『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第1「御寓之珍子」生み

 

多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!

正史『日本書紀』をもとに、
最新の学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。

今回は、『日本書紀』巻第一(神代上)第五段の一書の第1。

第四段から続く新時代。
男女の性の営みによる「生みなす新時代」の第二章です。

第五段は『日本書紀』神代の中でも、最も多い異伝併載の段。その数、なんと11!

今回は、その中から一書1を解説。
概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。

現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第1「御寓之珍子」生み

『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書第1の概要

前回、『日本書紀』巻第一(神代上)第五段の本伝、からの続き。

下図、赤枠部分の、本伝の下、一書1。

上記図を見ても分かるとおり、
第五段は、『日本書紀』神代の中で、異伝が最も多い段。

こんな伝承もある、あんな伝承もある、と計11パターン。

まーいろいろ語ってらっしゃる訳で。フツーに読むと訳分からん意味不明ワールド。いや、神世界ならではのミステリアスワールドか。

ま、でも、ご安心を。

当サイトならではのガイドがあれば迷うことはございません!

ということでコチラ

全11もある異伝も、大きく大別すれば2通り。

  • 本伝 踏襲 差違化型
  • 一書6 踏襲 差違化型

前半、一書1~5は、本伝踏襲、差違化展開。

差違化とは、違いを生んでいく、変えていくということ。神話に新たな展開をもたらし、多彩で豊かな世界観を創出する仕組み。

で、

今回解説する一書1は、本伝踏襲差違化型の一番最初。そんな位置づけで。

ポイントは、

第四段から続く
「生みなす新時代の第二章」であること。

(第四段の国生み→第五段の神生み)

新時代の第二章。

そのテーマは「天下の統治者生み」。
国土も生んだ、山川草木も生んだ、さーいよいよ天下の統治者を生もう、という話。

で、

誕生したのは、「過度にスゴすぎる子(尊)」&「過度に酷すぎる子(卑)」。

極端に振れてしまった本伝、、、汗

で、

親の責任として、子の持つ資質に応じた処遇を与える。結局、統治者は誕生しない。。。

ということでした。

第五段一書1は、こうした背景、枠組みを踏まえての展開。

本伝では
伊弉諾尊・伊弉冉尊の二神による「天下之主者」生みだったのが、
一書1では
伊弉諾尊単独による「御寓之珍子」生みへ変化。

「天下之主者」生み(本伝)→「御寓之珍子」生み(一書1)

この「御寓之珍子」は、「天下を統治すべき尊貴な子」と訳されます。「寓」=「宇」=天下。「御」=御する、統治する。「珍」=珍しい、尊貴な。

統治をミッションとして持つ子のこと。ちなみに、神武東征神話では「八紘一宇(天下全体を一つの家とする)」という概念が登場しますが、この元ネタはコレ。繋がりをつけてある。

で、

伊弉諾尊単独で三神を生み、処遇を決定する流れへ。

■本伝との対応比較

本伝 一書1
山川草木生み
協議
諾冉の二神による神生み
尊:2神 卑:2神
処遇 あり
伊弉諾単独による神生み
尊:2神 卑:1神
処遇 あり

つまり、

第五段一書1は、
本伝の神生みの部分を取り上げ差違化させてるってこと。枠組み一部踏襲中身変化の巻。

そんな位置づけで読み進めていきましょう。

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書1のポイント

■物語の概要

伊弉諾尊(陽神)単独による神生み。生もうとするのは「御寓之珍子」。伊弉諾尊が、左の手で白銅鏡ますみのかがみを持つと「大日孁尊おほひるめのみこと」を化出かしゅつ。右手に持つと「月弓尊つくゆみのみこと」を化出。また、首を巡らせたその時に「素戔嗚尊すさのをのみこと」。

大日孁尊おほひるめのみこと月弓尊つくゆみのみことは、性質が明るく麗しいので天地を照らし治めさせます。一方の素戔嗚尊は、生まれつき残酷で害悪なことを好む。なので根国に下して治めさせます。

ポイント4つ。

  1. 本伝は夫婦協議による生殖。書1は陽神単独による化出!生む方法の違いに注目せよ!
  2. まさに神業!鏡で霊威が実体化するミラクル化生!
  3. 左右の違いは国生み対応!?生まれ方の違いは尊卑の違い!
  4. 資質に応じた分治!素戔嗚尊の根国は地下にあり!

