多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
正史『日本書紀』をもとに、最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。題して、おもしろ日本神話シリーズ。
今回は、『日本書紀』巻第一(神代上)第三段の本伝。
第一段から始まった開闢伝承の締め括り。内容的には「解説」に当たります。
概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 本伝 ~神世七代~
目次
『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 本伝の位置づけ
前回、『日本書紀』巻第一(神代上)第二段の続き。
コレまでの経緯、登場する神様を把握してないと理解不能。なので先にコチラ↓をチェック。
で、
今回お届けするのは、下図、赤枠部分。
ポイントは、
神話全体の流れの中で読み解くこと。
詳細は今後順次解説、大きな流れ、枠組みは以下の通り。
大テーマ | 小テーマ | 内容 | 段 |
誕生の物語 | 道による化生 | 乾による純男神 | 第一段 |
乾と坤による男女対耦神 | 第二段 | ||
神世七代として一括化 | 第三段 | ||
男女の性の営みによる出産 | 国生み | 第四段 | |
神生み | 第五段 |
第一段から第五段までは、
大きく「誕生」がテーマ。
この中で、
第三段 は第一段、第二段の内容を踏まえた「締めくくり」「総括」。
乾と坤による神の化生ストーリーに区切りをつける位置づけになってます。
短く、あっという間に終わる神話ですが超重要テーマが存在するスポット。ポイントをしっかり押さえながら読み進めてくださいね。
『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 本伝のポイント
天地開闢から、
まず、「純男神」が三神誕生し(第一段)、さらに展開して「男女ペアの神様」が四組(計8神)誕生しました(第二段)。
第三段では、これらの神々を「神世七代」としてひとまとめ。
とっても尊い神様ジェネレーション、神様カテゴリの誕生です!
●必読→ 神世七代|天地開闢に次々と誕生した尊貴な神様カテゴリ。日本神話を伝える『日本書紀』『古事記』をもとに徹底解説します!
ポイント3つ。
①第二段で登場した男女ペア神は、実は「乾坤之道、相参而化」という「化生方法」だった
第三段は全体として、振り返り型カミングアウト。
第二段を振り返り、「実は、第二段の内容はこんなんでした~」という伝承になっとります。
神様の誕生の仕方について、神話的には「化生」という言葉ですが、
第三段で伝えてるのは、
二段で誕生した男女ペア神は
乾と坤の道が、互いに参じて、集まって、混じり合って化生した、って事。
コレ、第一段の「乾道独化」による「純男神」とは別の誕生方法。革命的大事件。
ココでは、乾と坤の、両方の道の働きによって男女ペア神が誕生した
ってことを、まずチェックしときましょう。
次!
②「純男」三神を三代、「男女」八神を四代と算出、全部で「神世七代」としてカテゴリ化
要は、3+4=7の計算式。
世代=ジェネレーション、という概念で理解OK
分かりやすく
- 第一段:3世代。純粋な男の神様が3神。
- 第二段:4世代。男女一対の神様が4組、計8神。
- 第三段:解説部分。3(純男神)+4(男女神)=7代(神世七代)
といった流れ。
神様を一覧化すると、
神世 | 神名 | 誕生方法 | 登場場所 |
一代 | 国常立尊 | 乾道独化 (純男の神) |
第一段 |
二代 | 国狭槌尊 | ||
三代 | 豊斟渟尊 | ||
四代 | 泥土煑尊 | 乾坤之道、相参而化 (男女一対の神) |
第二段 |
沙土煑尊 | |||
五代 | 大戸之道尊 | ||
大苫辺尊 | |||
六代 | 面足尊 | ||
惶根尊 | |||
七代 | 伊奘諾尊 | ||
伊奘冉尊 |
と、
3+4=計7世代を、「神世七代」として位置づける。
天地開闢、世界創世という原初に誕生した、非常に尊い神様ジェネレーション、神様カテゴリ。その全体を括る数字として奇数の7(=陽数)が設定されてます。
合理的で数学的にも美しい世界、
それが天地開闢にまつわる神様誕生の神話観です。
次!
③「神世七代」のカテゴリ分け=「尊卑先後の序」にもとづく区別!
