多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
正史『日本書紀』をもとに、最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。
今回は、『日本書紀』巻第一(神代上)第四段の一書の第1。
第四段は新時代到来の巻。
伊奘諾尊・伊奘冉尊の二神による州国生みを伝える本伝。
これに併載されてる異伝は全部で10!
いずれも本伝をもとに差違化、多彩な神話世界を構成しています。
今回はその中から、一書第1をご紹介。
概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第1 天神ミッションと無知な二神
目次
『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第1の概要
前回、『日本書紀』巻第一(神代上)第四段の本伝、
からの続き。
下図、赤枠部分。本伝の下、一書第1。
第四段は、新時代到来の巻。
何が新しいって、
男女の営み
ってところ。
第三段までの、道の働きによる神の生成から
第四段からは、男女の営みによる洲(国)や神の誕生へ
男女の性の営みだからこそ、そこには儀礼的行為と結果責任が伴うわけで、これは続く第五段で主者生みへとつながって行きます。
第四段は州国というステージを用意、第五段はステージの主たる主者を用意していく。これら全て新時代ならではの展開であります。
そんな第四段、本伝に併載されてる異伝は全部で10!
神代紀のなかでも2番目に多い異伝のみなさん。とにかく多彩。一歩間違うと訳分からん迷宮ワールド。
でもご安心を。当サイトならではのガイドがあれば迷うことはございません!
こんなん。
1 | 本伝全体の流れ踏襲 天神に動かされる2神→『古事記』と同じ |
書1 |
2 | 磤馭慮嶋の形成 | 書2,3,4 |
3 | 唱和 | 書5 |
4 | 結婚、懐妊後の洲生み | 書6,7,8,9 |
5 | 陰神の先唱と積極性 | 書10 |
10の異伝も、整理すれば5つのタイプに分かれます。かつ、本伝の展開をなぞるように配列。
重点チェックすべきなのは、書1くらい。あと書10。他の異伝は、本伝をもとにした差違化の結果なので、ざっとみておいて大丈夫!
そんな中で、
今回は、一番重点チェックの一書1。
本伝の伊奘諾尊、伊奘冉尊の姿とは全然違う二神の姿あり。しかも初登場「天神」。しかもしかも、蛭児などおかしな結果を生んでしまった原因をみんな分かってない珍事態発生。さらにさらにさらに、一書1は実は『古事記』の伝承と同じ内容。こ、これは一体、、、
ポイントは、第四段本伝をしっかりチェックしておくこと。一書1は、本伝の流れに対応する形で物語が展開、なので本伝を理解しておけばスムースに読み解けます。
今回も非常にユニークな、それでいてめっちゃ重要なテーマが目白押しです!
『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書1のポイント
第四段一書1は、本伝のチェックが先。
くどいようですが、本伝の流れを押さえてないと読み解けません。是非。
で、
以下、ポイント4つ。
①いきなり登場「天神」!二神に下された天神ミッション「脩」の行方を追え!
第四段一書1の冒頭、
いきなりの初登場「天神」でござる。
コレ、詳細不明ながら、かなり尊い神様たち。神様群。そう、個体ではなく群体な感じ。複数存在。多分、高天原にいるっぽい。
一応、第三段までの展開を引き継いでるという暗黙の了解があって。
この前提に立つので、純男神か、または伊奘諾伊奘冉を除く神世七代の神全てか、どちらかを指します。が、どっちかという決め手が無い、、、
いずれにしても天神は、第五段以降、天照大神に引き継がれていく形になるんですが、要は、それくらい(天照と同じくらい)尊い神様たちだというイメージをもっていただきたい!まずはそこからだ。
で、
そんな詳細不明のかなり尊い神様「天神」が、
今回、
伊奘諾尊、伊奘冉尊の二神に使命を与えます。通称「天神ミッション」
その内容は、
豊葦原千五百秋瑞穂之地がある。行って脩めよ! 豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之
というもの。
「脩」とは、「治める、統治する」という訳語が当てられるのですが、語源は「準備する」という意味。非常に重要な言葉なので詳細は別エントリでたっぷり。
要は、二神に地上に行って、その地に相応しい国の実現に向けた作業に取りかかれ、というミッションを与えるのです。by天神。
この天神ミッション「脩」が一書1の一番のポイント。その行方をチェックしていきましょう。
②天神ミッション、、、とりあえずコンプリート!?無知な二神による若干残念なプロセス。大丈夫か伊奘諾・伊奘冉尊??
天神から与えられたミッション「脩」は、
「豊葦原千五百秋瑞穂之地へ行き(国をつくる)準備をすること」、もっと言うと「国の実現に向けた作業に取り掛かること」でした。
意気揚々と?降下した二神ですが、、、
いろいろやらかします。間違いばっかり。。。。
第四段本伝では、
二神の性別が明確に分かれていて、陽神と陰神の違いが際立っておりました。
陽神である伊奘諾尊は、理をわきまえており、陰神の間違いに対しやり直しを指示。物語は陽神主導で展開してました。一方の、陰神である伊奘冉尊は間違い、過ちを犯す神として描かれてましたね。
ところが!
第四段一書1では
二神は常にセット。ことさら性別を強調する感じ無し。陽神主導な雰囲気も無し。
一言でいうと、
無知な二神
無知ゆえに、間違いばかり、天神に言われるがまま行動、、、大丈夫か?どうしたみんな!??
ということで、2つ目のポイント、二神の描かれ方に注目しましょう。
③本伝を差違化!本伝とは違う形で「大八州国」を尊貴な州国としている!
