多彩で豊かな日本神話の世界へようこそ!
日本最古の書『古事記』をもとに、
最新の文献学的学術成果も取り入れながら、どこよりも分かりやすい解説をお届けします。
今回は、『古事記』上巻から、
禊祓と三貴子の誕生
黄泉国からやっとのことで帰還した伊邪那岐命。死との断絶を果たしたものの、身についた穢れがサイテーだったので禊祓を行う。その中で、非常に神威の強い神が、その果てに、天照大御神、月読命、建速須佐之男命が誕生する。ポイントは、穢れと清浄の対立構造、そして浄化プロセスからの高天原統治者の誕生。
今回も、概要で全体像をつかみ、ポイント把握してから本文へ。最後に、解説をお届けしてまとめ。
現代の私たちにも多くの学びをもらえる内容。日本神話から学ぶ。日本の神髄がここにあります。それでは行ってみましょう!
- 日本神話研究の第一人者である榎本先生監修。確かな学術成果に基づく記事です
- 日本神話全体の流れや構造を解き明かしながら解説。他には無い分かりやすい記事です
- 現代語訳のほか原文も掲載。日本神話編纂当時の雰囲気を感じてもらえます
- 登場する神様や重要ワードへのリンク付き。より深く知りたい方にもオススメです
『古事記』禊祓と三貴子誕生|原文と現代語訳、分かりやすい解説付き
目次
『古事記』禊祓と三貴子誕生の概要
『古事記』上巻から。経緯としては、
愛する伊邪那美命に会おうと黄泉国へ行ったものの、変わり果てた姿にビックリして逃げ帰る伊邪那岐命。追いかける黄泉の恐ろしい方々、、なんとか逃げ帰ってきた黄泉比良坂で絶縁宣言。ついに、死(伊邪那美命)との断絶を果たす。。。
↑経緯しっかり確認。
で、本文に入る前に、まずは押さえておきたいポイント、概要をチェック。
全部で3つ。
- 黄泉国の穢れと、禊祓=清浄の対比構造。神威の格上げに炸裂するコントラスト技法
- 日本神話的汚れ・穢れの概念に注目!付着するものだから洗えば落ちる
- 浄化の中で誕生する神威の強い神々。その極みが天照大御神。周到に準備された最高神誕生プロセス
ということで、
以下、順に解説。
①黄泉国の穢れと、禊祓=清浄の対比構造。神威の格上げに炸裂するコントラスト技法
黄泉国は穢れてるところなんす。その穢れ度合いと言ったら、、もうサイテーで。本文、伊耶那岐命の「私はなんとも醜い、醜く穢れた国に到っていたものだ。」に注目。とにかく汚くて穢れてる。
前回のエントリでお届けした、伊耶那美命の変わり果てた姿もその穢れを強調するための表現として。
で、大事なのは、この、穢れっぷりがサイテーであればあるほど、キレイになったときのコントラスト、その清浄さが引き立つってこと。神話構造として、設計としてはコレが狙い。
真逆・対極のものを置くことで、コントラストが冴えわたり、その清浄な浄化プロセスで誕生する神はモノスゴイ神威を体現する、
黄泉往来譚はその意味で、あとに続く高天原統治者誕生のための壮大な前フリとも言える訳で。神威の格上げに炸裂するコントラスト技法。しっかりチェック。
次!
②日本神話的汚れ・穢れの概念に注目!付着するものだから洗えば落ちる
日本神話的な「穢れ」の概念に注目。「穢れ」自体が、とっても日本的な概念です。
で、日本神話的穢れとは「付着するもの」であります。内面の穢れとかは一切関係なし。外部に付着する性質なので、洗い流せば落ちる。徹底的に洗えばキレーに落ちるらしい。
ということで、いや、だからこそ
水で「濯ぐ」という行為や「禊」という儀式が登場。ココ、しっかりチェック。
ちなみに、、我らが伊耶那岐命ですが、今回、徹底的にキレイにしてるところに注目。そのキレイキレイプロセスは2段階。
- まずは、川で。上流、中流、下流を慎重に選び、濯ぐのに最適な中流で。
- 次いで、海で。水面近くと、海の底近くと、中ぐらいで徹底的に。
この意味は、
徹底的に濯いだ、キレイにしたってこと。なので、川と海と、それぞれの全部を表す場所(上中下・上中底)になってるんです。おっさんが、、、どんだけキレイ好き?? ま、それはいいか。
次!