わざわざ一段まるごと使用して「神世七代」という神様カテゴリを解説する第三段。
そこには、
この世界の始まりの時代を、
それ以降とは区別して「理想の世(聖代)」とする歴史観があります。
この概念をベースに、
- まずは、「神世七代」という神ジェネを、それ以降の神々、世代と区別
- そして、「神世七代」の中でも、純男三代と男女四代を区別
区別=尊と卑の別、優と劣の別
イメージコチラ。
ってことで、ココにある「区別したいしたい概念」を支えているのが「尊卑先後の序」。
「尊卑先後の序」は、日本神話を貫く超重要な原理原則。
やわらかく言うと、物事には優先順位があるよ、ということ。
この根底概念をもとに歴史観、神話世界が構成されてる、
と、
まーまーデカい仕掛けが存在します。こちらも後ほど詳しく。
まとめます。
- 第二段で登場した男女ペア神は、実は「乾坤之道、相参而化」という「化生方法」だった
- 「純男」三神を三代、「男女」八神を四代と算出、全部で「神世七代」としてカテゴリ化
- 「神世七代」というカテゴリそのものが「尊卑先後の序」にもとづく
以上3点を踏まえて以下、本伝をチェックです。
『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 本伝
すべて八柱の神である。陽の道と陰の道が互いに参じて化した。それゆえ男と女に成った。国常立尊から、伊奘諾尊・伊奘冉尊に至るまで、これを神世七代と言う。
凡八神矣。乾坤之道、相参而化。所以、成此男女。自国常立尊、迄伊奘諾尊・伊奘冉尊、是謂神世七代者矣。 (引用:『日本書紀』巻一(神代上)第三段 本伝より)
『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 本伝解説
改めて、
第三段は、第一段から始まった開闢伝承の締め括りに位置。内容的には「解説」に当たります。
スゴい短いのに、わざわざ一段まるごと使用して解説に。
この重要感めっちゃ大事。
伝えたいことがあるんです。
てことで以下3つ。少々長いですが頑張って。
①「神の化生方法」には「乾道独化」と「乾坤之道、相参而化」の2つあって全然違う!
神様の誕生の仕方、神話的には「化生」という言葉、
それには2種類あり、全然違いまっせ、ということをまずチェック。
コレ、そもそも、「道」や「易」の概念を理解しないと読み解けない、、、
詳細コチラで。
ここでは簡単に。
「道(みち、タオ)」は、乾坤、天地、のように
- 2項対立の概念で構成され、
- 「働き」がある、または運動するものである
乾の道・坤の道、といった感じで、2項対立&働きアリ。
で、
「日本神話的乾坤の働き」として重要なのが「神を化生させる」というもの。
第一段で伝える「乾道独化」とは、「乾の道は単独で化す」という意味。乾道の単独の働きによる化生の結果が「純男神」という訳。純粋な男の神様。
コレはこれで中国には無い概念で、ジャパンオリジナル。詳細は第一段解説にて。
まー、とにかくスゴイ野郎(♂)推し、、、現代の価値観からすると相容れない感たっぷりですが、『日本書紀』編纂当時の思想的なものとしてご理解いただければと。。。汗
それに対して、
第二段で誕生した「男女ペアの神」は、「乾坤之道、相参而化」。
要は、乾道単独の働きでは無く、乾と坤の、両方の道の働きによるものだ、ということ。
乾坤が互いに参じて、集まって、混じり合って、それによって化生したのが男女ペアだと。
コレはこれでジャパンオリジナル概念。中国では基本的に、乾は乾、坤は坤なので、参じて混じり合って、、といった感じでは無いんですよね。
いずれにしても、
- 乾、陽、天、男、、、
- 坤、陰、地、女、、、
というように、2項対立の概念をもとにした対応関係がベースにあるわけで。これを理解してないと何のことやらサッパリ。。。
ま、とにかく、ココでは、
- 神様の誕生の仕方には2種類あり、全然違いまっせ、ということ
- 乾道単独の働きによる化生の結果が「純男神」。それが「乾道独化」
- 乾道単独の働きでは無く、乾と坤の両方の道の働きによる化生の結果が「男女ペア神」。それが「乾坤之道、相参而化」。
以上の3つ、しっかりチェックされてください。
次!