最終的に、大八州国は誕生。
天神ミッションは、、、二神なりに一応のコンプリート。あくまで「準備」なので。
第四段は国の土台をつくる、そして続く第五段では統治者を生む流れ。
で、
本伝と同様に、大八州国を尊貴な国として位置付けたい動機あり。これは不変。
一書1では、その根拠を「天神」に集約させているのです。
天神という(詳細不明ながら)めっちゃ尊い神様の指令により、その大いなる関与を経て誕生した大八州国、うわーめっちゃ尊貴やん!まぶすぃー!
と。
第四段の最終ゴールは、本伝、一書ともに、誕生する大八州国の尊貴化。
ここでは、別のアプローチ、天神指令&関与という「差違化」によって表現されてるってことですね。
④天神ミッションは、天孫降臨へむけた「わたり」
天神の与えたミッションは、続く第五段へつながっていくのみならず、
第九段の天孫降臨へ向けた前振りであり、その時に天照大神が下す「神勅」を支える根拠になっとります。
ココ、第四段一書1で、天神が下した命と
第九段で天照大神が下す神勅が構造的に同じなんですよね。
同じ構造を使用することで、第四段と第九段を重ねあわせて読むことができる。そこに重層的なメッセージを込めている。緻密に計算された神話世界であります。
参考「日本書紀の一書とは?『日本書紀』本伝と一書の読み解き方法を徹底解説!」
詳細は後ほど。でも、つながりをつけてあるってこと、大きな仕掛けの一部なんだってことをチェックです。
まとめます。
- いきなり登場「天神」!二神に下された天神ミッション「脩」の行方を追え!
- 天神ミッション、、、とりあえずコンプリート!?無知な二神による若干残念なプロセス。大丈夫か伊奘諾・伊奘冉尊??
- 本伝の差違化、本伝とは違う形で「大八州国」を尊貴な州国としている!
- 天神ミッションは、天孫降臨へむけた「わたり」
以上、4点を踏まえて、本文をチェックです。
『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書1 本文、現代語訳
ある書はこう伝えている。天神が伊奘諾尊・伊奘冉尊に、「豊かな葦原の永久にたくさんの稲穂の実る地がある。お前達はそこへ行き国の実現に向けた作業をしなさい。」と言って、天瓊戈を下された。そこで二柱の神は、天上の浮橋に立ち、戈を投げて地を求めた。それで青海原をかき回し引き上げると、戈の先から滴り落ちた潮が固まって島となった。これを磤馭慮嶋と名付けた。
二柱の神はその島に降り居て、八尋之殿を化し作った。そして天柱を化し立てた。そして陽神が陰神に、「お前の身体は、どんな形を成しているところがあるのか。」と問うた。それに対して「私の身体に備わっていて、陰(女)の元と称するところが一カ所あります。」と答えた。そこで陽神は、「私の身体にも備わっていて、陽(男)の元と称するところが一カ所ある。私の身体の元を、お前の身体の元に合わせようと思う」と言った。
さっそく天柱を巡ろうとして約束し、「お前は左から巡れ。私は右から巡ろう。」と言った。さて、二柱の神が分かれて天柱を巡り、半周してあい会すると、陰神は先に唱えて「ああ、なんとすばらしい、いい少男(若者)ではないか。」と言った。陽神は後に和して、「ああ、なんとすばらしい、いい少女ではないか。」と言った。ついに夫婦となり、まず蛭児を産んだ。そこで葦船に載せて流した。次に淡洲を産んだ。これもまた子供の数には入れなかった。
こうしたことから、また天に詣り帰って、こと細かに天神に申し上げた。その時、天神は太占で占い、「女の言葉が先に揚がったからではないか。また帰るがよい。」と教えた。そして帰るべき日時を定め、二柱の神を降らせた。
かくて二柱の神は、改めてまた柱を巡った。陽神は左から、陰神は右から巡り、半周して二柱の神があい会した時に、今度は陽神が先に唱えて、「ああ、なんとすばらしい、いい少女ではないか。」と言った。陰神がその後に和して「ああ、なんとすばらしい、いい少男ではないか。」と言った。
このあと、同じ宮に共に住み、子を産んだ。その子を大日本豊秋津洲と名付けた。次に淡路洲。次に伊予二名洲。次に筑紫洲。次に億歧三子洲。次に佐渡洲。次に越洲。次に吉備子洲。これにより、この八洲を大八洲国と言う。
瑞、ここでは弥図と言う。妍哉、ここでは阿那而恵夜と言う。可愛、ここでは哀と言う。太占、ここでは布刀磨爾と言う。
一書曰。天神謂伊奘諾尊・伊奘冉尊曰、有豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之。廼賜天瓊戈。於是、二神立於天上浮橋、投戈求地。因画滄海而引挙之。即戈鋒垂落之潮、結而為嶋。名曰磤馭慮嶋。 二神降居彼嶋、化作八尋之殿。又化竪天柱。陽神問陰神曰、汝身有何成耶。対曰、吾身具成、而有称陰元者一処。陽神曰、吾身亦具成、而有称陽元者一処。思欲以吾身陽元、合汝身之陰元。云爾。 即将巡天柱、約束曰、妹自左巡。吾当右巡。既而分巡相遇。陰神乃先唱曰、妍哉、可愛少男歟。陽神後和之曰、妍哉、可愛少女歟。遂為夫婦、先生蛭児。便載葦船而流之。次生淡洲。此亦不以充児数。 故、還復上詣於天、具奏其状。時、天神以太占而卜合之。乃教曰、婦人之辞、其已先揚乎。宜更還去。乃卜定時日、而降之。 故、二神改復巡柱。陽神自左、陰神自右。既遇之時、陽神先唱曰、妍哉、可愛少女歟。陰神後和之曰、妍哉、可愛少男歟。 然後、同宮共住、而生児。号大日本豊秋津洲。次淡路洲。次伊予二名洲。次筑紫洲。次億岐三子洲。次佐度洲。次越洲。次吉備子洲。由此、謂之大八洲国矣。瑞、此云弥図。妍哉、此云阿那而恵夜。可愛、此云哀。太占、此云布刀磨爾。 (『日本書紀』巻第一(神代上)第四段〔一書1〕より)
『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書1 解説
第四段一書1は、本伝の流れに対応する形で展開。
本伝と比較しながら読むと、その違いがめっちゃ面白い。
で、
まとめてみた
第四段 本伝 | 第四段 一書1 |
- | 天神指令+矛下賜 |
