石筒之男神いはつつのをのかみ|堅固な刀剣の男神!剣の先についた血が、神聖な石の群れにほとばしりついて成った神

石筒之男神

 

『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。

今回は

石筒之男神いはつつのをのかみ

『古事記』では、伊耶那岐命が火神(迦具土神)を斬り殺したとき、その剣の先についた血が岩にほとばしりついて化成した神として「石筒之男神いはつつのをのかみ」を伝えます。

本エントリでは、「石筒之男神いはつつのをのかみ」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。

 

本記事の独自性

  • 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
  • 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
  • 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです

 

石筒之男神いはつつのをのかみ|堅固な刀剣の男神!剣の先についた血が、神聖な石の群れにほとばしりついて成った神

石筒之男神とは?その名義

石筒之男神いはつつのをのかみ」= 堅固な刀剣の男神

『古事記』では、伊邪那岐命いざなきのみこと十拳剣とつかのつるぎ迦具土神かぐつちのかみくびを斬った際に、剣の先についた血が、神聖な石の群れにほとばしりついて成った神として「石筒之男神いはつつのをのかみ」を伝えます。

「石」は、「堅固な」の意。

「筒」は、もともとは「刀剣つち」で、「つち」や「つち」と通じ武器を意味。「つち」の「つ」に引かれて「つつ」になったもの。変字により「筒」。

用例としては、

天孫降臨における天忍日命と天津久米が着けた「頭つち大刀」(神代)が、神武東征における土雲討伐歌で「頭つつい石つつい」へ変化してます。「つち」→「つつ」。

また、「つち」が「つち」と通じることは、「頭つち剣」(紀・神代下) とも「頭つち剣」(神武前紀)とも書かれることによって分かります。

さらに、「つち」が武器の意味であることは、景行紀12年10月条で「海石榴樹を採りて、つちに作りつはもの(武器)にしたまふ」とあることから分かります。

いずれも、「つち・つつ」は武器の意で、ここでは刀剣をさします。ちなみに、「くぶつつ」は、柄の端がこぶ形になった刀剣であり、「いしつつ」は、そのこぶが石製の刀剣をいいます。

ということで、

石筒之男神いはつつのをのかみ」=「堅固な」+「刀剣」+「男」+「神」= 堅固な刀剣の男神

 

石筒之男神が登場する日本神話:『古事記』編

石筒之男神いはつつのをのかみ」が登場するのは、『古事記』上巻、神生み神話。以下のように伝えてます。

ここに伊邪那岐命いざなきのみことは、腰に帯びていた十拳剣とつかのつるぎを拔いて、その子、迦具土神かぐつちのかみくびを斬った。その御刀みはかしの先についた血が、神聖な石の群れにほとばしりついて成った神の名は、石拆神いはさくのかみ。次に根拆神ねさくのかみ次に石筒之男神いはつつのをのかみ次に御刀みはかしの本についた血もまた、ほとばしりついて成った神の名は、甕速日神みかはやひのかみ、次に樋速日神ひはやひのかみ、次に建御雷之男神たけみかづちのをのかみ。またの名は、建布都神たけふつのかみ。またの名は豊布都神とよふつのかみ。次に、御刀みはかし手上柄たがみつかに集まった血が手の指の間から漏れでて成った神の名は、闇淤加美神くらおかみのかみ。次に、闇御津羽神くらみつはのかみ(上のくだり石拆神いはさくのかみより以下しも闇御津羽神くらみつはのかみまで、あはせて八神やはしらのかみは、御刀に因りてった神ぞ。)

於是伊邪那岐命、拔所御佩之十拳劒、斬其子迦具土神之頸。爾著其御刀前之血、走就湯津石村、所成神名、石拆神、次根拆神、次石筒之男神。三神次著御刀本血亦、走就湯津石村、所成神名、甕速日神、次樋速日神、次建御雷之男神、亦名建布都神(布都二字以音、下效此)、亦名豐布都神。三神次集御刀之手上血、自手俣漏出、所成神名(訓漏云久伎)、闇淤加美神(淤以下三字以音、下效此)、次闇御津羽神。上件自石拆神以下、闇御津羽神以前、幷八神者、因御刀所生之神者也。 (引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)

