『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第2~10 多彩に展開する国生み

 

多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!

正史『日本書紀』をもとに、
最新の学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。

今回は、『日本書紀』巻第一(神代上)第四段の一書の第2~10。

第四段は、新時代到来の巻。

伊弉諾尊・伊弉冉尊の二神による州国生みを伝える本伝。是に併載されてる異伝は全部で10

いずれも本伝をもとに差違化、多彩な神話世界を構成しています。

今回はその中から、一書第2~10をざざざっとご紹介。

概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。

現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄が、魂がここにあります。それでは行ってみましょう!

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第2~10 多彩に展開する国生み

『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 一書第1の概要

前回、『日本書紀』巻第一(神代上)第四段の一書第1

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第1 天神ミッションと無知な二神

06/01/2019

からの続き。

下図、赤枠部分。本伝の下、一書第1~10。

『日本書紀』巻第一(神代紀)第四段一書2~10

改めて、
第四段は、新時代到来の巻。

第三段までの、道の働きによる神の誕生から
第四段からは、男女の性の営みによる国や神の誕生へ。

その営みは、国生み(第四段)→神生み(第五段)という展開を導きます。

これは、

国の土台づくり→国を統治する主者を生む という展開でもあります。

そんな第四段、
本伝に併載されてる異伝は、なんと全部で10

神代のなかでも2番目に多い異伝のみなさん。とにかく多彩。一歩間違うと訳分からん世界。

でもご安心を。当サイトならではのガイドがあれば大丈夫!

コチラ!

本伝全体の流れ踏襲
天神に動かされる2神→『古事記』と同じ
書1
磤馭慮嶋の形成 書2,3,4
唱和 書5
結婚、懐妊後の洲生み 書6,7,8,9
陰神の先唱と積極性 書10

10の異伝も、整理すれば5つのタイプに分類可能。

今回は、ここから、一書第2~10を一気にお届けする強気な企画

8つの異伝、全て断片伝承。本伝や一書1をもとに差違化。変化&展開。

なので、第四段 本伝一書1を理解してる必要あり。

一書1とは違い、物語的に断片ばかりですが、固まりごとに読み進めていきましょう。

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書2~10のポイント

改めて、第四段一書2~10は、
本伝ならびに一書1のチェックを先にすませておいてください。

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 本伝 ~聖婚、洲国生み~

05/26/2019

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第1 天神ミッションと無知な二神

06/01/2019

で、

以下、ポイント2つ。

  1. 断片伝承の寄せ集め!?そうは言っても本伝の流れをもとに並んでます
  2. 一書第10はめっちゃユニーク!原理を違えて成立する世界がある!

以下詳細。

①断片伝承の寄せ集め!?そうは言っても本伝の流れをもとに並んでます

第四段一書2~10。各伝承の内容は断片的で、それだけ取り出してもよー分からん状態。

寄せ集めですか!?

と、思いきや、実は「協議→結婚→出産」という本伝の流れをもとに並んでます

こんな感じ。

協議 書2,3,4
結婚 書5
出産 書6,7,8,9

断片的伝承の寄せ集めに見えて、実は本伝の流れ通り。全部で8つの異伝も3つの固まりに。うん分かりやすい。

あれ?第10は?それは次で解説。

 

②一書第10はめっちゃユニーク!原理を違えて成立する世界がある!

今回ご紹介する一書群のなかで、

一書第10は特別。

これ、

振り切ってる感じがスゴくて。

一書1をもとに差違化されてるんですが、伊弉冉尊の積極性が際立ってます

本来であれば、原理原則からすると
伊弉諾尊、つまり陽神主導であるべきなんですが、

この一書第10は最初から最後まで伊弉冉尊、つまり陰神主導。

これまでのように「やり直し」といった軌道修正がないので、
これはこれで、原理を違えても成立しちゃう世界があるってことに。

この意味は神話展開上めちゃめちゃデカくて。。。続く第五段、天照大神による高天原統治の理由付けにもつながっていきます。詳細後ほど。

まとめます

  1. 断片伝承の寄せ集め!?そうは言っても本伝の流れ(協議→結婚→出産)をもとに並んでます
  2. 一書第10は非常にユニーク!原理を違えて成立する世界がある!

