神武紀|兄猾と弟猾|弟は聡く帰順したが、兄は謀(はかりごと)を企んだのでさらして斬った件|分かる!神武東征神話No.10

神武東征神話を分かりやすく解説するシリーズ

シリーズでお伝えしている神武東征神話じんむとうせいしんわ

日本神話.comでは、天地開闢てんちかいびゃくから橿原かしはら即位までを「日本神話にほんしんわ」として定義中。

東征神話とうせいしんわは、その中で最大のクライマックスを彩るアツく奥ゆかしい建国神話であります。

言うと、、

これを知らずして、日本も神話も語れないっm9( ゚Д゚) メーン!

ということで、今回は10回目。

兄猾えうかし弟猾おとうかしをめぐる神話をお届けします。

八咫烏やたがらすの道案内と「道臣みちのおみ」の活躍によって、熊野くまの越えを果たした神武じんむ一行。奈良なら宇陀市うだし宇賀志うかしに到ります。

ここから「中洲なかつしま大和平野やまとへいや)」をめざす訳で、以後、先住勢力=敵の制圧を中心に物語が展開。

そこで登場するのが「兄猾えうかし」「弟猾おとうかし」ブラザーズ。この両名、宇陀うだに勢力を張る在地豪族的存在で。

神武じんむの召し出し要請に対して、兄の兄猾えうかしは反抗し、弟の弟猾おとうかし恭順きょうじゅんします。

兄猾えうかし弟猾おとうかしの神話は何を伝えているのか?

そんなロマンを探ることで、「兄猾えうかし討伐」の意味を考えます。

 

神武紀|兄猾と弟猾|弟は聡く帰順したが、兄は謀(はかりごと)を企んだのでさらして斬った件

神武紀|兄猾と弟猾 の概要

今回も『日本書紀』巻三「神武紀じんむきをもとにお届け。前回の内容、これまでの経緯はコチラ↓をご確認ください。

神武紀|八咫烏の導きと熊野越え|山で迷って進退窮まる!?天照による2度目の救援は「天孫降臨」の再現だった件|分かる!神武東征神話No.9

01/26/2016

試練の「熊野くまの」越えを果たした神武じんむ一行。。ようやく、現在の奈良なら宇陀市うだし宇賀志うかしに到ります。

ココ、山からくだった里というか野というか、平地とは違う、その手前の位置付け。それでも、自然や荒ぶる神が支配するのではなく、先住民、人間が支配する世界です。

ここから「中洲なかつしま」(大和平野やまとへいや)をめざす訳で、以後、先住勢力=敵の制圧、そして軍事力と策謀が渦巻く人界ならではの展開になっていきます。

最初のターゲットは「兄猾えうかし」と「弟猾おとうかし」兄弟。この両名、宇陀うだに勢力を張る在地豪族的存在で。

神武じんむの召し出しに対して、兄の兄猾えうかしは反抗し、弟の弟猾おとうかし恭順きょうじゅんします。

コレ、実は「兄の邪悪・劣弱、弟の善良・優強」という古代兄弟譚の類型によるもの。いつの時代も、兄は何をしでかすかわからない存在で。。弟はそんな兄の言動を見て空気読みながら冷静に対処する感じ。。。汗

兄猾えうかしは「はかりごと」を企てます。

新しい宮を造り、その建物の中に圧殺機を仕掛ける。その上で、神武じんむ一行を饗宴に誘い、何も知らずに入ってきた彦火火出見ほほでみを圧殺してやろう、、って、なんて恐ろしい。。。

ところが、空気読んだ弟、弟猾おとうかしがこれを密告。マジか。。。弟よ(;゚д゚)

火火出見ほほでみは、将軍「道臣みちのおみ」を派遣し征伐。兄猾えうかしが自ら作った圧殺機で殺すわけです。「引きずり出してさらしてバラバラに斬る」といった血なまぐさい表現も出てきます。