③浄化の中で誕生する神威の強い神々。その極みが天照大御神。周到に準備された最高神誕生プロセス
徹底的に濯いだ、キレイにした、その浄化プロセスで誕生するのが、神威超絶の神々。
川の中ほどで誕生するのが、八十禍津日神や神直毘神をはじめとする穢れ除去由来の5柱の神々。
海の底、中、上で誕生するのが、綿津見神3柱と底筒・中筒・上筒之男命の3柱。それぞれ、綿津見神3柱は阿曇連等の祖神。底筒・中筒・上筒之男命の3柱は、墨江の三前の大神。
いずれも、めちゃんこ神威の強い神々であり、特に、綿津見神3柱と底筒・中筒・上筒之男命の3柱は重要。
●必読→ 安曇氏(阿曇氏)|海神「小童/綿津見命」を祖神とし海人を束ねた宗主!大陸交易に力を発揮した超有力氏族
●必読→ 住吉三神|海での禊祓で誕生し、後に航海安全の神威を獲得。住吉大社の御祭神「住吉三神」をまとめて解説!
この辺りは、神話と歴史が交錯する超絶ロマン地帯。是非ご自身で深堀りしていって頂ければと思います。サイコーやで。
そして、、、その浄化の極みで誕生するのが、天照大御神、月読命、建速須佐之男命であります。日本神話のメインプレイヤーがついに!!!
こうしてみてくると、ホントよく練られた神話展開で、、、特に、天照大御神は高天原を統治することになる最高神な訳で、その誕生は周到に準備されていたと言えますよね。
以上、
- 黄泉国の穢れと、禊祓=清浄の対比構造。神威の格上げに炸裂するコントラスト技法
- 日本神話的汚れ・穢れの概念に注目!付着するものだから洗えば落ちる
- 浄化の中で誕生する神威の強い神々。その極みが天照大御神。周到に準備された最高神誕生プロセス
の3つ。しっかりチェックしたうえで現場へゴー!
『古事記』禊祓と三貴子誕生の現代語訳、原文
こうして伊邪那伎大神は「私はなんとも醜い、醜く穢れた国に到っていたものだ。だから、私は身の禊をする。」と詔して、竺紫の日向の橘の小門の阿波岐原に到って、禊ぎ祓いをした。
そこで、投げ棄てた杖に成った神の名は、衝立船戸神。次に、投げ棄てた帶に成った神の名は、道之長乳歯神。次に、投げ棄てて嚢に成った神の名は、時量師神。次に、投げ棄てた衣に成った神の名は、和豆良比能宇斯能神。次に、投げ棄てた褌に成った神の名は、道俣神。次に、投げ棄てた冠に成った神の名は、飽咋之宇斯能神。次に、投げ棄てた左手の手纒に成った神の名は、奧疎神。次に、奧津那藝佐毘古神。次に、奧津甲斐辨羅神。次に、投げ棄てた右手の手纒に成った神の名は、邊疎神。次に、邊津那藝佐毘古神。次に、邊津甲斐辨羅神。
右の件の船戸神以下、邊津甲斐辨羅神以前の十二神は、身に著ける物を脱ぐに因って生んだ神である。
そこで、(伊邪那伎大神)は、「上の瀬は流れが速い。下の瀬は流れが弱い(遅い)。」と詔して、初めて中の瀬に身を投じて潜って滌いだ時に、成り坐した神の名は、八十禍津日神。次に、大禍津日神。此の二神は、あの穢れがはなはだしい国に到った時の汚垢に因って成った神である。次に、その禍を直そうとして成った神の名は、神直毘神。次に大直毘神。次に伊豆能賣神。あわせて三神である。
次に、水底で滌いだ時に成った神の名は、底津綿津見神。次に、底筒之男命。水の中ほどで滌いだ時に成った神の名は、中津綿津見神。次に、中筒之男命。水の上で滌いだ時に成った神の名は、上津綿津見神。次に、上筒之男命。この三柱の綿津見神は、阿曇連等の祖神として奉斎する神である。ゆえに、阿曇連等は、その綿津見神の子、宇都志日金拆命の子孫である。また、その底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命の三柱の神は、墨江の三前の大神である。