以上、2点を踏まえて以下、一書をチェックです。

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書2~10 現代語訳

<一書 第二>

ある書はこう伝えている。伊弉諾尊と伊弉冉尊の二柱の神は天霧の中に立って、「私は国を得ようと思う。」と言い、天瓊矛あまのぬほこを指し下ろして探り、磤馭慮嶋おのごろしまを得た。そこで矛を抜き上げると、喜んで「良かった。国がある。」と言った。

一書曰、伊弉諾尊・伊弉冉尊二神、立于天霧之中曰、吾欲得国。乃以天瓊矛指垂而探之、得磤馭慮嶋。則抜矛、而喜之曰、善乎、国之在矣。

 

<一書 第三>

ある書はこう伝えている。伊弉諾と伊弉冉の二柱の神は高天原たかまのはらいまして、「国があるはずだ」と言った。そこで天瓊矛でかきまわして磤馭慮嶋を成した。

一書曰、伊弉諾・伊弉冉尊二神、坐于高天原曰、当有国耶。乃以天瓊矛画成磤馭慮嶋。

 

<一書 第四>

ある書はこう伝えている。伊弉諾と伊弉冉の二柱の神は互いに言った。「物がある。浮かんでいる油のようだ。その中に国があると思う」。そこで、天瓊矛あまのぬほこで探って一つの嶋を成した。名付けて「磤馭慮嶋おのごろしま」という。

一書曰、伊弉諾・伊弉冉尊二神、相謂曰、有物、若浮膏。其中蓋有国乎。乃以天瓊矛探成一嶋。名曰磤馭慮嶋。

 

<一書 第五>

 ある書はこう伝えている。陰神が先に唱えて、「ああ、なんとすばらしい、いい少男をとこではないか。」と言った。その際、陰神が先に言葉を発したので、不吉とした。もう一度改めて国柱くにのみはしらを巡ると、陽神をかみが先に唱え、「ああ、なんとすばらしい、いい少女をとめではないか。」と言った。そしてついに交合しようとしたが、その方法を知らなかった。その時、鶺鴒にはくなぶりが飛んで来て、そのあたまと尾を揺り動かした。二柱の神はそれを見て学び、すぐに交合の方法を得た。

一書曰。陰神先唱曰。美哉。善少男。時以陰神先言故、為不祥。更復改巡。則陽神先唱曰。美哉。善少女。遂将合交、而不知其術。時有鶺鴒飛来揺其首尾。二神見而学之。即得交道。

 

<一書 第六>

 ある書はこう伝えている。二柱の神は交合して夫婦となった。まず淡路洲あはぢのしま淡洲あはのしまえなとして、大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしまを生んだ。次に伊予洲いよのしま、次に筑紫洲つくしのしま、そして億歧洲おきのしま佐渡洲さどのしまとを双児で生んだ。次に越洲こしのしま、次に大洲おほしま、そして子洲こしま

一書曰、二神合爲夫婦、先以淡路洲・淡洲爲胞、生大日本豐秋津洲。次伊豫洲。次筑紫洲。次雙生億岐洲與佐度洲。次越洲。次大洲。次子洲。

 

<一書 第七>

 ある書はこう伝えている。まず淡路洲を生んだ。次に大日本豊秋津洲、次に伊予二名洲いよのふたなのしま、次に佐渡洲、次に筑紫洲、次に壱岐洲いきのしま、次に対馬洲つしま

一書曰、先生淡路洲。次大日本豐秋津洲。次伊豫二名洲。次億岐洲。次佐度洲。次筑紫洲。次壹岐洲。次對馬洲。

 

<一書 第八>

 ある書はこう伝えている。磤馭慮嶋を胞(えな)として、淡路洲を生んだ。次に大日本豊秋津洲。次に伊予二名洲。次に筑紫洲。次に吉備子洲きびのこしま。次に億歧洲と佐渡洲を双児で生んだ。次に越洲。

一書曰、以磤馭慮嶋爲胞、生淡路洲。次大日本豐秋津洲。次伊豫二名洲。次筑紫洲。次吉備子洲。次雙生億岐洲与佐度洲。次越洲。

 

<一書 第九>

 ある書はこう伝えている。淡路洲を胞として、大日本豊秋津洲を生んだ。次に淡洲。次に伊予二名洲。次に億歧三子洲おきのみつごのしま。次に佐渡洲。次に筑紫洲。次に吉備子洲。次に大洲。

一書曰、以淡路洲爲胞、生大日本豐秋津洲。次淡洲。次伊豫二名洲。次億岐三子洲。次佐度洲。次筑紫洲。次吉備子洲。次大洲。

 

<一書 第十>

 ある書はこう伝えている。陰神が先に唱えて、「ああ、なんとすばらしい、いい少男をとこではないか。」と言った。そこで陽神の手を握り、遂に夫婦となって、淡路洲を生んだ。次に蛭児。

一書曰、陰神先唱曰、妍哉、可愛少男乎。便握陽神之手、遂為夫婦、生淡路洲。次蛭児。

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書2~10 解説

全部で8つの異伝、いかがでしたでしょうか?

