉のところに出向いたと言う訳です。
ちなみに、、
「珍宝瑞八坂瓊之曲玉」と「神剣(草薙剣)」とは、のちに第九段〔一書1〕で、天照大神が天降る瓊瓊杵尊に賜う「三種宝物」と同じものとして通じてますよね。。コレはこれで一つの設定なのかも。。
ところが、、
- この時、天照大神は、弟に邪悪な心があると疑い、兵を起こして問い詰めた。素戔鳴尊は答えて「私が来たのは、本当に姉上とお会いしたかったからです。また珍しく貴重な宝物である瑞八坂瓊曲玉を献上しようと思ったからで、別の意図などありません」と言った。
- 是時、天照大神、疑弟有惡心、起兵詰問。素戔嗚尊對曰「吾所以來者、實欲與姉相見。亦欲獻珍寶瑞八坂瓊之曲玉耳、不敢別有意也。」
言葉の解説を少し。
「悪心」は、邪悪な心。
「珍寶」は、珍しく貴重な宝物。「寶」は「宝」の旧字体。
その上で、、
ポイント2つ。
①天照大神が問い詰めたのは、第五段〔一書6〕での素戔嗚の謀反発言を承けてるから
「天照大神は、弟に邪悪な心があると疑い、兵を起こして問い詰めた」とあります。
ここで、天照が素戔嗚を疑ったのは、第五段〔一書6〕を承けて。〔一書6〕では以下のように伝えてました。
こうして、伊奘諾尊は三子に勅して「天照大神は高天原を治めよ。月読尊は青海原の潮が幾重にも重なっているところを治めなさい。素戔嗚尊は天下を治めなさい。」と任命した。
この時、素戔嗚尊はすでに年が長じていて、また握りこぶし八つもの長さもある鬚が生えていた。ところが、天下を治めようとせず、常に大声をあげて哭き怒り恨んでいた。そこで伊奘諾尊が「お前はどうしていつもそのように哭いているのだ」と問うと、素戔嗚尊は「私は根国で母に従いたいのです。だから、哭いているだけなのです。」と答えた。伊奘諾尊は不快に思って「気のむくままに行ってしまえ」と言って、そのまま追放した。(『日本書紀』巻第一(神代上)第五段〔一書6〕より)
ということで、
特に、「根国で母に従いたい」てのは重大発言で、第五段〔一書6〕でも解説した通り、謀反に相当。伊奘諾ブチギレ案件でした。
こうした背景を承けての素戔嗚昇天な訳で、天照大神としても「弟に邪悪な心があると疑」わざるを得なかった訳ですね。
ちなみに、、
〔本伝〕では天照が自ら武装し非常に激しい威圧行為をしてましたが、ここでは「起兵詰問」、兵を起こして問い詰めたと。。高天原にはすでに軍隊が存在??組織化が進んでいた??
そして!
②素戔嗚の矛盾するような言動はむしろ、根国をも高天原支配のもとに組み込む構想があったから?
根国で母に従うのだが、天照を頂点とする高天原支配の中では「臣之道」を実践。それは、「「私が来たのは、本当に姉上とお会いしたかったからです。また珍しく貴重な宝物である瑞八坂瓊曲玉を献上しようと思ったからで、別の意図などありません」と言った。」と言う言葉にも表れてます。
この、一見、矛盾するように見える素戔嗚の言動ですが、もっと大きな目線で、構造的に捉えたときには、実は、根国をも高天原支配のもとに組み込むための設定ってことだったりします。
つまり、「臣之道」を実践する素戔嗚が、その忠誠の証として曲玉を献上する。その上で根国へ行く訳で。根国では母に従いつつも、より大きな世界構造で俯瞰して捉えると、高天原を頂点とする世界構造の中に組み込まれた、とも言える訳ですね。
根国は地下世界であり、伊奘冉系の死のイメージが付きまとう異界。なんだが、別物として切り離すのではなく、むしろ素戔嗚を通じて繋がりがつけてある。そんな捉え方がいいのではないかと思います。
次!