そして、左の目を洗った時に成った神の名は、天照大御神。次に、右の目を洗った時に成った神の名は、月読命。次に、鼻を洗った時に成った神の名は、建速須佐之男命。
右の件の八十禍津日神以下、速須佐之男命以前の十柱の神は、身を滌ぐに因って生んだのである。
※音指定の「注」は、訳出を分かりやすくするため割愛。
是以、伊邪那伎大神詔「吾者到於伊那志許米上志許米岐此九字以音穢國而在祁理。此二字以音。故、吾者爲御身之禊」而、到坐竺紫日向之橘小門之阿波岐此三字以音原而、禊祓也。
故、於投棄御杖所成神名、衝立船戸神。次於投棄御帶所成神名、道之長乳齒神。次於投棄御囊所成神名、時量師神。次於投棄御衣所成神名、和豆良比能宇斯能神。此神名以音。次於投棄御褌所成神名、道俣神。次於投棄御冠所成神名、飽咋之宇斯能神。自宇以下三字以音。次於投棄左御手之手纒所成神名、奧疎神。訓奧云於伎。下效此。訓疎云奢加留。下效此。次奧津那藝佐毘古神。自那以下五字以音。下效此。次奧津甲斐辨羅神。自甲以下四字以音。下效此。次於投棄右御手之手纒所成神名、邊疎神。次邊津那藝佐毘古神。次邊津甲斐辨羅神。
右件自船戸神以下、邊津甲斐辨羅神以前、十二神者、因脱著身之物、所生神也。
於是詔之「上瀬者瀬速、下瀬者瀬弱。」而、初於中瀬墮迦豆伎而滌時、所成坐神名、八十禍津日神訓禍云摩賀、下效此。、次大禍津日神、此二神者、所到其穢繁國之時、因汚垢而所成神之者也。次爲直其禍而所成神名、神直毘神毘字以音、下效此、次大直毘神、次伊豆能賣神。幷三神也。伊以下四字以音。次於水底滌時、所成神名、底津綿上津見神、次底筒之男命。於中滌時、所成神名、中津綿上津見神、次中筒之男命。於水上滌時、所成神名、上津綿上津見神訓上云宇閇、次上筒之男命。
此三柱綿津見神者、阿曇連等之祖神以伊都久神也。伊以下三字以音、下效此。故、阿曇連等者、其綿津見神之子、宇都志日金拆命之子孫也。宇都志三字、以音。其底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命三柱神者、墨江之三前大神也。
於是、洗左御目時、所成神名、天照大御神。次洗右御目時、所成神名、月讀命。次洗御鼻時、所成神名、建速須佐之男命。須佐二字以音。
右件八十禍津日神以下、速須佐之男命以前、十四柱神者、因滌御身所生者也。(引用:『古事記』上巻より)
『古事記』禊祓と三貴子誕生の解説
『古事記』禊祓と三貴子誕生、、いかがでしたでしょうか?
黄泉国からやっとのことで帰還した伊邪那岐命。死との断絶を果たしたものの、身についた穢れがサイテーだったので禊祓をしようとする。その中で、非常に神威の強い神が誕生、その果てに、日本神話のメインプレイヤー、天照大御神、月読命、建速須佐之男命が誕生。
ポイントは、穢れと清浄の対立構造、そして浄化プロセスからの高天原統治者の誕生。
黄泉国をとんでもなく穢れてる場所として、穢れ方面にとことん振り切ることで、次に展開する禊祓の清浄さ、浄化度合いが引き立つという仕掛け。コントラスト技法の妙。古代日本人が構想した神話構造に震えが止まりません。。。
ちなみに、、
今回も、ちょいちょい『日本書紀』と比較することで、重視しているポイント、伝えたいことを深堀りします。
「禊祓と三貴子誕生」と同じ流れを持つのは、『日本書紀』第五段〔一書6〕。
そっくりや。。。是非チェック。
ということで、
以下、詳細解説です。
次!