反抗した兄のケリがついた後、弟は饗宴を催し、神武じんむ一行をねぎらいます。流石、弟。あっぱれにも程がある。。。

制圧にあたっては忠臣「道臣みちのおみ」が大活躍。

東征神話とうせいしんわ自体は、天孫てんそんである「彦火火出見ほほでみ神武じんむ」を主役として展開。これはこれで当然として、一方で注目すべきは、神武じんむ以外の臣下が活躍するところ。

これは、天孫てんそん彦火火出見ひこほほでみ)以外の、国神くにつかみあるいは人間にスポットライトが当たるという事でもあります。そういう意味でも大きな転換点として位置付けられます。

 

神武東征ルートと場所の確認

宇陀うだ周辺の位置関係を整理。まず、敵布陣の図。コレ、後になって(高倉山たかくらやまに登って)分かるのですが、とりあえず、こんな感じだった、てことでチェック。

神武東征神話 東征ルート

前回解説で、菟田うだ下県しもつあがたにたどり着いた」とあり、現在の宇陀うだ南半分のエリアに到着ってことでした。で、この中の一つの村が菟田うだの「 穿邑うがちむら」。現在の宇賀志うかし。166号線で宇賀志うかしへ入るルート。

今回登場する「兄猾えうかし」と「弟猾おとうかし」ブラザーズが支配していたのは「菟田県うだのあがた」。現在の宇陀盆地うだぼんち一帯であります。

神策しんさく」に従い、東から西へ大和やまとへ攻め込む、太陽を背に戦うためにも、この「菟田県うだのあがた」(宇陀うだ)を攻略する必要があり、そのための前哨戦として今回のシーンが位置づけられます。

 

神武紀|兄猾と弟猾 現代語訳と原文

秋、8月2日に、彦火火出見ほほでみは、「兄猾えうかし」と「弟猾おとうかし」という者を召し出させた。この二人は菟田県うだのあがたの首領である。

すると、兄の兄猾えうかしは姿を見せず、弟の弟猾おとうかしはすぐにやってきた。

弟猾おとうかしは軍営の門を拝してこう申し上げた。「私の兄の兄猾えうかしが反逆をくわだてております。天孫(彦火火出見)が今まさにこの地においでになると聞き、すぐさま兵を起こして襲おうとしていたところ、東征軍の威勢をはるかに望み見て、勝ち目のないことを恐れたのです。そこで企てを案じ、兵をひそかに伏せ、仮の新しい宮を建て、その建物の内に「人を圧殺するからくり機」を設け、饗宴に招待すると偽って誘い出し、罠にかけて討とうとしているのです。どうかこの偽りと企てを知り、よくお備えくださるようお願いします。」

彦火火出見はただちに道臣命みちのおみのみことを遣わし、その反逆の様子をうかがわせた。

道臣命みちのおみのみことは、兄猾えうかしには確かに害意を抱いていることを詳しく察知し、激怒して責めなじり「卑しい敵め!うぬが造った宮に、うぬが自分で入ってみろ!」と荒々しい声で言った。さらに剣の柄に手をかけ、弓を強く引きしぼって追い立て、兄猾えうかしを建物に入らせた。

兄猾えうかしは、天によって罰を受けるのと同じようにどうにも言い訳ができなくなり、ついに自ら中に入りからくり機を踏み、押しつぶされて死んだのである。それから道臣命みちのおみのみこと兄猾えうかしの屍を引きずり出してバラバラに斬った。流れ出る血はくるぶしまで達した。それゆえ、その地を名づけて「菟田血原うだのちはら」という。

弟猾は、大いに酒や肴を取り揃え、饗を催し東征の軍勢をねぎらいもてなした。彦火火出見はその酒肴しゅこうを兵士達に分け与え、そこで御謡みうたを詠んだ。

菟田の高城たかきに 鴫罠しぎわなはる 我が待つや しぎさやらず いすくはし くぢらさやり 前妻こなみが  はさば たちそばの 実の無けくを こきしひゑね 後妻うはなりが  はさば いちさかき 実の多けくを こきだひゑね

