『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「和久産巣日神」
『古事記』では、伊耶那美命が火神を生み病臥して尿をしたときに化成した神として「和久産巣日神」を伝えます。
本エントリでは、「和久産巣日神」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
和久産巣日神わくむすひのかみ|若々しい生成の霊力の神!尿から成った神で、蚕や五穀などの人間の生活必需品の起源につながる土壌づくりとして誕生
目次
和久産巣日神とは?その名義
「和久産巣日神」= 若々しい生成の霊力の神
『古事記』では、伊耶那美命が火神を生んだことによって、みほとを焼かれ病み臥せ、嘔吐や屎に続き、尿をしたときに化成した神として「和久産巣日神」を伝えます。
「和久」は、神代紀上に「稚産霊」とあるように「稚・若」の意。若々しい。
「産巣日」の「産巣」は、「苔が生す」などの「むす」で、「生成する」意味の自動詞。
用例としては、『万葉集』に大伴家持が「陸奥の国に金を出いだす詔書を賀く歌」。
「海行かば 水漬く屍、 山行かば草生す屍、 大君の辺にこそ死なめ、 かへり見はせじと 言立て」(4094番)と歌う「草生す屍」の例。
そして、『古今集』には、
「わが君は 千代に八千代に、細れ石の巌となりて、苔の生すまで」(賀)」という、「苔生す」の例、などがあります。
死体が腐ってそこに草が生えるのも、また苔が生えるのも、自然であり、条件や環境が整えばおのずから生じるもの、と考えられてた訳です。
「日」は、「霊的なはたらき」を意味する語。神名の接尾語としてよく用いられます。
伊耶那美命が火神を生み、みほとを焼かれ病み臥せながら出た尿から成った神。水神「彌都波能売神」とあわせて誕生していること、さらに「和久産巣日神」の子として「豊宇氣毘売神」を伝えていることから、蚕や五穀といった人間の生活必需品の起源につながる土壌づくりとして誕生していると考えられます。後ほど詳細解説。
ということで、
「和久産巣日神」=「若々しい」+「(おのずから)生成する」+「霊的なはたらき」+「神」= 若々しい生成の霊力の神 |
和久産巣日神が登場する日本神話
「和久産巣日神」が登場するのは、『古事記』上巻、神生み神話。以下のように伝えてます。
この子を生んだことに因って、みほとを炙かれて病み臥せになった。嘔吐に生んだ神の名は、金山毘古神、次に金山毘売神。次に屎に成った神の名は、波迩夜須毘古神、次に波迩夜須毘売神。次に尿に成った神の名は、彌都波能売神、次に和久産巣日神。この神の子は、豊宇氣毘売神という。ゆえに、伊耶那美神は火の神を生んだことに因って、遂に神避った。
因生此子、美蕃登(此三字以音)見炙而病臥在。多具理邇(此四字以音)生神名、金山毘古神(訓金云迦那、下效此)、次金山毘賣神。次於屎成神名、波邇夜須毘古神(此神名以音)、次波邇夜須毘賣神(此神名亦以音)。次於尿成神名、彌都波能賣神、次和久產巢日神、此神之子、謂豐宇氣毘賣神(自宇以下四字以音)。故、伊耶那美神者、因生火神、遂神避坐也。自天鳥船至豐宇氣毘賣神、幷八神。 (引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)
ということで、
細かいですが、原文、最初に嘔吐物から生んだ時は「生」という漢字が使われてます。次いで、屎や尿は「成」という漢字。
コレ、いずれも伊耶那美命の排泄物に生んだ→排泄物に成った、ということで親子の関係は同じ。初めに「生」を使い、以降は「成」を使うことで、神の成りまし方を実態に近いかたちに表現を変えていく『古事記』的用字であります。
神生みからの系譜は以下の通り。
▲「和久産巣日神」は、伊耶那美命が火神を生んだことで病臥し、そのなかで屎をしたときに生んだ神として登場。
また、
「和久産巣日神」は、「この神の子は、豊宇氣毘売神という」と伝えているとおり、食物生産の神につながる系譜を伝えてます。
このことから、
「和久産巣日神」については、生産の神という通説のほか諸説あり。
- 農業生産の神とする。火神とのつながりから、原始農法の一つであった焼畑に基づくとする説。
- 若々しい農業の生産力が生まれることを表象する説。大地を刺激する火や肥料となる糞尿・灌漑の水といった意義の神々の出現を踏まえて。
- 稲を生じる生成力の神とする説。子の豊宇気毘売神が稲の神霊と考えられることから。
- 温泉湧出の作用の神格化とする説。尿から生まれたことをふまえ、湧(わく)の語から、尿(ゆまり)が温泉の湯(ゆ)に通じているとする。
- 水と農業生産との密接なつながりによるものとする説。水の神、弥都波能売神と対になっていることから。
など。