さらっと解説。詳しくは後ほど。

 

①本伝は夫婦協議による生殖。書1は伊弉諾尊単独による化出!生む方法の違いに注目せよ!

時代は「生みなす新時代」。

  本伝 一書1
主体 陽神+陰神 陽神
方法 協議と出産 化出
誕生した神 日神・月神、蛭子・素戔嗚尊 大日孁尊おほひるめのみこと月弓尊つくゆみのみこと、素戔嗚尊

本伝が、伊弉諾尊、伊弉冉尊の「男女神の、生殖による神生み」であるのに対し、
一書1は、伊弉諾尊という「陽神単独の、化出による神生み」。

コレ、すんごい大きな違いなんす。

生殖による神生みは、
生まれてくる子について、その資質はコントロールできません。出産ってそういうもの。

偶然が大きく関与する世界。

実際、
両神の期待とは裏腹に、過度に素晴らしい子、過度に酷い子が生まれてしまってた。
もともと生みたかった「天下之主者」は生まれない、、、という流れ(第五段本伝参照)

一方、

化出による神生みは、
陽神単独によるもの。生まれてくる子は、化出させる陽神の霊威を踏襲。

ある意味、必然的な世界。

伊弉諾尊の霊威に裏打ちされた素晴らしい子が誕生(化出)する訳ですね。

うん、全然ちがーう。

ということで、
生殖と化出、協議と単独の違いに注目してチェックです。

 

②まさに神業!鏡で霊威が実体化するミラクル化生!

第五段一書1では、伊弉諾尊が、単独で、神を誕生(化出)させるわけですが、その方法はまさに神業

白銅鏡ますみのかがみを手に持って化出させる。

つまり、

鏡が映す神像を、いわば自分の分身として化出させるんです!

スゲー!!!

神様ワールドでは、
尊貴な神が鏡に映ると、その姿には霊威がある、という話に。

なぜって鏡は(尊貴な)自分を映すわけだから、

で、鏡に映った姿が化出によって神になるんだと。どろどろんと出現するんだと。これが神業。

スゴイですよね。鏡が持つ神秘的なチカラ。伊勢神宮(斎鏡いつきのかがみ)を始め神社の多くが鏡を御神体とする理由もココにあります。激しくチェック。

 

③左右の違いは国生み対応!?生まれ方の違いは尊卑の違い

左手に持った白銅鏡から「大日孁尊おほひるめのみこと」を、
右手に持った白銅鏡からは「月弓尊つくゆみのみこと」を、それぞれ化出する訳ですが、

この、化出する神をめぐる左右の違いは、
国生みをつたえる第四段〔本伝〕と対応しています。

「陽神左旋、陰神右旋」。
この柱巡りの、陽=左、陰=右、の対応関係。易をベースにした尊と卑の関係が設定されてます。

尊卑先後そんぴせんごの序」は、どこまでも相対的なもの。

今回でいえば、
「大日孁尊」は、先に生まれ、日であり、あかるく麗しい
「月弓尊」は、後に生まれ、月であり、あかるく麗しさは日に次ぐ

この関係を、左と右にあてこめたってことですね。

 

④資質に応じた分治!素戔嗚尊の根国は地下にあり!