ここからは特別な儀式「禊祓」の詳細。
- そこで、投げ棄てた杖に成った神の名は、衝立船戸神。次に、投げ棄てた帶に成った神の名は、道之長乳歯神。次に、投げ棄てて嚢に成った神の名は、時量師神。次に、投げ棄てた衣に成った神の名は、和豆良比能宇斯能神。次に、投げ棄てた褌に成った神の名は、道俣神。次に、投げ棄てた冠に成った神の名は、飽咋之宇斯能神。次に、投げ棄てた左手の手纒に成った神の名は、奧疎神。次に、奧津那藝佐毘古神。次に、奧津甲斐辨羅神。次に、投げ棄てた右手の手纒に成った神の名は、邊疎神。次に、邊津那藝佐毘古神。次に、邊津甲斐辨羅神。
- 故、於投棄御杖所成神名、衝立船戸神。次於投棄御帶所成神名、道之長乳齒神。次於投棄御囊所成神名、時量師神。次於投棄御衣所成神名、和豆良比能宇斯能神。此神名以音。次於投棄御褌所成神名、道俣神。次於投棄御冠所成神名、飽咋之宇斯能神。自宇以下三字以音。次於投棄左御手之手纒所成神名、奧疎神。訓奧云於伎。下效此。訓疎云奢加留。下效此。次奧津那藝佐毘古神。自那以下五字以音。下效此。次奧津甲斐辨羅神。自甲以下四字以音。下效此。次於投棄右御手之手纒所成神名、邊疎神。次邊津那藝佐毘古神。次邊津甲斐辨羅神。
→伊耶那岐命が投げ捨てた衣服、身につけていたモノから12柱の神が誕生。
一覧は以下のとおり。
投げ棄てた杖 | 衝立船戸神 |
投げ棄てた帶 | 道之長乳歯神 |
投げ棄てて嚢 | 時量師神 |
投げ棄てた衣 | 和豆良比能宇斯能神 |
投げ棄てた褌 | 道俣神 |
投げ棄てた冠 | 飽咋之宇斯能神 |
投げ棄てた左手の手纒 | 奧疎神。次に、奧津那藝佐毘古神。次に、奧津甲斐辨羅神 |
投げ棄てた右手の手纒 | 邊疎神。次に、邊津那藝佐毘古神。次に、邊津甲斐辨羅神。 |
コレ、
実は、古代における葬送用の服喪儀礼「五服」に準拠。五服とは、五等の喪服、斬衰・斉衰・大功・小功・緦麻の総称で、親疎や遠近、家族のける地位等により杖、冠、経、帯、屦など身につける物品が細かく決められてました。詳しくは、西岡弘氏『中国古代の祭禮と文學』(汲古書院)を参照。
伊邪那岐命は、黄泉国入りした時と同じ、そのままの服と想定される訳で、それでいくと、黄泉国入りする直前に伊邪那岐命は伊邪那美命の焼死を悼みを葬送儀礼を行ってましたよね。その服装をそのまま着用していた、それらをココで脱ぎ捨ててる次第。
次!
- 右の件の船戸神以下、邊津甲斐辨羅神以前の十二神は、身に著ける物を脱ぐに因って生んだ神である。
- 右件自船戸神以下、邊津甲斐辨羅神以前、十二神者、因脱著身之物、所生神也。
→伊耶那岐命が投げ捨てた衣服、身につけていたモノから成った12柱の神を一括してます。
「身に著ける物を脱ぐに因って生んだ神である。」とあり、伊耶那岐命が生んだ神として位置づけてるのがポイント。
本文では、「投げ棄てた〇〇に成った神の名は」とあるように、「成った神」として伝えてますが、最後に一括化するときに「生んだ神」としてる訳です。いわば、後付け生んだ神化なんですが、コレ、理由としては、生んだ神として伊耶那岐命と血縁関係にあること、血脈によるつながりをもっているとするためです。
いわば、血統の保証的意味であり、『古事記』的な手法。今回の、禊祓の一連の行為で生まれる神は、すべて後付けによる血縁関係組み入れが行われてます。
ま、この辺りは、『古事記』がそもそも天皇家の歴史書でありつつ、国内の豪族に配慮しながらそれらを天皇家の系統に組み入れようとする企図があるため、成ったんだけど生んだ神としてつながりをもってるよ、という体(体裁)にしたかったんだろうなと。。。神話と歴史が交錯するロマン発生地帯であります。
次!
- そこで、(伊邪那伎大神は)「上の瀬は流れが速い。下の瀬は流れが弱い(遅い)。」と詔して、初めて中の瀬に身を投じて潜って滌いだ時に、成り坐した神の名は、八十禍津日神。次に、大禍津日神。此の二神は、あの穢れがはなはだしい国に到った時の汚垢に因って成った神である。次に、その禍を直そうとして成った神の名は、神直毘神。次に大直毘神。次に伊豆能賣神。あわせて三神である。
- 於是詔之「上瀬者瀬速、下瀬者瀬弱。」而、初於中瀬墮迦豆伎而滌時、所成坐神名、八十禍津日神訓禍云摩賀、下效此。、次大禍津日神、此二神者、所到其穢繁國之時、因汚垢而所成神之者也。次爲直其禍而所成神名、神直毘神毘字以音、下效此、次大直毘神、次伊豆能賣神。幷三神也。伊以下四字以音。
→いよいよ禊祓の核心へ。。
「「上の瀬は流れが速い。下の瀬は流れが弱い(遅い)。」」と敢えて言ってるのは、神様特有の言表行為だから。コチラ↓参考に。