ということで、

上のくだり石拆神いはさくのかみより以下しも闇御津羽神くらみつはのかみまで、あはせて八神やはしらのかみは、御刀に因りてった神ぞ。」とあるように、「石拆神いはさくのかみ」から「闇御津羽神くらみつはのかみ」までは伊耶那岐命の刀に因ってった神としてカテゴリ化されてます。

8柱の神の系譜的イメージは以下の通り。

石筒之男神

▲剣先からほとばしり3柱、剣本からほとばしり3柱、柄から漏れ出て2柱、合計8神。伊耶那岐命の刀に因ってった神。

石筒之男神いはつつのをのかみ」の説としては、例えば

  • 「岩つ」岩の霊威とする説。「いはつち」とする見方から。
  • 岩が裂けて粒になって飛び散ることによる名とする説。「つつ」を「粒」とする見方から。
  • 岩から飛び散る火花を星粒に見立てた名とする説。「つつ」を「星」の意とする見方から。
  • 製鉄における送風筒の神格化とする説。「つつ」を「筒」とする見方から。

などがあります。

いずれにしても、

ここでは、そもそも「その御刀みはかしの先についた血が、神聖な石の群れにほとばしりついて成った」と伝えていることから、刀剣についた火神の血が岩にほとばしりつく勢いそのものを神格化したものと考えるべきで。

日本神話の流れ・展開における本シーンの意味とは、

日本神話史上初の「神殺しの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付けることで。

  • 神が神を殺す。
  • 神を殺した神を、神が殺す(報復・復讐)。

という構造であり、ココに親子関係も入ってきて、

  • 子が親(母)を殺す
  • 親(母)を殺した子を、親(父)が殺す(報復・復讐)

と、重層的構造をもとにした骨肉相食む壮絶神イベント発生中。(;゚д゚)ゴクリ… 

つまり、

それだけ強烈なシーンなので、当然のように、それだけ強烈な神威をもった神が生まれるという日本神話的ロジック。

石筒之男神いはつつのをのかみ」誕生には、こうした背景があり、ここでは特に、伊邪那岐命いざなきのみこと

  1. 伊耶那美命を喪ったことへの深い悲しみ
  2. 伊耶那美命を神避らせた火神への復讐

という、2つの激情がほとばしってます。

深い悲しみからは、涙を通じて「泣沢女神なきさはめのかみ」が誕生しており、今回の「石筒之男神いはつつのをのかみ」はその流れを受けて、復讐劇へ転換する中で誕生している次第。

なので、「石筒之男神いはつつのをのかみ」をはじめとする8神については、伊耶那岐命の激しい復讐心の神格化であり、だからこそ、わざわざ「血がほとばしりついて成った」という表現で強調していると解釈されます。

さらにさらに、日本神話全体の展開上、

この激情、激しさは、このあとに誕生する「建御雷之男神たけみかづちのをのかみ」の強力な神威の根拠となり、それが後の国譲り神話につながっていきます。大国主に国を譲れと交渉する役割を担うためには、相応の神威が必要で、その神威の根拠が、この伊耶那岐命の復讐心、その激しさとして設定されてる次第。

石筒之男神いはつつのをのかみ」は、今後の日本神話の展開を導くための非常に重要なシーンで誕生してる神なんです。

 

石筒之男神が登場する日本神話:『日本書紀』編

補足として、『日本書紀』が伝える「石筒之男神いはつつのをのかみ」についてもご紹介。

『日本書紀』では、「磐筒男命いはつつのをのみこと」として伝えてます。大きく3か所で登場。まずは、第五段〔一書6〕。

遂に、帯びていた十握剣とつかのつるぎを抜き、軻遇突智かぐつちを三段にった。それぞれ化してその各部分が神と成った。 ~中略~ また、剣の先から滴る血がほとばしって神と成った。名付けて磐裂神いはさくのかみと言う。次に根裂神ねさくのかみ次に磐筒男命いはつつのをのみこと(一説には磐筒男命いはつつのをのみこと磐筒女命いはつつのめのみことと言う。)

遂抜所帶十握劒 斬軻遇突智爲三段 此各化成神也  ~中略~ 復劒鋒垂血 激越爲神 號曰磐裂神 次根裂神 次磐筒男命 一云 磐筒男命及磐筒女命 (引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 〔一書6〕より)

