須比智邇神すひちにのかみ|砂と泥土の女神!神世七代の第三代として宇比地邇神とともに男女対偶の神として誕生

須比智邇神

 

『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。

今回は

須比智邇神すひちにのかみ

『古事記』では、天地初発に神世七代の三代目、男女ペアの女神として「須比智邇神すひちにのかみ」を伝えます。

本エントリでは、「須比智邇神すひちにのかみ」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。

 

本記事の独自性

  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

須比智邇神すひちにのかみ|砂と泥土の女神!神世七代の第三代として宇比地邇神とともに男女対偶の神として誕生

須比智邇神とは?その名義

須比智邇神すひちにのかみ」= 砂と泥土の神

一緒に成った「宇比地邇神うひぢにのかみ」(男神)と合わせて、神世七代の第三代。

」は、「砂」の「す」。

比智ひち」は、「泥土」の意。「ひぢ」「ひち」の清濁二形あり。

」は、親愛を表す接尾語。

原文には、「宇比地邇神」とあります。「去」は下げる調子の声注。

この神名に「妹」が冠せられているのは、女性であることを表し、「宇比地邇神うひぢにのかみ」とともに男女対偶神として一代に数えられてます。世界の土台形成の神としての位置づけ。

ということで、

須比智邇神すひちにのかみ」=「粘土」+「親愛を表す接尾語」+「神」= 砂と泥土の神

 

須比智邇神の活動を伝える日本神話

須比智邇神すひちにのかみ」が登場するのは、『古事記』上巻、天地初発の神話。以下のように伝えてます。

次に、成った神の名は、宇比地邇神うひぢにのかみ次に、いも 須比智邇神すひちにのかみ次に、角杙神つのぐひのかみ。次に、いも 活杙神いくぐひのかみ(二柱)。次に、意富斗能地神おほとのぢのかみ。次にいも 大斗乃辨神おほとのべのかみ。次に、於母陀流神おもだるのかみ。次に、いも 阿夜訶志古泥神あやかしこねのかみ。次に、伊耶那岐神いざなきのかみ。次に、いも 伊耶那美神いざなみのかみ

 かみくだりの、国之常立神くにのとこたちのかみより下、伊耶那美神いざなみのかみより前を、あわせて神世七代かみよななよという。上の二柱の独神ひとりがみは、おのおのも一代という。次にたぐへる十柱とはしらの神は、おのおのも二柱ふたはしらの神を合わせて一代という。

次成神名、宇比地邇神、次妹須比智邇去神此二神名以音、次角杙神、次妹活杙神二柱、次意富斗能地神、次妹大斗乃辨神此二神名亦以音、次於母陀流神、次妹阿夜訶志古泥神此二神名皆以音、次伊邪那岐神、次妹伊邪那美神。此二神名亦以音如上。

上件、自國之常立神以下伊邪那美神以前、幷稱神世七代。上二柱獨神、各云一代。次雙十神、各合二神云一代也。 (『古事記』上巻より一部抜粋)

古事記 天地開闢

ということで。

まず、天地開闢に誕生する神々を整理するとこんな感じ。

『古事記』天地開闢で誕生した神々

▲「須比智邇神すひちにのかみ」は、天地初発に神世七代の三代目、男女ペア(双神たぐへるかみ)の女神として伝えてます。

ポイント2つ。

独神ひとりがみ」が身を隠すことで「双神たぐへるかみ」が世界を形づくっていく道筋をつけた

須比智邇神すひちにのかみ」は双神たぐへるかみ」として位置づけられてるんですが、忘れてはいけないのが、これより前に誕生した独神ひとりがみ」からの流れ。

独神ひとりがみ」はすべて身を隠すのですが、コレ、『古事記』独特の表現で、「双神たぐへるかみ」に彼らの活躍する世界を譲り、自らは立ち退くことをいいます。

良い方を変えると、独神ひとりがみ」が身を隠すことで「双神たぐへるかみ」が世界を形づくっていくことに道筋をつけた、とも言える訳です。

宇比地邇神うひぢにのかみ」と「いも 須比智邇神すひちにのかみ」という双神たぐへるかみ」の誕生にはこうした背景があること、しっかりチェック。

次!