②「純男」三神を三代、「男女」八神を四代と算出、全部で「神世七代」としてカテゴリ化&尊貴化
3+4=7の計算式。世代=ジェネレーション、という概念で理解。
天地開闢の原初に誕生した、最も尊い神が、三世代。
次いで誕生した男女ペア四組(ペア2×4組=計8神)の神が、四世代。
ここでも古代聖数概念が使用されてますね。
- 陽数・・・奇数
- 陰数・・・偶数
奇数と偶数の組み合わせ最少単位は5ですが、
最初に誕生する神が3なので、5だと残り2しかなく、広がりが無くなります。
なので7を使用。
天地開闢→3(奇数=陽数)→4(偶数=陰数)→計7(奇数=陽数)→国生み8(たくさん!)
といったイメージ。
でだ、
第三段では、この3+4=計7世代を、「神世七代」として位置づけ。
天地開闢、世界創世という原初に誕生した
とっても尊い神様ジェネレーション、神様カテゴリ。
全体を括る数字(7)として奇数=陽数が設定されてますよね。非常に合理的に、ロジックガチガチで構成。
だからこそ、理解としては、
「神世七代」という神ジェネは、後の伊奘諾尊・伊奘冉尊の神生みによって誕生する神様たちとは違う、むしろ別格の、いや、超絶別格の神様たち、としてチェック。
そら、道の働きによって道から誕生した神様たちと
二神の結婚と神生みによって誕生した神様たちとでは
格が違いますわな。。。
って、いいのか?こんな事言って、、、汗
とにもかくにも、3(陽数)+4(陰数)=7(陽数)で「神世七代」、しっかりご理解ください。
次!
③「神世七代」というカテゴリ分け、区別する考え方は「尊卑先後の序」にもとづいている
本件、つまり
- なぜ「神世七代」という括りを持ち出したのか?しかもわざわざ一段まるごと使用して。
- そして、なぜ3+4としたのか?つまり、なぜ三世代と四世代を分けたのか?
というお話です。
大きくは、
この世界の始まりの時代を、
それ以降とは区別して「理想の世(聖代)」とする歴史観がある
ってこと、この大きな歴史観、概念を理解しましょう。
例として以下。
三皇は道に依り、五帝は德に伏し、三皇は仁を施し、五覇は義を行う。~蓋し、優劣の異、薄厚の降なり
『太平御覧』巻第七十七「皇五部」所引「阮籍通老論」より
と、詳細は別エントリで。
要は、三皇→五帝→五覇へ時代が下るにつれて、
道→徳→仁→義(そして最終的には法律によって統治する)、というように
「優」から「劣」に品下っていく、という考え方です。
道によって統治するのが究極、そっからレベルが下がっていって義になる。最終的にはルールで縛るようになる。。。
今風に言えば、人徳で治める聖人君主から、法律や刑罰によって治めるルール君主へ、といった感じ。「三皇」の時代を、理想化し、そっからだんだん時代が下るに従ってレベルが下がっていく、といった考え方になります。
- 優から劣へ
- 尊から卑へ
時代が下るに従って、あり方・やり方も品質が下がっていく、
そんな概念が古代中国にはあったんすね。
で、
この概念をベースに、
- まずは、「神世七代」という神ジェネを、それ以降の神々、世代と区別する
- そして、「神世七代」の中でも、純男三代と男女四代を区別する
ということ。
区別=優と劣の別、尊と卑の別
ココにある根本の概念が「尊卑先後の序」。
「尊卑先後の序」は、日本神話を貫く超重要な原理原則。やわらかく言うと、物事には優先順位があるよ、ということ。
この根底概念をもとに歴史観、神話世界が構成されてる、という訳。
分けることで、区別することで、価値を高めたい対象がどんどん尊くなっていく仕組み。
この世界の始まりの時代
そこで最初に誕生した神様を尊いものにしたいんです。
「理想の世代(聖代)」としたいんです。
そのために、尊卑先後の序を活用、古代の歴史観をベースに3,4,7という数字を組み合わせて表現した、ということ。
注意すべきは、あくまで相対的なものなので、
「神世七代」が尊くてそれ以外の神様が卑しい、という意味では決してないので誤解なきよう。同様に、四世代が卑しい、という意味でもありません。ココ激しく要注意。
ということで、
冒頭の問い、
- なぜ「神世七代」という括りを持ち出したのか?しかもわざわざ一段まるごと使用して。
- そして、なぜ3+4としたのか?つまり、なぜ三世代と四世代を分けたのか?