(菟田の猟場である高城たかき鴫罠しぎわなをかけた。獲物がかかるのを待っていると、しぎはかからず、なんとくじらがかかった。先に娶った妻がさかなに欲しがったら、立木のソバの実のように肉の少ないところをいっぱいそぎ取ってやれ、新しい妻がさかなに欲しがったら、サカキの実のように肉の多いところをいっぱいそぎ取ってやれ。

これを「来目歌くめうた」と言う。今、楽府うたまいのつかさ でこの歌を演奏するときは、手拍子や声の大きさに大小をつける。これは古式が今に残ったものである。

秋八月甲午朔乙未、天皇使徵兄猾及弟猾者。是兩人、菟田縣之魁帥者也。時、兄猾不來、弟猾卽詣至、因拜軍門而告之曰「臣兄々猾之爲逆狀也、聞天孫且到、卽起兵將襲。望見皇師之威、懼不敢敵、乃潛伏其兵、權作新宮而殿內施機、欲因請饗以作難。願知此詐、善爲之備。」

天皇卽遣道臣命、察其逆狀。時道臣命、審知有賊害之心而大怒誥嘖之曰「虜、爾所造屋、爾自居之。」因案劒彎弓、逼令催入。兄猾、獲罪於天、事無所辭、乃自蹈機而壓死、時陳其屍而斬之、流血沒踝、故號其地、曰菟田血原。

已而弟猾大設牛酒、以勞饗皇師焉。天皇以其酒宍、班賜軍卒、乃爲御謠之曰、

于儾能多伽機珥 辭藝和奈陂蘆 和餓末菟夜 辭藝破佐夜羅孺 伊殊區波辭 區旎羅佐夜離 固奈瀰餓 那居波佐麼 多智曾麼能 未廼那鶏句塢 居氣辭被惠禰 宇破奈利餓 那居波佐麼 伊智佐介幾 未廼於朋鶏句塢 居氣儾被惠禰。

是謂來目歌。今樂府奏此歌者、猶有手量大小、及音聲巨細、此古之遺式也。 (『日本書紀』巻三 神武紀より抜粋) ※原文中の「天皇」という言葉は、即位前であるため、生前の名前であり東征の権威付けを狙った名前「彦火火出見」に変換。

▲橿原神宮で公開中の「神武天皇御一代記御絵巻」から。

 

神武紀|兄猾と弟猾 解説

兄と弟の扱われ方、その落差がスゴすぎて草、、、そんなロマンに想いを致しながら、、

以下詳細解説。

  • 秋、8月2日に、彦火火出見ほほでみは、「兄猾えうかし」と「弟猾おとうかし」という者を召し出させた。この二人は菟田県うだのあがたの首領である。
  • 秋八月甲午朔乙未、天皇使徵兄猾及弟猾者。是兩人、菟田縣之魁帥者也。

→「八月甲午朔乙未」は、8月の「甲午きのえうまついたちにあたる乙未きのとひつじ」なので2日。

目指す大和やまとへ進軍するためには、「菟田県うだのあがた」(宇陀うだ)を攻略する必要がありました。これは、東から西へ攻め込む、つまり太陽を背に戦い、日神ひのかみの威を負って勝ち進める為。孔舎衛坂くさえさか敗戦時にめぐらせた「神策しんさく」が根拠。

宇陀うだ進軍に向けた前哨戦、それが今回の「宇賀志うかし攻略」であります。

神武東征神話 東征ルート

兄猾えうかし」と「弟猾おとうかし」という者を召し出させた。この二人は菟田県うだのあがたの首領である。」とあります。原文「魁帥ヒトゴノカミ」は、敵の首領を貶めて言う言葉。「菟田県うだのあがた」(宇陀うだ)の首領、つまり、この地を支配していたのが「兄猾えうかし」「弟猾おとうかし」ブラザーズってこと。