資質に応じた分治ぶんち
分治とは、分けて治めること。

統治する領域や場所を、分けて、分担して治めましょうと。

その分治する領域設定の根拠として、
生まれた子の資質が設定されてるんすね。

それぞれの子が持つ資質に応じた統治領域設定。振り分け。

区分 化出神 資質 処遇
大日孁尊、月弓尊 明麗 照臨天地
素戔嗚尊 好殘害 治根國

大日孁尊および月弓尊は、明るく麗しい、なので天地を照らし治めさせる。
素戔嗚尊は、残酷や害悪を好む、ゆえに根国に下して治める。

この中で、
素戔嗚尊が治める領域は「根国」。

ポイントは「下」に、つまり地下にあるってこと。

  • 第五段本伝では、水平方向を前提とした「はるか僻遠にある国」。
  • 第五段一書1では、垂直方向を前提とした地下にある国。

場所、位置関係が違うんすね。。。根国。

これはこれで深淵なテーマがあるので別エントリで詳しく。

とにもかくにも、
資質に応じた分治であること、中でも、素戔嗚尊の根国は地下にあるってこと、チェックされてください。

まとめます。

  1. 本伝偶然、一書必然!生殖と化出の違いに注目せよ!
  2. まさに神業!鏡で霊威が実体化するミラクル発生!
  3. 左右の違いは国生み対応!?生まれ方の違いは尊卑の違い!原理的な秩序あり!
  4. 資質に応じた分治!素戔嗚尊の根国は地下にあり!

以上4点をチェックした上で本文をどうぞ!

 

『日本書紀』巻第一(神代上)第五段 一書1の本文

 ある書はこう伝えている。伊弉諾尊いざなぎのみことが「私は天下を統治する優れて貴い子を生もうと思う。」と言い、左の手で白銅鏡ますみのかがみを持つと、そこから化し出る神があった。これを大日孁尊と言う。右手に白銅鏡を持つと、また化し出る神があった。これを、月弓尊と言う。また首を廻らせて見たその瞬間に、化す神があった。これを、素戔嗚尊と言う。

 先に化し出た大日孁尊および月弓尊は、ともに性質が明るく麗しかった。それゆえ、伊弉諾尊は両神に天地を照らし治めさせた。素戔嗚尊は、生まれつき残酷で害悪なことを好む性格であった。それで根国に下して治めさせた。

 珍、ここでは「うづ」と言う。顧眄之間、ここでは「みるまさかりに(顧みるまさにその瞬間に)」と言う。

一書曰 伊奘諾尊曰 吾欲生御㝢之珍子 乃以左手持白銅鏡 則有化出之神 是謂大日孁尊 右手持白銅鏡 則有化出之神 是謂月弓尊 又廻首顧眄之間 則有化神 是謂素戔嗚尊 即大日孁尊月弓尊 並是質性明麗 故使照臨天地 素戔嗚尊 是性好殘害 故令下治根國  珍 此云于圖 顧眄之間 此云美屢摩沙可梨爾

『日本書紀』巻一 第五段 一書1より

『日本書紀』巻一 第五段 一書1 解説

第五段一書1は、前半と後半の2段構成。

  • 前半:三神化出
  • 後半:三神分治

それぞれ分けて詳細を解説。

前半解説

 ある書はこう伝えている。伊弉諾尊が「私は天下を統治する優れて貴い子を生もうと思う。」と言い、左の手で白銅鏡を持つと、そこから化し出る神があった。これを大日孁尊おほひるめのみことと言う。右手に白銅鏡ますみのかがみを持つと、また化し出る神があった。これを、月弓尊つくゆみのみことと言う。また首を廻らせて見たその瞬間に、化す神があった。これを、素戔嗚尊と言う。

①望んだとおりの子が生まれたが、、、の巻

本伝踏襲しつつ差違化展開の〔一書1〕。

本伝では当初目論んでいた「天下之主者あましたのしゅしゃ」生みは失敗。

これに対し、
ココ〔一書1〕では目論み通り生むんだけど、、、コンプリートはしない。惜しい!

伊弉諾尊が意図して生もうとしたのは

「御㝢之珍子」。

「寓」=「宇」=天下。「御」=御する、統治する。「珍」=珍しい、尊貴な。
「宇を御する珍しい子」が直訳で、意訳すると「天下を統治すべき尊貴な子」。

この名前のポイントは、「御寓(=御宇)」。
コレ、例えば、「泊瀬朝倉宮御宇天皇(雄略天皇)代」などのように、万葉集では時代を表すタイトルに使われるのが「御宇」。一般的に「天の下治めたまふ」あるいは「天の下知らしめす」と訓みます。