- この時天照大神が、また問うて「お前の言葉が嘘か実か、何を持って証拠とするのか」と言うと、「私が姉上と共に誓約を立てさせてください。誓約の間に、女を生めば黒心とし、男を生んだら赤心としてください」と言った。
- 時天照大神、復問曰「汝言虛實、將何以爲驗。」對曰「請吾與姉共立誓約。誓約之間、生女爲黑心、生男爲赤心。」
→〔本伝〕踏襲。同様に、素戔嗚から共に誓約を提案。
先に言葉の解説を少し。
「驗」は、証拠、しるし、あかし。主に「ためす」「しるし」「ききめ」という意味で、馬の良し悪しを実際に乗り比べて調べたことに由来。現在でも、「霊験」とか、神仏の不思議な力とか効能とか効き目のことを言いますよね。
「黒心」は、邪悪な心、国を奪い取る謀反の心。「赤心」と対になってます。
「赤心」は、清らかで純粋な心、潔白な心。「赤子」「赤ちゃん」とか、現在でも清らかで純粋な存在に対して「赤」と言う言葉は使われます。「黒心」と対。
その上で、、
ポイント2つ。
①素戔嗚尊が「共に誓約」を持ちかけたのは、〔本伝〕を踏襲してるから。とは言え、、天照の嫌疑へ反駁を加えようとしたかどうかは不明、、
〔本伝〕と同様、ここ〔一書2〕でも素戔嗚から「姉上と共に誓約を立てさせてください」とあります。
〔本伝〕では、例えば「不意、阿姉翻起厳顔」という不意を突かれた言葉を伝えていたり、前後の文脈から「共」に込められた素戔嗚的な「たくらみ」を人間モデル神ならではの挙動として解釈できるのですが、〔一書2〕では伝えていないのではっきり言って不明。。
なので、〔本伝〕を踏襲して共に誓約提案になってる、くらいしか言えないかなと。。
むしろ、、
②〔一書2〕では、曲玉献上をいう言葉の虚実に焦点が当てられてる
「天照大神が、また問うて「お前の言葉が嘘か実か、何を持って証拠とするのか」」とあります。
これ、素戔嗚尊がこの直前に言った「私が来たのは、本当に姉上とお会いしたかったからです。また珍しく貴重な宝物である瑞八坂瓊曲玉を献上しようと思ったからで、別の意図などありません」に対するもので、とりわけ曲玉献上をいうその言葉の虚実に焦点を当ててる訳です。
一方、〔本伝〕ではあくまで「謀反」をめぐって天照大神の「若然者、将何以明爾之赤心也。」という「詰問」に、素戔嗚尊が「赤心」を証明するというかたちをとってる。奪国嫌疑がテーマであり、テンションは高めでした。
それが、〔一書2〕では曲玉献上=忠誠への嫌疑へとテンション下げ、微妙に変化させてきてる。これ、天照大神の負けをあまり目立たなくさせるための差異化設定として解釈できるかなと思います。
少なくとも、同じ〔一書〕でありながら、〔一書1〕や〔一書3〕とは全然違う雰囲気ですよね。。
次!
- そこで、天真名井を三箇所に掘ると、互いに向かいあって立った。この時、天照大神が、素戔鳴尊に「私の帯びる剣を、今、お前に奉ろう。お前は、お前の持っている八坂瓊曲玉を私に授ければよい」と言った。このように約束し、共に交換して取った。
- 乃掘天眞名井三處、相與對立。是時、天照大神、謂素戔嗚尊曰「以吾所帶之劒、今當奉汝。汝、以汝所持八坂瓊之曲玉、可以授予矣。」如此約束、共相換取。
→引き続き、〔本伝〕踏襲なんで、素戔嗚尊からのお願いをもとに物根の交換があります。
先に言葉の解説を少し。
「天眞名井」は、〔本伝〕でも登場。天上界にある神聖な井戸。清らかな水が湧いてるらしい。。
ちなみに、、今回、「掘天真名井三処、相与対立」と井を掘ったらしいのですが、〔本伝〕にはないこのことさらな行為は、儀礼としてわざわざやってる次第。ちなみに、、3つの井戸から3女神誕生、その連想によるものだった??