一応、第四段 本伝の流れに沿って並んでましたよね。

以下、3つの固まりごとに解説していきます。

協議 の部 解説 全3

 ある書はこう伝えている。伊弉諾尊と伊弉冉尊の二柱の神は天霧あまぎりの中に立って、「私は国を得ようと思う。」と言い、天瓊矛あまのぬほこを指し下ろして探り、磤馭慮嶋おのごろしまを得た。そこで矛を抜き上げると、喜んで「良かった。国がある。」と言った。 <一書 第二>

 ある書はこう伝えている。伊弉諾と伊弉冉の二柱の神は高天原たかまのはらいまして、「国があるはずだ」と言った。そこで天瓊矛あまのぬほこでかきまわして磤馭慮嶋おのごろしまを成した。 <一書 第三>

 ある書はこう伝えている。伊弉諾と伊弉冉の二柱ふたはしらの神は互いに言った。「物がある。浮かんでいる油のようだ。その中に国があると思う」。そこで、天瓊矛あまのぬほこで探って一つの嶋を成した。名付けて「磤馭慮嶋おのごろしま」という。 <一書 第四>

どの一書も、

  • 国の取得ないし存在を想定した上で、
  • 天瓊矛あまのぬほこで探ることにより、
  • 磤馭慮島おのごろしまを得たり、成したりする。

という3点パーツによる構成。おおまかな共通性あり。

一方で、

〔本伝〕に基づきながらも、
本伝にある、「滄溟そうめい」は登場しません。なので「其矛鋒滴瀝之潮」も無し。

とにかく
重視したいのは

「国」の取得または存在の想定

第四段 本伝一書1で解説したとおり、
新しい時代が到来しているわけです。

これから国家、つまり
主権有り、人民有り、領土ありの三要件が整ったきちんとした国づくりが始まるわけです。

「国があるはずだ」といった諾冉きみ二神の言葉には
そうした予祝的な、かつ予定調和的な意味が込められているんですね。

コレ激しくチェック。

なので、「滄溟」は不要。重視したいのは「国」があるよということ。

そのために、、、

一書第2は、

天霧の中に立つ→幻想的かつ神秘的な雰囲気

矛を指し下ろした時には嶋ができてる。これを「国」として位置づけ。「良かった。国がある」と仰る。神秘的な雰囲気の中で、既に国は存在していると。予祝。

一書第3は、

高天原が登場。国を尊貴化。二神は、至高な場である「高天原」にいて、そこから言葉を発する。

「国があるはずだ」(原文 当有国耶)は、「まさに国あるか」→あるはずだよ、間違いないよ、といった感じ。

で、実際、将来の国(の一部)となるべき嶋を形成。高天原関与。これも重要。

そして一書第4は、

天地開闢てんちかいびゃくのときの最も尊い神、「国常立尊くにのとこたちのみこと」の化生に関連した表現を組み合わせて成立させてる。

具体的には、

第一段の一書のうち、冒頭が「天地初判」に始まる系統で、

  • 〔書一〕の「一物在於虚中。状貌難言。其中自有化生之神。」
  • 〔書六〕の「又有物、若浮膏、生於空中。」

二つの組み合わせ。いずれも「国常立尊」の化生に関連した所伝であります。

「一番最初に誕生した純男神じゅんだんしん」というめっちゃ尊い神。その誕生方法と同じ設定を、嶋の形成に使用。これにより国の尊貴化を図ってる。

ということで、

3つの一書群。まとめると

テーマは
「将来、国となっていくための予祝的な、かつ予定調和的メッセージ」&「国の尊貴化」

そのために

  • 神秘的な雰囲気の中で、既に国は存在している(確定である)と。予祝。(一書2)
  • 高天原関与。高天原から国(の一部)を作ろうとする、実際できる。予祝&尊貴化。(一書3)
  • 天地開闢の神化生かせいに関連した表現を組み合わせ。尊貴化。(一書4)

と、

まー、良くできてるわ。テーマをもとに、差違化によってさまざまな伝承を生み出すの巻。

次!