宇陀うだは、東征神話とうせいしんわ的には、山から野への転換点。

これまでの、自然(荒ぶる神)を相手にした戦いから、人を相手にした戦いへの転換。以後、「在地豪族の制圧」が主要テーマ。

人が相手ですから、これ以降は、軍事力の他、場合によっては「策略」がモノを言う人界ならではの展開に。ハメてイテこます。。。コレ、結構重要なポイント。

最初のターゲットが「兄猾えうかし」と「弟猾おとうかし」。

神武じんむはこの二人を「召し出し」ます(原文「徵」)。コレ、使者を立てて恭順きょうじゅんの意向を確認したって事。実は、今までに無い行動、初めて出てくる言葉です。

このシーン以降、主要な敵キャラには、使者を立てて意向を確認する作業が入っていきます。これは、先の「孔舎衛坂くさえさかの戦い」とは全く異なるやり方。

孔舎衛坂激戦、敗退

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孔舎衛坂くさえさかでは、右も左もわからずとにかく突っ込んでいった感じで、戦術として非常に稚拙でした。情報不足と己への過信・驕りもあって、見事に敗戦を喫した訳です。

それに対して本シーンでは、まず使者を立てて意向確認、それでも帰順しないのであれば徹底的に叩く、というやり方。ここに、火火出見ほほでみの成長を見ることができます。(って私は何様でしょうか?)

敵の情報を把握せず突っ込んでいくやり方から、使者を立て相手の意向を確認した上で対応を決めるやり方へ。

大きな戦術の転換であり、東征神話とうせいしんわ全体としては彦火火出見ほほでみの成長としてチェックです。

次!

  • すると、兄の兄猾えうかしは姿を見せず、弟の弟猾おとうかしはすぐにやってきた。弟猾おとうかしは軍営の門を拝してこう申し上げた。「私の兄の兄猾えうかしが反逆をくわだてております。天孫(彦火火出見)が今まさにこの地においでになると聞き、すぐさま兵を起こして襲おうとしていたところ、東征軍の威勢をはるかに望み見て、勝ち目のないことを恐れたのです。そこで企てを案じ、兵をひそかに伏せ、仮の新しい宮を建て、その建物の内に「人を圧殺するからくり機」を設け、饗宴に招待すると偽って誘い出し、罠にかけて討とうとしているのです。どうかこの偽りと企てを知り、よくお備えくださるようお願いします。」

  • 時、兄猾不來、弟猾卽詣至、因拜軍門而告之曰「臣兄々猾之爲逆狀也、聞天孫且到、卽起兵將襲。望見皇師之威、懼不敢敵、乃潛伏其兵、權作新宮而殿內施機、欲因請饗以作難。願知此詐、善爲之備。」

神武じんむの召し出しに対して、兄の兄猾えうかしは反抗し、弟の弟猾は恭順きょうじゅん。なんなら兄の企てを密告。。

コレ、実は「兄の邪悪・劣弱、弟の善良・優強」という古代兄弟譚の類型によるもの。

  • 兄は邪悪、劣弱なので空気読めません。神武じんむに対して反抗する。
  • 弟は、善良、優強なので空気読める。神武じんむに対して最初から恭順きょうじゅん

いつの時代も、兄は何をするか分からない存在で。。弟はそんな兄の言動を見て空気読みながら冷静に対処する。。。汗

弟猾おとうかしは軍営の門を拝して申し上げた。」とあり、コレ完全に臣下の礼です。

天孫が今まさにこの地においでになると聞き、」とあり、神武じんむが「天孫てんそん」であること、なんなら「天神子あまつかみこ」であることも分かってた?。地に属する側から神武じんむを天に由来する存在として位置づけてます。

だからこそ、空気読める人は恭順きょうじゅんに切り替える。読めない人は我を通す、結果自滅する、、という大きな枠組み。

そして、兄猾えうかしの「逆狀さかふるかたち」(はかりごと)を全て、洗いざらい、タレ込む。。。

兵を起こして襲おうとしていたところ、東征軍の威勢をはるかに望み見て、勝ち目のないことを恐れたのです。そこで企てを案じ、」とあり、元々は戦闘するつもりでいたようですが、謀略に変更したようです。ま、コレも神武じんむ東征とうせい軍をティーアップする、軍勢やスゴさを伝える表現としてチェック。

逆狀さかふるかたち」(はかりごと)の中身は、陽動作戦。新しい宮を造り、その建物の中に圧殺機を仕掛ける。その上で、神武じんむ一行を饗宴に誘い、何も知らずに入ってきた彦火火出見ほほでみを圧殺してやろう、、って、なんて恐ろしい。。。

次!