言表とは、「言葉で言い表すこと」。神はまず、言表し、そして行為に及ぶ。背景にあるのが、言霊信仰的なもので。言葉そのものに霊力が宿っているという考え方で、ある言葉を口に出すとその内容が実現するということ。
日本神話に登場する神様の行動のクセ、いやもっというと、神様コンピテンシー(行動特性)とも言うべき行動パターンであります。
その他、ココでチェックしておきたいポイントは3つ。
- コントラストを効かせることにより、誕生する神の神威を爆上げ
- 徹底的にキレイにしてる。そしてキレイになるためには最適な水の流れが必要
- 死の穢れを水で流す・浄化するというのは意外にも特殊事例だったりする
まず1つめ。
①コントラストを効かせることにより、誕生する神の神威を爆上げ
改めてですが、直前の「黄泉国(死)の穢れ」とのコントラストがめちゃくちゃ効いてること、まずチェック。
穢れと浄化。
対極のものを持ってきてるからこそ、そのコントラストを背景に、このシーンが非常に劇的になり、それを根拠として、非常に神威の強い神が誕生した、という建て付けになってます。
コントラストを効かせることで誕生する神の神威をアゲてる、その仕組み、構成をチェック。
2つ目。
②徹底的にキレイにしてる。そしてキレイになるためには最適な水の流れが必要
日本神話的穢れとは付着するもの、外部に付着する性質なので、洗い流せば落ちる。てことを確認しつつ、、2つ目のポイントは、徹底的にキレイにしてる、てこと。
そのキレイキレイプロセスは2段階。
- まずは、川で。上流、中流、下流を慎重に選び、濯ぐのに最適な中流で。
- 次いで、海で。水面近くと、海の底近くと、中ぐらいで徹底的に。
で、ココでは、川編であります。
徹底的除菌、キレイキレイを念頭に、誕生した神は以下の通り。
上の瀬 | 流れが速い | × |
中の瀬 | 身を投じて潜って滌いだ | 八十禍津日神。次に、大禍津日神。 次に、その禍を直そうとして成った神直毘神。次に大直毘神。次に伊豆能賣神。 |
下の瀬 | 流れが弱い(遅い) | × |
ということで。
「(伊邪那伎大神は)「上の瀬は流れが速い。下の瀬は流れが弱い(遅い)。」と詔して、初めて中の瀬に身を投じて潜って滌いだ」とあり、上・中・下の瀬のどこが最適か、慎重に見極めてるところがポイント。
つまり、、、禊祓には程よい水の流れが重要だということ。流れは速すぎても遅すぎてもダメ。ってこと。コレも重要なのでしっかりチェック。
最後に、補足として、
③死の穢れを水で流す・浄化するというのは意外にも特殊事例だったりする
古代の文献を探しても、「死」と「穢れ」と「水」と「禊祓」をセットにしてる例って実はなくて。。。日本神話オリジナルだったりします。そのあたりの詳細はコチラ↓でチェック。
要は、、「三月上巳」の説話をもとに、黄泉と組み合わせ、生と死をテーマとして導入し、男と女の別離やら何やら、様々なテーマをごちゃっとサラダボウルにしつつ、一つの物語として構成したのが黄泉往来譚であり伊奘諾尊の禊祓の実態。という訳で。むしろ、古代日本人の、その構想力とか想像力とか、組み合わせる力みたいなのがスゴくて、、、・:*:・(*´∀`*)ウットリ
次!
- 次に、水底で滌いだ時に成った神の名は、底津綿津見神。次に、底筒之男命。水の中ほどで滌いだ時に成った神の名は、中津綿津見神。次に、中筒之男命。水の上で滌いだ時に成った神の名は、上津綿津見神。次に、上筒之男命。
この三柱の綿津見神は、阿曇連等の祖神として奉斎する神である。ゆえに、阿曇連等は、その綿津見神の子、宇都志日金拆命の子孫である。また、その底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命の三柱の神は、墨江の三前の大神である。 - 次於水底滌時、所成神名、底津綿上津見神、次底筒之男命。於中滌時、所成神名、中津綿上津見神、次中筒之男命。於水上滌時、所成神名、上津綿上津見神訓上云宇閇、次上筒之男命。
此三柱綿津見神者、阿曇連等之祖神以伊都久神也。伊以下三字以音、下效此。故、阿曇連等者、其綿津見神之子、宇都志日金拆命之子孫也。宇都志三字、以音。其底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命三柱神者、墨江之三前大神也。
→超絶神威を持つ神々。浄化が進み、極まって行く雰囲気を感じて。。
最初の3神(中の瀬)は、まだ付着してる穢れの影響を受けてる感じですよね。神名の「禍」や「直」にそのあたりの事情が表れてます。
ですが!