結婚 の部 解説

 ある書はこう伝えている。陰神が先に唱えて、「ああ、なんとすばらしい、いい少男をとこではないか。」と言った。その際、陰神が先に言葉を発したので、不吉とした。もう一度改めて国柱くにのみはしらを巡ると、陽神をかみが先に唱え、「ああ、なんとすばらしい、いい少女をとめではないか。」と言った。そしてついに交合しようとしたが、その方法を知らなかった。その時、鶺鴒にはくなぶりが飛んで来て、そのあたまと尾を揺り動かした。二柱の神はそれを見て学び、すぐに交合の方法を得た。 <一書 第五>

ちなみに、書5と書10は同じ冒頭表現。でも、違う展開。

何が違うのか?をもとにチェック。

前半、先唱後和。

陰神先唱による間違い。でも、「不祥」としてやり直ししてます。つまり、本伝の流れを承けてるってこと。

なんだけど、、本伝は陽神の判断でしたが、ここでは、誰が、に相当する部分が抜け落ちてます。読み直してみてください。不吉としたのは誰なんでしょう?

地の文で伝えることにより、普遍的、一般的な性質をもつ評価に転換させてるんですね。これも差違化の一つ。オモロー!

で、

再びの先唱後和で正しい順番で実行。

ところが、、、

交合の仕方が分からない!!!せっかく盛り上がってきたのに残念すぎる!∑(゚Д゚;) 

で、

(本文:鶺鴒にはくなぶり)が登場。「鶺鴒にはくなぶり」はセキレイのこと。鳥の動きを見て学んだと。

まず、枠組みとして2つ。

  • なぜ鳥なのか?
  • なぜセキレイなのか?

以下。

鳥については、日本神話の中でも随所に登場。詳細は別エントリで。

本件について、簡単に言うと

鳥=天の使い、天のメッセージを伝える役目 ってこと。

神武東征神話では「八咫烏やたがらす」や「金鵄きんし」として登場。

八咫烏やたがらすは天照大神の使いとして。道案内を担当。

(参考:頭八咫烏の導きと熊野越え|山で迷って進退窮まる!?天照による2度目の救援は「天孫降臨」の再現だった件|分かる!神武東征神話No.9

金鵄きんしは天からの瑞祥ずいしょうとして登場。勝利の吉祥メッセージ。

(参考:金鵄飛来=祥瑞応見|「瑞(みつ)」は王の聖徳に天が応えて示す「しるし」。古代にはそれなりのもんげー制度があった件|分かる!神武東征神話 No.18

いずれも、

天の使いとして、天のメッセージを伝える役目として位置づけられてるんす。

二神の交合こうごう方法不明の問題は、

どうやって子を生むべきか?という問題のみならず

どうやって国の土台たる洲を生むべきか?

もっというと、どうやって国づくりを始めるべきか?という問題にもなってきて、、、

そうなると
天が関与せざるを得ない、いや、天の意思的には重大事項になるわけです。だって、天は国をつくりたいからね。

なので

天としては阻害そがい要因を除去しないといけない。つまり交合方法教えないといけないわけで、

なので鳥を通じてメッセージを伝達したってことなんす。

で、

次の、なんでセキレイなの?という話。

これは簡単で、

この鳥は、水辺のあたりで尾を上下にゆり動かす習性をもつから。
要は、交合の動きに似た行動特性を持ってるから、ってことですね。

鶺鴒にはくなぶり」は、「ニハ(庭)」「クナ(尻)」「ブリ(振)」の意味、という説も。

ということで、

まず、鳥が選ばれ、その上で交合と似た動きを持つセキレイが選ばれたという次第。

次!

出産 の部 解説

 ある書はこう伝えている。二柱の神は交合して夫婦となった。まず淡路洲あはぢのしま淡洲あはのしまえなとして、大日本豊秋津洲おほやまととよあきづしまを生んだ。次に伊予洲いよのしま、次に筑紫洲つくしのしま、そして億歧洲おきのしま佐渡洲さどのしまとを双児で生んだ。次に越洲こしのしま、次に大洲おほしま、そして子洲こしま。 <一書 第六>

 ある書はこう伝えている。まず淡路洲を生んだ。次に大日本豊秋津洲、次に伊予二名洲いよのふたなのしま、次に佐渡洲、次に筑紫洲、次に壱岐洲いきのしま、次に対馬洲つしま。 <一書 第七>

 ある書はこう伝えている。磤馭慮嶋を胞(えな)として、淡路洲を生んだ。次に大日本豊秋津洲。次に伊予二名洲。次に筑紫洲。次に吉備子洲きびのこしま。次に億歧洲と佐渡洲を双児で生んだ。次に越洲。 <一書 第八>

 ある書はこう伝えている。淡路洲を胞として、大日本豊秋津洲を生んだ。次に淡洲。次に伊予二名洲。次に億歧三子洲おきのみつごのしま。次に佐渡洲。次に筑紫洲。次に吉備子洲。次に大洲。 <一書 第九>