  • 彦火火出見はただちに道臣命みちのおみのみことを遣わし、その反逆の様子をうかがわせた。道臣命みちのおみのみことは、兄猾えうかしには確かに害意を抱いていることを詳しく察知し、激怒して責めなじり「卑しい敵め!うぬが造った宮に、うぬが自分で入ってみろ!」と荒々しい声で言った。さらに剣の柄に手をかけ、弓を強く引きしぼって追い立て、兄猾えうかしを建物に入らせた。

  • 天皇卽遣道臣命、察其逆狀。時道臣命、審知有賊害之心而大怒誥嘖之曰「虜、爾所造屋、爾自居之。」因案劒彎弓、逼令催入。

兄猾えうかしの「逆狀さかふるかたち」を知った彦火火出見ほほでみは、道臣命みちのおみのみことを派遣し対応にあたらせる。

改めて、ココは、神がすむ山ではなく、人が住む「人界」。軍勢や策略がモノをいう世界。だからこそ、彦火火出見ほほでみは自ら手を汚す事はせず、臣下の活躍を通じて敵を殺し制圧を進めていく。

この結果、臣下の活躍が目を引くことになりますし、結果的に、それほどの臣下を率いている彦火火出見ほほでみの価値が上がっていく仕掛けになっています。

激怒して責めなじり」「荒々しい声で言った」とあり、非常に激しい表現が使われてます。原文「大怒誥嘖之」。大いに怒る、「誥」は上から下に申し渡す、「嘖」は怒り責める。これでもかと怒り表現連発です。

さらに、原文「案劒彎弓」。「案剣」は「撫剣」と同じ怒りの表現。コレ、五瀬命いつせのみことが亡くなる前にでてきた表現でした。「彎弓」は弓を引いて構えること。いずれも、道臣みちのおみ将軍の、力強さ、豪傑さが伝わってきますよね。

次!

  • 兄猾えうかしは、天によって罰を受けるのと同じようにどうにも言い訳ができなくなり、ついに自ら中に入りからくり機を踏み、押しつぶされて死んだのである。それから道臣命みちのおみのみこと兄猾えうかしの屍を引きずり出してバラバラに斬った。流れ出る血はくるぶしまで達した。それゆえ、その地を名づけて「菟田血原うだのちはら」という。
  • 兄猾、獲罪於天、事無所辭、乃自蹈機而壓死、時陳其屍而斬之、流血沒踝、故號其地、曰菟田血原。

→自ら仕掛けた「からくり機」で圧死する兄猾えうかし、、、さらに死体を引きずり出してバラバラに切るって、、、Σ(゚Д゚)

天によって罰を受けるのと同じように」とあります。コレ、『論語ろんご八佾はちいつから「罪を天に獲れば禱るところ無きなり」を踏まえた表現。簡単にいうと、罪を天に対して犯せば、いくら祈っても許されない、といった意味。

いきなり、「天」が登場してるように見えますが、実はコレも周到に設計された狙いがあるから。ここでいう「天」は、天神あまつかみの血統をひく存在としての神武じんむを意味するように使われてるんです。神武じんむへの反抗、反逆は、天に逆らうのと同じくらい重い罪であると、、スゴ(゚Д゚)

次!

  • 弟猾は、大いに酒や肴を取り揃え、饗を催し東征の軍勢をねぎらいもてなした。彦火火出見はその酒肴しゅこうを兵士達に分け与え、そこで御謡みうたを詠んだ。
  • 已而弟猾大設牛酒、以勞饗皇師焉。天皇以其酒宍、班賜軍卒、乃爲御謠之曰、