天浮橋に立ち協議、矛を指し下ろし国を探る、滄溟を獲る | 天浮橋に立ち矛を投し、地を求める |
矛の鋒から滴瀝る潮が凝りて島を成す。磤馭慮島と名付ける | 矛の鋒から垂り落ちる潮が磤馭慮島に為る |
二神が降居、夫婦と為り洲国を産生もうとする | 二神が降居 |
磤馭慮島を国中柱とする | 八尋之殿を化作、天柱を化堅 |
- | 身体問答 |
左旋右旋 | 左旋右旋(間違い) |
先唱後和(間違い) | 先唱後和(間違い) |
陽神悦ばず、やり直し指示、陽神主導 | 夫婦となり蛭児、淡洲を生む 蛭児は葦船で流す、淡洲は児の数に入れず |
- | 天に上り詣で、天神に奏上 |
- | 天神、太占し教示、日時占い再降下指令 |
左旋右旋 | 左旋右旋 |
先唱後和 | 先唱後和 |
身体問答 | - |
交合し夫婦と為る | 宮を同じくして共に住む |
淡路洲を胞となすが快ばず | - |
大八州国を生む | 大八洲国を生む |
ポイント ・天神無し、二神の協議による国生み ・矛で探り獲たのは国 ・磤馭慮島を、国中柱とする ・間違い1回。先唱後和のみ ・陽神主導、男女性差強調 ・淡路洲は胞として使用するのみ |
ポイント ・天神の指令、関わりによる国生み ・矛で探し求めたのは地 ・磤馭慮島で、八尋之殿を化作、天柱を化堅 ・間違い2回。天神の教示により修正 ・二神無知、男女セット ・蛭児・淡洲を生むが流す・子への不算入 |
これ、分かりやすいんじゃない???
最終ゴールは大八洲国の尊貴化、神聖化。これは不変。
で、そのための結婚=儀礼=厳粛な手続き・ルールに則る、これも不変。
しかし、ココ一書1では、そこに天神指令&関与&教示を入れてきたってこと。
これにより、別の観点からも大八洲国の尊貴化、神聖化が図られるようになってる。なんせあの天神様指令ですから!
第四段一書1は、2つの構成で読み解くのが◎
過ちのビフォーアフター。
過ちとは、陽神主導の原則を逸脱すること。
その目印は、本文中の「云爾」。ここに断層あり。
- 「云爾」以前、二神は間違いは犯さない。至極全う。
- 「云爾」以後、間違いまくり、、、どうした?何があった??
過ちを犯す前、犯す後、そんな感じで整理して読み解きましょう。
前半 「云爾」以前
ある書はこう伝えている。天神が伊奘諾尊・伊奘冉尊に、「豊かな葦原の永久にたくさんの稲穂が実る地がある。お前達はそこへ行き国をつくる準備をしなさい。」と言って、天瓊戈を下された。そこで二柱の神は、天浮橋に立ち、戈を指し下ろして地を求めた。青海原をかき回し、引き上げると、戈の先から滴り落ちた潮が固まって島となった。これを磤馭慮嶋と名付けた。
①初登場、天神。天神による天神のための一書第1
第四段一書第1の冒頭、
いきなりの初登場、「天神」。
しかも、「天神が~」と、天神主語で始まる一書1。まさに天神のための一書と言ってもいいくらい。
本伝と一書の関係でも解説したとおり、一書は本伝の差違化スポット。
新しい概念、言葉を導入するのに、めっちゃ便利な場所なんす。
今回でいえば「天神」がソレ。
天神、、、天帝と同じような言葉の作り方。その実態は、詳細不明。しかし、かなり尊い神様たち。神様群。そう、個体ではなくオールウェイズ群体な感じ。多分、高天原にいるっぽい。
この天神の国に対する関与は、第五段以降、天照大神に引き継がれていく形になります。
その根拠、詳細は別エントリで詳しく。ここでは典型的な例を一つご紹介。原文で比較します。
第四段一書第1
「有豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之。」(第四段一書1)
豊葦原千五百秋瑞穂之地がある。往って国をつくるための準備をせよ
そして、
第九段一書1。天照大神が天稚彦に勅を下すシーン。以下。
「豊葦原中国、是吾児可王之地也。然慮、有残賊強暴横悪之神者。故 汝先往平之。」(第九段一書1)
豊葦原中国は吾が児が王となる地、でも悪い奴らがいっぱいいるから、往って平定せよ
もう少し簡略して並べます。
有豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之。
豊葦原中国、是吾児可王之地也。(中略)故 汝先往平之。
構造的に同じなんです。「豊葦原千五百秋瑞穂之地(葦原中国)+往○之」。しかも、前者を後者が引き継ぐ関係。
- 天神→二神に下すミッション(使命)=国の実体(国土)を実現する準備作業
- 天照→天稚彦に下すミッション(使命)=国の王(統治者)を実現する準備作業
つまり、
天神と天照大神は同じくらい尊貴
天神の役割を天照大神が引き継ぐ
そんな形で設定されているんですね。
天神さん。この
至高なる存在
のイメージをしっかりチェックです。この至高さが全てのはじまり。この前提から一書1は構築されてます。超重要。
②豊葦原千五百秋瑞穂之地=予祝メッセージてんこ盛り&天神ギャランティー
ポイント2つ。
- 予祝てんこ盛り
- 天神ギャランティー
まず
予祝てんこ盛りについて。
初登場。豊葦原千五百秋瑞穂之地。
日本の美称。
葦原には稲が生育。豊かな葦原=豊かな稲。「千五百」とは稲の収穫がめちゃめちゃたくさん、そんな秋。ウットリ(*´ェ`*)ポッww
秋=1年の収穫の時でもあるので、千五百とかけてめちゃめっちゃ長い間、年という意味も含みます。「瑞穂」はみずみずしい稲穂。
まとめると、豊かな葦の茂る原でめっちゃ大量に永遠に稲穂が収穫できるみずみずしくすばらしい地、の意味。
まースゴイ。これでもかってくらい予祝感満載。てんこ盛りです。
2つめ。天神ギャランティー。
ポイントは、
やっぱり天神が発した言葉だということ。
あの天神が言ったんですよ。天神が、豊かな葦の茂る原でめっちゃ大量にずーっと稲穂が収穫できるみずみずしくてすばらしい地があるよと言ったんす。
コレ、天神ギャランティー。要は天神のお墨付きというやつです。保証付き。
その価値、その意味を全身で感じていただきたい!