一書第6~9は、大八洲国おほやしまぐにのバリエーション版。

第6の冒頭「二柱の神は交合して夫婦となった。」を踏まえ、
第7以降どの一書も前提として書き出してます。本伝にもとづく伝承。差違化。

ポイントは、えなの使用。

第四段 本伝での解説でも触れましたが、
神の出産は、人間モデルと違い、えな、つまり膜はできない仕様のようで。

母体の外にある何かを「えな(膜)」として使用するモデルのようです。

ここでは、

  • 淡路洲、淡洲
  • 磤馭慮嶋

が、「えな(膜)」として使用され出産。それぞれが、何でそれなのか?はあまり意味が無く、差違化の結果として理解しましょう。

一覧として以下。

 

ユニークな一書第10

 ある書はこう伝えている。陰神が先に唱えて、「ああ、なんとすばらしい、いい少男をとこではないか。」と言った。そこで陽神の手を握り、遂に夫婦となって、淡路洲を生んだ。次に蛭児。 <一書 第十>

この一書10はめっちゃユニーク。

一言で言うと、

原理を違えても成立する世界がある!

マジで!!??

あるんです。

それが、一書第10。

なんと、陰神が積極的に活動、最初から最後まで陰神主導で展開。こんなのあり得ない-!

本文に伊弉諾尊の存在感ゼロ。

  • 陰神が先唱
  • しかも、陽神の手を握る!

なんて、、、積極的すぎでしょ!

最初から最後まで陰神主導の世界観に振り切ってるので、(原理的にはおかしいけど)これはこれで成立していると考えられるのです。

つまり、

  • 原理原則からすると、陽神をかみ主導であり、陽が先になるべきなんですが、
  • この段があることで、陰神めかみ主導で、陰が先になってもいい世界があり得る
  • つまり、原理を違えても成立する世界がある、ということになる。

この意味はめちゃくちゃ大きくて。

続く第五段で日神(天照大神)誕生と高天原統治につながって行くんです。

どういうことか?

原理からすると、陰が統治者となることはあり得ない訳です。

ですが、実際には陰神である天照大神が高天原の統治者となる。

普通に考えるとおかしいじゃねえかと。

でも、

ココ、第四段一書10において、原理を違えた「あり得ない世界が成立する」って伝える事で、あり得なくない話に。いや、あり得る話に。

もっというと、

陰神が統治者になることで、陽神に当たる素戔嗚尊が反抗し、これが狂言回しの役割として機能し、物語が大きく、しかもオモシロく展開していくようになる。

逆算で考えると、、、

  1. 物語の大きな展開、オモシロい展開がまずあって、
  2. その中心人物が素戔嗚尊。
  3. この神を「狂言回し」として立ち回らせるために
  4. 陰神の統治者という「原理から外れた存在」を設定。
  5. 本伝でいきなりやってしまうとおかしなことになるので、
  6. 直前の一書、めっちゃ便利な場所で布石を打つ。原理から外れた展開も存在しうることを盛り込んでおく。

それがココ、第四段一書10での役割ということです。

大きな装置、仕掛けがあって、

そのために、神話的な合理性を確保しつつ、
狙いを定めて入れるべき内容を入れるべき場所に入れていく。

緻密に計算された、
その積み上げとしての「壮大な神話世界の展開」へと繋げてるんですね。

ほんとスゴイよ日本神話。創意工夫の度合いがハンパない。

私たちが学ぶべきはこの智恵なんだと改めて思います。

 

まとめ

『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第2~10

第四段は新時代到来の巻。

第三段までの、道の働きによる神の誕生から
第四段からは、男女の性の営みによる国や神の誕生へ

で、

その営みの実態は、

国生み(第四段)→神生み(第五段)という流れで展開。

国の土台づくり→国を統治する主者誕生 という展開でもある。

本伝に併載されてる異伝は、なんと全部で10!

神代のなかでも2番目に多い異伝の数ですが、整理すれば5つのタイプに分類可能。

その中で、一書2~10は、本伝の流れ「協議→結婚→出産」をもとに差違化した物語。すべて断片伝承。

そのなかで、特に重要なのは一書第10。

原理を違えても成立する世界があるを提示することで、
続く第五段以降の展開に合理性や納得性を付与する役目を果たしています。

日本神話の物語を構成する大きな装置、仕掛けがあって、
そのために神話的な合理性を確保しつつ、
狙いを定めて入れるべき内容を入れるべき場所に入れていく。

緻密に計算された、
その積み上げとしての壮大な神話世界の展開へと繋げていること。

その創意工夫のスゴさ、智恵をチェックされてください。

次は、いよいよ第五段、天下の主者誕生です!

 

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本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)


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