→兄の悲惨な死に対して、弟のうまくやってる感がスゴイ、、、兄からずっと虐げられてたのでしょうか、、、

宴を催して神武じんむ一行をねぎらう弟猾おとうかし。。原文「牛酒」とあり、牛いたの??? ま、それくらいのご馳走だったということで。

ポイントは、神武じんむの歌った「御謡みうた」。このあと、ちょいちょい登場します。

  • 菟田の高城たかきに 鴫罠しぎわなはる 我が待つや しぎさやらず いすくはし くぢらさやり 前妻こなみが  はさば たちそばの 実の無けくを こきしひゑね 後妻うはなりが  はさば いちさかき 実の多けくを こきだひゑね

    (菟田の猟場である高城たかき鴫罠しぎわなをかけた。獲物がかかるのを待っていると、しぎはかからず、なんとくじらがかかった。先に娶った妻がさかなに欲しがったら、立木のソバの実のように肉の少ないところをいっぱいそぎ取ってやれ、新しい妻がさかなに欲しがったら、サカキの実のように肉の多いところをいっぱいそぎ取ってやれ。

  • 于儾能多伽機珥 辭藝和奈陂蘆 和餓末菟夜 辭藝破佐夜羅孺 伊殊區波辭 區旎羅佐夜離 固奈瀰餓 那居波佐麼 多智曾麼能 未廼那鶏句塢 居氣辭被惠禰 宇破奈利餓 那居波佐麼 伊智佐介幾 未廼於朋鶏句塢 居氣儾被惠禰。

→この歌の解釈には2通りあります。

手がかりは歌の直前にある2つのイベント。

  1. 兄猾えうかしを圧死させたこと
  2. 弟猾おとうかしがご馳走と宴で神武じんむ一行を労ったこと

これまでの通説は、①に即しての解釈で、「くぢら」を兄猾えうかしとみなす内容。なんですが、、兄猾えうかしをもちあげすぎです。また、それだと「わが待つや」と神武じんむ軍が兄猾えうかしを罠でとらえようとしていた歌になるのですが、実際はそうではない(罠をしかけたのは兄猾えうかしであり、自分で死んだ)ので不成立。

どっちかというと②に即した解釈が〇。弟猾おとうかしが全く思いもよらない大御馳走で慰労したことをたたえる歌とみなす内容で。神武じんむは、その弟猾おとうかしのもてなしを「くぢらが罠にかかったようなものだ」とほめあげて応じて見せた訳です。同時に、軍卒と共にしようと気遣いを示すもの。総じて、戦いの勝利を軍をあげて祝い楽しむ歌、そして神武じんむの偉大さを、高らかに大笑いを交えて歌い上げてる内容なんです。

「前妻」「後妻」という言葉が登場してますが、コレ、特に誰というのは想定してなくて。勝利を祝い、ご馳走に浮かれたざれ歌、その場をもりあげたバカ騒ぎする「はやし歌」なので、意味的には、後妻の若い方にはいっぱいに、前妻の古女房には空っぽでもくれてやればいい的な、軍卒の労苦を慰め楽しませようとした歌として整理。コレ、古代の価値観なので悪しからず。。

  • これを「来目歌くめうた」と言う。今、楽府うたまいのつかさ でこの歌を演奏するときは、手拍子や声の大きさに大小をつける。これは古式が今に残ったものである。
  • 是謂來目歌。今樂府奏此歌者、猶有手量大小、及音聲巨細、此古之遺式也。

→「来目歌くめうた」とは、来目くめ久米部くめべ熊野くまのから大和やまとへ入る際に、道臣みちのおみが率いてきた戦士集団)に天皇が謳いかけた歌にちなむ名称。

「樂府」とは、宮廷の音楽・歌謡を司る役所の名。持統天皇元年正月朔条に「楽宮うたまいのつかさ」の例があります。

これは古式が今に残ったものである。」とありますが、これは、東征神話とうせいしんわで語られたことが今に伝わってると示す、物語=歴史の真実性を確証するための表現。ちょいちょいこういうの差し込んできます。

 

まとめ

兄猾と弟猾

試練の「熊野くまの」越えを果たした神武じんむ一行は、現在の奈良なら宇陀市うだし宇賀志うかしに到ります。

宇陀うだは、山からくだった里というか野というか、平地とは違う、その手前の位置付け。それでも、自然や荒ぶる神が支配するのではなく、先住民、人間が支配する世界。

東征とうせい軍が目指す大和やまとへ進軍するためには、宇陀うだの地を攻略する必要がありました。これは、東から西へ攻め込む、つまり太陽を背に戦い日神ひのかみの力を受けて勝ち進める為。孔舎衛坂くさえさか敗戦時にめぐらせた「神策しんさく」が根拠。