その意味で、この「御㝢之珍子」は、
「天下統治」をミッション・使命として持つ名前だということです。第五段のテーマでもあります。

本伝と比較して整理するとこんな感じ。

  本伝 一書1
生もうとした子 天下之主者 御㝢之珍子
生まれた子と処遇 過度に尊(日神、月神)→天送
過度に卑(蛭子、スサノオ)→放棄、追放
過度に尊(大日孁尊、月弓尊)→照臨天地
過度に卑(意図せず素戔嗚尊)→下治根國
結果判定 失敗 半分成功半分失敗

ということで、、、

〔一書1〕の結果判定は、

半分成功半分失敗

と、非常にビミョー。

照臨すれど統治せず。コレどう?ビミョーでしょ?

天地を統治する尊貴な子

生みたかったんだけどな、、、

ですが、

この結果、実は、別の意味でめっちゃ重要だったりします。

それが「わたり」。第七段で登場する岩戸神話への「わたり」になってるって事。

天地を照臨する

コレ、つまり、天上と地上両方に影響を与える、ってこと。

天と地が繋がっていて、天と地の両方に照臨している、という前提があるからこそ
隠れると天も地も暗くなる、という状態発生が自然に理解できるわけですね。

統治は、日本神話的には超重要テーマ。

なので、誰が、いつ、どのタイミングで、どのような経緯でもって、、、というのは慎重に設定されてます。

こちらも、後ほど別エントリで詳しく。

とにもかくにも、

第五段一書1では、本伝を引き継ぎ、「御㝢之珍子」を生むことを望みながら、結局、天地を照臨する明麗な子が誕生した、統治者までは行き切らなかったってこと、是非チェック。

次!

②(一応)望みどおりの子が生まれた理由

結果的に半分だけど、一応望み通りの子が生まれた理由。それは主に2つ。

  1. 陽神単独であること
  2. 化出という生み方であること

ですよね。

神話的には、陽神は「陰神の間違いを正す存在」として位置づけられてます。

なので、陽神単独での神生みに基本的には間違いは無いのであります。(変な意味ではございません)

しかも、
鏡を使用した化出という独特な方法による神生みであるため、いよいよ間違いはございません。

本件、言うと、

生殖と化出の違い、ということです。

本伝が、伊弉諾尊、伊弉冉尊の「男女神の生殖による神生み」であるのに対し、
一書1は、伊弉諾尊という「陽神単独の、化出による神生み」。

やっぱデカい違いなんすよ。

※生殖がダメって言ってるんじゃないですよ。誤解しないでね。そんな話ではありません。

生殖による神生みは、
生まれてくる子について、その性質はコントロールできません。
出産ってそういうものですよね。親としての期待はあるけど。偶然が大きく関与する世界。

実際、
本伝では、両親の期待とは裏腹に、過度に素晴らしい子、過度に酷い子が生まれてしまう。もともと生みたかった天下之主者は生まれない、、、という流れ、でした。

一方、

化出による神生みは、
必然によるもの。正確に言うと意図によるもの。

生まれてくる子は、化出させる神の霊威を踏襲する訳です。

伊弉諾尊の霊威に裏打ちされた子が誕生する訳で、そらスゴイ神が誕生しますわな。

ということで、

神生みの方法の違い、超重要なのでしっかりチェック。

次!

③鏡で霊威が実体化するミラクル展開

(伊弉諾尊が)左の手で白銅鏡ますみのかがみを持つと、そこから化し出る神があった。これを大日孁尊と言う。右手に白銅鏡を持つと、また化し出る神があった。これを、月弓尊と言う。

ということで、

伊弉諾尊が白銅鏡を手に持つと化出する神があった、

って、、、?

鏡を持つと神が生まれた、ってこと。なんだけど、、つまりどゆこと?