3神(海の底・中・上)+3神(海の底・中・上)は、いよいよ、超絶神威を持つ神々であります。
水の上で滌いだ | 上津綿津見神。次に、上筒之男命 |
水の中ほどで滌いだ | 中津綿津見神。次に、中筒之男命 |
水底で滌いだ | 底津綿津見神。次に、底筒之男命 |
浄化が進み、極まって行く雰囲気を感じてください。
「三柱の綿津見神は、阿曇連等の祖神として奉斎する神」「底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命の三柱の神は、墨江の三前の大神」として特記して伝えてます。それだけ重要だった。
阿曇連(安曇氏)についてはコチラで詳しく。
安曇連は、瀬戸内海を中心として海人の騒乱を勅命によって平定したことから、「海人の総元締め」としての位置付け。
住吉三神についてはコチラで詳しく。
住吉大神は、神功皇后の新羅討伐に従軍して先導を務めたことから、「航海の守護神」としての位置付け。
いずれも、海を背景として持つ力を取り込もうとした設定がココに。。。この辺りは、神話と歴史が交錯する超絶ロマン発生地帯。是非深堀りしていって頂ければと思います。サイコーやで。
さー、次はいよいよ日本神話のメインプレイヤー、高天原を統治する最高神の誕生です!
- そして、左の目を洗った時に成った神の名は、天照大御神。次に、右の目を洗った時に成った神の名は、月読命。次に、鼻を洗った時に成った神の名は、建速須佐之男命。
- 於是、洗左御目時、所成神名、天照大御神。次洗右御目時、所成神名、月讀命。次洗御鼻時、所成神名、建速須佐之男命。須佐二字以音。
→死の穢れを濯ぐことで浄化が進む、最初は「枉」や「直」だったものから、住吉や安曇連の祭る神々も誕生し浄化が極まって行く、その最終形、極みに極まったところで誕生するのが、天照大御神、月読尊、建速須佐之男命の三神。
その神威たるや、、、もう、何ていうか、、、筆舌尽しがたし。とにかく超絶。
ポイント2つ。
①「盤古説話」との関連説が多いですが、、、
この三神の誕生を巡っては、枚挙にいとまが無いほど数多くの説があります。中でも主要な説が、中国古代神話の一つとして名高い「盤古説話」との関連。
※オススメは、廣畑輔雄氏の『記紀神話の研究ーその成立における中国思想の役割』(昭和52年11月。風間書房)学術書ですが、、、ご参考まで。
で、ここでは要点を。
「盤古」とは古代中国の神で、天地開闢の創世神とされてます。中国古典や民間伝承、あるいは道教とかいろいろなところに見ることができます。
特に、三国時代、呉の徐整という方が記した『五運歴年紀』で、「盤古」さんのことが記載されてます。
「盤古」は、死の間際に人に化身し、その気息が風雲となり、人身と化した盤古の各部分が、それに対応する自然界の各構成要素となる。 例えば、声は雷に、左目は日に、右目は月に、四肢五体は四極五岳に、血液は江河、筋脈は地理に、肌肉は田土、髪髭は星辰に、皮毛は草木になる。。。といった具合。
コレ、言い方変えると、自然界のあらゆるものは元はと言えば盤古にあり、ということで、日や月も盤古の左眼や右眼だったりする訳です。
で、要はコレがベースになってるっていう説。確かに、「左目為日、右目為月」というところは、天照、月読の誕生とそっくりやん!
次!
②「尊卑先後の序」をもとにした設定になってる
要は、易の概念がベースになってる。左優位に対して右劣位、両目優位に対して鼻劣位。詳しくはコチラで。
最も崇高な存在として天照大御神、次いで月読尊、次いで建速須佐之男命。生まれ方や順番からして、この三神の尊卑先後は確定されているのです。
なお、
よく天照大神は左目から生まれた、といった記述がありますが、厳密に言うと違います。左目からではなく、左目を濯いだ時に生まれたのです。ポイントは、尊い「左目」と浄化の「濯ぎ」であり、なんなら、左目を濯いだ水をもとに成ったくらいの勢いです。なので、「左目から」とか書いてある書籍は捨てていただいて大丈夫です。文献に忠実に。それは編纂チームへの敬意、古代日本人へのリスペクトとして、現代の私たちがきちんと忠実に読み解くべき責任があるからです。
次!
- 右の件の八十禍津日神以下、速須佐之男命以前の十柱の神は、身を滌ぐに因って生んだのである。
- 右件八十禍津日神以下、速須佐之男命以前、十四柱神者、因滌御身所生者也。
→コチラも、先ほどの解説と同じ。
本文では、「成った神」とあるけど、最後に一括化するときに「生んだ神」としてる。いわば、後付け生んだ神化。
理由は、生んだ神として伊耶那岐命と血縁関係にあること、血脈によるつながりをもっているとするためです。いわば、血統の保証的意味であり、『古事記』的な手法。
今回の、禊祓の一連の行為で生まれる神は、すべて後付けによる血縁関係組み入れが行われてます。
『古事記』禊祓と三貴子誕生 まとめ
『古事記』禊祓と三貴子の誕生
禊祓と三貴子の誕生、いかでしたでしょうか?