人が住む「人界」に入っていった先には、多くの在地豪族が勢力を張っている訳で。このシーン以後、戦闘に次ぐ戦闘。軍勢や策略がモノをいう人界ならではの展開になっていきます。

そんな展開だからこそ、彦火火出見ひこほほでみ自ら手を汚す事はせず、臣下の活躍を通じて敵を殺し制圧を進めていく。この結果、臣下の活躍が目を引くことになりますし、それほどの臣下を率いている彦火火出見ほほでみの価値が上がっていく仕掛けになっています。

一方で、臣下=人間の活躍は、神代じんだいの流れを引き継いでいた神話に「神代じんだいから人代への転換」という新たな要素を加えていく。この転換は突然行われるのではなく、「必要性をもった経緯」から段階的に行われていく訳です。

最終的に橿原かしはら即位に至って、本格的な「人代」がスタートするときもスムースに移行されるようになっている。壮大な神話的仕掛けが入ってるってことでチェック。

ポイントをまとめると3つ。

  1. 本シーンは、これ以降、大和やまと入りへ向けた「在地豪族の制圧」が主要テーマになる転換点である事。
  2. 制圧にあたっては、臣下が活躍。これは、「神代じんだいから人代への大転換」を象徴している事。
  3. 火火出見ほほでみは、先の孔舎衛坂くさえさか敗戦から学び、まずは使者を立てて恭順きょうじゅんの意向を確認している事。

特に③。コレ、まさに彦火火出見ひこほほでみ成長であって、、敗戦や兄の喪失などの試練を乗り越えてきたからこそ、深みとリアリティをもって読み取ることができる訳です。神武東征神話じんむとうせいしんわ、練りに練られた素晴らしい内容になってる。日本書紀編纂にほんしょきへんさんチームの知恵、創意工夫の度合いがスゴくて震えが止まりません。。。

 

神話を持って旅に出よう!

神武東征神話じんむとうせいしんわのもう一つの楽しみ方、それが伝承地を巡る旅です。以下いくつかご紹介!

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【保存版】神武東征神話を丸ごと解説!東征ルートと地図でたどる日本最古の英雄譚。シリーズ形式で分かりやすくまとめ!

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本記事監修:(一社)日本神話協会理事長、佛教大学名誉教授 榎本福寿氏
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)、他

 

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09/11/2020

平城宮跡歴史公園|日本神話完成の地!歴史と神話ロマンを存分に味わえる平城宮跡歴史公園の全貌をまとめてご紹介!

10/14/2021

青梅佐藤財団主催 日本神話講義のご案内

いつものお米が10倍ありがたくなる講座!日本神話に伝える「稲」の行方を追うことで、古代日本人が稲に込めた信仰や思想が見えてくる!全3回の白熱講義!激しくオススメです!



6/25 朝日カルチャーセンター中之島教室 日本神話講義のご案内

白熱講義! 日本神話は『日本書紀』がまず編纂され、『古事記』がそれを取り込んで成り立っています。 この実態と驚きの真相を、通説や常識とは全く違う世界を、本講座では徹底的に検証します。激しくオススメです!!


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『日本書紀』や『古事記』をもとに、最新の文献学的学術情報を踏まえて、どこよりも分かりやすく&ディープな日本神話の解釈方法をお届けしています。
これまでの「日本神話って分かりにくい。。。」といったイメージを払拭し、「日本神話ってオモシロい!」「こんなスゴイ神話が日本にあったんだ」と感じていただける内容を目指してます。
日本神話研究の第一人者である佛教大学名誉教授の榎本先生の監修もいただいているので情報の確かさは保証付き!文献に即して忠実に読み解きます。
豊かで多彩な日本神話の世界へ。是非一度、足を踏み入れてみてください。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)他