については、
この世界の始まりの時代を
そこで最初に誕生した神様を、めちゃくちゃ尊いものにしたいから、
ということになります。
以上、
- 「神の化生方法」には「乾道独化」と「乾坤之道、相参而化」の2つがあって全然違う!
- 「純男」三神を三代、「男女」八神を四代と算出、全部で「神世七代」としてカテゴリ化&尊貴化
- 「神世七代」というカテゴリ分け、その考え方が「尊卑先後の序」にもとづいている!
3点、是非チェックされてください。
最後に、
第四段以降は、この道の働きにとって替わる形で、男女の営為・活動が展開。
具体的には、伊奘諾尊と伊奘冉尊の結婚、国生み、神生み、ということなんですが。
こうした時代の転換を織り込めばこそ、この神世七代という括りが重い意味をもちますよね。
第一段から第三段は、第四段以降とは違うということが分かります。
改めて、
スゴすぎ。古代日本人が生み出した壮大な仕掛け。
『日本書紀』編纂当時の、東アジアの最先端知識、宇宙理論をもとに、単に真似で終わるのではなく、日本独自に組み合わせ、工夫し、新しく生み出している、超絶クリエイティブ発揮の巻。いつも言ってるけど、改めて。
まとめ
『日本書紀』巻第一(神代上)第三段 本伝
第一段、第二段の内容を踏まえた締めくくり、総括的解説の段。
①「乾道独化」と「乾坤之道、相参而化」という「神の化生方法」の違い
ベースには、乾の道・坤の道、天の道・地の道、といった感じの、2項対立と働きの概念あり。
日本神話的には、乾坤の道は「神を化生させる」という働きを持つ。
第一段で伝える「乾道独化」とは、「乾の道は単独で化す」という意味。乾道の単独の働きによる化生の結果が「純男神」。純粋な男の神様。
それに対して、
第二段で誕生した「男女ペアの神」は、「乾坤之道、相参而化」。
乾道単独の働きでは無く、乾と坤の両方の道の働きによるもの。
乾坤が互いに参じて、集まって、混じり合って、それによって化生したのが男女ペア神。
いずれもジャパンオリジナルの概念。この創意工夫感がスゴイ。
②「純男」三神を三代、「男女」八神を四組のペア神四代と算出、「神世七代」とカテゴリ化
3+4=7の計算式。
天地開闢の原初に誕生した、最も尊い神が、三世代。
次いで誕生した男女ペア四組(ペア2×4組=計8神)の神が、四世代。
天地開闢→3(奇数=陽数)→4(偶数=陰数)→国生み8(たくさん!)
といったイメージ、大きな流れのなかで理解しましょう。
第三段では、この3+4=計7世代を、「神世七代」として位置づけ。
天地開闢、世界創世という原初に誕生したとっても尊い神様ジェネレーション、神様カテゴリ。全体を括る数字(7)として奇数=陽数設定。
「神世七代」という神ジェネは、後の伊奘諾尊・伊奘冉尊の神生みによって誕生する神様たちとは違う、むしろ別格の、いや、超絶別格の神様たちとしてチェック。
③「神世七代」というカテゴリそのものが「尊卑先後の序」にもとづく
「神世七代」という神ジェネを、それ以降の神々、世代と区別する
そして、「神世七代」の中でも、純男三代と男女四代を区別する
区別=尊と卑の別、優と劣の別
ココにある根本の概念が「尊卑先後の序」。
「尊卑先後の序」は、日本神話を貫く超重要な原理原則。
この根底概念をもとに歴史観、神話世界が構成されてます。
分けることで、区別することで、価値を高めたい対象がどんどん尊くなっていく仕組み。
この世界の始まりの時代
そこで最初に誕生した神様を尊いものにしたいんです。「理想の世代(聖代)」としたいんです。
そのために、尊卑先後の序を活用、古代の歴史観をベースに3,4,7という数字を組み合わせて表現した、ということ。
それをふまえて、
第四段以降は、この道のはたらきにとって替わる形で、男女の営為・活動が展開。
道の働きから男女の営為・活動へ
この時代の転換を織り込めばこそ、この神世七代という括りが重い意味をもつ。
ということで。
あー長かった。
以上、是非チェックされてください。
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佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ(S23)。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
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