ポイントは、やはり背景・経緯を踏まえることで、、、それは、
修理固成という壮大な構想のなかで「神生み」があるってこと。さまざまな神が誕生するなかで、自然現象が具体的な表れをしていく、、
大事忍男神から、さー大事業が始まるぞ、と。石土毘古神から徐々に大自然系へと移行し、大綿津見神から始まり、海 →水門 →風 →木 →山 →野 →船 →食 →火 といった流れ。。。そんな経緯がありました。
この流れはつまり、将来的には「瑞穂国」になるのに必要な神の誕生プロセスであり、これにより、実は、人間が誕生!!していて、なんなら生活も始まってた、、ってことなんです。(そう解釈しないと次の黄泉譚につながらない。。。)
そんな経緯背景の中で、火神を生んだことに因って6柱の神が誕生してるんです。
N | 成った場所 | 成った神 | どんな神? |
1 | 嘔吐 | 金山毘古神、 次に金山毘売神。 |
嘔吐に成った、溶けた鉱石(製鉄)の男と女の神 |
2 | 屎 | 波迩夜須毘古神、 次に波迩夜須毘売神。 |
屎に成った、祭器の土器をつくる粘土の男と女の神 |
3 | 尿 | 彌都波能売神、 次に和久産巣日神。その子「豊宇気毘売神」 |
尿に成った、水の神と生成霊の神 |
てことで、つまり、、
ここで生まれた6神は、それこそ、(「瑞穂国」へ向けた準備として&黄泉譚につながる前フリとして)人民の生活をみすえ、火を通じて、溶けた鉱石(製鉄など)、土器(祭器)、水、五穀生成の神が生まれてる、てことで。
つまり、伊耶那美命を「大地母的神格」として位置づけ、火を通じて生活に必要なもの(製鉄、祭祀土器や農業生産)が生まれている、と考えられます。
補足解説:日本書紀が伝える和久産巣日神
ちなみに、、『日本書紀』が伝える土の神についても補足で解説。
『日本書紀』でも、国生みのあとに続く神生みで、伊奘冉尊が火神を生む中で「水の神」が誕生します。
次に、火神である軻遇突智を産んだ。この時、伊奘冉尊は軻遇突智によって焼かれ終った。その、まさに臨終する間、倒れ臥し糞尿を垂れ流し、土神埴山姫と水神罔象女を産んだ。
そこで、軻遇突智は埴山姫を娶って稚産霊を産んだ。この神の頭の上に、蚕と桑が生じた。また、臍の中に五穀が生じた。
時伊奘冉尊、為軻遇突智、所焦而終矣。其且終之間。臥生土神埴山姫及水神罔象女。即軻遇突智娶埴山姫、生稚産霊。此神頭上生蚕与桑。臍中生五穀。罔象。此云美都波。(引用:『日本書紀』巻一(神代上)第五段〔一書2〕より)
ということで、
『日本書紀』〔一書2〕では、火神を生んだことにより焼かれ臨終する間に糞尿垂れ流し、そこから土神「埴山姫」と水神「罔象女」が誕生。さらに、土と火が結婚し「稚産霊」が誕生。その神の頭や臍に蚕や桑、五穀が生まれます。
ちなみに、、、土神「埴山姫」の誕生については、伊奘冉が火神を生んだことで焼かれ、土の神と水の神を生んだってことで、コレ、通説では火を鎮めるために水を生んだ、とされてるのですが、そうではありません。火を鎮めた、または、消したりしちゃったら「稚産霊」とか生まれません!
ココでは、そのあとに伝える「蚕と桑が生じた。また、臍の中に五穀が生じた。」が重要。つまり、
蚕や五穀といった人間の生活必需品の起源につながる土壌づくり
として読み解くことがポイントです。
伊奘冉尊は火の神を受け容れる土神と、逆に鎮め止める水神とを生み、蚕や五穀誕生への道を拓いたと解釈。母の生んだ土台、そのうえで、火神が土神を選び取り結婚、それが「稚産霊」の誕生につながり、さらに、水神のはたらきにより農産物の発生に至る、、、という流れ。
蚕や五穀の生成には、肥沃な土と水が必要ですよね。
その「肥沃な土づくり」のために行われるのが焼畑で。つまり、土壌改良としての焼畑が背景にあって。それゆえの火と土と水ってことなんです。
さらにさらに、『日本書紀』では、ここでの、蚕や五穀誕生を承けて、同じ第五段の〔一書11〕では、天照大神による農業の起源へつながっていきます。
和久産巣日神を始祖とする氏族
なし
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。
和久産巣日神が登場する日本神話の詳しい解説はコチラ!
和久産巣日神をお祭りする神社はコチラ!
● 王子稲荷神社:東国三十三国稲荷総司!民話『王子の狐火』や落語『王子の狐』でも有名
住所:東京都北区王子本町1丁目1-12
● 久井稲生神社:天慶元年(938年)に伏見稲荷大明神を勧請した歴史ある神社!
住所:広島県三原市久井町江木1-1
● 麻賀多神社:豊作祈願と悪魔払いの祭りとして古くから伝えられた社
住所:千葉県佐倉市鏑木町933
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