私たちはなんて素晴らしい場所で生かさせていただいてるんでしょうか!
次!
③国をつくるための準備「脩」
「脩」は、「おさむ」と読み、「治める、統治する」という訳語が当てられるのですが、実はもっと奥深い重要な言葉。
詳細は別エントリで詳しくお伝えしますのでココでは簡単に。
「脩」は、もともとは祭祀演奏にあたって、鼓など楽器の手入れや練習、または本番に向けた整備の意(礼記(月令第六、仲夏之月を参照)。分かりやすく言うと「準備」のこと。
で、
これ、実は『日本書紀』第三段の神武紀にも登場します。
岡山の高嶋宮で三年間居留。ここで近畿侵攻の準備をするのですが、
ここで「脩舟、蓄兵食」という言葉で登場。
要は、
軍船を整備し食料を蓄えた、ってこと。いよいよ本番、大和での本格的な戦闘が始まるわけで、しっかり準備を行った、ということ。
参考:「東征順風・戦闘準備(日向~高嶋宮)|半年かけて岡山まで移動して3年じっくり準備した件|分かる!神武東征神話No.3」
これらのことから、
天神ミッションの本当の意味というのは、
豊葦原の地へ行って本格的な国を実現する作業に取り掛かれ、という事になります。コレ、文献学研究の現場。
よく見かける「治める」「統治する」という訳語にしてしまうと
結局二神は天神ミッションコンプリートならず、、、中途半端で終わりましたね残念ですね無知ですからね、になってしまうのですが、
本来の意味の「おさめる、整える」ということであれば、二神は二神なりにコンプリートしたということになるのです。これは、つづく天下の主者生みによって一応のケリをつけることになっていきます。
現状、たとえば、
『日本古典文学大系』ですら、注も付さずに「しらす」と訓んでいますが、たいていがこれに従ってます。『新編日本古典文学全集』に至っては、わざわざ頭注に「『修』に同じく、治める意。」と説いてやはり同じ訓み「しらす」になってたりの状況。。。トホホな感じだったりします。
話がズレました、、、
④ミッション+グッズ=重要指令発令時の、神話世界の掟
神話世界では、何らかの重要指令を下すときは「ミッション+グッズ」のセットがパターン。てか、掟。
例
- 天神ミッション(天神→諾冉二神)豊葦原脩+天瓊戈
- 伊奘諾尊ミッション(伊奘諾尊→天照大神)天下統治+御頸珠
- 天照大神ミッション(天照大神→瓊瓊杵尊)葦原中国統治+三種の神器
といった感じ。
ちなみに、天照ミッションによって下賜された「三種の神器」を引き継いでいるのが天皇という事。神話を引き継ぐ天皇陛下。神話が今と繋がってる例でもあります。奥ゆかしい日本ならでは。
とにかく、
ここでは、
重要指令が出されるときは
ミッション+グッズのセット
というのが神様世界の掟。
今に繋がる重要テーマを含むことも合わせてチェックです。
次!
二柱の神はその島に降り居て、八尋之殿を作った。そして天柱を立てた。そして陽神は陰神に、「お前の身体は、どんな形を成しているところがあるのか。」と問うた。それに対して「私の身体に備わっていて、陰(女)の元と称するところが一カ所あります。」と答えた。そこで陽神は、「私の身体にも備わっていて、陽(男)の元と称するところが一カ所ある。私の身体の元を、お前の身体の元に合わせようと思う」と、そう言ったのである。
⑤まさに神業!化作八尋之殿。又化竪天柱。
八尋之殿を作った。また天柱を立てた。と。
ポイントは
- 化作、化堅
- 八尋之殿をつくる目的
- 天柱をつくる目的
まず、
「化作、化堅」について。
「作」は御殿を作るので作。「堅」は柱を立てるので竪。縄文時代の竪穴式住居の「竪」です。うん社会の時間。
で、ここでは、「化(かす)」という言葉が重要。
「化(かす)」は既に登場していますよね。第一段本伝で、神の誕生が「化生」という方法。
天と地の間に「もの」ができて、この「もの」が化すことで神が生まれる。つまり変化して生まれる、化けるイメージ。最初は乾の道の単独変化なので純粋な男神が誕生。
さらに第三段では、総括の中で、「乾坤之道、相参而化。所以成此男女。」と、
つまり、乾坤の道がお互いに参じて化すことで男女になったんだよと。
これらは、道が化すことで生まれる、という自動詞用法のなかで使用されてました。
それに対して
今回は、「化作八尋之殿」なので、目的語をともなう他動詞用法。
これは、後段の第五段一書1に同じ箇所があります。
伊奘諾尊が三神(大日孁尊、月弓尊、素戔嗚尊)を生むのですが、それが「化出」。
以下、大日孁尊化出の部分だけ抽出します。
伊奘諾尊曰「(A)吾欲生御寓之珍子」 乃(B)以左手持白銅鏡、則(C)有化出之神。是謂大日孁尊。
(A)の明確な意欲をもとに、(B)の象徴的な所作により、(C)にその結果をいう形。
なので、「化作」「化竪」も、この「化出」と同じく
二神の意欲ないし念慮のようなものが八尋殿や天柱を出現させた、実体化させたということになります。
まさに神業。
これが可能なのも、
二神が、上述のとおり「乾坤之道、相参而化。所以成此男女。」という出自をもってるから。
「化す」という運動を、自己の存在の根源や本質に持っているからですね。
深い。。。
次!