その上で、、
①素戔嗚尊の持ってきた曲玉が物根として使われることに。。コレはこれで、誕生する神の神威の強さを根拠づける
「「私の帯びる剣を、今、お前に奉ろう。お前は、お前の持っている八坂瓊曲玉を私に授ければよい」」とあります。
天照の剣を素戔嗚に。素戔嗚の曲玉を天照に。〔本伝〕と同様に物根交換。
ポイントはやはり、素戔嗚尊の持ってきた曲玉が物根として使われ三女神が誕生するところ。「珍しく貴重な宝物である瑞八坂瓊曲玉(珍寶瑞八坂瓊之曲玉)」な訳ですから、、コレから誕生する三女神の神威も超絶、、
次!
- そうしたあと、天照大神は、八坂瓊の曲玉を、天真名井に浮かべ寄せ、瓊の端を噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した。名を、市杵嶋姫命といい、大海の遠くに居る神である。また、瓊の中ほどを噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した。名を、田心姫命といい、大海の中ほどに居る神である。また、瓊の尾を噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した。名を、湍津姫命という。これが浜辺に居る神である。合わせて三女神である。
- 已而、天照大神、則以八坂瓊之曲玉、浮寄於天眞名井、囓斷瓊端、而吹出氣噴之中化生神、號市杵嶋姬命、是居于遠瀛者也。又囓斷瓊中、而吹出氣噴之中化生神、號田心姬命、是居于中瀛者也。又囓斷瓊尾、而吹出氣噴之中化生神、號湍津姬命、是居于海濱者也。凡三女神。
→相変わらず、、、玉を噛み切ってガリガリ噛み砕いてプシャーって霧状に噴き出して神を生むて、、、謎すぎる。。
先に言葉の解説を少し。
「瀛」は、大きく広い海、大海原、あるいは沢や池を意味。「水(さんずい)」と「嬴(えい)」を組み合わせた形声文字。「嬴」は「あふれる」「あまる」という意味を持つため、水があふれるほど満ちている広大な場所=海を表すようになったとされてます。結構情緒豊かな言葉。
「遠瀛」で、遠い大海、大海の遠い沖の方。宗像大社の沖津宮のこと。
「中瀛」で、中ほどの大海、大海の中ほどのところ。現在の宗像市大島。
「海濱」は、海浜。現在の宗像市田島にある宗像大社。ちなみに、、元々は、下高宮(詳細不明)にあった(筑前風土拾遺)とか、神湊の東の海辺にあった( 筑前続風土記)とかいった伝承もあったりします。
対応関係をまとめると以下。
| 瓊端 | 市杵嶋姬命 | 遠瀛 |
| 瓊中 | 田心姬命 | 中瀛 |
| 瓊尾 | 湍津姬命 | 海濱 |
その上で、、
①誓約=スゴイ儀式。だからこそ、単独による神化成イベントが発生
忘れちゃいけない、大きな時代変化のただ中にあって、本来であれば出産による神誕生であるべきなんですが、
- よほどのスゴイ神が化出させる場合
- よほどのスゴイ事件が発生した場合
- よほどのスゴイ儀式が行われる場合
この3つに限って、単独による神化成イベントが発生。
①の場合は、化出させる神自身の神威を根拠として。②の場合は、その事件の激烈さ・劇的さを根拠として。③の場合は、その儀式の神聖さを根拠として、それぞれ単独神化成。
要は、それだけ特別で重要だということを強調してる、ってことでチェック。
今回でいえば、③に該当。ま、天照と素戔嗚なんで①も混じってるかもですが、、いずれにせよ、「天真名井に浮かべ寄せ、瓊の端を噛み切り、吹き出した気噴に神を化生した」ってのは、結構スゴいよね。。井で清めて玉を噛み切って多分ガリガリ粉々にしてプシャーって吹き出して神を生む、、、
そして!