黄泉国からやっとのことで帰還した伊邪那岐命。死との断絶を果たしたものの、身についた穢れがサイテーだったので禊祓を行う。その中で、非常に神威の強い神が誕生し、その果てに、日本神話のメインプレイヤー、天照大御神、月読命、建速須佐之男命が誕生してました。
ポイントは、
- 「いなしこめ、しこめき穢き国」」の2度繰り返しにより、黄泉国のとんでもない汚れっぷり、穢れっぷりを強く印象付けようとしてる。ココで、汚れ穢れ方面にとことん振り切ることで、次に展開する禊祓の清浄さ、浄化度合いが引き立つという仕掛け。
- 神様的には、汚れや穢れは付着するタイプのようで、洗い流せばキレイになる。という考え方。内面とか一切関係無し。
- 「竺紫の日向の橘の小門の阿波岐原」は、祭祀の場であり、永遠なる魔除けパワーエリア。後の日本建国&天皇即位の地「橿原」へ繋がる聖地として位置づけられてる。
- 伊邪那岐命は、黄泉国入りする前に葬送儀礼を行っていた。その服装を脱ぎ捨ててる。
- 最後に一括化するときに「生んだ神」としてる訳です。いわば、後付け生んだ神化なんですが、コレ、理由としては、生んだ神として伊耶那岐命と血縁関係にあること、血脈によるつながりをもっているとするためです。
- コントラストを効かせることにより、誕生する神の神威を爆上げ
- 徹底的にキレイにしてる。そしてキレイになるためには最適な水の流れが必要
- 死の穢れを水で流す・浄化するというのは意外にも特殊事例だったりする
- 阿曇連(安曇氏)、住吉三神を特別に伝えてるのは、海を背景として持つ力を取り込もうとした設定
- 三貴子の誕生は、「盤古説話」との関連説が多い。「尊卑先後の序」をもとにした易の概念がベース。左優位に対して右劣位、両目優位に対して鼻劣位。
ということで。
黄泉国の穢れと、禊祓=清浄の対比構造。神威の格上げに炸裂するコントラスト技法、そして、浄化の中で誕生する神威の強い神々。その極みが天照大御神。ということで、周到に準備された最高神誕生プロセスは特にチェックです。
続きはコチラ!三貴子の分治指令が出たー!
神話を持って旅に出よう!!!
日本神話のもう一つの楽しみ方、それが伝承地を巡る旅です。以下いくつかご紹介!
●小戸神社 瀬=現在の大淀川に比定する説あり。小戸神社はその意味で、バッチリな場所にある神社。
● 江田神社 伊邪那岐尊が黄泉の国から帰還し禊ぎをした場所とされる御池あり!
●小戸大神宮 一方で、福岡県に求める説もあったり。その代表格
● 志賀海神社 阿曇連(安曇氏)の祖神、綿津見三神を祭る!
● 住吉大社 海上交通の安全・守護を司る住吉三神を祭る!全国2000社の巨大住吉グループの総本山
● 伊勢神宮 天照大御神を祭る!日本最高峰の宮
● 月読宮 月読尊を祭る!簡素明澄な四宮が並列する独特スタイル!月讀宮では参拝順番にご注意
● 須佐神社 速須佐之男命を祭る!国土開拓神話から「須佐」と命名
佛教大学名誉教授 日本神話協会理事長 榎本福寿
埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程国語学国文学(S53)。佛教大学助教授(S58)。中華人民共和国西安外国語学院(現西安外国語大学)文教専家(H1)。佛教大学教授(H6)。中華人民共和国北京大学高級訪問学者(H13)。東京大学大学院総合文化研究科私学研修員(H21)。主な書籍に『古代神話の文献学 神代を中心とした記紀の成りたち及び相関を読む』がある。『日本書紀』『古事記』を中心に上代文学における文献学的研究成果多数。
参考文献:『古代神話の文献学』(塙書房)、『新編日本古典文学全集 日本書紀』(小学館)、『日本書紀史注』(風人社)、『日本古典文学大系『日本書紀 上』(岩波書店)
どこよりも分かりやすい日本神話解説シリーズはコチラ!
ついでに日本の建国神話もチェック!