なんで宮を建てた。。。?の巻
コレ、神様行動特性(神様コンピテンシー、略して神コン)の一つ。
題して、「新たに足を踏み入れた地に居住し、結婚し、出産する一連の展開~の巻」。
他の例としては、
- 素戔嗚尊の「建宮」(第八段本伝)
- 皇孫の「立宮殿」(第九段一書2)
新たに踏み入れた出雲の地で、素戔嗚尊の場合は、奇稲田姫と過ごす宮を、ラブを。
新たに踏み入れた葦原中国で、瓊瓊杵尊の場合は、鹿葦津姫を召した宮殿を、ラブを。
で、今回の
新たに踏み入れた地上で、二神が「同宮共住」しようと「化作」した「八尋之殿」。もちろんラブを。
いずれも
同じ構造を持っているわけです。新たに足を踏み入れた地ではまず宮をつくる。そして住む。コレ神様特有の行動特性。神コン。
いいじゃないですか、八尋之殿を現出させて共に住もうとしたわけですよ。新婚のラブホーム。盛り上がって参りました。
一方の「天柱」。これは宮殿の柱ではありません。あくまで「天柱」。天や天神とのつながりを確保する柱です。
実際、第五段〔本伝〕では、
これを「是時、天地相去未遠。故、以天柱挙於天上也。」と日神を天上に挙げる手段として使用しています。
これを考えると「天柱」を現出させたのは、
このあと、天神への報告シーンがあるので、自分たちが天上世界へ帰るための手段、経路を確保するためだった、ということになります。
そもそも天神指令から始まってますから。報告・連絡・相談は欠かせません。天上カムバックは予定されていたんすね。
⑥身体問答=男女の形状の違いを互いに言い合って確かめ合う
身体問答。これ、
性別による男女のありかたの違いを、
それぞれの形状をたがいに言表することによって、確めあうことをいいます。
言表とは、言い表すこと。言表し行為に及ぶ。第四段本伝解説でご紹介した神様行動特性(神コン)でしたね。
本伝とは違い、
この身体問答は左旋右旋の前に行ってます。本伝では左旋右旋の後でしたね。
この辺からです。二神が怪しくなってくるのは。御殿を作ってさー夫婦になるぞと、盛り上がって参りましたねと、ラブな雰囲気が高まるに従っておかしなことをやり始める感じ、、、
この最後、本文中の「云爾」。ここに断層があり。
「云爾」以後、間違いまくり、、、どうした?何があった??状態に突入します。
後半 「云爾」以後
さっそく天柱を巡ろうとして約束し、「お前は左から巡れ。私は右から巡ろう。」と言った。さて、二柱の神が分かれて天柱を巡り、半周してあい会すると、陰神は先に唱えて「ああ、なんとすばらしい、いい少男(若者)ではないか。」と言った。陽神はこれに和して、「ああ、なんとすばらしい、いい少女ではないか。」と言った。そして夫婦となり、まず蛭児を産んだ。そこで葦船に載せて流してしまった。次に淡洲を産んだ。これもまた子供の数には入れなかった。
⑦間違いまくり 左旋右旋が逆、先唱後和も逆。でも、それがイイ
いきなりですが、、、おい!伊奘諾!どうした!??「お前(陰神)は左から巡れ。私(陽神)は右から巡ろう。」だと? 何言ってるんだと。とんでもない間違いだと。
しかも、続く「先唱後和」も、陰神が先に声をあげ、陽神がそれに和する形になってます。ま、盛り上がるとすぐ声を出してしまう伊奘冉は仕方ないとしても、おい!伊奘諾!一緒になってうれしそうに和してどうする???
本来であれば、
- 陽神が左旋、陰神が右旋
- 陽神が先唱、陰神が後和
だし、
それらを陽神様が主導しないといけないんす。分かってたよね、本伝の伊奘諾さん。。。なのに一書になると別人、いや別神のよう、、、なんか悪いもん食べた?
としか思えない豹変ぷり。すべて逆。
第四段本伝でもお伝えしたとおり、
表側では華やかなウェディングイベントが進行しているのですが
裏側では神さえも従わなければならない絶対ルールが働いている訳です。そう、それ「尊卑先後の序」。
全ては相対的関係であり、尊に対して卑、天に対して地がある、次序(序列)がある、先後(順番)がある。鉄の掟。
これを破ると、相応の結果(代償)を受けることになるはずなのに、、、
ココでの二神は、過誤を犯しても(原理原則を違えても)、その自覚をまったくもってない、、、ほんと、何があった???
となるのですが、、、
でもね、
この間違いがあるからこそ、分かることがある。伝えられることがあるんですよ。
掟を破るとどうなるか?
