『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回お届けするのは、
「速秋津比売神」
伊耶那岐命と伊耶那美命の二神による「国生み」から「神生み」へ、継起的に続行する中で、最初に生んだ10神のうちの一柱。『古事記』上巻で登場。
本エントリでは、「速秋津比売神」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
速秋津比売神はやあきつひめのかみ|勢いが速く盛んな水門の女神。速秋津日子神とともに河と海を分担して8柱の神を生む
目次
速秋津比売神の名義
「速秋津比売神」= 勢いが速く盛んな水門の女神
『古事記』では、伊耶那岐命と伊耶那美命による神生みで、最初に生んだ10柱の神として、水戸(水門)の神「速秋津比売神」を伝えます。
「速」は、神威の速度に対する美称。
「秋津」の「秋」は「開」の借字で「口が開いていること(水門)」の意であり、「津」は「港」の意。
「比売(ひめ)」は、もともとは「霊女」の意だったのが、女性一般をさすようになりました。
「速秋津比売神」は、同時に生まれる「速秋津日子神」(男神)と一対になってます。
また、その後「この速秋津日子、速秋津比売の二柱の神が、河と海を分担して生んだ神の名は、」とあるので、「速秋津日子神」が「河(川)」を、「速秋津比売神」が「海」を、それぞれ分担して司り神を生むとしています。水戸(水門)は、河(川)と海との接点なので、陸地側と海面側の二つを踏まえていると考えられます。
速秋津比売神の誕生箇所
『古事記』上巻。
既に国を生み竟へて、更に神を生んだ。ゆえに、生んだ神の名は、大事忍男神。次に石土毘古神を生み、次に石巣比売神を生み、次に大戸日別神を生み、次に天之吹男神を生み、次に大屋毘古神を生み、次に風木津別之忍男神を生み、次に海の神、名は大綿津見神を生み、次に水戸神、名は速秋津日子神、次に妹速秋津比売神を生んだ。(大事忍男神より秋津比賣神に至るまで、幷せて十神ぞ。)
既生國竟、更生神。故、生神名、大事忍男神、次生石土毘古神訓(石云伊波、亦毘古二字以音。下效此也)、次生石巢比賣神、次生大戸日別神、次生天之吹上男神、次生大屋毘古神、次生風木津別之忍男神(訓風云加邪、訓木以音)、次生海神、名大綿津見神、次生水戸神、名速秋津日子神、次妹速秋津比賣神。自大事忍男神至秋津比賣神、幷十神。 (引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)
ということで。
伊邪那岐命と伊邪那美命の二神による「国生み」から「神生み」へ、継起的に続行する中で、最初に生んだ10柱の神の一つ。水戸(水門)の神として「速秋津比売神」を伝えます。
▲神生みの最初に誕生する10柱の神々は一つのカタマリ。大八嶋国の土台、そこに生起する自然物、自然現象の表象と考えられます。
ちなみに、、、
本文、「既に国を生み竟へて、更に神を生んだ。」とありますが、ココ、結構重要で。もとはと言えば、天神による「この、漂っている国を修理め固め成せ」という指令からの国生み。
「修理固成」、ふよふよ状態の未成熟な国を整えて固めなさい、と。「修理」=整えること、「固成」=固めること。
で、
単に、国を(形状的に)整え固めるだけなら、大八嶋国を生むだけでよかったはず。続けて神生みする必要はありません。
ですが、二神は国生みの後、当然のように神生みする訳です。てことは、やはり、「修理固成」とは、形状変化以上の意味、つまり、ただよへる国を「瑞穂の国」へ仕上げていく意味を込めてる、そうした広がりをもって解釈する必要があって。
神々を生み、それこそ土や風や野や食物の神を生むことで「瑞穂の国」に仕上げていく土壌をつくろうとしてる、ってこと。今、まさにその時であり、その中で誕生してるのが「速秋津比売神」なんですね。
一方で、、、
誕生した10柱の神については、実際のところ、不可解なところが多く。。体系なり、統一性なりが見いだせない。
N | 神名 | どんな神? |
1 | 大事忍男神 | これから神を生みなす大いなる事業を成す威力のある神 |
2 | 石土毘古神 | 岩のような土の男神 |
3 | 石巣比売神 | 岩のようなすみかの女神 |
4 | 大戸日別神 | 大きな出入口に射す日の男神 |
5 | 天之吹男神 | 天上の気息を吹き付ける男神 |
6 | 大屋毘古神 | 大きな家屋の男神 |
7 | 風木津別之忍男神 | 風に吹かれる樹木の威力ある男神 |
8 | 大綿津見神 | 海の神 |
9 | 速秋津日子神 | 水門の神 |
10 | 妹速秋津比売神 |
ということで。。