コレ、

まずは類例からご紹介。

いきなり飛びますが、
第九段〔書2〕。有名な天孫降臨の場面。

降臨する「吾児」に天照大神が鏡を授けるのですが、その一節がこちら。

この時、天照大神は手に持っていた宝鏡を天忍穂耳尊に授けて事向けを手向けた。「この宝鏡を見るとき、私を見るようにしなさい。床を同じくして同じ宮殿に住み、鏡をもって私をお祭りしなさい。

是時、天照大神、手持宝鏡、授天忍穂耳尊而祝之「吾児視此宝鏡、当猶視吾。可与同床共殿以為斎鏡。

『日本書紀』第九段〔書2〕より

と。

宝鏡に映るわが形像を、さながらそこに座す現身を視るように視なさい

ってことを申し伝えるわけですね。

鏡に映る姿は天照大神の神像そのものだと。

これを参考に解釈していくと、、、

鏡を持つ=鏡に自分の姿が映る、ってこと
そこから化出したってことだから、

つまり、
鏡に映った伊奘諾尊の神像から神が化出した、ってこと。

言い方変えると、
伊弉諾尊は、鏡に映った自身の神像から神を化出させた、ってことなんす。

自分の分身として化出させるの巻。

神業やね。
神様はこんなことができてしまう。

だからこそ、
生まれる子は、伊弉諾尊の霊威(「乾道独化」の「乾(天)」に由来)をしっかり受け継ぐ訳です。

なので
「照臨天地」に相応しい性質をもった子が、間違いもなく、生まれる。

これまでの解説を総括すると、
第五段のテーマは「天下の統治者をどう生むか?」。

統治者を誕生させたいんだけど、

そもそも統治者は生むものではない、、、詳細は第五段本伝の解説参照。

なので、

本伝では統治者は誕生していないことになってます。

この本伝に対して
差違化をはかるのが一書。

本伝が生殖なので、コレとは別の方法、、、となると
やはり、男神単独、化生〔出〕方法採用は必然の流れ。

実際、ココ〔一書1〕では
偶然が入り込む男女出産方式ではなく、陽神単独化出方式を採用。

なおかつ、鏡を使用し陽神の霊威を継承する神を誕生させ、世界に照臨させる。

そういう差違化。

照臨は、具体的な統治ではないのですが、
概念的には、天下天地は伊弉諾の子のもの、ってことになりますよね。

めっちゃ練られた構成になっとります。

次!

④左右の違いは国生み対応。生まれ方の違いは尊卑の違い

鏡から化出するにあたってはフツーにどんどん生んでいけば良い訳です。

でも、ここでは明確に左と右を使い分けてる。

左手に持った白銅鏡から「大日孁尊」を、
右手に持った白銅鏡からは「月弓尊」をそれぞれ化出。

つまり、
化出する神をめぐる左右の違いを通じて伝えたいことがあるってこと。

それは、
尊貴な神の中にも尊卑があるってこと。

コレ、
国生みをつたえる第四段〔本伝〕と対応。

「陽神左旋、陰神右旋」のこの柱巡りですよね。
易をベースにした尊と卑の関係が設定されてる訳です。これチェック。

  • 尊:左手にもった白銅鏡から大日孁尊
  • 卑:右手にもった白銅鏡から月弓尊

あくまで相対概念なので、月弓が卑しいということではありません。ご注意を。

 

⑤意図せず生まれてしまった絶対卑の神

また首を廻らせて見たその瞬間に、化す神があった。これを、素戔嗚尊と言う。

先ほどの、

大日孁尊、月弓尊の生み方との違いをチェック。

生もうとしてないんす。

首を廻らせたまさに、その時に化した。
生もうと意図してない雰囲気を、首を廻らせたというところに感じていただきたい。。

すでに当初の狙いに外れた結果を得て、
恐らく不審を募らせてたのではないか?そんなとき、ふっと振り返ったその瞬間、

いわば取り憑くように卑の側の神が化した訳。

ここで生まれた素戔嗚尊は、
だからこそ、先に生まれた尊貴な神に対して、卑なる存在。

この後に出てくる性質を加味すると、絶対的な卑として位置づけられてます。

生まれ方を通じて尊卑の違いを表現してる。コレチェック。続けて後半!