②神世七代の神名を通じて、世界が次々に具体的な形をとって展開するさまを表象している

そして、双神たぐへるかみ」が世界を形づくっていくこと、その具体的な表れは「神世七代」の神名を通じて表現されます。

神世七代の神名の要点をまとめると、以下になります。

  神名 表象するもの
第一代 国常立 天の常立神に続き、それと対応して成る国の恒常的確立(予祝)
第二代 豊雲野 地上世界に豊かな雲のわき立つ野が出現したこと、地上世界の豊穣(予祝)
第三代 宇比地&須比地 天→国、雲野→泥砂という対応に即した、地上世界の土台
第四代 角杙&活杙 土台としての大地に標識となる杙を打ち込む
第五代 意富斗&大斗乃 打ち込んだところに(外と内を隔てる)戸(門)を造立
第六代 於母陀&阿夜訶 男と女をそれぞれ「面足おもたる」「あやかしこね」と称える
第七代 伊耶那岐&伊耶那美 男と女とが互いに誘いあう

これ、ホントによくできた神名になっていて。

表象しているのは、神の世に、新しく世界が次々に具体的な形をとって展開するさまであり、以下のような物語展開。

  1. 先ずは、国(国土)が恒久的に(永久に)確立することを予祝
  2. その国(国土)に、豊穣を約束する「雲のわき立つ野」が出現することを予祝
  3. そのうえで双神により具体的な表れとして、大地の土台ができ、これを力強い杙がしっかり固定
  4. そして、男女の神により、互いにまっとき性を具有することを称えあい、誘い合う、、

、、、

ステキですね。ゾクゾクします。日本的な、極めて日本的な世界創生の物語。。。

そして、最後に誕生した伊耶那岐神と伊耶那美神が結婚し、国生み、神生みを導く、、、壮大な構想をもとにつくられてる。そのなかで、まずは、世界の土台形成の神として「須比智邇神すひちにのかみ」が登場してるんですね。

 

泥土煑尊の活動を伝える日本神話(『日本書紀』編)

続けて、『日本書紀』が伝える「沙土煑すひぢに」についてもおまけとして解説。

日本書紀』では、巻一の第二段〔本伝〕で登場。

次に現れた神は、泥土煑尊うひぢにのみこと(土、これを「うひぢ」と読む)沙土煑すひぢに(沙土、これを「すひぢ」と読む。またの名は、泥土根尊うひぢねのみこと沙土根尊すひぢねのみこと。次に現れた神は、大戸之道尊おほとのぢのみこと(ある書では、大戸之辺おほとのべと言う)大苫辺尊おほとまべのみこと(または大戸摩彦尊おほとまひこのみこと大戸摩姫尊おほとまひめのみこと大富道尊おほとまぢのみこと大富辺尊おほとまべのみこととも言う)。次に現れた神は、面足尊おもだるのみこと惶根尊かしこねのみこと(または吾屋惶根尊あやかしこねのみこと忌橿城尊いむかしきのみこと青橿城根尊あをかしきねのみこと)吾屋橿城尊あやかしきのみことと言う)。次に現れた神は、伊奘諾尊いざなきのみこと伊奘冉尊いざなみのみこと

次有神。泥土煑尊〈泥土、此云于毘尼。〉・沙土煑尊〈沙土、此云須毘尼。亦曰泥土根尊、沙土根尊。〉。次有神。大戸之道尊〈一云、大戸之辺。〉・大苫辺尊〈亦曰大戸摩彦尊、大戸摩姫尊。亦曰大富道尊、大富辺尊。〉。次有神。面足尊・惶根尊〈亦曰吾屋惶根尊。亦曰忌橿城尊。亦曰青橿城根尊。亦曰吾屋橿城尊。〉。次有神。伊奘諾尊・伊奘冉尊。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第二段 本伝より)

『日本書紀』第二段

ということで。

『日本書紀』では「沙土煑すひぢに」として、同じ神世七代の第4世代の神として伝えてます。詳細は以下の通り。

神世 神名 誕生方法 登場場所
一代 国常立尊 乾道独化
(純男の神)
第一段
二代 国狭槌尊
三代 豊斟渟尊
四代 泥土煑尊 乾坤之道、相参而化
(男女一対の神)
第二段
沙土煑尊
五代 大戸之道尊
大苫辺尊
六代 面足尊
惶根尊
七代 伊奘諾尊
伊奘冉尊

また、

神世七代の神名には、「土台→戸(家)→互いに賛美→誘い合う」結婚ストーリーが埋め込まれています。

 

須比智邇神を始祖とする氏族

無し

 

参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より 一部分かりやすく現代風修正。

須比智邇神の登場箇所

古事記 天地開闢
『日本書紀』第二段

 

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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