それは、掟を破ってみないと本当のところは分からないんです。
本伝の伊奘諾尊は頼もしい。陰神の間違いを即座に指摘、やり直しを主導してます。
ところが、これだけだと何のことやら分からないんですよね。なんか知らんけどオコぷん&やり直しを命じる不機嫌な人、いや、神。プライド高くてとっつきにくいかも、、、なんて、伊奘諾尊の言動の真意、本当に伝えたいことが伝わりづらくなってしまうのです。
それに対して、一書1。
ここまであからさまに間違ってもらえると非常に分かりやすい。しかもその後の結果までついてくることで、間違えると大変なことになるんだ、、、というのが明快です。
むしろ、
「間違い+結果(代償)」のセットは必須の展開だということ。
間違いがあるから学びがある。深く伝えられる。
その意味では、非常によく練られた構成ですよね。
物語を通じて、物語の展開だけしか使えないなかで、確かに、本伝(1本)だけでは十分に伝えきれない。少なくとも、「本来はこうあるべき+間違うとこうなるよ」という2本の物語がないとトータルで伝えられないんすよね。
となると、必然的に、現状の『日本書紀』のように、併載スタイルが答えになってくるわけです。きっと12人の編纂チームも夜通しこんな議論をしてたんだと思います。
一本に絞るべきか、はたまた併載良しとするか、、、メリットデメリット並べて喧々諤々。そこには日本のスゴさや神々の世界の奥ゆかしさをどう効果的に伝えればいいか、アツい創意工夫の議論があったんだと思うんですよね。私たちが今、学ぶべきはこの情熱であり、創意工夫の智恵だと思います。
って、すみません話がズレました。
⑧原理を違えることで生まれた蛭児、淡洲の処遇=社会の成熟度という観点で解釈
蛭児は、蛭(ひる)のように手足の萎えた子。葦船は、葦を編んで造った船。葦は邪気を払うという思想があり、葦船で蛭子の邪気を流し捨てる、、、的な意味あいもあるようなないような。。。
ちなみに、海に遺棄された蛭児ですが、例えば兵庫県の西宮神社では、蛭児はその後、西宮に漂着し、「夷三郎殿」と呼ばれ大事に育てられた、といった伝承あり。
流されたものの、今では日本に約3500社ある、えびす総本社のご祭神として人々の崇敬を集めています。これはこれで良いお話かも。
それはさておき、神話の話。
左旋右旋も逆、先唱後和も逆、
やらかしまくってる二神ですが、
それが重大な結果(全き子を生み損なう)を招来して始めて異変に気付く訳です。遅いよ。てか気づいたのか?本当に。
多分、変だなとは思ったのでしょう、蛭児や淡洲が生まれたことで、「流す」とか「子への不算入」といった対応をしているので。
てか、流すとか、認知しないとか、、それでいいのか?お二人さん!
そもそも、間違いの自覚すらもってなかったくらい無知な二神。だからと言って許されるのか、、、?イヤ、ダメだろ。
コレはこれで、神代における社会の未熟さという事で解釈。神様だって社会を構成します。
天地開闢からの国生みの時代はまだ色んなことが未成熟だったんす。だからこそ、二神は流したり認知しなかったりする。現代の感覚からすると違和感があるのは当然で。
社会の成熟度合いは、「個別的に長期生存が不可能な個体(弱者)」を生き延びさせる考え方や仕組みの出来具合に比例します。どれだけの個体が生き延びられるか、どれだけの「弱者」を生かすことが出来るかは、その社会の持つ力に比例するという訳です。
神様の織りなす世界も、社会として機能してくるのは岩戸神話あたりから。それまでは、まだまだ未成熟な感じを引きずってたんすね、って私は何様でしょうか?
蛭児や淡洲の「流す」とか「子への不算入」といった事、それ自体の良し悪しを議論するのは稚拙です。それよりも社会の成熟度合いといった観点から考えてみると深みがでてくると思います。
いずれにしても、
生み損ないの原因ないし理由は依然として分からないまま。
二神としては結局、命を下した当の天神を頼るほかない。。。ということで天上へ。天神ホウレンソウ(報告・連絡・相談)。仕事の基本やね。
こうしたことから、また天に上り帰って、こと細かに天神に申し上げた。すると、天神は太占で占いを行った。その結果について、「女の言葉が先に揚がったからではないか。また帰るがよい。」と教えた。そして帰るべき日時を占い、二柱の神を降ろした。
そこで二柱の神は、改めてまた柱を巡った。陽神は左から、陰神は右から巡り、半周して二柱の神があい会した時に、今度は陽神が先に唱えて、「ああ、なんとすばらしい、いい少女ではないか。」と言った。陰神は、その後に和して「ああ、なんとすばらしい、いい少男ではないか。」と言った。
⑨天神による占いの意味=より尊貴に、より高く
生み損ないの原因・理由不明状態で天神へホウレンソウ。
ココでオモシロいのが、
最後の砦、天神でさえ、原因が分からない!!!??
先ほど、至高の存在と申し上げましたが、、、
残念です。
天神さん、卜占を頼みとして宇宙メッセージを受信しはじめるの巻。ゞ( ̄∇ ̄;)ヲイヲイ
で、
占いの結果、「先唱後和の順序に問題があった」ことが判明。再下降を命じる流れに。
さらに
「卜定時日而降之」と二神の降る時日も、天神は卜してますよね。
コレ、後に神功皇后が新羅討伐を前に「爰卜吉日而臨発有日」(摂政前紀、仲哀天皇九年九月)と吉日を卜したことに通じる内容。
降下する日も宇宙メッセージ。。。
これを構造的に解説すると、、、最終的には大八洲国の尊貴化、神聖化につなげるための仕掛け、という事になります。
本伝は、もともと尊貴な伊奘諾尊・伊奘冉尊によって大八洲国が生まれたと。やっぱすごいよ大八洲国だと。いう持って行き方でした。
一書1では、ここからさらに、二神より尊貴な存在である天神を登場させ、天神ミッションという形によって大八洲国を尊貴化しようとしてるわけです。
で、
この占いエピソードは、これをさらに格上げしようとするためのものなんす。
つまり、
二神より尊貴な天神よりさらに尊貴な宇宙的存在があるんだと。このメッセージを卜占によって受信したんだと。それによって誕生したのが大八洲国なんだと、ダブルで尊いんだと。二神入れたらトリプル尊いんだと。いう話です!!!、くどいか。
より尊貴に、より高く、、、
この上方向へ一段ずつ上げていく指向性は、『古事記』の造化三神、別天神といった神様カテゴリの設定と共通するものがあります。
より尊貴に、より高く、、、なればなるほど説明は無くなっていく。よく分からない雰囲気。良くいえば、奥ゆかしい存在になっていく。
まさに、
「なにごとの おはしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる (作:西行)」の境地であります。よー分からんのであります。それがなんかスゴいんす。
⑩天神の太占=天神さえ服従する「超絶的な働き=神意」を知るための儀式
天神が占いをする、、、
何度聞いても、スゴイ違和感。。。天神が占いをする、、、あの、、、天神って何なんでしょう?至高なる存在じゃなかったの!??