 

後半解説

 先に化し出た大日孁尊および月弓尊は、ともに性質が明るく麗しかった。それゆえ、伊弉諾尊は両神に天地を照らし治めさせた。素戔嗚尊は、生まれつき残酷で害悪なことを好む性格であった。それで根国に下して治めさせた。

 珍、ここでは「うづ」と言う。顧眄之間、ここでは「みるまさかりに(顧みるまさにその瞬間に)」と言う。

⑥子のもつ資質に応じた処遇

枠組みは第五段本伝を踏襲。

生みなす新時代は、親と子の関係発生の時代。親は子に対して責任を持つんです。それが処遇。

一覧にしてまとめてみる

区分 化出神 資質 処遇
大日孁尊、月弓尊 明麗 照臨天地
素戔嗚尊 好殘害 治根國

大日孁尊および月弓尊は、明るく麗しい、なので天地を照らし治めさせる。
素戔嗚尊は、残酷や害悪を好む、ゆえに根国に下して治める。

よくできてますよね。ロジック、枠組みがしっかり構築されてる。

 

⑦地下にある根国。本伝と決定的に違う位置関係

本伝と決定的に違う部分。

それが根国の位置。

  • 本伝 :固当遠適之根国矣
  • 一書1:下治根国

つまり、

  • 本伝の根国は、水平方向の「遠」、すなわち僻遠の地にある
  • 一書1の根国は、垂直方向の「下」、地下にある国(もちろん僻遠感あり)

という違い。

大日靈尊と月弓尊とが照臨する天地。
これとは別の「下」ってことなので、ここで言う「根国」は地下以外にはありえない。

昼夜の別はあるにせよ、天地が光明の地上だとすれば、
根国は暗黒の地下に当たり、二神と素戔嗚尊とを、地上と地下とに対立的に対応させてますよね

上述したとおり、

素戔嗚尊、残念ながら意図せず、望みもしないのに化した子なので、処遇もまー酷い。

ということで

まとめます。

  1. 望んだとおりの子が生まれたが、、、の巻
  2. (一応)望みどおりの子が生まれた理由
  3. 鏡で霊威が実体化するミラクル展開
  4. 左右の違いは国生み対応。生まれ方の違いは尊卑の違い
  5. 意図せず生まれてしまった絶対卑の神
  6. 子のもつ資質に応じた処遇
  7. 地下にある根国。本伝と決定的に違う位置関係

全体を通して、本伝を引き継いでいるため、劇的に差違化でも結局の所、大筋不変。この絶妙なバランステイストを堪能あれ。

 

まとめ

『日本書紀』巻一 第五段 一書1

第四段から続く「生みなす新時代の第二章」。

第五段本伝では
伊弉諾尊、伊弉冉尊の二神による「天下之主者」生みだったのが、

一書1では、
伊弉諾尊単独による「御寓之珍子」生みへ変化。

「天下之主者」生み(本伝)→「御寓之珍子」生み(一書1)

さらに、

伊弉諾尊単独で三神を生み、処遇を決定する流れへ。

本伝の神生みの部分を取り上げ差違化。枠組み踏襲、中身変化の巻。

そんな第五段一書1。

一番のポイントは「化出」。

本伝が生殖による出産スタイルなので、生まれる子は偶然の産物。

それを、「生む」から「化す」に改めた上で、関連する物品や行為と、化した子の資質とを因果の関係のもとに結びつけたところに〔書一1〕の独自性があります。

偶然の結果としての「尊」「卑」の対立を、
因果の必然の関係にそれを転換したというのが〔一書1〕の実態であり、
そこに「尊卑先後之序」の、より徹底したあらわれをみることができる。

白銅鏡を持つ手の左右と日月との対応、
またその大日尊と月弓尊の天上と素戔嗚尊の地下との対応などを含め、
もはや〔書一〕全体が「尊卑先後之序」をもとに成りたつといっても過言ではありません。

日本ならではの創意工夫のスゴさ。
歴史書編纂チームがめっちゃ考えて考えて考え抜いた結果つくりだした神話世界。

その創意工夫の痕跡を追いかけていくことで日本のスゴさが見えてきます。

 

本シリーズの目次はコチラ!

『日本書紀』とは?『日本書紀』が伝える日本神話を分かりやすく解説!

05/06/2019

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天地開闢とは?『日本書紀』『古事記』が伝える日本神話的天地開闢の全てを語ろうと思う

01/07/2016

本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)


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