『古事記』神話をもとに、日本神話に登場する神様を分かりやすく解説します。
今回は
「天御虚空豊秋津根別」
です。大倭豊秋津嶋(現在の本州)の名として、『古事記』上巻、国生み神話で登場。
本エントリでは、「天御虚空豊秋津根別」の神名の名義、誕生にまつわる神話を分かりやすく解説します。
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
天御虚空豊秋津根別(あまつみそらとよあきづねわけ)|天空に群れ飛ぶ蜻蛉の男神。国生みの最後に誕生した予祝感満載の大倭豊秋津嶋(本州)を神格化
目次
天御虚空豊秋津根別とは?その名義
「天御虚空豊秋津根別」= 天の み空に群れ飛ぶ蜻蛉の男神
『古事記』では、国生みの最後に生まれた嶋が大倭豊秋津嶋(現在の本州)であり、この名として「天御虚空豊秋津根別」を伝えます。
「天」は、天上界(高天原)と関係をもつものに冠する美称。 例:「天香久山」。本州という特別な島なので「天」を冠したものと思われます。
「御虚空」は 、「神聖な空」。「天御空」と「虚空」を組み合わせた『古事記』的用字の例。
- 「天御空」は『万葉集』から。「ひさかたの 天の御空ゆ 天翔り 見渡し給ひ 云々(巻五-894)」
- 「虚空」は、『日本書紀』神武紀から。「饒速日命が天磐船に乗って虚空を飛翔して、この国を見おろして天降ったので、名付けて、「虚空見つ日本の国」と言われた。」とあります。
「秋津」は蜻蛉で、豊作の予祝として。秋、豊かに稲が実る水田に群れ飛ぶトンボの表象。
「根」は、「根元」の意。美称。
「別」は、男子の敬称。古い時代の姓。本来「地方を分け治める者」の意で、5~6世紀の皇族名に多く使われてました。のちに「姓」となっていきますが、「八色の姓』には入ってません。
「天御虚空豊秋津根別」=天上界(高天原)と関係をもつものに冠する美称+「神聖な空」+群れ飛ぶトンボ+「根元」+男子の敬称= 天の み空に群れ飛ぶ蜻蛉の男神 |
天御虚空豊秋津根別が登場する日本神話
「天御虚空豊秋津根別」が登場するのは、『古事記』上巻、国生み神話。以下のように伝えてます。
このように言ひ終わって御合して生んだ子は、淡道之穗之狹別嶋。次に、伊豫之二名嶋を生んだ。此の嶋は、身一つにして顔が四つ有る。顔毎に名が有る。伊豫国を愛比売といい、讚岐国を飯依比古といい、粟国を大宜都比売といい、土左国を建依別という。次に、隠伎之三子嶋を生んだ。またの名は天之忍許呂別。次に、筑紫嶋を生んだ。この嶋もまた、身一つにして顔が四つ有る。顔毎に名が有る。筑紫国は白日別といい、豊国は豊日別といい、肥国は建日向日豊久士比泥別といい、熊曾国を建日別という。次に、伊岐嶋を生んだ。またの名は天比登都柱という。次に、津嶋を生んだ。またの名は天之狹手依比売という。次に、佐度嶋を生んだ。次に、大倭豊秋津嶋を生んだ。またの名は天御虚空豊秋津根別という。ゆえに、この八嶋を先に生んだことに因って、大八嶋国という。(引用:『古事記』上巻より一部抜粋)
『古事記』国生みの最後に生まれた嶋が大倭豊秋津嶋(現在の本州)で、「天御虚空豊秋津根別」と名付けて伝えてます。
国生みは、生まれる嶋の順番が結構大事なポイントで、、
▲大八嶋国として、左回りに生んだ8つの島の最後、8番目が「大倭豊秋津嶋」。
生まれる順番についての突っ込んだ解説はコチラ↓で!
さらに、
『古事記』は、生んだ嶋に神名をつけることで神格化してるのがポイント。
特徴として、男と女の名(比古、比売等)、四国は穀物系、九州はお日様系、といった感じで。
この理由は、誕生した大八嶋国が、伊耶那岐と伊耶那美の子供であること、血縁関係にあること、生まれた島々が血脈によるつながりをもっていることを明確にするため。
もっというと、
名付け=親権の発生
であり、伊耶那岐と伊耶那美が親としての責任をもって、それこそ修理固成によって「瑞穂の国」へ仕上げていくことを意味してる訳です。
その意味で、
神名の「秋津」は非常に重要。秋、豊かに稲が実る水田に群れ飛ぶトンボの表象ですが、『日本書紀』神武紀では、神武天皇が国見をした際に、「国の状況を眺めめぐらせ「ああ、なんと美しい国を得たことよ。山に囲まれた小さな国ではあるが、あたかも蜻蛉が交尾している形のようだ。」と仰せられた。」と伝え、これにより「秋津洲」の名が生じたと伝えています。
トンボが交尾してつながり飛ぶ五穀豊饒の国を「秋津洲」の名が象徴的に表現してるわけで。「秋津」は、大いなる予祝として、めでたい世のあり方が込められてるんです。
天御虚空豊秋津根別を始祖とする氏族
嶋の名なので、氏族の始祖とはなりません。
参考文献:新潮日本古典集成 『古事記』より一部分かりやすく現代風に修正。
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