で、
太占については、『古事記』の一説を参照するのが例。
天照大御神が天岩屋に隠れた際に行った神事のなかに
「天香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて、天香山の天のははかを取りて卜合ひまかなはしむ」(『古事記』)
とあり、
要は、鹿の骨を使って占いをするんだと。
これ、どうやるかというと、
天香山の「ははかの木」の枝を採ってきて、先っちょを焼きます。オレンジ色に焼けた「ははかの木」の枝の先っちょを鹿の骨にぎゅーっと押しつけます。これを何度か繰り返すと、ポクってヒビが入ります。このヒビのでき方によって吉凶を占うという訳です。この割れる「ポクっ」という音をもとに「卜」という漢字ができてたりします。
占いというと、亀の甲羅のイメージが強いかと思いますが、神話世界では鹿なんすね。
しかも、コレ、現代の大嘗祭関連の儀式でも行われているという、、、スゴ
必読:大嘗祭(だいじょうさい)とは?天皇一代につき一度だけ斎行!日本神話に根ざす大嘗祭の全貌を徹底解説!
必読:波波迦の木 採取神事|大嘗祭用の斎田を決める「亀卜」に使用する神木採取の儀!神代から継承された奥ゆかしい神事の様子をご紹介!
二神の報告に際して天神の行った太占も、この卜占に通じる訳で。実際に天神がやってるところをイメージ。ポクってね。
で、
天神が占ったのは何か?ということなんですが、
それは、天神が二神に伝えた「女の言葉が先に揚がったからではないか」という言葉に答えあり。
占いの結果、「女が先に言葉を発したから(良くない結果がうまれた)」と。
これはつまり、「尊卑先後の序」のこと。また出たね。物事には尊と卑、先と後といった次序、順番があるよと。
これは神話世界を貫く大原則であり、宇宙、または世界を構成する根本原理であります。
厳粛なる儀礼上、尊卑先後の序は揺るぎなく働いている、従って、男が先に声をあげないとダメ。儀礼=きちんとした手順、ルールがある。と。
占いの結果、それを違えたことが原因だと分かった訳ですね。
一同せーので「なるほどー!!!」と。
なったんだと思います。そういうことかと。そりゃそうだよねと。占いによってようやっと分かった。よかったよかった。。。
どうすか?この展開。。。天神も二神もみんな大丈夫か??
天神さえ分からないことがある、それは占いという儀式を通じてでないと分からない。でも絶対的に働いている法則であり、原理である。
これは、言い方を変えると、天神さえ服従する超絶的な働きがある、ということでもあって。占いによって判明する神意を、そういう形で描いてるんですね。
一方で、
天神を絶対視しない、あるいは、神を絶対者としない思想は、
多神教的思想、またはアニミズム(自然界のそれぞれに固有の霊が宿るという信仰)に根ざす思惟とも言えて、すでにココに「兆し」として表現されてる!と言えます。
次!
このあと、同じ宮に共に住み、子を産んだ。その子を大日本豊秋津洲と名付けた。次に淡路洲。次に伊予二名洲。次に筑紫洲。次に億歧三子洲。次に佐渡洲。次に越洲。次に吉備子洲。これにより、この八洲を大八洲国と言う。
⑪大八洲国の生み方=左旋右旋を踏襲、基本的に左回りに生んでいく
第四段本伝との違いを一覧でまとめてみます。
第四段本伝 | 第四段一書1 | |||
1 | 大日本豊秋津洲 | 本州 | 大日本豊秋津洲 | 本州 |
2 | 伊予二名洲 | 四国 | 淡路洲 | 淡路島 |
3 | 筑紫洲 | 九州 | 伊予二名洲 | 四国 |
4 | 億歧洲 | 隠岐島 | 筑紫洲 | 九州 |
5 | 佐渡洲 | 佐渡 | 億歧三子洲 | 隠岐島 |
6 | 越洲 | 北陸道 | 佐渡洲 | 佐渡 |
7 | 大洲 | 周防国大島(山口県屋代島) | 越洲 | 北陸道 |
8 | 吉備子洲 | 備前児島半島(岡山県) | 吉備子洲 | 備前児島半島(岡山県) |
第四段本伝同様、
二神の左旋右旋を踏襲、陽神の左旋を引き継いで、左回りに生んでいってますね。
↓こちら、本伝より。ご参考に。
違いは、本伝は大洲がありますが、一書は淡路島が登場してること。ちなみに、淡洲と淡路島は違います。
⑫第四段一書1の天神ミッションは第九段の天孫降臨へ向けた「わたり」
天神による、天神のための一書1。
あらためて確認。
豊葦原千五百秋瑞穂之地。宜汝往脩之
豊葦原千五百秋瑞穂之地に行って脩らせ!