日本神話編纂の現場!奈良にカマン!
→黄泉国がどんな場所だったのか、ココで判明。その汚れっぷり、穢れっぷりをしっかりチェック。
「私はなんとも醜い、醜く穢れた国に到っていたものだ。」とあります。原文「伊那志許米上志許米岐此九字以音穢國」をチェック。
「伊那(いな)」は否定的な感情を表す感動詞。「志許米(しこめ)」は「しこ」に接尾語「め」が付いた形容詞「しこめし」の語幹。
「志許(シコ)」の意味は2つあり。「醜い」という意味と、「威力のある、勇猛な」の意味。コチラ、黄泉国往来譚でも登場。「黄泉の醜女を遣わして追いかけさせた。」とあり、原文「豫母都志許賣」でした。『日本書紀』では「泉津醜女」。「志許賣」と「醜女」。
今回の「志許米(しこめ)」は、「醜い」意味をフィーチャー。「伊那志許米上志許米岐此九字以音穢國」は「いなしこめ、しこめき穢き国」となり、「なんとも醜い、醜く穢れた国」という訳になります。
ちなみに、、
『日本書紀』では、「(伊奘諾尊は)後悔して「私は今しがた何とも嫌な見る目もひどい穢らわしい所に行ってしまっていたものだ。(原文:追悔之曰 吾前到於不須也凶目汚穢之處)」とあり、黄泉を視覚的にも嫌悪すべき、汚く穢れた場所として表現しています。また、本来そこには到るべきではなかったことを「不意」によって示唆。コレを受けて「追悔」、つまり到ったこと自体を不本意とする、あるいは後悔してます。
『古事記』でも「いなしこめ、しこめき穢き国」」と2度繰り返していることから、黄泉国のとんでもない汚れっぷり、穢れっぷりを強く印象付けようとしてるんです。ココで、汚れ穢れ方面にとことん振り切ることで、次に展開する禊祓の清浄さ、浄化度合いが引き立つという仕掛け。コレ激しくチェック。
続けて、
「だから、私は身の禊をする。」と詔して、竺紫の日向の橘の小門の阿波岐原に到って、禊ぎ祓いをした。」とあります。ポイント2つ。
1つ目。
「身の禊をする」「禊ぎ祓いをした」とあります。少し細かく言うと、「禊」と「祓」は神話的には別モノです。
「禊」は、身についた穢れを、特に「水」によって清めること。他にも「身削き」からきてる、とか、「水注き」からきてるとかいう説もあり。
「祓」は、代価物を差し出して罪を贖うこと。用例としては、素戔嗚尊の追放。「鬚と手足の爪を切り、祓へしめて」とあり、罪を犯した素戔嗚の髭と手足の爪を切り、それを償いの対価として差し出させてます。
いずれにしても、押さえておきたいポイントは、神様的には、汚れや穢れは付着するタイプのようで、洗い流せばキレイになる。という考え方。内面とか一切関係無し。
コレはコレで、とってもオープンで後腐れがない。どんな汚れも、どんな穢れも、もっというと、罪的なものも、禊祓でキレイになる。洗い流すことができる訳です。
コレ、ある意味そうだなと思うところで。つまり、気分とか気持ちの比重が大きくて。いつまでもくよくよしてたり、ずっと引きずってるよりも、禊祓で気分一新。リセットして前向いて進んだほうがいい時だってある。この、後腐れない神様的スタンス、汚れ・穢れへの考え方、はしっかりチェック。
2つ目。
「竺紫の日向の橘の小門の阿波岐原」について。コレ、実は、祭祀の場であり、永遠なる魔除けパワーエリアとして位置づけられてます。しかも、後の日本建国&天皇即位の地「橿原」へ繋がる聖地として設定されてる。
「竺紫の日向の橘の小門の阿波岐原」、、、どんだけ修飾語が付いてるの、、①竺紫の②日向の③橘の④小門の~阿波岐原ってことで、モリモリのマシマシ丼であります。
ちなみに、『日本書紀』では、「筑紫日向小戸橘之檍原」。詳しい解説はコチラ↓で。
「檍(阿波岐)」とは、「橿」の別名で、万年木。その「強くしなる性質」から、古来、弓・弩の材料として使われてました。
ポイント4つ。
ということで、
永遠なる魔除けパワーエリア、それが「檍原」で。これは、後の日本建国&天皇即位の地「橿原」へ繋がる聖地として位置づけられてる、、、ってことで、コレ、しっかりチェックです。
いずれにしても、直前の、黄泉国(死)の汚れ・穢れが極まってる状態からの、禊祓。汚穢と浄化のコントラストがポイントです。