7の「風木津別之忍男神」までは、大八嶋国の上に生むと推定されるので、土台形成的な意味をもち、8の大綿津見神という海の前なので、自然物のようにも考えられますが、、、やはり、体系や統一性は不明。
住居関連と括る解説が多いのですが、それはそのような雰囲気がする、というだけで勝手な解釈です。例えば、「天之吹男神」は、神名の原義で純粋に解釈すると「天上の気息を吹き付ける男神」となり、これが住居と関連するかは分からない。「萱葺」といった解説もあったりしますが、実際には分かりません。説明をつけたがる気持ちは分かりますが、捻じ曲げはご法度です。
一応、あえて定義するなら、
大八嶋国の土台、そこに生起する自然物、自然現象
って感じがギリギリ。これ以上はホント、よくわからないのです。その中で、水戸(水門)の神として「速秋津比売神」が誕生しています。
速秋津比売神の活動
生まれた直後に、「速秋津日子神」とともに神を生みます。
此の速秋津日子、速秋津比売の二柱の神、河と海によって場所を分けて生んだ神の名は、沫那芸神、次に沫那美神、次に頬那芸神、次に頬那美神、次に天之水分神、次に国之水分神、次に天之久比奢母智神、次に国之久比奢母智神。(沫那藝神より國之久比奢母智神に至るまで、幷せて八神ぞ。)
此速秋津日子・速秋津比賣二神、因河海、持別而生神名、沫那藝神(那藝二字以音、下效此)、次沫那美神(那美二字以音、下效此)、次頰那藝神、次頰那美神、次天之水分神(訓分云久麻理、下效此)、次國之水分神、次天之久比奢母智神(自久以下五字以音、下效此)、次國之久比奢母智神。自沫那藝神至國之久比奢母智神、幷八神。 (引用:『古事記』上巻の神生みより一部抜粋)
ということで。
「河と海を分担して生んだ」とあり、速秋津日子、速秋津比売の二柱の神が、持ち場を分担して神を生んだと伝えてます。コレ、『古事記』独特の表現。
系譜は以下の通り。
▲水門の男女神についてなぜ系譜を??って、これも正直よく分かっていません。
ココでのポイントは、『古事記』神生みの特徴である「持別」。つまり分担して生む、という内容。
速秋津日子、速秋津比売が、それぞれの持ち場を分担して神を生んでいくのです。
N | 神名 | どんな神? |
1 | 沫那芸神、沫那美神 | 水戸(水門)にたつ泡の、男女神 |
2 | 頬那芸神、頬那美神 | 水戸(水門)の水面の、男女神 |
3 | 天之水分神、国之水分神 | 水の分配の、天と地の神 |
4 | 天之久比奢母智神、国之久比奢母智神 | 水の分配の容器をもつ、天と地の神 |
と、
一覧整理はしてみたものの、、、男神と女神、天と国など、対比構造的なものはあるようですが、かといって、なぜこういう神が誕生してるのかは、実際は不明。
水門からの水の分配という流れになってることから、人間の生命維持に必要不可欠な水の重要性を伝えてる、、と解釈できなくもないのですが、、、
あるいは、河と海があわさるところに生じる泡とその水面、からの、、水が蒸発して天へ、そして雨となって国土に降り注ぎ、湧き出す、、といったプロセスを天之水分神・国之水分神が司り、天之久比奢母智神・国之久比奢母智神がそれを補助して水を分かち与える、という水の恵みを讃えたものとする説も。。
速秋津比売神 まとめ
「速秋津比売神」の名義は、勢いが速く盛んな水門の女性。同時に生まれる「速秋津比売神」(女神)と一対になってます。
『古事記』では、伊耶那岐命と伊耶那美命による神生みで、最初に生んだ10柱の神として、水戸(水門)の神「速秋津比売神」を伝えます。
10柱については、不可解。。体系なり、統一性なりが見いだせないのが正直なところ。敢えて定義するなら、、
大八嶋国の土台、そこに生起する自然物、自然現象
って感じがギリギリ。これ以上はホント、よくわからない。その中で、水戸(水門)の神として「速秋津比売神」が誕生。
また、その後「この速秋津日子、速秋津比売の二柱の神が、河と海を分担して生んだ神の名は、」とあり、「速秋津日子神」が「河(川)」を、「速秋津比売神」が「海」を、それぞれ分担して司り神を生むとしてる。それにより、合計8柱の神々が誕生。
生んだ神は、水門からの水の分配という流れになってることから、人間の生命維持に必要不可欠な水の重要性を伝えてる、、と解釈できなくもないのですが、、、実際は不明な点が多く、ロマン発生地帯となってます。
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。
「速秋津比売神」が登場する日本神話はコチラ!
「速秋津比売神」をお祭りする神社
● 湊口神社 水戸(港・湊)の神、大祓の神、厄除開運の神!
● 由良湊神社 祓い清めの水戸の神として鎮座中
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