ということで、

『日本書紀』では「軻遇突智かぐつちを三段にった」と伝えており、火神の斬断方法には違いがあるものの、その後に誕生する「磐筒男命いはつつのをのみこと」については、『古事記』とおなじく「剣の先から滴る血がほとばしって神と成った。」と伝えてます。

なお、〔一書6〕では、その後に続く別伝(一説には、の部分)として、磐筒男命と磐筒女命の男女二神が現れているのも特徴です。

そして、この〔一書6〕の別伝箇所を承けて、続く〔一書7〕では、磐筒男命と磐筒女命の男女二神の子として「経津主神ふつぬしのかみ」を伝えてます。

別の言い伝えではこう伝えている。軻遇突智を斬った時に、その血がほとばしり、天八十河中あまのやそのかはらにあった五百箇磐石いほついはむらを染めた。それによって神が化成した。名付けて磐裂神いはさくのかみと言う。次に根裂神ねさくのかみ次に磐筒男神いはつつのをのかみ、次に磐筒女神いはつつのめのかみ、この児、経津主神ふつぬしのかみ

又曰。斬軻遇突智時。其血激越、染於天八十河中所在五百箇磐石。而因化成神。号曰磐裂神。次根裂神。児磐筒男神。次磐筒女神。児経津主神。 (引用:『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 〔一書7〕より)

さらにさらに、後段の第九段〔本伝〕では、「経津主神ふつぬしのかみ」の系譜を伝えてます。

この後、高皇産霊たかみむすひ尊はさらに神々を招集して、葦原中國に遣わすべき者を選定した。皆は、「磐裂いはさく根裂ねさく神の子の磐筒男いはつつのを磐筒女いはつつのめが生んだ子、經津主ふつぬし神がよいでしょう。」と言った。 (引用:『日本書紀』巻第二(神代下)第九段〔本伝〕より)

ということで、

以上、3か所をまとめると、、

ということになります。

押さえておきたいのは、こうした「経津主神ふつぬしのかみ」の系譜を伝えている狙いであり、それは大きく2つあります。

  1. 日本神話史上初の「神殺しへの報復」という激烈さを強調し、強烈な神の誕生を印象付けること。
  2. ここで生まれた神は、後段での再登場へ向けた布石、学術用語でいう「わたり」として位置づけられる。

詳しくはコチラで、

第五段〔一書7、8〕

まず、

激しい悲痛やら恨みやら復讐やらの中から生まれる神は、その強烈さ劇的さ故に、超強力な神威を持ちます。スーパーゴッド誕生。

で、軻遇突智斬段のシーンとは、

  • 神が神を殺す。神を殺した神を、神が殺す(報復・復讐)
  • 子が親を殺す。親を殺した子を、親が殺す(報復・復讐)

と、重層的構造をもとにした骨肉相食む壮絶神イベント。コレは『古事記』も同様。

経津主神は、元を辿ればそういう強烈なシーンで誕生した神を祖として持つ。故に、非常に神威の強い神である。コレが言いたい訳です。

で、

なんでそんなに強くしようとしてるかっていうと、、

第九段の国譲り神話に繋げようとしてるから。

国譲りでは、「経津主神」と「武甕槌神」の二神が大己貴神に国譲りを迫ります。葦原中国を自ら平定した「大己貴神」にその国を譲れと言う訳ですから、並の神では太刀打ちできる訳が無い。

大己貴神と同等、もしくはそれ以上の神威を持つ神としてのバックグラウンドを設定するために、このシーンが選ばれてる訳です。

『古事記』では「建御雷之男神たけみかづちのをのかみ」へつなげているのに対して、『日本書紀』では「経津主神」と「武甕槌神」の二神につなげてる訳ですね。いずれにしても、大国主(大己貴神)という強大な交渉相手に対して太刀打ちするためには強力な神威が必要で、そのためにこの火神斬断シーンが選ばれていることはしっかりチェック。

 

石筒之男神始祖とする氏族

なし

 

参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。

 

石筒之男神が登場する日本神話の詳しい解説はコチラ!

 

石筒之男神をお祭りする神社はコチラ!

● 石拆神社:持統天皇代創建!この地を開いたとき石拆神、根拆神、石筒男神、天御中主神、天満尊神を奉斎して祀る

住所:今治市玉川町鈍川字サルガヲ甲151

 

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参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他
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