②葦原中国=版図。その端っこは、兄弟姉妹のつながりをベースに領域設定
神話展開を通じた統治領域=版図設定。それがココ、第六段のもう一つの意味だったりします。
「大海の遠く(遠瀛)」にある島が沖津島。宗像大社の沖津宮がありますが、これが葦原中国の西北の端として設定されてます。概念地図で表すと以下のようなイメージ。
ということで、
ポイントは、版図の端っこは、兄弟姉妹のつながりをベースに設定されてるってこと。天照と素戔嗚の誓約を通じた誕生した神、それは、素戔嗚の持参した珍宝を根拠とする超絶神威を持つわけで、中央からすると安心ですよね。これ、地味に重要なのでしっかりチェック。
次!
- ここにおいて、素戔鳴尊が、持っていた剣を天真名井に浮かべ寄せて、剣の先を噛み切り、吹き出した気噴の中に神を化生した。名を、天穂日命という。次に、正哉吾勝勝速日天忍骨尊。次に、天津彦根命。次に、活津彦根命。次に、熊野櫲樟日命。合わせて五男神であると、このように言う。
- 於是、素戔嗚尊、以所持劒、浮寄於天眞名井、囓斷劒末、而吹出氣噴之中化生神、號天穗日命。次正哉吾勝勝速日天忍骨尊、次天津彥根命、次活津彥根命、次熊野櫲樟日命、凡五男神、云爾。
→共に誓約なので、天照の方法を踏襲して神を生む。
言葉の解説を少し。
語尾の「爾云う」は、締め括りの辞。「爾」が、以上の記述全体を指します。
そのうえで、、
五男神の化生、一応、、〔本伝〕と比較すると。。
| 〔本伝〕 | 〔一書2〕 |
| 正哉吾勝勝速日天忍骨尊 | 天穗日命 |
| 天津彥根命 | 正哉吾勝勝速日天忍骨尊 |
| 活津彥根命 | 天津彥根命 |
| 天穗日命 | 活津彥根命 |
| 熊野忍蹈命 | 熊野櫲樟日命 |
シャッフルされてる感、、それ以外は何とも、、
で、
〔一書2〕はここで終わり。結局、〔一書2〕の特徴は、
- 素戔嗚尊が、羽明玉から「瑞八坂瓊之曲玉」をゲットし天照に献上すること。
- それに対して、実なのか嫌疑が立てられ誓約を実施すること。言葉の虚実が焦点。
- 物根交換により、曲玉から三女神が誕生すること。一方、天照の剣から五男神が誕生する。
と言った点になります。
[/box]
〔一書2〕で登場した神々
天照大神、素戔嗚尊、三女神:市杵嶋姬命、田心姬命、湍津姬命、五男神:天穗日命、正哉吾勝勝速日天忍骨尊、天津彥根命、活津彥根命、熊野櫲樟日命
誓約と三女神と五男神|『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕 まとめ
『日本書紀』巻第一(神代上)第六段〔一書2〕
だーっと解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
ポイントは、〔一書2〕は〔本伝〕踏襲型。
天照大神が登場し、素戔嗚尊からのお願いをもとに物根交換あり。また、テーマは潔白の明確化であり、誓約を通じて子が生まれたことを伝えます。
他の〔一書〕含めて、改めて一覧化してまとめると以下。
そのうえで、
ポイントは、コレらの2つの系統は、それぞれのテーマを持ちつつ、大きくは、日神から天照大神へ。第六段、第七段を通じて、段階的に入れ替わっていく展開の中で設定されてるってことをチェックです。
表側の誓約とか子の誕生とか、岩戸隠れといったイベントはありつつも、その裏では日神から天照大神へ段階的な移行が進行してる。
イメージとしては以下。
この大きな流れを掴んでおくと整理しやすいかと思います。
神話を持って旅に出よう!
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〒811-3505 福岡県宗像市田島2331
宗像大社 辺津宮の「高宮祭場」宗像三女神が最初に天降った場所として伝わってたりします
六嶽神社(下宮):六ヶ岳の麓にある、三女神を祀る神社。六ヶ岳の上宮は、三女神が最初に降臨した場所とされる山頂付近の「崎門山」にあります。
神興(しんぐう)地区:六ヶ岳(鞍手町)の東側に隣接する福津市神興地区も、三女神の降臨や神話に関わりのある地域とされています。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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日本神話編纂の現場!奈良にカマン!






















埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。