コレ、本格的な国をつくる準備をする、という意味でした。
第四段は、大八洲国の誕生という、いわば「国の土台づくり」がテーマ。ステージ用意。
続く第五段では、土台の主たる「主者」を生む神話へつながって行きます。神生み。
第四段がステージ用意、第五段でステージの主を用意しようとする。この継起的な展開、流れも「わたり」としての役割です。
さらに、
この第四段一書第1は、実は第九段一書2で、天照大神が瓊瓊杵尊に神勅をくだす神話への「わたり」にもなってます。神勅を支える根拠になっていくのです。
天神ミッションは、天孫降臨へむけた「わたり」とも言えて。
- 第四段一書1で、天神が下した命
- 第九段一書2で、天照大神が下す神勅
が構造的に同じなんですよね。
分かりやすく原文で比較してみます。
第四段一書1で、天神が下した命
(A)天神謂 伊奘諾尊・伊奘冉尊 曰 「(B)有 豊葦原千五百秋瑞穂之地。(C)宜 汝往脩之。」(D)廼賜 天瓊戈
第九段で天照大神が下す神勅
天照大神 乃(D)賜 天津彦彦火瓊瓊杵尊、八坂瓊曲玉及八咫鏡・草薙剣、三種宝物。(中略)(A)因勅 皇孫 曰「(B)葦原千五百秋之瑞穂国、是 吾子孫 可王之地也。(C) 宜 爾皇孫就而治焉
上記、
ABCDの構造をもとに整理すると以下
第四段 一書1 | 第九段 一書1 | |
(A)誰が 誰に | 天神 謂 伊奘諾尊・伊奘冉尊 | (天照大神)因勅 皇孫 |
(B) 対象の地 | 有 豊葦原千五百秋瑞穂之地。 | 葦原千五百秋之瑞穂国、是 吾子孫 可王之地也。 |
(C)どうする | 宜 汝往脩之 | 宜 爾皇孫 就而治焉 |
(D)与えたもの | 廼賜 天瓊戈 | 賜 天津彦彦火瓊瓊杵尊、八坂瓊曲玉及八咫鏡・草薙剣、三種宝物 |
キレイに対応させてあるのが分かりますよね。
第四段一書1は、後の第九段一書1の前振り。
具体的には、第九段で天照が孫の瓊瓊杵尊を地上に降下させるときに下す神勅の「わたり」として機能してるってこと。
再度。
天神ミッションは、天照ミッションへむけた「わたり」
天照が下す「神勅」を支える根拠になっている、ということ。こうした伏線を張ってるところもスゴイですよね。
つながりをつけてあるってこと、大きな仕掛けの一部なんだってことをチェックです。
まとめます。
- 初登場、天神。天神による天神のための一書第1
- 豊葦原千五百秋瑞穂之地=予祝メッセージてんこ盛り&天神ギャランティー
- 国をつくるための準備「脩」
- ミッション+グッズ=重要指令発令時の、神話世界の掟
- まさに神業!化作八尋之殿。又化竪天柱。
- 身体問答=男女の形状の違いを互いに言い合って確かめ合う
- 間違いまくり 左旋右旋が逆、先唱後和も逆。でも、それがイイ
- 原理を違えることで生まれた蛭児、淡洲の処遇=社会の成熟度という観点で解釈
- 天神による占いの意味=より尊貴に、より高く
- 天神の太占=天神さえ服従する「超絶的な働き=神意」を知るための儀式
- 大八洲国の生み方=左旋右旋を踏襲、基本的に左回りに生んでいく
- 第四段一書1の天神ミッションは第九段の天孫降臨へ向けた「わたり」
全般を通してみると、
やはり、冒頭、いきなり登場、いきなり主語の「天神」の存在がめっちゃ重要なんだということが分かります。
天神プロデュース
天神ミッションをもとに無知な二神が活動。間違いを犯し、結果の理由を天神に聞きに行く。間違うから分かることがある。で、天神が答えを占いで出す。ここで天神以上の存在というか宇宙法則が意識され、さらに格上げされる。そうした雰囲気の中で今度は正しい手続き、儀礼によって大八洲国が誕生する。そしてそれは天孫降臨への「わたり」として機能する。
非常に練られた、緻密に設計、構築された神話世界が展開しています。
一つひとつに当時の最先端知識をもとにした創意工夫を盛り込んでつくっている日本神話の世界。多彩で豊かな世界観は古代日本人の智恵の結晶なんですよね。スゴイ!
まとめ
『日本書紀』巻第一(神代上)第四段 一書第1
第四段一書第1の解説をお届けしてきましたが、いかがでしたでしょうか?
第四段は、新時代到来の巻。
その新しさは、男女の営みであるというところ。
第三段までの、道の働きによる神の誕生から
第四段からは、男女の営みによる国や神の誕生へ
男女の営みだからこそ、そこには結果責任が伴うわけで、これは続く第五段で主者生みへとつながって行きます。
第四段は州国というステージを用意、第五段はステージの主たる主者を用意していく。これら全て新時代ならではの展開であります。
最終ゴールは大八洲国の尊貴化、神聖化。これは不変。
で、そのための結婚=儀礼=厳粛な手続き・ルールに則る、これも不変。
でも、ココ一書1では、そこに天神指令&関与を入れてきたってこと。
本伝をもとにした差違化であると同時に、後段への「わたり」としても機能させている、
非常に練られた、緻密に設計、構築された神話世界です。
一つひとつに当時の最先端知識をもとにした創意工夫を盛り込んでつくっている日本神話の世界。多彩で豊かな世界観は古代日本人の智恵の結晶。ぜひ隅々まで堪能いただければと思います。
次は残りの一書の皆さんをまとめてお届けします。お楽しみに!
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佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ(S23)。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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